土地神様のおわすところ
その神社は町を見渡せる小高い山の頂上に、ずっと昔からどっしりと建っておりました。
田畑が広がり、家々が建ち並ぶふもとの町から小さな商店街を通り、大きな朱色の鳥居をくぐって、あとは石でできた階段をこれでもかと登った先に、もう一つ鳥居があり、その向こう、大きな木に囲まれた広い境内の先にお社が建っています。
ふもとの町からは、もう一つ神社につながるくねくねと続く参道がありますが、こちらから登ると階段の三倍の時間がかかるので、参拝する人はみんな、フウフウ言いながらも階段を登ります。
神社のある山の向こうは、さらに高い山々が連なっており、はるか昔から神域として人々から大切に守られてきました。
こちらの神社におわすのは、この山々と町のある土地を守護してくださっている土地神様です。
この山々が清らかで豊かな水をもたらし、田畑に恵みを下さっていること、冬は冷たい風から町を守って下さっていることを、町の人々はみんな知っていますから、となり町まで開発の波が押し寄せた時も、町の人が力を合わせて守り通したのでした。
さて、そんな土地神様のいらっしゃる神社では、秋の祭礼とお正月には特に、大勢の人々が参拝に訪れます。
鳥居の手前にあるたくさんのお店はいつにもましてピカピカにおそうじされ、いつもは静かな、くねくね参道には綿菓子やお面、真っ赤なりんごアメや射的などの出店が並んで、そこかしこで子ども達の笑い声がひびき、とてもにぎやかになります。
収穫を祝う秋のお祭りでは、大きなお神輿が、おそろいのはっぴを身につけて手ぬぐいをひたいに巻いた大人達にワッショイワッショイとかつがれて、それはそれは勇壮です。
子ども達も小さな子ども神輿をワッショイワッショイ。大人達に負けないぞ! と、元気いっぱいかつぎます。
前を行く出車に乗ったお囃子の音色も高らかに、町中を練り歩いた後、いつもは使わないクネクネ参道を神社まで登って行くのですが、この時、不思議な事が起こります。
いつもは山から爽やかな風が吹いて来るのですが、お神輿が登って来る時に限って、まるで後押しするかの様に、町の方から神社に向かって風が吹くのです。
町の人々は、「今年も神様が見守って力を貸して下さっている!」と、ワッショイワッショイのかけ声を一段と大きくし、無事に神様を神社までお送りしようといっそう力をこめて頑張るのでした。
山々がすっかり雪化粧をしたお正月には、お神楽や獅子舞が奉納されます。シャンシャンと鳴るお神楽の鈴の音は新しい年の始まりの音です。
初詣に訪れた人々の祈りが満ちた神社では、清らかで静かな、それでいて大きなものに包まれている様な、そんな気持ちになります。
ですからいつもは元気な子ども達も、大人のまねをしながら静かに手を合わせるのです。
「今年も良い年となりますように」
「たくさんの恵みがありますように」
「良いこといっぱいありますように」
こうした町の人々の祈りを、土地神様は静かに聞いていらっしゃいました。
──皆が健やかであるように。
──山も町も穏やかであるように。
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