エピローグ
「今日もちょっと早く来すぎたな」
文太郎は恭子との待ち合わせ場所の公園に入ると近くのベンチに座った。
(まだ、来ないよな)
あたりを見回し恭子が来ていないか確かめた。
(いるわけないか、また遅刻だろう。今まで待ち合わせ時間にきたためしがないもんな)
文太郎はスマホを取り出しタッチパネルを指で動かし趣味のスマホゲームを始めた。しばらくゲームに夢中になっていた文太郎だったが飽きたのか背伸びをすると日差しの眩しさに思わず目を細める。
すると、公園の入り口から男性の声で自分を呼ぶ声が聞こえた。
「伊達くん!」
文太郎は声がした方を見るとそこにいたのは純一だった。純一は文太郎の方へ歩いてきた。
「伊達くん。久しぶりだね。恭子と待ち合わせかい?」
純一が尋ねると文太郎は少し気恥ずかしそうに答えた。
「え、ええ」
気恥ずかしさを誤魔化すように文太郎は純一に質問した。
「今日はお仕事ですか?」
すると今度は純一が気恥ずかしそうに答えた。
「いや、まあ、実はこれから会社の面接に行くんだよ。私はあの街で仕事してたからね。だけど今はあの街は立ち入り禁止区域だ。おかげで失業者だよ。まあ、命があるだけ恵まれてるけどね。それも君のおかげだ。伊達くんありがとう」
「いえ、とんでもないです。でも色々大変ですね」
「まあ、君も知っての通り、あの街で被害にあった住人には政府から災害支援金が出たんだけどね。だが、もうそのお金もつきそうなんだ。だから気合い入れて働かなきゃって感じかな」
「そうですか!頑張ってください!」
「ありがとう。それじゃ、また今度改めてお礼させてもらうよ」
そう言うと純一は駅の方角に歩き出した。
あの日、文太郎と恭子が洞窟の出口に向かうと、純一は町に突入するため待機していた自衛隊の部隊に助けられていた。純一を襲ったゾンビは自衛隊部隊が射殺していた。
また、程なく文太郎と恭子も純一を助けた自衛隊部隊に保護され無事に町から脱出することができたのだった。
そして、文太郎が住んでいた町がゾンビに襲われた事件から半年が過ぎようとしていた。いま現在、文太郎が住んでいた町は立入禁止区域となっている。
理由は政府が、生存者が確認され、その生存者を救助した際に襲いかかってくるゾンビ以外は射殺しないようにと命令が下ったからだ。何故そんな馬鹿な命令が下ったかというと、ゾンビが人間なのかまたは違う生物なのかと言う事が国会で議論になってしまったからだ。中には例え人間でなくゾンビであっても人権があり理由もなく射殺する事は許されないと主張する議員まで出てきた。
そのため半年たった今でも文太郎が住んでいた町にはゾンビが蔓延っている。
当初、政府はゾンビを一掃できない事に苛立っていたが、ゾンビを射殺するべきではないと言う意見を尊重する事にした。なぜなら政府は食料を得る事が出来ないゾンビはいずれ餓死すると考えていたからだ。
だが、不思議な事に半年たった今でもゾンビは餓死せず町を徘徊していた。政府は24時間体制で町を監視する事を余儀なくされた。ゾンビが何故、食料を得る事が出来ないのに餓死しないのかは未だわかっていない。
ゾンビ問題を解決するには長期戦となると判断した政府は、年内に町全体を塀で囲みゾンビを町に閉じこめる案が実行されるようだ。
文太郎はゾンビの恐ろしさを経験した身から、ゾンビは殺す以外方法はないと思っていたので、今の政府の方針には疑問を持っていた。だが、文太郎にはどうすることもできない。そのうちに仕方がないと諦めるようになった。
そして町から救出された者達は全て政府が建てた仮設住宅に住んでいた。だが、町の復興が絶望的と知ると新たな場所で一から生活を始める者が増えた。文太郎や純一と恭子も町に戻るのを諦め都内に引っ越してきた。
文太郎は今の生活にやっと慣れ始めたところだった。
そろそろ恭子が来る時間だろうか。文太郎は公園にある時計に目をやる。
(もう来てもおかしくない時間か…… 全くいつも遅刻だな)
文太郎は恭子が来ていないかと公園の入り口に目をやる。すると文太郎の視線から逃げるように二人の男性が背を向けたのが一瞬見えた。文太郎はその二人に見覚えがあった
(あ、あの二人、柏木と島木じゃないのか?)
先ほど自分の視線に気づいて背を向けた二人が柏木と島木に何となく似ているような気がした。だが、すぐに心の中でそれを否定した。
(そんなわけないか……)
文太郎は保護してくれた自衛隊や政府に須藤や古谷の事を話したがにわかには信じられないようだった。だがその過程で柏木と島木と一緒に戦ったことも全て話したので自衛隊が病院に行き、文太郎の話の信ぴょう性を確認する為、柏木と島木を保護しようとした。
だが、すでに病院には100匹以上のゾンビが徘徊していることが確認された。生存者が確認されるまでゾンビを射殺出来ない自衛隊では、とてもじゃないが病院に入ることができなかった。
病院に行った自衛隊員の話を聞いた所、あの病院で生存者がいるとは思えないとの事だった。
文太郎も同意見だった。だが、心のどこかにではもしかしたらあの二人ならしぶとく生きているのではないかと思う事もあった。
あの二人と一緒に須藤と戦ったのはほんの僅かだった。しかし理由はわからないがあの二人には幸運の女神がついている。そんな風に思えて仕方がなかった。
文太郎は柏木と島木と一緒に戦った日を思い出して懐かしい気持ちになった。本当にとんでもなく人生最悪の日だった。だが、その反面とても充実した日でもあった。文太郎はそんな事を思いながら二人に似た人物がいた公園の入り口を見ていた。すると、その入り口から恭子が入ってきた。
恭子は文太郎に気づいた。恭子は待ち合わせ時間に遅刻したのを悪びれた様子もなく笑顔で文太郎に声をかけた。
「文太郎くん! ごめんねー。今日ちょっと遅れちゃったぁ」
恭子はそう言いながら無邪気に手を振り走ってきた。
(ったく……今日はじゃなくていつも遅刻だろ、まあ、いいけど)
文太郎はそう思いながらも嬉しそうな顔で恭子に手を振り返した。
完




