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夏のお山と動物集会

 ジーワジーワとセミの声。もくもくとした白い雲。

 木の葉はその緑をますます濃くして、のびやかに枝を広げています。

 お山に夏がやってきました。

 


 サヨもイタチのミヨちゃんも、はじめて会った時よりもグンと大きくなり、もうすぐ巣立ちをむかえようとしていました。

 サルのケンちゃんもぶじに妹が生まれ、ますますお兄ちゃんらしくなりました。


 雨が続いてなかなか会えなかったサヨ達は、夏の暑さもなんのその。お日様に負けないくらい元気いっぱい遊んでいます。




 今日も小川でバシャバシャと水遊びを楽しんでいたのですが──。


「サヨ、ミヨ。そろそろみんな集まって来るころだぞ。ほらほら、早く行こうぜ!」


「ねえ、ケンちゃん。集まってなにするの?」


 すっかり夏毛に変わったミヨちゃんが首をかしげました。


「あれっ? サヨは知らないと思ったけど、ミヨもかぁ。あのな、春にあちこちでたくさん子どもが生まれたろ?」


 うんうんとうなずくサヨとミヨちゃん。

 ケンちゃんの妹だけでなく、お山ではこの春、たくさんの仲間がふえました。

 サヨもミヨちゃんも、そっとのぞきに行っては、「かわいいね」「ちっちゃいね」と、大喜び。

 そういえば、クマのおじいさんも、ここよりずっとおくの方にあるお山で、孫がふえたって話していました。


「それでな、今日はそんな赤んぼう達のおひろめってわけだ」


「おひろめってなあに?」


「つまりなぁミヨ。これからお山の仲間になるよって、みんなに知らせるんだよ」


「へえ~! ケンちゃん、やっぱりもの知りねえ!」


「サヨは去年いなかったもんなぁ。去年はミヨがおひろめされたんだぜ? ちっちゃくってさ、みんな見てるのにぐーぐーねててさ」


「そんなのミヨおぼえてないもん! でも楽しみね、サヨちゃん!」


「うんっ! 早く行こうよ、ミヨちゃん!」


 水を飛ばすようにブルブルっと体をふるわせて、かけだしたサヨとミヨちゃんの後ろから、あわてたケンちゃんの大きな声が聞こえました。


「あっ、冷たい! こら! オイラを置いていくなぁ~!」




 


 さてこちらはお山の広場です。

 春にはまるでお花のじゅうたんのようだった広場も、すっかり夏草におおわれ、時おり吹くさわやかな風を気持ち良くあびながら、お山に住むたくさんの動物達が、長老であるクマのおじいさんを囲むように集まっています。


 まだ若いオス達はクマの長老の若いころの冒険のお話に耳をすませ、お母さん達は赤ちゃんを見せ合い、子育てのお話をしているみたいです。そんなお母さんや子ども達を見守るように、ニコニコしているお父さん達。


 サヨとミヨちゃんとケンちゃんも、お母さん達の近くにちょこんとすわって、集まりが始まるのをじっと待ちました。



「うむうむ。みな集まったみたいじゃの。それじゃ、始めようか」


 くるりと辺りを見回して、クマの長老が言うと、広場はシーンと静まり返りました。


「まずはサヨとサヨの母さんおいで!」


 名前をよばれて、おずおずと恥ずかしそうにクマの長老のところに行くサヨと母さま。


「前の冬からこのお山に来た、サヨとサヨの母さんじゃ。土地神様も住むのをお許しになっておる。みな仲良くな!」


 長老の言葉を聞いて、ペコリとおじぎしたサヨ達に集まった動物達から次々に声がかけられました。


「よく来たね!」

「よろしく!」


 そんなあたたかい言葉に「ありがとうございます!」ともう一度おじぎして、サヨはミヨちゃんやケンちゃんのところへ戻りました。


「次に、この春生まれた赤ん坊じゃ!」


 小さな赤ちゃんを連れたお父さんとお母さん達が次から次へと紹介されます。

 

「まあ、愛らしい」

「かわいらしい」


 みんなが笑顔で新しい命へと歓迎の言葉をかける中、どのお父さんもお母さんもとてもうれしそうに、そしてほこらしげに見えました。


「ウオッホン。……今年も新しい仲間がふえて、ワシもうれしいぞ。これもみな土地神様のおかげじゃわい」


 クマの長老の言葉に、みんなうんうんとうなずき、神社の方へ向かっていっせいに頭を下げました。


 

 サヨも頭を下げながら、思い浮かべたのは神社でのやさしいお言葉と見回っている白い大きな鹿の姿。



 ──いつも土地神様には、してもらってばっかりだなぁ。

 わたしにもなにか土地神様にできることってないのかなぁ。


 

 そんなモヤモヤした気持ちをかかえていると、ケンちゃんがそっと声をかけてきました。


「どうしたんだ? サヨ。元気ないなあ」


「ごめんね、ケンちゃん。あのね……」


 サヨは、これまであった、神社での出会い、白い鹿のこと、春に聞こえてきた声のことをケンちゃんとミヨちゃんに話してから、こうしめくくりました。


「……それでね。してもらってるだけじゃなくって、わたし達が土地神様にできることってないのかなって思ったの」


「なるほど~。そうだよなぁ。オイラもうれしいことをもらってばっかりだなぁ。なんかできることあるといいのになあ」


「ミヨもありがとうってしたいなぁ~」



 こっそりと話していたつもりもサヨ達でしたが、いつの間にか周りの大人達も長老もサヨ達を見てるのに気がつきました。


 あわてて前を向いたサヨとミヨちゃんとケンちゃん。


「フォッフォッフォ。ケン坊や。今の話をみなにも聞かせておくれ」


 クマの長老によばれて、ピョコンと立ったケンちゃんは、赤い顔をさらに真っ赤にしてから、サヨが話してくれたことや、なにかできないかなと思ったことをお山のみんなに話して聞かせました。



「……本当にのぅ。どうじゃみんな。次の満月の晩までに、おのおの考えてくるのはどうかの?」


 お山の動物達もそれが良いと、口々にさんせいして、今から二週間後の満月の夜に、それぞれの家族の代表とサヨ達が、また集まることになりました。


お読み下さって、ありがとうございます!


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