彼女の秘密
夏休み二日目。
昼少し前。連チャンで呼び出されるとは…
バスを降り、欠伸をしながら翔太は学校に向って歩き出した。
昨夜は興奮してなかなか寝付けず、睡眠不足気味。
『佐渡先生はバスケット部の顧問やってるのよね。練習は多分午前中で終わるし…昼には、昼食とる為職員室に戻って来る筈……ね‼︎』
な〜んて……桜が主張した。
聞くと言っても、どうやって聞くつもりなのか?
明からさまに聞く訳にも…それこそ何やってんだ?って話だ。
桜の読み通り、昼頃佐渡が職員室に戻って来た。
「佐渡先生!こんにちは」
「おぅ!来栖川。何だ、どした?」
「こんにちは……」
翔太は自分の存在に気付ずかれて無い気がしたが…取り敢えず小声で挨拶した。
「お、おぅおぅ。どした二人で…」
「数学の…ここなんですけど」
桜はおもむろにバックから、夏休みの課題であるテキストを取り出した。
「夏休みの宿題かー。もうそんな所やってるのか?」
「私、やるべき事はさっさと終らせるタイプなんです。昨夜からここで引っ掛かってて…」
「あーん?どれどれ…」
勉強教わりに来たのか?
翔太には事態が読めず『???』蚊帳の外だった。
「ありがとうございました」
「おー、分からない事があったら、いつでも来ればいい。盆迄は、休み無しで学校来てるから」
「はい!ありがとうございます……で、やっぱりお盆が近くなると出るんでしょうか?この学校、幽霊が出るって有名ですよね」
桜はあからさまに生き生きとした顔で尋ねている。
『えっ⁈いきなりド直球⁈』
「ああん…本当お前等好きだな〜。俺は見た事ないぞ」
「先輩達が言ってました。ガンコツ先生って幽霊が出るって…」
「ああ…ガンコツ先生は俺がこの中学の時の担任だけどな」
「そうなんですか?凄い!」
「別に凄かないだろ。出るったって特定の奴らだけで騒いでるだけだろ。気の毒な事故で亡くなったけど…幽霊何て無い無い」
「事故?…へー…ご家族も気の毒ですよね…急に亡くなられて…」
「あー、あの後奥さんは、確か……実家がある北海道に引き払ったって聞いた事有るけどな」
『おっ⁈何か上手い方向に進んでるけど…』
「へ〜…北海道?良いですね〜、どの辺りなんでしょうね」
『おい!突っ込み過ぎだろう』
「詳しくは知らんよ。ま、勉強だったらいつでも見てやるよ。もう用が無ければ帰れ!じゃな!」
『ほらほらほら…』
「あ、どうもありがとうございました。失礼しました〜」
お辞儀をして、速やかに職員室を出た。
翔太は、自分は必要だったのか?と、ただただ疑問だった。
「ん〜北海道か〜…広いな〜」
桜は難しい顔で、考え込んだ。
翔太は気のせいか?…ちょっと嫌な予感がして落ち着かない…
「ガンコツ先生の事聞く為に、宿題持って来たの?」
「えっ?ああ、あれはマジよ。ま、後は本人に聞くしかないわね」
「……?」
「藤城君!ガンコツ先生に聞いて見て。今なら、まだ廊下にいるわよね」
「……??」
「家族が何処にいるか?分らなくても、奥さんの実家の場所位は、今のガンコツ先生でも分かるでしょ」
「あ〜…」
いつもの廊下で、いつもの様に、行ったり来たりを繰り返しているガンコツ先生の元へ、二人はやって来た。
桜に急かされ、翔太は秋田川に声を掛けた。
「先生……」
「あーまた君か?今日は、何の用だい?」
「あのー、先生の奥さんの実家って、北海道の何処なんですか?」
「家内の実家?」
そう言うと秋田川は、考え込んだ。
「家内…志穂子?……おかしいな…顔が思い出せない。泊り込む様になって何日?いや、何年?もう随分会っていない……どう言う事だ」
そしてまた深く、考え込んだ。
「あの…先生?」
それ切り、秋田川は翔太の声が耳に入らない様子。
仕方無く翔太は、桜に秋田川の様子を伝えた。
「んー…残念!落ち着くまで、少し時間置いた方が良さそうね」
「君の力で…また、この間みたいに映像を映せばいいんじゃないの?」
「んー、無理ね!」
「なんで⁉︎」
「私は霊とは交信出来無いから、本人が拒否してる以上無理なの。いつでも、こちらが見たい映像が見れる訳じゃ無いのよ。」
「どう言う事?」
「あくまでも、本人が思い出したい事、知りたい事で無きゃ駄目なの。本人の周りで起こった事なら、本人が知ら無い事でも見る事が出来るけど…」
「本人の知ら無い事?…確かに、この間の暴走族の映像は、先生気絶してたみたいだった…」
「彼等を取り巻く霊気を、藤城君みたいな霊と交信出来る人を通し、読み取るの……私からは話しかけられない。
それらの条件が揃って、タイミングが合えば見る事は可能だけど…簡単じゃ無いのよ‼︎」
桜は腕を組んで、ふん!と翔太を睨んで、ほっぺたを膨らませた。
翔太はその様子をぼんやり見てた。不覚にも、ちょっと『可愛い』と思っている自分に気付き赤面した。そして誤魔化す為に話しを変えた
「あの…で、その力って言うのか、んー能力?は、いったい何なの?……」
「えっ、あーそうね。後で教えるって言ったわよね」
「お前等、まだいたのか?」
不意に後ろから声を掛けられ、二人は飛び上がらんばかりに驚いた。
そして二人同時に振り返った。
「あら、佐渡先生!」
桜は一瞬にして満面の笑顔を作り、佐渡に声を掛けた。
翔太はそんな桜にも驚いた。
「何してんだ?こんな所で…用が無いなら帰りなさ〜い」
佐渡がおどけた様に言うと、
「は〜い。今帰るところで〜す」
桜も乗り良く答えると軽くお辞儀をし、翔太の腕を引っ張り歩き出す。
「あーそうだ。お前等って……仲良かったっけ?」
佐渡が不思議そうに言った。
「えっ?……」
「……?」
二人は佐渡の意味有り気な質間に振り返った。
そして桜が、
「はい!私達、付き合ってるんです」
翔太の腕を組み、満面の笑みで答えた。
翔太は、突然の桜の告白に驚いた…が、すぐにはったりに気付き一人赤面した。
「ふ〜ん…そなの。ま、中学生らしい交際してね〜」
そう言うと、手を振って体育館に向かって歩き出した。
『佐渡要注意‼︎』
何処から聞いていたのか?
やっぱり廊下は危険だな……
桜は佐渡の背中を見送りながら呟いた?
「取り敢えず1度帰って、出直しましょう」
と、桜が歩き出した。
「出直す?」
翔太は、また行ったり来たりしている秋田川に、
「先生、また来ますね。さようなら……」
と言って桜の後を追った。
「ファミレスでお昼でも食べて時間潰しましょ。奢ってあげる」
「その位持ってるよ」
「大丈夫よ!これでも私、働いてるから」
「働いてる?」
意味あり気に笑いながら翔太の腕を掴んだ。
「作戦練り直して、夕方宿直室集合‼︎」
「作戦⁉︎って…」
翔太は桜の前に座って、大きなメニューと睨めっこしていた。
「何でも好きな物食べて」
「……」
二人は、ハンバーグステーキセットを頼んだ。
手持ち無沙汰になった翔太は、目の前にいる桜にちょっと照れ、窓の外に視線を向けた。
「あのね、この間の事なんだけど…あれは遺伝なの」
突然桜が話し出した。
「えっ⁈……ああ」
ボーッと外を眺めてた翔太は振り返り、真剣に話し出す桜に、少し緊張気味に向き直った。
「この力は母方の遺伝でね。女の子だけに受け継がれるものなの。母の実家では、代々後継者が死者の声を聞く仕事を生業にしてて、ずっとそれで生きて来たの。降霊術とは違って、直接遺体や遺骨に触れて……この間みたいに映像を相手の頭の中に映すの」
「へー…へー…」
そんな生活する一族が、今の時代現実にいるんだ……と、翔太は心から感心の声を漏らした。
「問題は、女の子なら必ず受け継ぐ訳じゃ無いって事。クジ引き見たいに産んでからアタリ!ハズレ……みたいに、姉妹の一人だけに受け継がれるの」
「それって……男の子は分かるけど、女の子は……いつ?何で分かるの?」
「それはね。後継者は、胸に印の痣を持って産まれて来るの。見たい?」
そう言うと、桜は胸ボタンに手をかけた。
「えっ何⁉︎何すんのさこんな所で」
翔太は慌てた。
「大丈夫!ちょっとだけ」
桜は悪戯気に翔太を見てる。
「冗談よ!」
桜は思わず吹き出しそうになりながら言った。
翔太はちょっとむっとした。
「ごめんごめん。後継者かどうかは、力のある人間と波動が合うかって事らしいわ」
笑いの止まらない桜。
翔太は……ただ悔しかった。
「私には、兄と姉がいたんだけど…
母や祖母にとって、能力者を産んで、育てる事だけが全てなの……力の無い兄や姉の事は全く興味無し、殆どネグレクト状態だった。二人は母方の親族からも、ずっと虐げられていて…それを不憫に思った父は、母と離婚して二人を連れて出て行ったわ」
ハンバーグを頬張りながら話す桜。
何でも無い様に話してはいるが、結構重い話し……翔太はどう答えて良いのか分からず、食べながら聞くのも違う気がして、ただ緊張しながら聞いていた。
「私の事は連れ出してくれなかったのよねー。
結局父は……私の事は見て無かった」
桜は肩をすくめ溜息をついた。
能力者としての彼女は必要とされても、親子の愛情は母親からも、父親からも受けられ無かったのか…
いつも強気で元気な桜が、翔太には少し寂しそうに見えた。
「五歳の時からずっと、母や祖母と一緒に仕事させられて来たわ。その頃から、見ず知らずの遺体に触れて来たのよ。気持ち悪いでしょ?
結構いるのよ。生前に話しが出来無かった。もっと話しがしたかった…って、もっともらしく涙ながらに訴えてといて、本当のところは、隠し遺産は無いのか…とか、財産分与に納得出来無い!とか…そんなんばっかり。もううんざり!って感じ。だから、私はこの力が大嫌いなの」
話すうちに段々、いつもの強気な桜に戻った感じで、翔太はちょっとほっとした。
「私……気付いたのよね。生きてる人じゃなくて、亡くなった人の役に立ちたいって…」
「?………」
「その為には私だけじゃ駄目なの。藤城君の力が必要なの」
「力って言っても…君の力と比べたら、僕なんて……」
「違うのよ‼︎私は実体の無い霊とはコンタクトが取れないの。見えないし、話せない。
普通に成仏した遺体なら、触れただけで生前のビジョンが浮かぶんだけど。気持ちが残っちゃうと霊体に持って行かれちゃうの。
この間のビジョンだって君がいたから出来ただけなの…だから君が必要なの、君がいないと私の力なんて何の役にも立た無いのよ!」
何か必死な桜に、久々に引いた翔太。
「そ、そう……かなー?……」
そう言うのが精一杯だった。
予想を遥かに越える桜の告白に時間を忘れ、外はすっかり陽が落ちていた。
作戦⁈をすっかり忘れていた様な……
二人は慎重に、秋田川の待つ宿直室へ向かった。
相変わらず隙間に目を閉じ座っている秋田川。
「翔太君。聞き出して!」
「えっ!何で急に下の名前?…って作戦って、僕に丸投げって事⁈」
「私達付き合ってる程なんだから、いいじゃない。私の事も桜で良いわよ」
何をキッパリ、顔の横でVサインしながら言ってんだか……翔太は目眩がした。
「但し慎重にね。また、迷宮に入られちゃったら無駄足になっちゃう」
「はー?……」
やっぱり桜との付き合いは考えられない…と確信した。
「先生?こんばんは。」
「おぉ、また、君か。良く合うな」
「あぁ、はい。あのーいきなりですが、先生は北海道とか行った事有りますか?」
「北海道⁈…ああ家内の実家が北海道の美瑛って所にあってね」
「僕、北海道は写真でした見た事無いんです。良い所ですか?」
「ああ良い所だよ。息子が小さい頃に何度か行った事が有る」
秋田川はうっすら微笑みながら、懐かしそうに思い出している。
「いつか行ってみたいなって思ってて…何処がお薦めですか?」
「妻の実家で、花畑をやっててね。山一面に色取り取りの花が、そりゃー綺麗に咲くんだよ。これは圧巻だ、一度は見ておくといい」
思わず分かりやすい情報に、後一歩。
「へー綺麗なんでしょうね。本物見てみたいな〜。なんて言う所ですか?」
「行って見るといい。名前は『花畑ふぁーむ柴田』って言う…今は兄夫婦が跡を継いでやってる筈だ」
「はい!分かりました。今度行って見ます。ありがとうございました」
翔太はガッツポーズしたかったが我慢。秋田川にお礼を言って立ち上がると、今の話しを桜に説明した。
「でかしたわね。翔太君」
褒められて増す増す有頂天……が、ふと我に返り、また、不安がよぎる。
「まさかとは思うけど、北海道行くなんて言わないよね?」
「何よ今更!行くに決まってるじゃないの」
ずっと翔太が感じてた嫌な予感は、的中した。
「えーーっ!飛行機の距離だよ。僕達中学生だよ。無理だよ」
「大丈夫よ!私がチケット取るわ。ホテルも予約しないとね。任せといて」
「今頃チケットだの、ホテルだのって無理なんじゃない。電話で聞けばいいじゃないかー⁉︎」
「駄目よ!電話じゃ不審がられるわ。いきなりお宅のご主人幽霊になってますよって言う気‼︎そんなのガチャ切りされるだけよ!」
「そんな言い方したら、直接行っても駄目なんじゃないの?」
「決まったらメールするわね。じゃ‼︎」
桜の暴走に、また、翔太の憂鬱がおさまらない。
「僕は行かないよ。絶対絶対!行かないよーー‼︎」




