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水滸伝   作者: ての
2/3

史家村

〜史家村〜

どれくらい歩いただろう

正直、疲れている。当然だ。もう数日、徹夜で歩き続けている。

高俅は追っ手を仕向けているだろう。そう思うと、止まってはいられなかった。

だが、母も元気がない。もうそろそろ、どこかで休むべきか。

私が消えたあとの禁軍の師範は誰だろうか。やはり、林冲あたりだろうか。

林冲は豹子頭の異名を持っている。その異名の通り、まるであの蜀漢の張飛を写したような人物だ。得物も蛇矛、この世の張飛といっても過言ではないだろう。

他にも、私が目をつけている将は多くいる。

青州の小李広こと花栄、霹靂火こと秦明。そして大刀こと関勝、双鞭こと呼延灼。名を挙げればきりがないが、高俅にこれらを見出す力もないだろう。やはり、今禁軍にいる林冲が有力だろう。

いや、もう禁軍から離れねばならんな。

ちょうど近くに史家村という村があるらしい。そこで、少し休ませてもらおう。


史家村の豪農、史賛という老人が快く泊めてくれた。

名は、偽った。李、と名乗っている。

母も休んでいる。だが明日には発つつもりだ。史賛殿にも、迷惑はかけられない。


棒を振る音が聞こえる。庭からだろうか。それは若者の勇ましい声とともに私の耳に入った。

私はその若者の近くにより、

「お見事」

と声をかけた。


〜九紋竜 史進〜

これまで俺は、多くの師を招き、教えを受けた。初めの師は、李忠殿だっただろうか。あのひとは、私には素質があるといい、教えてくれた。だが、今思えば三流だ。あの程度の武技では、この村を守ることはできない。それからはまた多くの師を招き、その師を超えた自覚がある。今なら、この村も一人で守ることも容易いだろう。

「お見事」

夢中で棒を振っていると、声が聞こえた。

そこには一人の男が立っている。その目は私の棒術を見世物でも見るかのように見ていた。

無性に腹が立った。俺はその男を睨みつけ、

「誰だ」

と聞いた。

「私は先ほどこの家の主人に泊めてもらった、李という。」

「ふん。やけに態度が大きいな。俺はこの家の主人の子、史進という。この体の刺青をみて、九紋竜と呼ぶものもいる」

「おお、史賛殿のご子息でしたか。これは、失礼いたしました。その武術、見世物にしては良い出来だと思いましてな」

「見世物だと?」

腹が立った。俺の村を守るための術を、見世物だというこの李という男に

「ええ、形は見事ですが隙が多い。そこを突かれては、終わりです。」

「ならば教えてくれ。俺の武術の隙を!」

「いえ、私は止まらせていただいておる身、そこのご子息に怪我でもさせてしまえば、申し訳ない」

ここまで挑発しておいて勝負はせぬと!?

俺は、もう一本棒を取り、男に投げつける

「男なら取れ!お前のような輩に、俺が負けるものか!」

「何の騒ぎだ!進!」

父が出てきた。

李という男が、父に近寄り、事情を説明しているようだ。

父が

「あの愚息は、天狗になっております。どうか、あやつの鼻を折っていただきたい。」

はっきり聞こえた。

父も、俺には勝てないと思っているのか。

男が父に頷き、棒をとった。

「よろしいですかな」

「いつでも来い!」

にらみ合った。相手は仕掛けてこない。ならば!

勢いよく棒を前に突き出した。それは軽く避けられる。だが、すぐに次の攻撃に移る。

男が言っていた。己の隙をなくすために。

俺が攻撃し、男が避ける、しばらくそれが続いた。

「なぜ攻撃してこない!」

思わず叫ぶ。

すると男の構えが変わった。俺はまた攻撃を仕掛ける。しかしその棒は男の一撃によって跳ね飛ばされ、俺の後ろに転がった。そして次の瞬間、俺の目の前に棒が突き出される。

隙は、作らなかったはずなのに。俺は男に敗れた。

「なぜ」

つい、言葉が漏れる

「ひたすら攻撃し、隙をなくそうとしたようだが、隙は心にあったようだな」

そう言い、男は父に一礼し、去ろうとする。俺はつい、男を呼び止めた。

「頼む!俺を弟子にしてくれ!」

男は首を振る。

「私は明日には発ちます。1日で、術は伝えられない」

そう言い、部屋に戻って行った。

夜、俺は父に頼み、李殿を説得してもらった。

そして明日の朝、改めて願うつもりだ。

緊張で眠れなかった。

改めて願った。父と共に、頭を下げた。

結論から言うと、了承してもらえた。李殿、いや王進殿は渋っていたが、王殿の事情を聞いた上で願うと、了承してくれた。

明日から、鍛錬が始まる。嬉しくてたまらなかった。

思う存分教えてもらった。自分が強くなるのがよくわかった。

そしてついに王進殿は旅立って行かれた。


〜山賊 陳達・朱武・楊春〜

我らは死ぬときは共に、と誓った。

陳達、楊春共に私の同志だ。我らの絆は劉備、張飛、関羽の絆にも引けを取らないだろう。

陳達は跳澗虎と呼ばれ、楊春は白花蛇と呼ばれている。私、朱武は神機軍師と呼ばれている。

我らは得意とすることはそれぞれ違うが共に集まり、山賊となれたことは天意だと私は考えている。

戸を叩く音がした。

「誰だ」

「兄貴、大変だ。」

「楊春か。どうした。お前は何があっても動じないと思っていたが」

「陳達の兄貴が、史家村を襲撃した。」

「史家村を!?」

史家村には、史進という若者がいると聞く。陳達はそこまでの男か試しに行ったのだろう。

だが、正直陳達では九紋竜には勝てない。一歩間違えれば、死だろう。

「こうしてはおれん。陳達の援護にむかうぞ」

もう陳達は死んでしまっただろうか。いや、生きている。そう信じよう。

史家村に着くと、味方の兵が多く倒れている。

嫌な汗が肌を伝う。近くの兵を揺さぶり起こし、陳達の安否を聞こうとする。

だが、誰として起きるものはいなかった。

「まさか」

楊春が言う。だが、私は諦めない。

「また来たのか」

楊春ではない。若者の声がした。

「あの山賊の仲間か?」

山賊とは、陳達の事だろうか。

「待て」

楊春が若者に呼びかける。少し冷静さを取り戻したようだ。

「その山賊は我らの兄弟、死を共にする約束をしたものだ。だから我らも抵抗しない。捕らえられても構わないから、陳達に会わせてくれ。頼む」

「私からも頼む。もし陳達をすでに殺したのなら、我らも殺してほしい。楊春の言う通り、我らは死を共にすると誓っているのだ」

若者は少し考えていた

「俺はあの山賊は殺していない。それに、お前たちの熱い友情は伝わった。ここまで言われたら、役人に差し出す気も失せてしまったな」

「では?」

「あの山賊はお前たちに返す。だが、ひとつだけ条件がある。俺と、一晩飲もう!お前たちの話を聞きたい」

若者はやはり九紋竜史進だった。我らは陳達を加え、朝まで語り合った。我らの出会い。史進の師、理想。

そして我らは互いを分かり合えた。そんな気がした。



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