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秋祭りの日に

 山々が赤や黄色やだいだい色に衣がえをし、神社がある町のたんぼでは金色の稲穂が重そうに頭を下げ、赤とんぼがあちらこちらを()うころ、サヨ達が住むお山ではとうとうお風呂が完成しました。



 あなほりの上手なアナグマやイタチ達、そしてキツネであるサヨのお母さんも加わって、交代しながら泉から少しはなれた、広くて平らなところに大きなあなを掘りました。

 泉がある場所からは少しだけ低くなっている、モミジとサクラの木にはさまれた場所です。


 子ども達はゴツゴツしていない、まあるい石を集めて運び、その石をたくさんのサル達があなの中にはりつけていきます。

 これにはどこかでウワサを聞き付けた、フクロウおじさんが大かつやく。


「ほらほらこっちにいっぱいあるよ」とサヨ達に教えてくれたり、少し大きくて運べない石を運んでくれたり。


「ありがとう。フクロウおじさん!」


 子ども達のお礼に、「いやいや」と照れながらも、「さあ、もう少しがんばろうな!」とはげましてくれるのでした。


 小鳥達もあなの周りに落ちている小枝をくわえては遠くへと運び、カラス達は月明かりでキラキラ光る石を並べて、地面もとてもきれいになりました。


 そのあと泉の近くにもう一つ深いあなを掘り、そこから石をしきつめたあなまでの道を掘って、そこに中がからっぽになっている大きな木をクマの長老がヨイショと置けば、りっぱな水路の完成です。

 泉の近くからはかなり熱い水が湧き出していますが、水路を通るうちに、ちょうどいいあたたかさのお湯へと変わっていくのです。




 そうしてできあがったお風呂に、たっぷりのお湯がはられたその日、町ではいよいよ秋のお祭りが始まったようです。

 朝早くから町の方からは笛や太鼓の音が流れてきます。


 そんな中、サヨはイタチのミヨちゃんに見てもらいながら、人の子になる最後の練習をしていました。



 大昔には、こうして人の子になれるキツネがたくさんいたそうです。

 でも今では昔話として伝わっているだけで、全く見かけなくなったので、まだ赤ちゃんだったサヨが、耳やしっぽはありましたが、とつぜん赤いよだれかけをつけた人の子になった時は、母さまも父さまも、たいそうびっくりしたのだと、母さまが話してくれました。


「でもね、サヨ。だからこそサヨが、こうして大切なお役目をいただいたこと、母さまとっても嬉しいの。きっと父さまもじまんに思っているわ!」


「母さま。わたし、がんばるね!」


 そうして毎晩、サヨは母さまに見守られながら、クルッとジャンプしては人の子になるのをくり返し、とうとう耳もしっぽもかくせるようになったのです。

 もうどこから見ても、かわいい人の女の子に見えます。

 


「ねえミヨちゃん、しっぽかくれてる?」


「うん。だいじょうぶ! いいなあ~、サヨちゃん。ミヨも行きたかったよ」


「いっしょに行けたら良かったのにね。でもちゃんとお連れしてくるから待っててね!」


 そこへサルのケンちゃんもやってきました。


「長老達が待ってるよ、サヨ」


「うん。さあ行こうミヨちゃん!」


 女の子の姿のまま、サヨはミヨちゃんとケンちゃんといっしょに、お山の仲間達が集まっている広場へと向かいました。



「ほぅ。良くがんばったのぅ、サヨ。これなら万が一、人の子に見つかってもだいじょうぶじゃわい。神社の裏までは、ケン坊が送って行くからの。ケン坊、たのんだぞぃ!」


 クマの長老の言葉に続いてお山のみんなも声をかけます。


「サヨちゃんよろしくね! 気をつけてね!」


「サヨちゃんならできるよ!」


「おいケン! 寄り道なんかするんじゃないぞ~!」


 これにはケンちゃんもプンプン怒って言い返しました。


「オイラにまかせてよ! ちゃんと送って行くからな!」




 お日様が山を赤々と染める頃、サヨとサヨの母さまとケンちゃんは、お山のみんなに見送られながら出発しました。ここから神社の裏までは、キツネの姿でかけていくのです。

 ケンちゃんはピョンピョンと枝を伝って、サヨ達に「こっちだよ!」と教えながら進んで行きます。


 秋の虫達がそちこちで歌を歌う中、二匹のキツネと一匹のサルが風のように走って行きました。



 あと少しで神社の裏に着くというところで、ケンちゃんが地面に下りてきました。

 ここからはサヨだけが行かなければなりません。

 サヨの母さまとケンちゃんが見守る中、サヨはクルッとジャンプして人の子の姿になりました。


「ああ、サヨ。どうか気をつけてね。無事に帰って来るのを待っているからね!」


 母さまがサヨにそっとよりそって言いました。


「サヨならだいじょうぶさ! きっと土地神様をお連れしてくれるって!」


 ケンちゃんは母さまを安心させるように声をかけました。


「母さま。ケンちゃん。それじゃ、行ってきます!」



 ブンブンと手をふりながら、サヨはまっすぐ神社へと向かって歩き始めました。

 お空はすっかり暗くなり、もう笛や太鼓の音も聞こえません。それでも大きなお月さまの光はサヨをやさしく照らしています。

 サヨは冬から今までのことを思い出しながら、みんなからもらった言葉を勇気に変えて歩きます。



 神社の裏手に着いたサヨは、境内にだれもいないのをそっとかくにんしてから、手や口を清め、神社の正面へと進んで大きく息をすってから、ペコリとおじぎを二つしました。

 それからポンポンと二つ手をたたいて、もう一つおじぎをしてからゆっくりと手を合わせました。


「土地神様。サヨです。お山では楽しく暮らしています。今日は土地神様にお山にいらしてほしくて参りました。お山のみんなも待っています。どうかいらして下さいませんか?」


 その時、サヨの頭の中に、土地神様の声がしました。


『あいわかった! サヨは裏で待っておいで』


「ありがとうございます!」



 サヨが神社の裏手に回って待っていると、サヨのすぐ近くにやさしいたまご色の光があふれました。そして光が消えたそこには、大きくてりっぱな白い鹿のお姿がありました。


『おや、サヨ。今日はちゃんと耳もしっぽもかくれておるな!』


 クスクスと笑うような声がします。


「は、ハイッ!」


『その姿もかわいいが、もうキツネに戻ってもだいじょうぶ。おや、近くにお前の友達や母御もおるな。どれ、では皆で参ろうか』



 土地神様の声がしたと思ったら、サヨはやさしいたまご色の光に包まれていました。

 


 光がうすれ、着いたところはなんとお山の広場です!

 となりにはキョトンとしたケンちゃんと母さまもいます。

 そして大きな白い鹿のお姿の土地神様。




「土地神様。ようこそ、おいで下さいました!」


 広場でサヨ達を待っていたクマの長老のおじいさんと動物達がいっせいに頭を下げました。



 いつの間にかキツネの姿に戻っていたサヨもあわてて頭を下げながら、ちゃんとお連れできたことにホッとしておりました。


 ありがとうケンちゃん、ありがとう母さま。

 信じて待っていてくれてありがとうお山のみんな。



 ──そしていらして下さって、本当にありがとうございます。土地神様。

 

お読み下さって、ありがとうございます!

いよいよ次回は本編最終回です。


なお、前話「満月の作戦会議」の【後書き】に、おまけSS『母さまは見た!』を追加記載しております。

よろしければご覧下さいませ。

750字程度です。

(もちろん読まなくても一切問題はありません)

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