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ゾンビアウト  作者: 黒咲
第1章 伊達文太郎18歳の冬
15/24

14話

 

 女ゾンビは右のパンチを文太郎に向かって繰り出した、文太郎はその攻撃をスライディングして避けると女ゾンビの足に手をかける。すると女ゾンビは勢いよく派手に転んだ、だがすぐに立ち上がり文太郎に向かって行くとまた右のパンチを繰り出した。文太郎がそのパンチを軽々と避けると女ゾンビはあたりをキョロキョロと見回す、どうやら文太郎を見失ったようだ。


 文太郎得意の相手の死角に入る技だ。


 そして女ゾンビはすぐ真横にいた文太郎に気づくと奇声を上げ殴りかかる。だがその前に文太郎の右の正拳突きが女ゾンビの顔面に入った。しかしヨロヨロと二、三歩後ろによろける程度でまったくダメージはないようだ。

 女ゾンビはすぐさま文太郎に襲いかかり何度も文太郎に殴りかかるが全て空振りに終わる。


 しばらくその攻防が繰り返された。そして、文太郎はこの攻防の間にゾンビの弱点について考えていた。


(やはり、こいつらゾンビの弱点は頭だな、いや、正確には脳か……こいつらゾンビはひたすら攻撃を繰り返すのが特徴だ、標的を仕留めるまで決して攻撃を止めない、それはきっとゾンビの本能なのだろう。こいつらを止めるには脳を破壊するしかない……だが硬い頭蓋骨に覆われた脳を素手で破壊するのは困難だ。……だがさっき、池澤とこのゾンビが戦ってる時に一度だけゾンビが攻撃を止めた時があった。それは池澤に何度も顔面を殴られた後の事だ。その時にピンときた、おそらく池澤の強力なパンチがソンビの脳に衝撃を与えたんだ、だから一時、ゾンビは攻撃を止めた。こいつらゾンビを殺すには脳を破壊するしかないが、脳を破壊するまでしなくても、ある程度ゾンビの脳にダメージを与えれば動きを止める事ができるかもしれない)


 女ゾンビは休むことなく文太郎に襲いかかる、文太郎は女ゾンビの攻撃を避けるとすぐさま正拳突きを女ゾンビに食らわす。女ゾンビはまた、ヨロヨロと二、三歩後ろによろけた。


(だが、ゾンビを倒すほどのダメージを脳に与えるにはかなり強い衝撃が必要だ。池澤ほどのパンチ力でも一時、ゾンビの動きを止めるのがせいぜいだった。残念だがゾンビと戦ってみてわかったが俺には池澤ほどのパンチ力はない、俺のパンチ力ではゾンビの動きを止めるのは不可能だ、だから硬い頭蓋骨を通り抜けて脳に直接攻撃するしかない)


 女ゾンビが唸り声を上げながら文太郎に襲いかかる。


(ゾンビの脳に直接攻撃、それをやるには……あの技しかない!あの技なら硬い頭蓋骨に覆われても関係なく脳に直接攻撃できる。そう……昔、親父に教わったあの技なら!)


 文太郎は右手と右足を前にだした、ボクシングで言えばサウスポースタイルだ。そして右手を開くと文太郎は小さく息を吐いた。


 女ゾンビが恐ろしい形相で文太郎に殴りかかろうと向かってくる。


 (果たして上手くいくか……わからないけど、一か八かだ! こい!)

 

 女ゾンビは右の拳を出して文太郎の顔面へぶち当てようとした。しかしその瞬間、文太郎は少し腰を落とし膝を曲げる。そして後ろに引いていた左足を踏むこみながら膝を伸ばすと地面との反作用が生まれた。文太郎はその反作用の力を鞭のように体全体をしならせ、腰、肩、肘と伝える。

 最後に文太郎は右の掌底で女ゾンビの顎を打った。その瞬間パチンとゴムが弾けたような音が聞こえた。

 

 そして……まるで時が止まったかのように女ゾンビと文太郎はその場から動かない。


 すると突如、女ゾンビが糸が切れたマリオネットのように地面にバタンと崩れた。

 どうやら女ゾンビは気絶したようだ。それを見ていた病院内の人々はなにが起きたのかわからずただ呆然と文太郎を見ていた。


 「な、なんだ、どうやった?」

 池澤はわけがわからないといった顔で文太郎を見つめていた。


 恭子が文太郎に駆け寄った。

「文太郎くん、大丈夫? 怪我ない?」


「ああ、大丈夫」

 文太郎は女ゾンビを見下ろしながら答えた。


「死んだのこのゾンビ?」

 恭子が女ゾンビに警戒しながら文太郎に聞いた。


「いや、多分気絶してるだけだと思う。だから用心してくれ。すぐ起き上がるかもしれない。何かで縛っておこう。あと、バリケードを補強しておかきゃ、またゾンビが入ってくるかもしれない。急ごう!」

 文太郎がゾンビを縛る紐か何かないか探そうとして歩き出した。すると、池澤が文太郎に声をかける。

「おい! 伊達。ちょっと待て!」


 文太郎が振り返り池澤の方を見た。


「お、お前、何をやった。一体……どんな方法でこの化け物を倒したんだ!」

 池澤は相変わらずわけがわからないといった表情をしていた。文太郎は少し面倒くさそうに答えた。


「衝撃が浸透する打撃を使って、化け物の脳に直接ダメージを与えたんだ。こいつら化け物の弱点は脳だ。脳にダメージを与えればこいつらを倒せる」


「衝撃が浸透?そんな事出来るのか?どうやったんだ!」

 池澤は文太郎に食い下がった。


「この技は俺が幼い頃に親父から教わったんだ。俺の家は代々、武道家の家系でね。我が家の秘伝の技ってやつさ。全身の筋肉を効率よく使うのと力を浸透させるイメージが重要だ。まあ正直、詳しい原理はわからないけどね。ただこの技は習得するには何年もかかったよ。親父からはこの技は危険だから絶対使うなと言われてたけどね」

 そういうと文太郎はその場から離れた。恭子は文太郎の後について行く。


 池澤はその後ろ姿を黙って見送った。


「よし、これでいい、いくら力が強いと言ってもこれだけやれば大丈夫だろう」

 文太郎は女ゾンビを病院のベットのシーツを使って縛り上げた。


「文太郎くん、入り口のバリケードの補強もオッケーだって」

 恭子が文太郎に話しかけた。


「そうか、ありがとう、恭子、これから俺は裏口から出て病院の表門にいるゾンビを始末してくる。ゾンビどもの力は並みの人間よりも強い、そのうちバリケードも破壊して突破してくるはずだ」


「わかった。気をつけてね!」


「ああ、俺が病院を出たら裏口に鍵をかけてもらいたいから、ちょっと池澤に頼んで一緒に行ってくる」

 そういうと文太郎はガンケースを持ち、池澤の方へ向かった。しばらく二人が話していると、二人は裏口へと向かった。すると誰かが恭子の名を呼んだ。


「恭子!」

 恭子が呼ばれた方を見ると父親の純一だった。


「お父さん!病室から出て平気なの?」

 恭子が心配そうな顔で純一を見た。


「ああ、大丈夫だ。それよりもさっきの伊達くんと化け物の戦い、お父さん見てたよ。……何というか、驚いたな」


「そうなんだ。ね! 言ったでしょ! 伊達くんは強いのよ、見かけによらずね」

 恭子は誇らしげな表情で純一を見て答えた。


「さっきの話なんだが、伊達くんがいればこの町から脱出できるって、恭子は本気で思っているのかい?」


「ええ、大丈夫よ、必ず脱出できるわ。お父さん早く決断して、急がないと状況はどんどん悪くなるわ」


「……そうだな、わかった。伊達くんとこの街を出よう」

 純一が決断すると、病院の外で何か大きな音が聞こえた。


「何だろう? 病院の外が騒がしいぞ」


「お父さん、今の銃声かしら?」


「ああ、お父さんは本当の銃の音はわからないがそんな音に聞こえたな」


 恭子は顎に手を当て考えた。

(文太郎くん、銃を持って行ったけど流石に早すぎるわ、外で銃を撃ってるのは文太郎くんじゃない……)


「お父さん、ちょっと様子を見に行きましょう」


「ああ」


 恭子と純一が病院の入り口に着くと、人だかりが出来ていた。恭子が近くにいる年配の女性に何事か聞いた。


「すみません、何かあったんですか?」


 恭子に聞かれた年配の女性は興奮した状態で答えた。


「あのね、あのね、自衛隊の人たちがたくさん来てね、それで助けに来てくれたのよ! 自衛隊の人たち、外にいる化け物を全部倒してくれたわ!すごい!ああ、よかったわこれで助かったわ」

 

 それを聞いた純一は嬉しそうに年配の女性に訪ねる。


「それは本当ですか! ああ〜、そうですか良かった!」


「ええ、これで安心だわね」

 純一と年配の女性はホッとした顔で話をしていたが、恭子はそれとは逆に険しい顔をしていた。


「恭子、良かったな。これで危険を犯さなくても無事にこの町から出れるぞ」


「ええ、そうね。良かったわ」

 恭子はどこか納得出来ないといった表情をしていた。すると入り口の方で池澤の父親の義和が誰かが会話している声が聞こえた。


「ええ、そうです。ここはバリケードを作ったので表の入り口からは入れません。ただ、裏口からは入れます。……はい、今、鍵を開けますので、自衛隊と米軍の方々はそこから入ってください」

 義和は自衛隊の隊員を病院の裏口から入れるようだ、義和は急いで裏口の方へ走って行った。それを見ていた恭子は少し嫌な予感がした。


「お父さん、ごめん!ここで待ってて、ちょっと伊達くん呼んでくるね」


「ああ、早くこの事を伝えてあげなさい」

 恭子は足早に裏口の方へ駆けていった。


――――


 文太郎は裏口から出るとガンケースを開けた。


「M4か、これなら撃った事があるぞ」


 文太郎はガンケースから銃を取り出してマガジンをセットした。そして辺りを警戒しながら慎重に音を立てずに進んでいく。すると突然、銃声が聞こえてきた。


(なんだ? 銃声だ! 誰かが病院の表門で銃を撃ってるぞ)


 しばらくすると銃声が聞こえなくなった。文太郎はどうすれば良いか悩んでいたが、とりあえず一旦様子を見に行こうと進んでいった。そして、病院の角に着き、そこからまわって病院の表側に行こうとした時、人の足音が聞こえた。それを聞いた文太郎は急いで大きな木の後ろの身を隠した。すると、十数人ほどの武装した男たちが銃を構えながら現れた。武装した男達は裏口から病院の中に入っていった。


(あいつら、自衛隊か? それとも……)


 文太郎はしばらく木の後ろでジッと身を潜めて考えていると、上空で爆音が聞こえた。文太郎が上を見ると爆音の正体は軍用ヘリコプターだった。

 ヘリコプターは病院の表側に着陸する。そしてしばらくするとまた、武装した男達が先ほどと同じ十数人ほどが病院の裏口に姿を現した。だが、今度は不思議な事に武装した男達の中に手を後ろに縛られている男が二人混ざっていた。


(なんだ? あの二人、なんで手を縛られているんだ……)


 文太郎はその光景を不思議に思いながらも何も出来ずただジッとしていた。


――――


 自衛隊と名乗る男達が病院内に入ると、一人の男が義和に訪ねた。


「先ほども言いましたが、我々は陸上自衛隊の者です。私は隊長の吉井と言います。米軍と合同であなた達を助けに来ました。失礼ですが、あなたはここの院長ですか?」


「いえ、私は池澤義和と言います。実は院長の古谷敏夫は現在、行方不明なんです」


「そうですか…… わかりました。とりあえず、この病院にいる人たちを一階のロビーにできるだけ集めてください。みなさんをこの町から脱出させたいと思います」


「ありがとうございます! それではすぐに取り掛かります。皆さんもどうぞ来てください」

 

「はい、すぐ伺います、しかし、この病院に化け物がいるかもしれません、一旦、この病院内を調査させてください」


「わかりました。それでは鍵を預けておきます。私は病院にいる人たちをロビーに集めます」

 そういうと義和は走っていった。そして、武装した男たちのうち一人が吉井に報告をする。


「隊長、今、Bチームから連絡があって、柏木と島木を連れて、もうこちらに着くそうです」


「わかりました。私は院長室に行きます、柏木と島木をそこに連れて来てください」


「それと、Cチームからは連絡はありません、恐らく全滅したかと……」

 その報告を聞いた吉井の眉が片方上がる。


「そうですか、仕方ありませんね"レア"は諦めましょう。これ以上、大事な部下を失うわけにはいきませんから。とりあえず柏木と島木の事はお願いしますよ」


「了解しました」

 そういうと武装した男が無線を使って柏木と島木を病院に入れるよう指示をした。吉井は目の前にいる二名の男に命じた。


「そこの二名は私と一緒に来なさい。残りは一階のロビーで病院内の人間を監視してください。弾はなるべくゾンビ用に取っておきたいので、あまり人間相手には銃は使わないように」

 吉井の指示に周りの男達は頷き、二人だけ残してあとはその場から離れた。吉井は残った二人に話しかける


「さあ、行きましょう」

 吉井はそういうと二人の部下と一緒に院長室に向かって歩き出した。

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