揺れた掃除道具入れ
カタカタと大きな音を立て、わたしの後ろで揺れるものがあった。
硬直した体の、唯一動かせる首を精一杯回して振り返る。
「…………っ!!」
今にも鍵が砕けて、扉が開いてしまいそうなほど、それは激しく動いていた。
まるで命でも宿っているかのように。
あるいは──────命あるものが入っているかのように。
ガタン、と一つ。その後の静寂。
動けない。
もう首も動かせなくなった。
きょろきょろと見回すことも。
肺も……固まっていく。
「はぁっ………はっ……」
───息が辛い。
───声が出ない。
───彼を呼ぶことも、できない。
ガタン、ともう一度。
鍵が壊れたんだな、と分かる。
分かって──…しまう。
知らぬが仏。何も知らないままが良かったのに。
背中に大きな衝撃が走る。骨の一本でも折れたんじゃないかと思う。
しかし、掃除道具入れのドアが背中にぶつかった事実が、恐怖が、その痛みよりも上にあった。
「……………!…………!!」
辛うじて息が吐ける程度の私は、無抵抗であって───無防備だ。
ついに、視界にあれが入ってきた。
動かせない程硬直した右の瞳に映り込む。
真っ黒い、禍々しいその手…
──────真っ黒………………い……?
………………違う!
「はやと!」
瞳に映ったその手の色は、少し不健康そうな肌の色で。
それでも──硬直していた体は動き出す。
縛られていた手も足も首も肺も眼も心臓も──────
「ほたるーーーー?呼んだぁーー?ゴキさんでもいたのーーー?」
そんな声が聞こえてきたのは、遠い遠い廊下の奥から。