再会……愛しき人
桜の合図で目を閉じた。
暗い闇の中から、人影が近付いて来る。それは徐々にはっきりと、姿形を現した。
「茜ちゃん?会いたかったー。わー変わって無いね〜。母さんはちょっと老けちゃってたけど……何か年上のお姉さんって感じで、こっちの茜ちゃんも好きだよ〜」
慎太郎は、満面の笑顔で両手を広げ茜に近付いて来た……が、見事に茜に避けられていた。
「茜ちゃ〜ん」
「変わって無い訳無いでしょ‼︎14年よ。それより、何かわたしに言う事あるんじゃないの?」
『うわっ!キツ‼︎母さん相変わらず…家の両親ってこんな感じなんだ…』
「あ、そうだ、ごめん‼︎迎えに行けなくて」
そう言って慎太郎は、茜の前で深々と頭を下げた。
茜は、それを横目で見ながら、
「空港で何時間待ったと思ってんの?5時間よ!5時間!空港の職員に言われたわよ。
『早目にホテルの予約取った方が良いですよ』って……それが…こんな年になる迄待たされるなんて……何であなただけそんなに若いのよ‼︎」
茜は悔しそうに、慎太郎を睨みつけた。
『って、母さん…そこ?…』
「ごめん。本当に……ごめ…ん。言葉が足りなかったばっかりに、君に僕の死を知らせる事が、こんなに遅くなってしまった。そのせいで辛い思いをさせてしまったね……」
慎太郎の声は震えていた。
「本当!馬鹿なんだから……死んだり何かして……」
茜の目頭も赤く染まっていた。
翔太は、そんな母を見るのは初めてで、何か…弱い母を見てしまった気がして、俯いてしまった。
「茜ちゃん……翔太を産んでくれてありがとう。これ迄育ててくれて……ありがとう。
手伝ってあげられなくて……ごめん……これからも一緒に居られなくてごめんね……」
もう1度、茜の前で頭を下げた慎太郎の目から溢れた涙が、一粒、二粒足元に落ちた。
そして、
「3人で生きて…行きたかった……」
と言った慎太郎の言葉に、翔太も必死に涙を堪えた。
「いつかあなたに会えるかもって……あなたの実家の跡地に、この家を建てたのよ…訳も分からず捨てられたって思ってたから…わたしも病んでたのね〜…」
「あーやっぱり!懐かしい感じがしたんだ」
『そうだったんだ。だからか…あんな事があってもここを離れなかったのは…』
「いくら思い出そうとしても…
どうしてあの事故が起きたのか?分からない。
事故を起す前の記憶が、全く無いんだ。
ショックで忘れてしまったのかもしれないけど…
気付いたら…崖の下で転がってる僕を…
眺めている僕がいた……」
「……死んでる自分を見てたの?」
興奮して翔太が聞いた。聞いてから、好奇心で話を遮ってしまった事に…少し恥ずかしかった。
「その時は、自分が死んでしまったなんて考えたくなくて……だけど、段々そうなのかな?って自覚したら、自分が消滅して行くのが分かった。眩しい光が身体中を包んだかと思ったら、光と一緒に自分の身体が弾けて粉々に散った……キラキラ輝いていてとても綺麗だった。見惚れてたら意識が無くなって、それっきり……」
「へー……」
「ふーん……」
茜と翔太が思わず漏らした。
「あの日、後輩の謙也と一緒で……途中、仮眠を取ろうと、運転を代わったんだ」
「謙也?」
「うん。大学時代の後輩で、彼も一緒にあの事故に……」
「あなたの事故の記事読んだわ。峠の道をスピードの出し過ぎで、横道に逸れ崖から落ちたって……そこにはあなた1人って事になってたけど?……」
茜は14年前の事故の記事を、図書館で調べていた。
「そんな筈無いよ!」
「その謙也って人が運転してたの?そもそもなんでその人あなたに付いて来たの?」
「それは…僕が車に荷物を積み込んでいた時。偶然謙也が、アパートの前を通りかかったんだ。彼女と喧嘩して、デートの途中で帰って来てしまったとかで…」
「彼女置いて来ちゃったんだ……」
翔太の心の声がつい漏れた。
ペチッ‼︎と、茜が翔太の後頭部を軽く叩いた。
慎太郎が苦笑いして話を続ける。
「空いた時間をブラブラ潰してたら、偶々アパートの前で僕を見つけて声を掛けて来たらしい。大学以来で久々だったんで、つい懐かしくて話込んでしまって…」
「大学?…わたしは全然知ら無いわね…」
「あー1度だけ紹介した事あったよ」
「そうだった?…上の名前は?」
茜は何気に、慎太郎の記憶を疑って聞いた。
「えーと……確か……あれ?何だっけ……」
「何それ!大して知ら無いんじゃないの?」
「えー……そうなのかな?」
慎太郎は、不安そうな顔をしている。
「まーいいわ。続けて」
桜は…ぼんやり茜と慎太郎の様子を見ていると…翔太の性格は、慎太郎に良く似てるな〜と思っていた。
「それで、これから婚約者を、親のいる北海道へ連れて行く予定だった事。だけど、急遽君は仕事で明日になった事。仕方無く僕だけ先に行く事……そんな話をしていたら……いきなり彼が、僕も連れてって下さいって」
「⁇……何それ‼︎何でそうなるの?」
「何か彼女と喧嘩してムシャクシャするから、北海道の大地を見て気持ちを切り替えたいって……」
「話出来過ぎじゃない?……それって、本当に偶然なのかな?」
茜にはとても、自然には思え無かった。
「えっ……そんなもんなのかな…って、その時は…」
「だいたい何故高速で行かなかったの?普通乗るでしょ」
「謙也が、運転慣れて無いから。下で行こうって…」
「結局!彼の遺体も未だに見つかって無いし……可笑しいわよね……これって、ただの事故じゃ無いんじゃない?」
「どう言う事?」
慎太郎には、茜の言ってる意味がまるで分から無い様子。
「桜…さん」
翔太は、桜にお願いする様に呼んだ。
「そうね。滝川さんの言ってた事も気になるし…少し踏み込んだ方が良さそうね……」
「なに?なになに?」
茜が興味津々に聞いて来た。




