表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビアウト  作者: 黒咲
第1章 伊達文太郎18歳の冬
22/24

21話


 恭子と純一は古谷に教えてもらった道を必死に進んでいた。


「恭子、大丈夫か?」


 純一が恭子に声をかけた。


「……ええ」


 恭子は何やら考え事しているようでうわの空で答えた。その様子を見て純一は心配になり走りながらも時折、恭子の様子を見ていた。すると突然、恭子が走るのをやめ立ち止まった。


「きょ、恭子、どうしたんだ? 急に立ち止まって、怪我でもしたのか?」


 急に立ち止まった恭子に純一は心配そうに尋ねた。恭子は純一の問いに答えずにずっと下を向いていた。

純一が再度、尋ねる。


「恭子、どうしたんだ?」


 恭子は何か思いついたようで純一の方を見て驚くことを言った。


「お父さん、伊達くんの所に戻りましょう」


「な……何を馬鹿なことを言ってるんだ! 今、戻っても我々にできることは何もない、殺されに行くようなものだぞ! どうしたんだ?恭子」


「わからない…… でも、このまま進むのは何か嫌な予感がするの。お父さん引き返しましょう」


「嫌な予感…… そんなことで引き返すわけには行かないよ。恭子、伊達くんが心配なのはわかるが、彼の為には私たちはここからいち早く脱出するんだ」


 「……うん」


 恭子は渋々といった表情で返事をした。


 そして純一と恭子は再び走り出した。すると突き当たりに差し掛かる。突き当たりには扉があった。純一がそっと扉を開くと中は洞窟になっていた。どうやらこの洞窟を抜けると外に出られるようだ。


「行こう」


 洞窟内はかなり広く高さは10メートル、幅は15メートルほどあり等間隔には松明が置かれ足場も整備されていて思ったより歩きやすかった。

 純一と恭子は走り出した。そしてしばらくすると洞窟の出口が見えた。


「恭子! 出口だ! もう直ぐだぞ」


 純一が恭子の方を振り向き声をかける。すると、恭子が驚いた顔で立ち止まった。


「恭子、どうしたんだ?」


「お父さん、静かに。出口の方に何か人のようなものが見えたわ」


「本当か?」


「ええ。慎重に進みましょう」


 純一と恭子は腰を少し落としながらあたりを警戒して歩き出す。少しずつ洞窟の出口から月明かりが広がっていく。そしてしばらく歩いていると純一が急に立ち止まり恭子にもっと腰を落とすよう手を上下させた。


「お父さん、どうしたの?」


「恭子。出口の近くにゾンビが1匹いる」


 恭子が洞窟の出口の方を見るとジッと動かず下を向いたままのゾンビがいた。


「お父さん、どうしよう」


「しばらく様子を見よう。もう出口も近いし、あのゾンビはこちらに気づいていないから慌てる必要はない。伊達くんが無事にここまで来てくれるのを待とう」


「うん」


 純一は近くにあった松明を手に取り火を消すと純一と恭子の周りだけ暗くなった。そして二人はその場に腰掛けると純一はゾンビの方を向きこちらに気づかれないよう警戒した。


「あのゾンビ、私たちに気づかないかしら……」


 恭子が心配そうな顔で純一に尋ねる。


「あのゾンビまるで動かない。ジッとしていれば大丈夫だと思うが…… だが念のため今来た道を少し戻るか」


 そういうと純一が静かに立ち上がる。すると、ジッとしたまま動かなかったゾンビが突如顔を上げた。

純一と恭子は突然動き始めたゾンビを見て凍りついた表情のままその場から動けなかった。


 ゾンビは犬のように鼻をくんくんと動かし辺りをうろつき始める。純一は恭子の方を向き人差し指を唇に当て喋らないようにと合図し恭子の肩に手をかけ静かに歩き出した。


 音を立てずに純一と恭子は歩き出す。そして時折、純一が振り返りゾンビの様子を伺うと。ゾンビは臭いを嗅ぎながらだんだんと純一たちの方へ歩き出していた。

 焦った純一は少し歩くスピードを早めた。だが、焦りすぎたのか純一はつまずき転んでしまった。

バタンと大きな音がなりその音に反応したゾンビが純一と恭子の方を向き唸り声を上げた。


 純一は叫んだ。


「恭子! 走れ!」


 純一と恭子は懸命に走り出した。と同時にゾンビが奇声を上げながら純一と恭子に向かって走り出した。


「はぁはぁ、頑張れ恭子さっきの扉に入ればゾンビは追ってこれない」


「うん」


 純一は恭子を励ましながら後ろを振り返るとゾンビがものすごいスピードでこちらに向かっているのがわかった。純一はこのままでは追いつかれると確信した。


「恭子! 全力で走れ! 後ろを振り返るな!」


 純一がそう叫ぶとゾンビに向かって走り出した。そのままの勢いでゾンビの腹にタックルをする。純一とゾンビはその場に倒れた。純一はゾンビの首と肩に手をかけ起き上がらせないようにする。

 

「お父さん!」


 恭子は純一の方へ駆け寄ろうとした。だが、純一がそれを制した。


「恭子! こっちにくるな。お父さんなら大丈夫だ」


 だが、その言葉とは裏腹にゾンビが純一の抵抗を物とも感じず勢いよく起き上がった。

睨み合うゾンビと純一。

 純一は恭子に話しかけた。


「恭子。お前は今来た道を戻って伊達くんを連れて来てくれ。その間、このゾンビはお父さんが引きつけておく」


「お父さん、だ、大丈夫なの?」


「ああ、だが早く伊達くんを連れて来てくれ。頼んだぞ!」


 そう言うと純一は洞窟の出口の方へ向かって走り出した。ゾンビは純一を追いかける。


「お父さん!待っててすぐに戻ってくるから」


 恭子は叫んだ。そしてすぐに今来た道を戻って走り出した。


(恭子、お前は生きてこの町から脱出してくれ。伊達くん、恭子を頼んだよ)


 純一は徐々にゾンビが自分と差を縮めてくるのを後ろを振り向かずとも感じていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 恭子は急いでいま来た道を戻った。だが、まっすぐ来たはずだったが、いくつも扉がありどの部屋に伊達がいるのかわからずにいて恭子は焦っていた。

 

 恭子はここだと思った扉を開けながら進んで行くが伊達はどの部屋にもいなかった。


(伊達くん。どこ……どこにいるの。早くしないとお父さんが……)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 文太郎、柏木、島木の三人は獣のように雄叫びをあげる須藤の迫力に動くことができなかった。古谷は須藤に押しつぶされピクリとも動かない。古谷は口や耳や鼻、全身から大量の血を流していた。おそらく死んでいるだろう。それを見た文太郎ら三人は死を覚悟した。


 だが、須藤は雄叫びをあげるだけで攻撃してこない。


「柏木さん…… どうして須藤は襲ってこないんですかね?」


 島木が小声で柏木に尋ねた。すると柏木は島木に向かって静かにするよう唇に人差し指を当て小声で島木に話しかけた。


「島木、須藤はおそらく目が見えないんだ。だからこのままジッとしていろ」


 流石に首と胴が切断されたダメージがすぐに回復とはいかなかったようで須藤は視力を失っていた。

それでも須藤は動き出した。文太郎ら三人に緊張が走る。


(まずい。このままだと須藤にいずれ気づかれる。少しづつでも移動しなければ)


 そう思った柏木が島木に目配せすると半歩後ろに下がる。島木は驚いた顔で柏木を見た。

だが、幸運な事に須藤は突如、柏木たちとは別の方向を向き歩いて行った。須藤は感覚で人がいる場所がわかる能力があったが、古谷との戦いでのダメージでその能力も失われていた。


 島木は柏木と同じように少しづつ後ろに下がり始める。そして須藤の距離がだんだんと離れて行く。


 文太郎はジッとしたまま動かず様子を見て考えていた。


(あの二人に付いて行ってはまずい。無事に須藤から逃げられても結局、あの二人に捕まってしまう。この状況を利用して須藤からもあの二人からも逃げなくては)


 柏木はゆっくりと後ろに下がりながらどうやってこの場を切り抜ける考えていた。


(取り敢えず一旦近くにあるコンテナに隠れるしかねぇ。面倒なのは出口とは逆方向に歩いてるって事だ。だがそれは仕方がない。須藤は出口から少し離れただけだ。俺たちが出口に近づけば気づかれるだろう。だから逃げるチャンスが出来るまで今は隠れるしかない。そして、そのチャンスは作らないと出来ねー。悪いが伊達、お前を囮にさせてもらうぜ)


 柏木は島木の方を見た。島木は不安な顔で柏木を見ていた。


(どうやらあいつ、伊達を囮にするのは気が向かないようだな。だが、ここから逃げるにはそれしかねーぞ)

 

 島木は軽く頷いた。彼はしぶしぶだが柏木の案に乗った。


(伊達、悪いな……)

 

 島木は心の中で呟いた。

 

 文太郎は須藤に警戒しつつ柏木と島木の動きを観察していた。


(確か名前は柏木と島木とか言ったな。あの二人、須藤から逃げるにしても出口とは逆方向に向かっている。恐らく近くにあるコンテナに隠れて隙を見て出口に向かうのだろう。でもどうやって須藤から逃げるんだ……なにか嫌な予感がする……まさか!)


 文太郎は柏木達の思惑に気が付いた。


(まずい、あいつら俺を囮にするつもりだ。俺と須藤が戦っている間に逃げるつもりだ。ど、どうする……)


 文太郎はどうしたらいいかわからず須藤と柏木達を交互に見ていた。


(考えろ!考えるんだ。どうすればいいか考えろ!)


 緊張のあまり文太郎の額から汗が滴り落ちる。


(こうなったら一か八かやるしかない!)


 文太郎は厳しい目で須藤を見た。そして突如、須藤に発砲する。銃弾が須藤の背中に当たる。

須藤は勢いよく振り返り文太郎の方へ走り出した。文太郎は須藤に向けて銃弾を撃ち続ける。

 しかし、須藤はその銃弾を物ともせず文太郎に向かっていく。文太郎は須藤をギリギリまでひきつけてから突如走り出した。文太郎が走り出した先には柏木と島木がいた。それを見ていた島木が焦って銃を構え叫ぶ。


「伊達!てめえ!」


「島木!待て」


 逸る島木を柏木は止めよとしたが遅かった。島木は銃の引き金を引く。だが、銃弾は文太郎には当たらなかった。文太郎は島木の発砲を予期していた。島木が発砲する瞬間に横に飛んで銃弾をかわすと島木の銃弾は須藤の胸に当たった。それを見た島木と柏木の顔から血の気が引いた。須藤は文太郎から柏木と島木の方へ攻撃の矛先を変えた。


「まずい!島木! 逃げるぞ!」


「はい!」


 懸命に走る柏木と島木だが徐々に須藤は差を詰めていく。


「島木! あそこに扉がある」


「はい!」


 柏木は急いで扉を開けて廊下に出ると続く島木もすぐに廊下に出た。そして、島木はすぐに扉を閉めると同時に扉から車が激突したような衝撃音が聞こえた。須藤は止まることなど考えずに突っ込んできたのだ。扉は衝撃でくの字に曲がっていた。


「島木、扉がぶち破られるぞ、上へ逃げるしかねー」


「柏木さん、上に逃げてもゾンビどもウジョウジョいますよ」


「須藤よりもゾンビの方がマシだ。いいから逃げるぞ」


「はい」


 柏木と島木は院長室行きのエレベーターに乗り一階のスイッチを押す。


「くそ! 伊達め! やってくれたな」


 柏木が珍しく毒づいた。


「柏木さん、このままあいつに逃げられちゃいますね」


「ああ、仕方がねー。だがもう、伊達のことは諦めよう。今はここから無事に逃げれることを考えるしかねー」


「はい」


 エレベーターの扉が開き二人は院長室から出ると慎重に一階の出口に向かった。


 そして二人が一階ロビーに到着すると目の前の絶望的な光景に動けなくなった。なんと病院の一階は100匹近いゾンビがウロウロしていたのだ。


「……柏木さん、もう駄目ですかね。俺のアサルトライフル、銃弾がほとんどねーっす」


「諦めるな。島木…… 何か策があるはずだ」


 そうは言ったものの柏木の言葉に力はなかった。


 二人は絶望感に苛まれていた。そのため後ろからゆっくりと歩いてくるゾンビに気づかなかった。そしてゾンビが二人との距離2メートルほど近づくと、ゾンビは奇声をあげながら島木に襲いかかった。

 奇声に気づいた島木が後ろを振り向く。と同時にアサルトライフルの撃鉄を引いた。銃弾はゾンビの額に命中しゾンビはその場に崩れ落ちて絶命した。だが、その銃声で柏木と島木の存在をゾンビ達が気づいた。

 ゾンビ達は一斉に二人に襲いかかる。


「柏木さん!」


「おう!こうなったらやってやるぜ!! 島木!ありったけの弾をゾンビどもに食らわせてやれ!」


「はい!」


 柏木と島木は雄叫びを上げながら勇ましくゾンビ達に向かっていった。だが二人はここから生きて出られないと覚悟していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 須藤は柏木と島木を追わずにこの部屋に留まっていた。まだ、この部屋に誰かいるとわかったからだ。その人物は柏木や島木よりも須藤にとって重要な人物だと感じていた。だが、それが誰だか思い出せない。須藤は古谷との戦いのダメージで記憶を失っていた。だが須藤は鼻をクンクンと動かし始めた。目や感覚でわからなければ匂いで探せばいい。須藤は重要な人物の匂いを感じとった。そしてその人物に向かって歩き出した。

 

 須藤は不思議に思った。その人物が全く動かないからだ。だが、深く考えずそのまま歩く。

そして、その人物との距離が5メートルほどになったとき。その人物が言葉を発した。須藤はその声に聞き覚えがあった。


「須藤、ここで決着をつけよう」


 その声の人物は伊達文太郎だった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ