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学校にある怪談  作者: 春日向楓
15/16

償い……

「滝川さんは……?」

翔太は滝川の存在を思い出し、キッチンを覗いた。


滝川はキッチンカウンターの椅子に、俯いたままじっと動かず座っていた。

カウンターの上には、グラスが何個かトレイの上に用意されている。


「あっ、話終わりましたか?」

翔太に気付くと、立ち上がりグラスにジュースを注ぎ出した。


『話終わりましたか?』って、まるで主人と話込む客に気遣って、キッチンで待機してるお手伝いさんみたいな……他人事の様だ。


「ピザすっかり冷めてしまって……暖めて持って行きますから、翔ちゃん先にジュース持って行ってくれる?」

不自然な笑顔でジュースの乗ったトレイを翔太に渡し、軽く背中を押した。



翔太は言われるがまま、トレイを持ってリビングに行くと

「あんた何やってんの⁈」

「翔太‼︎呑気にジュースなんか飲もうとしてる訳!」

茜と桜の罵声が飛んで来た。

「だって、滝川さんが……」

叱られ…翔太はそのまま、トレイをテーブルに置いた。

トレイの上にはグラスが5個。

翔太と茜、滝川がいつも使っているグラス。

他には、お客さん用のピンクと、青いグラスが乗っている。


暖めたピザを持って滝川が入って来た。

「お腹空いたでしょ?こんな時間になって…座って」

そう言って無理矢理、茜や桜を佐渡の正面に座らせる。

そして、それぞれの前にジュースの入ったグラスを置いて行くと、佐渡の隣に落ち着き、トレイを脇に置いた。

佐渡は、ずっと喋っていたせいで喉が渇いたのか、目の前の、青いグラスに入っているジュースを一気に飲み干す。

そして、テーブルに並べたピザを無造作に摑みほうばった。

茜と桜は、厚かましい男の食欲に嫌悪感で吐き気がした。

一体滝川は何を考えているのか?自分は第三者のつもりでいるのだろうか?

翔太は、この親戚夫婦が遊びに来て、夕飯ご馳走してます的な空気に違和感を感じていた。


「謙也…謙也がずっと茜さんを好きなのは分かってた…でも、いつも一緒に居てくれてたから、勘違いしてたよ。いつかはわたしを見てくれるって……気に入られたくて、必死に言いなりになって来た……」

滝川がぽっつりと、遠慮した感じで話始める。

「何が言いたいんだ…お前…」

佐渡は、滝川を見もせず、鬱陶しそうに言い放つ。

「諦めるよ……謙也の事好きだから、謙也が幸せになるんなら……いいよ。だけど今日だけ、一緒に帰ってくれないかな?」

「あーん、帰る訳ねーだろ!馬鹿か」

佐渡は苛立ち、隣に座る滝川を殴りつけた。

思わず目の前の茜と桜が怯んだ。

「お願い。今日で最後だから……終わりにするから……最後に、聞いて欲しい事が有るの」

当の本人の滝川は殴られ慣れているのか、怯む事無く佐渡に縋り付く。

「しつっこい女だな!」

佐渡は苛つきを露わにし立ち上がると、滝川目掛け足を上げる……

咄嗟に翔太が滝川の前に立ち塞がり、その足を押し除けた。

佐渡は、バランスを崩し、後ろへ倒れた。

直ぐさま立ち上がった佐渡は、怒りに任せ翔太の髪を鷲掴みにし、

「何すんだこのガキがー‼︎」

その腕を、テーブルに向かって翔太もろ共振り落す……


「辞めてっ‼︎」

茜、桜、滝川3人が同時に叫んだ。


その時、壁に掛かっていた時計が床に落ち、大きな音をたてた。

その音に驚き、佐渡の手が一瞬緩んだ。


翔太はその隙を見逃さず、佐渡から離れる。

佐渡は慌てて翔太を追いかけ……

その時、テーブルの青いグラスが破裂し砕けた。

同時に、マシュとチョコが吠え出し激しく佐渡を威嚇する。


「何だ……⁈」

部屋中の物がガタガタ鳴り出した。

「な、な、何だよ……ガンコツか?本当に居るのか⁈ふざけた事しやがって……姿見せろ!」

そう言った佐渡の様子は、怯えて見えた。


何だ?この人、粋がってたけど……ビビってる⁈

ガンコツ先生の事、本当は怖がってるんだ‼︎


マシュとチョコが益々激しく佐渡を威嚇する。

何かの塊が佐渡目掛け、翔太の目の前を横切るのが一瞬見えた。

「ツッ!」

佐渡の声。その左の頬からは血が流れ、足元には、棚に飾ってあった筈の置物が落ちていた。

「…………⁈」

佐渡の目は大きく見開き、固まったままでいた。


「今日は……帰ろ……」

滝川が、佐渡を説得する。

「クソッ!鬱陶しい……」

憎々しげに、物が飛んで来た方を睨み付ける佐渡。

「また来るからな!」

そう言って滝川を置いて出て行った。


残された滝川は、茜の側に来て無言で手紙を渡し、深く頭を下げた。

そして、佐渡を追いかけ出て行く……部屋を出る間際に翔太と目が合う。

「翔ちゃん、ありがとうね」

そう言って滝川は笑顔を作るが…その顔はすぐに歪み、涙がこぼれた……慌てて拭うと急いで出て行った。




外に出ると佐渡が、開かない車に苛々していた。

「早くしろ!グズ‼︎」

滝川はリモコンで、車のロックを解除する。


不貞腐れ、助手席に座る佐渡。

ダッシュボードの上に足を投げ出すと、シートを思い切り後ろへ倒し…目を閉じた。


滝川は運転席に座ると、ゆっくりと車を走らせた。


暫く走ると、薬が効いて来たのか、助手席から寝息が聞こえて来る。


滝川は睡眠薬を粉末にし、ジュースと混ぜて青いグラスに入れて置いた。

青いグラスを佐渡の目の前に置き、それを佐渡は一気に飲み干した。

早く佐渡を車に乗せなければ、あの家で眠ってしまっては計画が台無しになってしまう。それどころか、茜や翔太を危険な目に合わせてしまうかもしれない。

滝川はハラハラしたが、何とか間に合い……ほっとした。


「謙也……もう、終わりにしよう」

滝川は、佐渡の寝顔にそう告げる。

バックの中で、携帯が鳴り出す……滝川はその電話に出る事は無かった。


何時間も走り続け……辺りが明るくなって来た頃、

車は脇道に逸れた。

そこは、車が1台やっと通れる細い獣道。

真っ直ぐ奥へ…やがて道は拓け滝川は車を停めた。


そこは、滝川に取って恐怖の元凶…恐ろしい場所。

14年前に1度だけ、この地に立った。

それ以来、この場所に来る事をずっと拒み続け……


しかし、この場所は滝川に纏わりつく様に

何度も何度も夢に出て来る。


夢の中では…滝川はこの場所に1人立たずんでいる。

1度しか来た事が無いのに……それは鮮明に……

やがてそこは炎に囲まれ火の海となる

炎に巻かれて行く滝川

その身体は業火に焼かれ、苦しみ、のたうち回り…

灰になって……消滅する。

そんな夢を何年も見続けて来た。


助手席の佐渡が目を覚ました。

「何だ?……何処だ?」

まだ、朦朧としている様子。

「行こう!謙也」

「あん?………」

滝川は、アクセルを思い切り踏み込んだ!

目の前には道は無い……車は勢い良く飛び出した。

「ふざけるな‼︎馬鹿ヤロー……」

佐渡の声はかき消された。




茜は自分の家で起こっている事が、予想を遥かに上回り、混乱していた。

「何だったの⁈何が起きてるの?」

マシュとチョコの興奮もまだ冷めない。

「マシュ!チョコ!」

翔太が呼ぶと、2匹はシッポを丸め定位置に戻る。

「新築記念に買った時計…壊れちゃったわね……翔ちゃんが小学校の修学旅行で買ってくれた、お土産の置物もかけちゃったわ…………」

秋田川が

『申し訳無い……無我夢中で、やり過ぎた』

そう言って、茜に向かっ頭を下げた。


「先生がごめんって言ってる」

「先生?……誰?それ……誰かいるの?」

「あの……慎太郎さんのお父さんです」

「慎太郎のお父さん?……あら、まだ挨拶してないわ……」


秋田川は慌てて茜に向かって挨拶した。

「初めましてって……先生が言ってる」

茜は、秋田川に背中を向けお辞儀をしながら

「あ、どうも、茜です。よろしくお願いします」

と、挨拶する。

「母さん、逆だよ!」




「手紙?」

「うん……」

「何書いてあるんですか?」

茜は、滝川から渡された手紙を開いた。



茜さん、翔ちゃん

長い間、騙していてごめんなさい

もう、気付いているでしょう

わたしは14年前、茜さんの大切な人。

翔ちゃんのお父さんを、

佐渡と共に、手にかけてしまいました。

人の大切な物を奪って置いて、

自分だけ幸せになれる訳無いのに

佐渡が学生の頃、既に、慎太郎さんのお父さんの事も殺害していた事を知った時は、自分のした事の恐ろしさ、愚かさに激しく後悔しました。

慎太郎さんのお父さんへの執拗な逆怨み、慎太郎さんへの嫉妬、その過程で出逢ってしまった茜さんへの歪んだ愛。

全ては佐渡の幼稚な我儘のせい。そして、そんな佐渡に振り向いて欲しくて、言いなりになり続けたわたしの罪です。

自分の保身の為、隠蔽に手を尽くした佐渡の父親も、2度目の殺人。慎太郎さん殺害を知り、怒りとショックで倒れ、意識の無いまま亡くなりました。

あの人は、いったい、何人の人を殺めるのでしょうか……もう、償う方法が見つかりません。

謝っても許して貰え無い事は分かっています。

でも、酷い事をしました。

本当にごめんなさい。

ずっとずっとこうする事を、こうしなければいけない事を、先延ばしにして来ました。

全てわたしが責任を持って、佐渡と共に償います。

今迄ありがとうございました。

さようなら

滝川小夜子



手紙にはそう綴られていた。


茜は遺書と思える手紙に、慌てて滝川の携帯に電話をかける。しかし、その電話に滝川が出る事は無かった。

居てもたってもいられず、警察に捜索願いを出す茜。

滝川だけは無事でいて欲しいと、祈る事しか出来無い翔太。

桜はただ戸惑っていた。

3人は眠れないまま、不安な朝を迎えた。


翔太と桜は、バス停への道を歩いている。

「佐渡先生は、どうしてガンコツ先生を殺した学校に戻って来たのかな…他にいくらだって学校あるのに」

「以外と、ガンコツ先生が呼び寄せたのかもよ……」

「そうかな……」

「監視してたのかも…自分の知らない所で噂が広がるのが怖かったのよ」

タイミング良く、バスは2人の立つバス停に止まる。

「じゃまた!何か分かったら連絡してね」

桜はバスに乗り込み、翔太に手を振る。

翔太もそれに答え手を振る。

そのまま、バスが走り去るのをぼんやり眺めていた。



3日後の午後……

遅く起きて来た翔太は、いつもの癖でテレビをつけた。

ニュースが流れ………翔太は釘付けになった。

ニュースが終ると同時にテレビを消す。

呆然と暗い画面を見つめた。


「滝川さんと佐渡先生、遺体で発見されたんだね。今ニュースでやってたよ。慎太郎さんが亡くなった場所と同じ場所で……」

なんとなく諦めていたけど……でも、滝川さんだけは、生きてて欲しかった。

目の当たりにするとショックで、何もする気にならない。


「そうみたいね。今朝、警察から連絡があったわ……償いのつもりかしらね⁈」

茜は、思い切り鼻をかんだ。

目は赤く腫れ上がり、鼻もかみ過ぎで真っ赤になっている。

「佐渡先生には生きて裁きを受け、反省して欲しかったなぁ」

「あの人は無理じゃない。反省なんかしやしないわ」


「ビデオ……撮れてたんでしょ。どうするの?」

「本人達いなくなっちゃったし……滝川さんの年老いた御両親の事思うと……追い討ちかける様で、忍びないわ」

「滝川さん……もういないんだね」

茜がまた……鼻をかんだ。



「誰か、家の事やってくれる人…探さないとね……」

「………」


翔太も鼻をすすった。



あれから茜は、何度か警察に足を運び事情を聞かれた。

滝川達の死は、最終的に事故で処理される事になった。

滝川の葬儀も済み、茜達も要約落ち着きを取り戻しつつあった。


夏休みも後半に差し掛かり、桜は翔太の家に入り浸っている。

「なんで家に居るのさ。仕事は?書き入れ時なんじゃないの?」

「翔太の家、居心地良いんだもん。仕事?なんか最近祖母がやる気出してるから、押し付けて来たわ」



「佐渡先生って謙也って言うんだ。知らなかった。名簿見たら佐渡謙也って書いてあった……何でもっと早く見なかったんだろう」

「興味無いから!今更どうでも良いわ」

「桜の佐渡先生に対する感は当たってたね」

「あっ!呼び捨てにしたわね。馴れ馴れしい!」

「君だって翔太って言うじゃん!」

「翔太は良いのよ!」

「意味不明!」

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