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学校にある怪談  作者: 春日向楓
13/16

裏切りと歪んだ愛情

警備が……起動し無い……


やはり滝川は、男に鍵を渡していた。

1つ1つ鍵を解除し……迫ってくる。


慎太郎を殺した……あの男が……

翔太と桜は、息を殺し一心に扉を見つめた。


扉が静かに……開く……

マシュとチョコが一気に吠え始める。

滅多に吠える事が無く、到底番犬の役等出来そうも無いと笑われていた、ピレニーズのマシュと、バニーズのチョコ…後退りしながら必死に主人を守ろうとしているのか、入って来る男に向かって吠え続けている。


「やぁ……」

男は部屋に入るなり、棒立ちする3人に向かって、右手を上げ笑顔で言った。

傍で吠え続ける、マシュやチョコには目もくれない。

構わずズカズカと入って来る。

まるで、自分の家にでも帰って来たみたいに……


「…………?」

翔太と桜は……

言葉と、瞬きする事を忘れていた。


「来栖川も居たのか」

「?……」

男は桜を知っていた……


「久しぶり、茜!待たせたね」

恋人に話す様に茜に声を掛ける。

茜は、嫌悪と憎しみの視線をその男に向けた。



「佐渡先生…………何してるんですか?」

翔太が問いかけた。


「先生⁈…翔ちゃん……先生って?」

「知ら無かったんですか?……」

桜は茜に聞いた。


それでか。中学に入って学校の行事は率先して、滝川さんが全てやってくれていた。『仕事に集中させたい』とか言って、僕には直接学校の事を母さんに言う事を禁じた。佐渡先生と合わせ無い為、母さんが学校に行く事を拒んでいたんだ。

僕も気付か無い間に、見張られていたの?


茜がマシュとチョコを宥めた。

役目を果たしたとばかりに、2匹は誇らしげに、自分の定位置のソファの上に戻った。


佐渡は鼻唄を歌いながら、フラフラ部屋の中を歩き出すと、桜の前で止まった。

覗き込む様に顔を近付け

「お前等……何コソコソやってんの⁈」

桜は思わず顔を背けた。

「お陰であのヒステリー婆さんに余計な詮索されて、鬱陶しいったら」


「あなたが、慎太郎を殺したの⁈」

茜は単刀直入に聞く


「あーん?慎太郎?害虫の名前なんかいちいち覚えて無いな〜」

佐渡はまたフラフラと、茜に向かって歩き出す。


翔太は悔しさで、身体が震えるのを感じた。


「何で殺したの⁈」


「害虫は駆除しないとな……強いて言うなら……世間知らずで、挫折なんて味わった事も無くて、飄々と生きて来たあいつが許せなかった……って感じかな」


「何それ……?」

茜が、苛立ちを吐き捨てる様に言った。


「分からないかな〜…俺は、あの大学を目指して子供の頃からずっと、ずーっと勉強して来たんだ。

ゲームや漫画やテレビ、一切を生活から排除して、親からの期待を一心に受けてな!

どうしょうもない不安とストレスの中必死に頑張ってた。それなのに……たった1回の過ちで全てが終わった。

高校受験の失敗。俺の行く筈だった進路は閉ざされ、俺の未来は無くなった。

親にも見放され、行きたくも無い三流大学に通って、ただダラダラと生きてた。

そんな、生きてるか死んでるか分からない毎日を過ごしてた時、思いがけず慎太郎があの大学に通ってる事を知った。

沸々と湧いて来る嫉妬と憎しみは日に日に大きくなって、俺は狂いそうだったよ」


「既に狂ってる!」

翔太は吐き棄てる様に言った。


「そうだな…俺は狂ってる。それも全部あいつのせいだ」


「全て人のせい?……高校が駄目なら、大学で頑張れば良かったんじゃない?1度の失敗で諦めたのは自分ですよね…………」


「ふん!来栖川、君は何も分かって無いね。僕の人生は、完璧じゃなきゃ駄目なんだよ。優秀な人間に挫折は許されない!君には分かって貰えると思ったのに……残念だ」

佐渡は首を振り溜息をついた。


「大学に紛れ込んで、慎太郎を見付けて声をかけた。人が良さそうで人懐っこくて、俺の事あっさり信じ込んで、笑えたね。

人生お気楽に生きて来た奴はやっぱり違うなって…これ素直な感想ね。

それからずっと様子を探ってた。そして、茜って女と付き合ってる事を知った。

最初は邪魔してやろうと色々根回ししてた……後にこのお陰で、慎太郎の死が茜に知れるのが遅れた。

まさか今頃になる迄気づか無かっとは、想像以上だったけどな。

慎太郎の母親が、色々嗅ぎ回ってたけど、全く情報が漏れ無かった。

ずっとあの男に捨てられたって、思い込んでるお前を見てるのは愉快だったよ、茜!」


もはや、教師佐渡の姿は欠片も無い。

翔太は目の前で下品に笑う男を殴りたい衝動に、何度も襲われた。その度茜が翔太の手を強く握り締めた。


「間抜けな慎太郎が、俺に茜を紹介して来た。その時思ったんだ……この女が欲しいって。この女には、俺の方が相応しいってね」


慎太郎の言った事は記憶違いじゃ無かった……しかし、茜にはこの男を紹介された記憶が全く無い。

それ程……茜の中では、どうでも良い存在だった。


「それから忙しかったよ。茜に近付く為、なんの興味も無い滝川に近付いた。

男に免疫が無い滝川は直ぐに靡いて、俺の言いなりだった。

滝川に探りを入れさせている時偶然、茜が結婚の報告しに慎太郎の実家、北海道に行く事を知った。

俺は慌てた……それで、慎太郎を殺す事を決めた。

緊急だったから、仕方無いよね。

その時滝川に、『脅迫されてる。助けてくれ』って泣き付いたら、あっさり殺す手伝いをした。簡単な女だよまったく。

それから滝川は、益々言いなり。一切逆らわない、いや、逆らえ無くなった」


「最っ低‼︎」


「突然、茜が消えた時は焦ったよ。折角茜の為に始末してやったのに、この女は礼も言わずに消えた……

滝川に茜の居場所を探させた。

担当が違うから居場所迄は無理だとかほざくから……『人殺しの癖に…何とかしろ!』って言ったら、震え上がってたよ」

ヒッヒッと下品な笑い声が漏れる。

その姿は狂気その物で不気味。


「茜の担当になる様に滝川を焚きつけ、やっと、

この家を探し出した。

なのに……お前は‼︎あんな男の子供を産んでた‼︎

俺は発狂したね。ふざけるな‼︎……って、しかし、お前は、怯むどころか威嚇して来た。流石だね。俺は益々茜に夢中になった……最高だ!」

急に甘えた声で話す佐渡に、3人はぞっ!とした。


「滝川にはこの家に入り込ませ、ずっとお前等を監視させてた。滝川は上手くやってくれてたよ。何から何迄筒抜けだった」

佐渡が愉快そうに笑いながら、ゆっくり、翔太の前に来て止まった。

「お前等がコソコソしてるお陰で、確信した。

やっぱり茜を離したくない、俺が愛してるのは茜だけだ……てな!

慎太郎始末して、本当はすぐにでも一緒になりたかった……だけど……あの時は許せなかったんだよ。

お前の存在が……

ずっと後悔してた。お前の始末もしとくべきだったって……なぁ翔太!

学校でお前を見掛ける度、吐き気がしたよ」

佐渡は苛ついた、冷たい目を翔太に向けた。


「滝川は用済みだ!茜…待たせたな。

やっと結婚出来るよ」

茜に向かって手を差し伸べた。




「謙也……どう言う事?」


一斉に声のする方に視線を向けた。

誰も気づかなかった。いつの間にか、滝川がピザを持って入り口に立っていた。


佐渡が面倒そうに

「あーん!何だお前、来るなって言っただろ!帰れ‼︎」

「あなた…全て終わったらわたしと結婚してくれるんじゃないの?」

「寝ぼけてんの?少し考えればわかるでしょう。お前と俺じゃ釣り合う訳無いだろう」


「……そうなんだ……あ、みんなお腹空いてるんでしょ。ピザが来たわ。用意しますね」

そう言って、滝川はキッチンへ消えた。


滝川さん……翔太は裏切られていたけど、この人も淋しい人なのかと…少し気になっていた。


「で、今の話の何処に茜さんと結婚する要素がある訳?茜さんの気持ちは?無視⁈」

「僕はね……君みたいに特殊な能力が有るんだ。君も辛かったろう?他人に認めて貰え無い悔しさ、僕には分かる。凡人には理解出来ないんだよ……何故なら、僕達は高等な人間だからさ。なぁ桜!」

ニヤニヤしながら桜を見る。

「能力?」

「人の気持ちが僕には分かるんだよ。特に、僕に熱い思いを持っている心は……手に取る様に」

「思い違いの能力じゃないの?」

「面白いね君は…自分は死んだ人間と話が出来るなんて、インチキ商売してるくせに……人の事は信じないなんて、虫が良すぎるじゃないか。

僕も辛いんだよ。全ての人の心に応えてあげられる訳じゃないからね。茜は選ばれたんだよ僕に……その分、茜には精一杯応えて行くつもりだよ」


「思い込みの能力正解だわ」

茜が吐き捨てた。

「つうか、ただのストーカーだし」

桜も吐き捨てた。

「キモッ‼︎」

翔太はただぞっ!とした。


「だいたい、何故そこ迄慎太郎に執着するの?慎太郎は、大学で初めてあなたに会ったって言ってたわ。あなたは何処で慎太郎を知ったの?」

「俺も、慎太郎と会ったのは、あの時大学で会ったのが初めてだよ」

「あなた、慎太郎があの大学に通ってる事知ってて会いに行ったって……」

「存在を知ってただけさ……秋田川の息子が居るって……」

「……?慎太郎のお父さん?」

茜にはピンと来なかった。

「秋田川?…の息子」

桜はもしや……。

「ガンコツ先生……?」

翔太……?

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