満月の作戦会議
まんまるのお月さまが、お空にぽっかりとうかんでいます。
そのお月さまのやさしい光に照らされたお山の広場では、夜のすずしい風が吹く中、動物達が熱い議論を交わしておりました。
「長老、すもうを取るのはどうだい?」
タヌキのお父さんが話します。
「あら。歌が良いと思うの!」
こちらは四十雀のお姉さん。
「美味しいものを差し上げるっていうのはどうかしら?」
アナグマのお母さんも負けていません。
集まった大人達は、わあわあとそれぞれの意見に反対したりさんせいしたり。
みんなの真ん中で、うんうんと聞いていたクマの長老は、さっきから大人達の元気すぎるやり取りに目を丸くして口をはさめず、おとなしくしていたサヨとケンちゃんとミヨちゃんに目を向けました。
「皆の意見はよう分かった。ところでサヨやケン坊、ミヨはどうじゃ? 元はといえば、お前さん達から始まった話じゃからのぅ。なにか良い考えはないかの?」
三匹は顔を見合わせ、代表してケンちゃんが話し始めました。
「オイラ達は、お風呂が良いんじゃないかって、考えてたんだ」
「「「「お風呂!?」」」」
大人達が声をそろえて言いました。
「うん。ケガしたときにあったかい泉につかるだろ? あれってちっちゃいけどさ、あれの大きいのが作れたら、土地神様もつかれとか取れて、のんびりして下さるんじゃないかなあ」
「なるほど。そりゃあいいや!」
「まあ! ステキじゃない!」
大人達はまだまだ子どもだからと思っていたケン達のしっかりとした意見にびっくりしながらも、みんな、さんせいしたようです。
「ふむ。土地神様もお喜びになられるじゃろう。……そうじゃ! 土地神様のお社では、人の子らが恵みに感謝して秋に祭りをするそうじゃ。ワシ達の風呂もそれに間に合うように作ろうと思うんじゃが、どうかの?」
秋のお祭りの笛や太鼓の音、威勢のよいワッショイワッショイというかけ声は、動物達のいるお山まで届いていましたから、みんなその日を知っていました。
「うわさじゃ土地神様は町中を見て回るそうだし、きっとおつかれにちがいないな」
「ちょうどお山も色とりどりになって、気持ちいいでしょうね!」
「どうせなら、きれいなお山を見てもらいたいもんだ」
「そうそう。泉の近くって、ちょっと掘っても熱い水が出てくるんだよ!」
「あそこならのんびりして下さるだろうなあ。よし。ちょっと見に行ってみるか」
「うんうん。みんなでできることをがんばるんじゃ!」
大人達が役わりを決めているのを、サヨ達もニコニコ見ていたのですが、ケンちゃんも大人にまじっていっしょうけんめいに話をしているのを見て、サヨもミヨちゃんもなんだかくすぐったいような、じまんしたいような気持ちになったのでした。
クマの長老もだまってみんなの話を聞いていたのですが、ふとサヨを見て言いました。
「のぅ、サヨ。お前の母さんから聞いたんじゃが、人の子になれるそうじゃの?」
サヨがびっくりしながらもうなずくと。
「ちょっとなってくれんかの?」
「ええっ!?」
サヨはキョロキョロとみんなを見て、大人達が話にむちゅうになっているのをたしかめてから、クルリっとジャンプしました。
さっきまでサヨがいた場所には、かわいらしいおかっぱ頭の女の子が立っています。
「おおっ。すごいのぅ! ちょっと回ってごらん?」
サヨがその場で一回りすると、なぜだかみんなの笑い声が聞こえてきました。
「え? な、なあに? みんな、なんで笑っているの?」
……土地神様に言われたから、気をつけて三角の耳をひっこめたし……。なのになんで?
サヨはみんなに笑われたのがかなしくて、ポロンと涙をこぼしました。
「ゴメン、ゴメン。サヨちゃん、泣かないで!」
ミヨちゃんがサヨの足元に体をすりよせます。
「サヨ、笑ってゴメンよ。だけどなぁ、サヨ。お前、りっぱなフサフサのしっぽがあるぞ?」
「えええ~!」
ケンちゃんにそう言われたサヨは、びっくりして涙が引っ込み、今度は恥ずかしくてポンッと真っ赤になりました。
……そういえば、しっぽもかくしなさいって言われたんだっけ。いけない、いけない!
「ん~と、ヨイショ!」
やっとしっぽが引っこんだと思ったら、今度はおかっぱ頭の上に三角の耳がピョコンと出てしまいます。
「あ、あれっ? えいっ」
三角の耳が引っこんだら、しっぽがフサッ。
「もういいぞぃ。サヨや、お前さんは祭りまでに、その耳としっぽをかくせるかね?」
クマの長老がサヨに声をかけました。
「実はの、サヨに土地神様のところにおむかえに行ってほしいんじゃ。どうやらお前さん、土地神様とずいぶんご縁があるようじゃし、ほかに人の子になれるもんはここにはおらん。どうじゃ? やってくれるかの?」
サヨは、自分にもできることがあると分かって、むねの辺りがポカポカとしてきました。ピョンピョンと飛び上がりたいのをがまんして、長老に言いました。
「ハイッ! ぜひやってみたいです! がんばります!」
嬉しくてほっぺたを真っ赤にして言うサヨを、ミヨもケンも、そして大人達もニッコリしながら見ています。
いっぱい練習して、お山のみんながはずかしくないように、がんばろう。
土地神様にもちゃんとかくせるようになったのを見てもらわなくっちゃ。
──こうしてお山の動物達は、土地神様のお風呂を作ることになりました。
どんなお風呂ができるのでしょう。
土地神様は喜んで下さるのでしょうか?
秋はすぐそこまで来ています。
お読み下さってありがとうございますm(__)m
ここでちょっぴりおさらいです(^^)
サヨ→キツネ(ちなみに本土狐です)
ミヨ→イタチ(絶滅危惧種に指定されている県も多いそうです)
ケン→サル(お馴染み日本猿)
長老→クマ(月の輪ぐまです)
他にも狸、穴ぐまなど出て来ましたが、全て本州に昔からいる獣達です。
※11月19日追加記載
☆おまけSS『母さまは見た!』☆
今夜の話し合いには、家族の代表が集まります。サヨ達は、発案者として出席が決まっていますから、それとは別にミヨちゃんやケンちゃんの家族からも、それぞれお父さんが出かけています。
サヨの母さまも出席するかを悩みましたが、サヨがもうすぐ巣立ちを迎えることもあり、母さまは「家族の代表として行ってらっしゃい。後でちゃんと教えてね」とサヨだけを送り出すことにしたのでした。
さて。迎えに来たケンちゃんやミヨちゃんと共に、サヨを無事に送り出したものの、ちょっぴり心配だった母さまは、わざわざ風下に回り込んで、こっそり見守ることにしました。
(あら。皆さんとてもにぎやかに話し合いをされているのね。サヨ達ったら目がまんまるだわ!)
母さまはクスクスと笑いたくなるのをこらえながら、その後もやり取りをじっと見ていたのですが、サヨが人の子になった時にはちょっとびっくりしました。
(まあ! どうして人の子になっているのかしら。でもサヨったらとてもかわいいわ!)
ところがどうしたことか、サヨが広場にいる皆さんに笑われているようです。
(サヨはあんなにもかわいいのに、皆さんはどうして笑うのかしら!?)
ちょっとプンプンとした母さまが広場に飛び出そうとした時です。母さまの耳に、ケンちゃんの大きな声が聞こえてきました。
(──え、しっぽ? あら? 人の子ってしっぽを布にかくしているだけなんじゃないの? 耳が横にあるのは知ってたけれど。まさか元々しっぽがなかったのかしら。あらあら。こんなにふわふわのステキなしっぽがないなんて! 人の子もかわいそうに……)
なにやら人の子に同情した母さまでしたが……。
(あら、いけない! 終わったみたい。サヨが帰って来ちゃうわ! ……それにしても、しっぽが見えなくなるように、サヨをきたえなくっちゃ。ああもうっ! わたしも人の子になれたら教えてあげられるのに……。こうなったらサヨがちゃんと出来るまで巣立ちはおあずけね。もう決して笑われるなんて事させないわ! あの子は父さまとの大切な子。父さまにまた会えるまでは、わたしがしっかりしなくっちゃ!)
なぜかメラメラと闘志を燃やし、グッとこぶしを握ってから、ふさふさのしっぽをピンと立て、大急ぎで巣穴に戻った母さまだったのでした。
──果たしてサヨは耳もしっぽもかくせるようになったのでしょうか?
それは次話にてお確かめ下さいませ。
~おまけSSおわり~
※()内は、母さまの心の声です(笑)
おまけSSまでお読み下さってありがとうございます。