19話
「初めまして伊達文太郎くん」
古谷は再度、伊達に挨拶をした。伊達は古谷を睨みつける。
「そう、怖い顔で見ないでもらいたいな」
「恭子は関係ない。離せ!」
「ああ。もちろんわかってるよ。君の要望通り離してあげよう。ただし、私の条件を飲んでもらいたい」
「条件だと!」
「そうだ。伊達くん、私達はね、どうしても須藤を捕らえたいんだ」
「な……す、須藤を捕らえるだって?」
「ああ、だが、君も知るように彼を捕らえるのはとても困難だ。だから君に須藤を捕らえるために協力して欲しい。協力して貰えるなら恭子くんとそこの男性はここから無事に出られることを約束しよう」
「バカな、お前ら全員須藤に殺されるぞ……」
「そうならないように君に協力して欲しいのだよ。どうかね?」
文太郎はしばらく考えて答えを出した。
「わかった、協力しよう。その代わり二人はここから逃がしてくれ」
「それは約束しよう。向こうの扉を出て左に曲がりずっと進んで行けば町の外れに出られる」
文太郎は恭子と純一を見て頷いた。
「俺はここに残る、二人はこの町から脱出してくれ」
文太郎がそういうと恭子は心配した顔で文太郎を見た。
「恭子、大丈夫だ。すぐに片ずけて後を追うよ」
「文太郎くん……」
「純一さん、恭子と一緒に行って下さい」
「伊達くん、ありがとう。必ず無事に私たちと合流してくれ」
「はい」
文太郎は無事に恭子と純一がこの部屋から出るのを確認すると古谷の方を向いて聞いた。
「さあ、俺はどうしたらいい」
「伊達くん、須藤は君を狙っている、だから囮になってもらう。須藤はこの部屋に必ずくる。その時、君は須藤と真正面から対峙するんだ」
「……わかった」
文太郎は静かに頷いた。古谷はそばにいた柏木と島木に声をかけた。
「柏木、島木、お前ら二人は隠れてチャンスを伺え。須藤が伊達くんに気を取られているその隙を見て須藤の後ろから攻撃しろ。私はお前達とは別の所に隠れて須藤がお前ら二人を攻撃しようとした瞬間、さらに後ろを取って攻撃する」
柏木と島木は頷いた。
「それと須藤を生かして捕らえる必要はない。恐らくそれは不可能だ。だから全力で奴を叩け。さあ、二人とも位置につけ」
古谷がそういうと柏木と島木は素早く移動する。古谷は伊達を見た。
「伊達くん、頼んだよ我々を裏切らないでくれよ」
「ああ、大丈夫だ」
「この部屋の中央で須藤が来るのを待つんだ」
「ああ」
文太郎が頷くと古谷はニヤッと笑う。そしてまるで消えたかのような素早いスピードで移動した。
文太郎は部屋の中央へと向かった。
これからあの化け物と戦うのだ、文太郎は覚悟した。そして先ほど古谷は文太郎に裏切るなと言ったが、文太郎にそのつもりはなかった。
むしろこれはチャンスだと考えていた。もし、運良くこの町から脱出できたとしても須藤から命を狙われるのは終わらないだろう。そうなれば自分だけじゃなく恭子の身も危ない。ならばここで決着をつけた方がいい。
文太郎は先ほど古谷の戦闘を見ていた。自分でゾンビウィルスを打ったという古谷は戦闘能力は人間を遥かに超越していた。
そして、古谷の側にいた二人の戦闘も見ていたが素晴らしかった。あの二人は10人程いた戦闘員をあっという間に倒してしまったのだ。文太郎一人で須藤で戦えば全く勝ち目はない。だがこの3人と協力すれば須藤に勝つチャンスがあるはず。ならばここは古谷達に協力した方が良い。文太郎はそう考えていた。
文太郎は自分のアサルトライフルのマガジンを確認した。弾は十分にある。文太郎はホッとした。すると突然「ドゴン、ドゴン」と大きな衝撃音が何度も部屋に響き渡った。誰かがこの部屋の壁を壊そうとしているようだ。文太郎は驚いて音が響いた方を見た。すると突如、大きな爆発音がした。おそらくこの部屋の壁が壊されたのだろう
文太郎は辺りを見回す、しばらくして真正面から人影がゆっくり文太郎の方へ近づいて来るのがわかった。文太郎は咄嗟にアサルトライフルを構えるとその人影は姿を表した。
やはりその人影は須藤だった。
須藤は文太郎をジッと見ている、そしてたどたどしく口を開いた。
「だ……だて、ぶ、ぶんたろう……」
文太郎は変わり果てた須藤を悲しげな表情で見た。だがすぐに厳しい表情になり須藤の目を真っ直ぐ見て言った。
「須藤、ここで決着をつけよう」
――――――
柏木と島木はコンテナの影に隠れて須藤が来るのを待っていた。
「さっきの小僧、背が低くて弱そうでしたね。あれが本当に伊達なんですか?もっとデカイ男を想像してましたよ」
島木がそう言うと柏木は緊張感のない島木に呆れたような顔していた。
「人は見かけでは判断できないってことだ。そんなことより島木、そろそろ須藤がこの部屋に入って来るかもしれんぞ、警戒しろ」
「了解っす。だけどいいんですかねぇ。いくら須藤を捕まえるためとは言え高校生を囮に使うなんて」
「まあな。古谷さんからの命令で伊達を捕獲しろと言われたが、あれは伊達を囮に使うためだったんだな。最初は何故だわからなかったぜ。しかし、島木、今は余計なことは考えるな。俺たちはここから生き残る事だけ考えれば良い。そうじゃないと死ぬぜ」
柏木がそう言うと突如、大きな衝撃音が聞こえた。まるで壁にトラックが突っ込んでいるような凄まじいい音だ。その衝撃音は何度も繰り返し聞こえた。柏木と島木は驚いて音がした方を見る。すると大きな爆発音が聞こえた。
「島木、須藤が来たぞ!」
「ええ、行きましょう!」
柏木と島木は音が聞こえた方へ向かって歩き出した。二人は須藤に見つからないよう慎重に歩く。すると、柏木が目の前に大きな穴が壁に空いている事に気づいた。
「須藤のやつ、この壁をぶち壊して入って来たな」
「化け物めこんな厚い壁をぶち壊すなんて……」
能天気の島木も流石に顔が青ざめていた。
「島木、須藤は伊達の方に向かったはずだ。このまま行けば須藤の後ろを取れる。行くぞ!」
「りょ、了解っす!」
柏木と島木が無造作に置かれたコンテナの間を進んで文太郎のいる方へ向かう。二人は足音を立てず慎重に進んだ。
そして、そろそろ須藤の姿が見えてくるはずだ、二人がそう思った瞬間、突如コンテナの脇からゾンビが飛び出して来た。
不意をつかれた柏木は持っていたアサルトライフルを落としゾンビに馬乗りにされてしまった。ゾンビは柏木の顔面を殴りつけようとする。だが柏木は咄嗟にゾンビの両腕を掴んで抵抗した。
それを見ていた島木は柏木と助けようと駆け寄った。だが、すぐ横から別のゾンビが飛び出して島木を襲う。ゾンビは島木の顔面を殴りつけた。不意をつかれた島木はその一撃で吹っ飛んだ。そして島木のアサルトライフルもその手から離れ吹っ飛んでいった。ゾンビは島木の首を締める。
二人は絶体絶命のピンチに陥った。だが、さらに最悪な事が起きる。なんとゾロゾロと複数のゾンビが現れたのだ。ゾンビたちは唸り声を上げながら柏木と島木に襲いかかっていった。
――――――
文太郎と須藤はお互い動かなかった。いや、正確には文太郎は少しづつジリジリと間合いを詰めていった。須藤はその事に気づいていたが気にした様子はなかった。
文太郎はあまりの須藤の威圧感に逃げ出してしまいたかったがなんとか踏ん張っている。
(今、ここで逃げたら全て終わりだ。一生、須藤に命を狙われる人生だ。そんなのごめんだ。ここで終わりにする)
文太郎はアサルトライフルを構えながらジリジリと差を詰めていく。だが、一発も撃たない。文太郎の狙いは須藤を自分に引きつけてその場から須藤が動かないようにする事だ。そのうち、さっきの二人が後ろから須藤を攻撃してくれる。
文太郎はあの二人が須藤を攻撃してくれるのを待った。だがなかなか攻撃が始まらないので文太郎は焦った。
(何をやっている。いつまでも持たないぞ)
文太郎が二人の攻撃を待っていると須藤の後ろの方から複数のゾンビの唸り声が聞こえた。その唸り声を聞いた文太郎の顔が青ざめる。
(まずい、あの二人ゾンビに襲われてる。須藤にあの二人の存在がバレてたのか……でも何故わかった)
須藤が文太郎の青ざめた顔を見てニヤリと笑った。そして突如、須藤は文太郎に向かって走り出した。文太郎は慌てて須藤を撃った。しかし、須藤はアサルトライフルの銃弾を物ともせず文太郎に近づくと右の正拳突きを出した。
文太郎は須藤が近づいた時すでに横の方向に飛んでいた。須藤の突きはとてつもなく早く文太郎のすぐ横をギリギリに通った。
文太郎はゴロゴロと転がりながらすぐに起き上がる。文太郎は須藤の突きの早さに驚愕した。まるで自分のすぐ横を新幹線が通過したような感覚だった。
(な、なんて早い突きだ)
須藤とはゾンビになる前に一度戦った。その時の突きも早かった。だがまだ技が粗く予備動作がはっきりわかったので何とか避けることができた。だが、ゾンビ化した須藤の突きは力みが消え全く予備動作がわからない。須藤はゾンビ化して力だけではなく技も強化されたのだ。
文太郎はその一発の突きで自分の敗北を実感した。
(さっきは偶然避けれたが今度は避けることはできない)
須藤がまたもや文太郎めがけて走った。文太郎は咄嗟に近くにあるコンテナの後ろに隠れる。
須藤は一旦止まるとコンテナに数回蹴りを入れた。すると驚く事にコンテナが文太郎めがけて倒れていく。文太郎は倒れてくるコンテナに押しつぶされる前にその場から慌てて逃げ出した。
(須藤と戦うのに接近戦はだめだ。距離を取らなくては)
文太郎はまたもコンテナの裏に隠れようとした。だがその時、何かが文太郎のすぐ脇を横切った。その何かは文太郎が隠れようとしたコンテナに突き刺さった。文太郎は突き刺さった物を見て驚愕し立ち止まった。突き刺さったものはコンテナの開閉扉のロック棒だった。
須藤はコンテナからロック棒を引き千切り文太郎に向けて投げつけたのだった。文太郎は振り返り須藤の方を見た。すると須藤はまたもロック棒を投げようとしていた。文太郎は横へ飛ぶ。するとロック棒は文太郎のすぐ上を通過していった。
文太郎は前転して素早く起き上がりすぐさま須藤に向けてアサルトライフルを向けた。だが、須藤はもうすでにその場にはいなかった。驚く事に須藤は文太郎の目の前に立っていた。
文太郎は心の中で殺されると思った。須藤が右の拳を握る。
(来る!)
文太郎がそう思った瞬間だった。突如、銃声がした。
銃弾は須藤の背中に当たった。須藤は後ろを振り返る。すると二人の男が立っていた。
何と柏木と島木だった。
島木が文太郎に声をかける。
「伊達!待たせたな!」




