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学校にある怪談  作者: 春日向楓
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別れの時……

桜に買物を付き合わされ、何故か2人して翔太の家へ向かうバスに乗っている。桜は今日も翔太の家で過ごす気らしい。

「最後は、ガンコツ先生のお手伝いね」

「お手伝いって、どうするの?」

「基本!見守るだけでいいのよ」

「ふーん!」

「そう言えば…ガンコツ先生と慎太郎さん、まだ再会出来て無かったわね……」

「そうだよ!ガンコツ先生は慎太郎さんに逢いたがってたんだから、まだ無理だよ!」

「翔太……淋しいの?」

桜は1ヶ月近く翔太と行動を共にし、翔太の気持ちの変化に驚き、そして嬉しかった。

翔太はと言えば、桜にはっきり言い当てられ赤面した。


「慎太郎さんとは…向こうで逢えるかもしれないわ。それに、無理かどうか決めるのは、先生だから……もし、逢えなかったとしても、その時はわたしの得意分野だから」

「そっ……か…そうだね」

「ガンコツ先生、まだ翔太の家にいるんでしょ?」

「うん……」

「翔太!他に思い残す事は無いか、聞いてみましょ」

桜は翔太の肩をポン!と軽く叩いた。



リビングに入ると、いつもの壁際に秋田川は立っている。茜は仕事部屋らしい。秋田川は翔太を見て、ほっとした。

「あー翔太、間に合った。ありがとう。君達には本当に世話になったね」

「先生⁈どうしたの……?」

「そろそろ時間が来たらしい」

秋田川の表情は、初めて会った時の険しさは消え、穏やかで優しい顔に見えた。


「…そんな急に………」

「翔太?」

桜は翔太の様子に秋田川の異変を感じた。

「先生…もう逝っちゃうらしい」

「やっぱり……翔太!ちゃんと送ってあげて……」

「うん……」


翔太は秋田川に向かい笑顔を作った。

「僕、先生に逢えて、良かったです。先生が僕のお爺ちゃんだって知って、びっくりしたけど……最高‼︎でした」

「すまなかったね……何もしてやれなくて」

秋田川は翔太を抱きしめ様と手を伸ばした……しかし、その手は翔太を擦り抜けた。

「ううん……」

どんなに頑張っても、顔が引き攣るばかりで、笑顔が作れない……涙が溢れた。


「……翔太」

「…………」

涙が……止まらない。


光が……

前に慎太郎が言ってた通り、柔らかい眩しい光が秋田川の身体を包み込んだ……

秋田川は優しい笑顔で、翔太に手を振る。

翔太は咄嗟に、秋田川に手を伸ばす……

しかし……その姿は、光の中に溶け込み、ゆっくりと消滅して行く……やがて光は翔太と桜の目の前で弾け飛ぶ。宝石みたいにキラキラ……翔太と桜はその美しさに暫し見とれた。


秋田川は安らかに成仏し永眠したのだろう。

『本当だったんだ』

翔太は名残り惜しそうに、秋田川が消滅した辺りを見つめた。

「先生……逝っちゃったのね」

「うん……」

翔太は寂しい反面、無事に逝った秋田川に、ほっとした様な、複雑な気持ちだった。

翔太は秋田川に初めて逢った日から、今日迄の事を考えていた。

夏休み前迄は、秋田川に声を掛けられるのが怖くて、毎日憂鬱に学校に通ってたのが懐かしい……。

ふと、桜の最初の頃の妙なテンションを思い出した。思わず、可笑しくて吹き出した。

「どうしたの翔太?いきなり笑い出して、キモ‼︎」

「えっ……ちがっ」

「何?何よ」

真剣に突っ込む桜が、余計に可笑しかった。



「翔太…翔太!」

後ろから声を掛けられ、翔太は振り返った。

「今度は何?翔太」



「私だ!」

そこには……成仏した筈の秋田川が立っていた。


「…………何で?」


「ちょっと‼︎わたしを無視しないでよ」

桜はムッとして、大声を出した。


「いや!ちょっと待って……先生?成仏したんじゃないの?」

翔太は苛立つ桜を気遣うより、秋田川の存在に動揺した。


「えっ⁈先生……いるの翔太?」

「みたい……」

「何で?」

「何でだろう……」


秋田川は満面の笑みで2人を見守っている。

「私の人生仕事ばかりで、息子と遊んだり話を聞いてやったり出来無いまま終わってしまった。今となってはどうやっても叶わ無いが……それがどうしても悔やしくて、心残りで……

そんな時突然、目の前に孫が現れた。嬉しかった。

人生で初めて、あーもう終わってるけど……楽しかったんだよ。

今孫とこうやって話が出来て幸せだなぁ……もう暫く一緒にいられたらって、そんな事を考えてたら……どうやら翔太の守護霊に昇格したようなんだ」

「えっ⁈えー昇格って、そう言うの有りなの?」

「らしい!」

秋田川は何故かちょっと自慢気に見える。


「って言うか、守護霊ってこれから付いて歩く気?」

秋田川は相変わらず満面の笑みで、兎に角嬉しそう。


「どうなってるのよ。翔太‼︎教えなさいよ!」

桜がイライラして、翔太をせっついた。

その声は、翔太に届いていない。


「えー………僕の涙は……」



夏休み最終日。

今日も元気に、秋田川はそこに居た。

相変わらず、翔太の家のリビングに入り浸る桜。

茜もすっかり、桜や見えない秋田川の存在に慣れている様子。


「佐渡先生の代わり、明日からどんな先生来るんだろう」

「そうね……佐渡よりは良い先生なのは確かじゃない」


『教師は基本、皆良い人間だ!』

「そうかな〜…お爺ちゃんみたいな先生の方が珍しいのかもよ」

「何?何て言ったの?なんか翔太達仲良いわよね〜しっかり、お爺ちゃんと孫やってんじゃん」

「んー守護霊だけどね……」


インターフォンが鳴った。

慌てて2階から降りてきた茜が、画面を確認する。

「ネットで、家政婦の募集を見て、面接のお願いをした者です」

女性らしい声が漏れて来る。

「あ、はい。お待ちしてました。どうぞ……」

佐渡がいなくなって、家の警備も少し緩くなった。

「面接?ここで?」

「ん……あんた達部屋行ってて」

茜が玄関を開け、リビングへ招き入れる。

翔太と桜は2階に上がる階段へダラダラと向う、何気に入り口に目が行く。

「えっ⁈……」

翔太と桜は立ち止まった。

「行った、行った!」

茜がしっしっと手を振る。

茜の後ろで、笑顔で立っている女性。


「志穂子さん⁈……」

「何?……知り合い?」

この所茜は、自分だけが知らない事が多過ぎて、疑心暗鬼気味になっていた。

「慎太郎さんのお母さんだよ…」

「えっ⁈」

茜は慌てて後ろを振り返る。


「翔太君、久しぶり!」

志穂子が嬉しそうに手を振って来る。

「……」

翔太は、秋田川が復活した時と同じ位、目の前の事態が意外だった。

『おー志穂子!老けたな……』

「駄目だよ!そんな事言っちゃ」


「決まったら、北海道引き揚げるんですか?」

「桜さん!あの時はお世話になりました。ええそうなの、出来れば…こっちに帰って来たいと思ってるの」

「北海道⁈あ、あの茜です。その節は…挨拶が遅れました」

茜が志穂子に向かって深々頭を下げた。

慌てて志穂子も頭を下げ

「あ、いえ!こちらこそ……連絡出来無くてごめんなさい」

交互に頭を下げ合っている2人を、翔太と桜と……秋田川は眺めていた。

「茜さん……翔太君を産んでくれて、ありがとう。慎太郎迄、あんな事になって、生きる気力を無くしてた時に……翔太君の存在を知った時は、本当に嬉しかった。頑張って生きて行けるって思えた」

「わたしも、翔太を産んで良かったです」


『うんうん!』

秋田川も隣で頷いている。


「翔太君に、お母さんの事は聞いていたの。ネットで募集を見た時は、もう取るものも取り敢えず電話して飛んで来てしまったの…住所も驚いたわ」

「でも、お母さんに面倒見て貰う訳には……」

茜には余りにも恐縮至極。畏れ多くて……無理!無理!漢字二文字が頭の中をグルグルしていた。

「仕事は仕事!給料分はきっちり働きます。気にしないで、お願い!翔太君の側にいさせて貰えるなら何でもするわ。姑風何て、お門違いな事考えて無いから。よろしくお願いします」

志穂子は茜に頭を下げた。

志穂子の必死さに押し切られる様に、茜はお願いする事にした。


『ようやく交渉が済んだようだな』

「だね。良かったね」


「それで……出来れば住み込みで……」

と、志穂子が付け加えた。


『おいおい』

秋田川は、なりふり構わない志穂子にハラハラした。


茜は諦めて、志穂子を全面的に受け入れる事にした。


「慎太郎さん。ちょっと嫉妬してるかもね」

桜は、慎太郎が気の毒に思えた。

「見てたら羨ましいがって煩いだろね。ま、成仏してるからそれはそれで……」


『慎太郎か?』

「うん……仕方無いね」

『慎太郎なら付いて来てるぞ!』

「…………?」


「翔太?また何⁈」

桜は、自分には見えない事がつくづく悔しかった。


「何処?何処にいるのさ!見えないよ」

翔太は目を凝らした……茜、志穂子、桜……秋田川………………茜?

「えーーーーっ‼︎」

翔太は、大きな声を出した。人間油断してる時に余りに驚くと、声の音量をセーブする事を忘れてしまうのかと、この時体験した。


「何⁈びっくりするじゃない。いい加減にして!」

「翔ちゃん煩い!」

「どうしたの翔太君?」


「あ、いや。何でも、ごめんなさい……ちょっと」


『茜さんの守護霊になりたくて直談判したらしい』


『ハーイ!久しぶり翔太。やっと気付いてくれた?』

何か軽い感じで、茜の隣で慎太郎が手を振ってる。


母さんの守護霊だから、気付かなかったのか……浮遊している霊と違って、人に付いてる守護霊は、見ようとしないと見えないらしい。

何か慎太郎さんチャラいな……こんな人だったかな?

「いつから居たの?」

『父さんが翔太の守護霊に昇格した時!僕は茜ちゃんの守護霊になりたーいって……』

「何か子供みたい……って言うか、霊の世界って何でも有りなの?」

『優等生だからね。僕達は』

「何かムカつく」


翔太は少し悩んだ…これ迄捨てられた恨みで(勘違いだった)、男は懲り懲りで生きて来た母さんだけど……これからも恋愛をする事は無いのだろうか……もし、万が一母さんの前にそういった男性が現れた時……慎太郎さんはどうするんだろう?

慎太郎さんには気の毒だけど…母さんには幸せになって欲しい……でも、母さんに慎太郎さんが側に居るって分かったら……ごめん慎太郎さん。


「ちょっとそこ!ごちゃごちゃ言って無いで説明しなさい!」

「そうよ翔太、一体何が起きてるの?」


「あ、あのー……」


「翔太!苛つくわね」

「何、勿体ぶってんのよ!翔ちゃん」

「翔太君?」


翔太は、志穂子だけまだ知らない。秋田川が翔太の守護霊になってる事を説明。

志穂子は

「でかした!翔太君をしっかり守って頂戴!」

と、喜んでいた。


「で……」

「で?」

「で……慎太郎さんが……」


慎太郎が茜の守護霊を志願し、茜の守護霊になっている事は……もう少しだけ伏せておこうと思った。

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