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土地神様へのおくりもの

 群青色の空にポカリと浮かんだお月さまが、お山の広場を照らしています。

 その光は、大きな白い鹿の体の土地神様をよりいっそう輝かせ、まるで白い鹿そのものが光っているかのようです。


 雄々(おお)しくたくましい土地神様のお姿に、動物達はみんな、なんてすばらしいお姿だろう。こんなに美しくもたくましい土地神様に見守られてお山で暮らせるのは、本当に幸せなことだと、ますますありがたく思うのでした。




『さて長老よ。何用(なによう)だ?』


「この度は、わざわざお越しいただき、まことに申しわけございません。土地神様のおかげで、お山の仲間も増え、我らはみんな大変幸せに暮らしております。本当にありがとうございます」


 クマの長老と動物達は、深く深く頭を下げました。


『我は我の勤めを果たしているだけのこと。礼はいらぬ。皆が健やかであればそれで良い』


「はい。本当にありがとうございます。しかしながら、この気持ちを土地神様にお伝えしたいと、皆で力を合わせ、おくりものをご用意させていただきました。我らお山に暮らすみんなの気持ちでございます。どうぞお受け取り下さい」


『……なんと!』


「サヨ、ケン、ミヨ。代表して、土地神様をご案内申し上げなさい」


「「「はいっ!」」」


「土地神様、どうぞこちらへ」


 目を見開いたままの土地神様に、サヨがそっと声をかけました。





 (あか)く色づいた大きなモミジとサクラの木がある所まで、サヨとイタチのミヨちゃんが土地神様の前を歩き、サルのケンちゃんはその後ろをついて行きます。


 間もなく着いたそこには、お月さまの光に照らされてキラキラと輝く石に囲まれた、大きなお風呂がありました。

 水面(みなも)には紅いモミジの葉が二つ三つ浮かんでいて、お月さまもゆらゆらと映り、それはそれはきれいに見えます。


「土地神様。わたし達みんなで作った土地神様のお風呂です! どうぞゆっくりとお使い下さい!」


 きっとサヨ達を待っている間に練習したのでしょう。ミヨちゃんはほっぺたを赤くしながらも、ちゃんと言えて嬉しそうです。


『……皆でこれを?』


「はいっ」


 土地神様に答えたのは、ケンちゃんです。


『そうか……皆の気持ち、ありがたく使わせてもらおう』


「「「どうぞごゆっくり!」」」



 今度はみんなでおじぎをしながら返事をして、土地神様にゆっくりとしていただこうと、お山の仲間が待っている広場に帰ろうとした時です。


 たまご色の光が辺りを照らし、そこには鹿の姿から戻って湯着を()した土地神様がいらっしゃいました。


『これこれ、待ちなさい。我一人ではつまらぬ。そなた達もいっしょに入ろうぞ』


 これにはサヨもミヨちゃんもケンちゃんもびっくりして、土地神様に向かって思わずさけんでしまいました。


「「「ええ~!?」」」


『ハハハ。良いではないか! さあおいで』


 土地神様はそう言うと、石作りのお風呂につかって、ホウっと一つ息をつきました。


『うむ。とても良い湯だ。どんどん疲れが取れていく。ほら、早くおいで!』


 サヨ達は顔を見合わせてから、おそるおそるお風呂の中へ。


「うわあ、あったかい!」


 とミヨちゃん。


「ほんとねぇ」


 とサヨ。


「あああ~! すご~い」


 これはケンちゃん。


 そんな三人を見て、土地神様はクスクス笑いながら言いました。


『皆の気持ちが込められておるのだろう。これを我一人で使うのは()しい。この町には他にも神々がおるから、使わせてやってはくれぬか? むろん、そなた達も使うが良い』


「「「もちろんです!」」」


「あ、でもオイラ達には泉があるからなあ~。う~ん。やっぱりこっちは神様専用だな!」


 ケンちゃんがつぶやいたこの言葉を聞いた土地神様やサヨとミヨの笑い声が、秋のお山にひびきました。





 ホカホカとした三匹とまた白い鹿の姿になった土地神様が広場に帰ったのは、それから間もなくのことでした。


『皆の気持ち、とても嬉しく思う。良い湯であった。我は幸せ者だ!』


「もったいないお言葉をありがとうございます!」


 頭を下げたクマの長老もお山のみんなも嬉しそうです。




 山の恵みである果物や木の実がたくさんならべられ、広場では小鳥達が歌う中、おすもうが始まりました。

 土地神様に楽しんでもらおうと、みんないっしょうけんめいです。



 サヨも母さまとニコニコしながら、みんなのおすもうを楽しんでいたのですが、そんなサヨの頭の中に土地神様の声がそっと聞こえてきました。


『サヨ。今宵(こよい)の礼だ。ほら、広場の向こうをご(らん)?』


 そこにはびっくりした顔でキョロキョロしているサヨの父さまの姿があるではありませんか。


「……父さま?」


 聞こえないくらいの小さな声で、サヨがつぶやきました。


『うん。どうやらひどいケガをして、この町に住んでいる人の子に助けられたようだな。手当を受け、治ってから山に(はな)されたはよいが、ずいぶんと奥だったようで、長いことサヨ達を探しておったらしい。ほら、サヨ。行っておいで』


 びっくりしたあまり、動けなくなっていたサヨでしたが、土地神様のお言葉にピョンと飛び上がり、父さまめがけて走り出しました。

 同じようにサヨのつぶやきを聞いて驚いていた母さまもいっしょです。


「父さまぁ~!!」


 はじかれたように、サヨとサヨの母さまを見た父さまもかけよります。


 

 ほほをすりよせ鼻先を合わせて喜ぶサヨ達に、お山の仲間達からも喜びの声が届けられます。


「よかったわね、サヨちゃん!」


「おお! サヨもサヨの母さんもこれで一安心だな!」



 そんなサヨ達をうんうんと嬉しそうに見ていたクマの長老に、となりにいた土地神様が声をかけました。


『では長老。我はこれにて。今宵は楽しかったぞ。皆、達者でな!』


 土地神様のお言葉と共に、たまご色のやさしい光が広場にあふれ、サヨ達の再会を喜んでいたお山の仲間達、そしてサヨ達家族は、心だけでなく体までもポカポカと、まるで泉につかった時のようにあたたかくなりました。


 そして光が薄らいだそこには、土地神様の姿はもうありませんでした。




「土地神様。ありがとうございます!」


 神社の方に向かって、そろっておじぎをしたお山のみんなの耳に、ちょっとてれくさそうな土地神様のクスクスと笑う声が聞こえてきたような気がしました。









 ──やがて今年もお山に冬が雪を連れてやってきました。


 サヨもミヨちゃんも、秋祭りが終わって間もなく巣立ちました。まだ家族からはそれほど離れていない場所に住んでいますが、サヨのしっぽはますますフンワリとしてきましたし、ミヨちゃんもスラリとして、すっかりお姉さんです。


 それでもサヨとミヨちゃんとケンちゃんはいつでもいっしょです。ケンちゃんの妹のお世話をしたり、まだ残っていた柿の実をみんなで分けたり。



 雪の中、足跡をつけながら、かけっこしていたサヨがミヨちゃんをふり返って言いました。


「春が楽しみね! ミヨちゃん!」


「ねっ、サヨちゃん! 妹かな? 弟かな?」


「どっちでも、きっとかわいいでしょうね~!」


 うっとりとしたサヨとミヨの後ろから、ケンちゃんの大きな声ががしました。


「はあっ。はあっ。コラ~! オイラを置いて行くなあ~!」



 冬のお山にまるで春がきたかのような、楽しげなサヨ達の笑い声がひびき渡りました。






『──皆健やかなり。良きかな。良きかな』





☆おしまい☆

  

最後までお読み下さって、本当にありがとうございましたm(__)m

これで本編は終了です。


が! 実はサヨと土地神様のお話はもう少しだけ続きます。

次週、エピローグとして投稿しますが、本編より数年先のちょっとだけしんみりしたお話になります。

もしよろしければ、お付き合い下さいませ。


それでは皆様、皆様にも幸せが訪れますように。

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