智深
〜提轄 魯達〜
山賊は帰って行った。
あれから数日が経ったが、あの男たちのことが、頭から離れない。
これで良かったのだろう。俺はこの史家村を守った。
父は数年前、死んだ。だから俺がこの腕でこの村を守る。
そして俺には幼馴染で俺の補佐もしてくれる、顔立もいる。
「おい進!大変だ!」
「どうした、立。そんなに慌てて」
「役人が、お前を捕らえようとこちらに向かってる。あの山賊たちと語り合ったことがばれて、共犯者とみなされたみたいだ」
「そんな!」
「とにかく逃げてくれ!」
「あ、ああ。だがそのあとはどうする?」
「この村のことは俺に任せてくれ、進。俺は多少頭が回ること、お前は知っているだろう?」
「ああ。お前を信じよう。ではしばらくの間、さらばだ。」
王進殿がいるという延安府に行ってみよう。そう思い、俺は駆けた。
街に着いた。ここが延安府だろうか。
とにかく、あそこの店で話を聞いてみるか。
「そこのお方、よろしいか」
俺は店内に入る役人らしい服の大男に声をかけた。
「なんだ?俺に何か用か?」
酒を飲みながら、男が言う。
その迫力はとてつもないものだった。
「実は、ここがどこか、教えていただきたいのですが」
「おお、そんなことか。ここは渭州だ」
渭州だと?延安府とは真逆の方向ではないか!
「それにしてもお前、いい目をしているな。名はなんという」
「俺は史進という。史家村から、ここまで出てきた」
「ほう!ではおぬしがあの九紋竜か!」
どうやら俺のことはこちらには伝わっていないらしい。いや、顔立がうまく仕組んでくれたのか
「俺はこの渭州で提轄をしている、魯達という。」
男はそう名乗った。そして俺たちは意気投合し、惜しみながらも別れた。
〜花和尚 魯智深〜
先日九紋竜史進と会えたのは、この上ない幸運だっただろう。
あれはまさに好漢だ。
そう思っていると、若い娘が泣いていた。
こういうところを見ると俺は体が勝手に動いてしまう。
「どうしたのだ。こんなところで」
娘は少しおびえた様子だったが、俺と初めて話すやつらは皆こうだ。
心配はいらんだろう。だが、なんと美しい娘か
「名はなんという」
女が答える
「私は、金翠蓮と申します。」
事情を聞くと、この娘は肉屋に騙され、借金を負っているらしい。その額も相当なもので、仕方なく体を売るも、足りないという有様らしい。そしてその肉屋を、俺は知っていた。
「許せん!俺がやつを今すぐ懲らしめてきてやる!」
娘は俺に礼をしてきた。なぜだ。まだ解決はしていないというのに。それに頭巾をかぶっているが、まさか髪を売っているのだろうか。ますますやつが許せなくなってきた。
俺は翠蓮に安心しろといい、礼を断って、奴の一味から命を狙われぬため逃した。
奴のいる市に一人乗り込み、奴に難癖をつけた。まずは様子を見るつもりだった。だが、俺は奴のへりくだった態度を見て、怒りが抑えられなくなった。そして気づけば、拳が出ていたようだ。
「おのれ」
肉屋がこちらを睨みつけてくる。俺は肉屋の服を掴み上げ、腹に二発目の拳を見舞った。
そして怒りに身を任せ、無抵抗で逃げ回る肉屋を捕まえ、顔面に渾身の一撃をくらわせる。
肉屋は顔中から血を吹き出し動かなくなった。
殺した。
周りには多くの野次馬がいる。
どうすればいいのか、わからなかった。そして気づいた時には一人逃げ出していた。
逃げていると、金翠蓮に出会った。
そして俺は無心で逃げているうちに、五台山という山の近くまできていたようだ。
翠蓮は、俺と出会ったのち、ツテを頼ってここまで逃げてきたという。
どうやら、家が代々五台山の坊主と仲が良いらしい。
そして、翠蓮は俺に役人から逃げる方法を教えてくれた。俺に、五台山で頭を丸め、出家しろというのだ。
正直、嫌だったが、それが何より現実的な策だった。ならば、行くしかないだろう。
多くの坊主に囲まれ、頭を丸める。翠蓮は心が痛んでいるのか、少し泣いている。
なぜだろう。なぜ俺が頭を丸めるだけで心が痛む。わけがわからない。
俺の目の前に、老人が現れる。智真と名乗ったその老人は、俺を聞いたことのない名で呼んだ。
「智深」
「それは、俺のことか?」
「ああ、お前はもう俗世とは離れる。ゆえに、名も改める必要がある。お前は今日この時より、智深だ」
「智深、魯智深か」
俺はもう、役人からは追われない。だが、俗世にも、戻れない。
きずけば、酒を飲んでいた。決まりなんてどうでもいい。そう思ってしまった。
外では、坊主どもが話をしている。智真和尚もいるようだ。
〜智真〜
智深が、酒を飲み、仏像を木っ端微塵にしたという。
皆が智深を追い出すよう、訴えてきている。だが、智深はいずれ、立派に悟る。必ず悟ってくれるだろう。
だが仕方がない。ここまで大きな騒ぎとなってしまったからには、遠くに追いやったほうがいいだろう。
智深、必ず悟り、私を超える高僧になってくれるだろう。