表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校にある怪談  作者: 春日向楓
1/16

始まり…

真夜中の学校

誰もいない校舎はじっと息を潜め

夜明けを待っている

闇の中を蠢く黒い影

何かを引き摺る音が

静まり返った闇に響いている


突然ガラスの砕ける音が

静寂を破り、悲鳴を上げた


闇に潜む黒い影の息遣い

次々に振り回される悪意と失望に

敢え無く砕け、欠片となって飛び散った

休む事無く……暫し繰り返され

やがて…遊びに飽きた様に、それは終わった


そして…静寂を取り戻す


後には……傷だらけの校舎に書かれた

『鬼子参上』の文字。




昼休み終了のベル。

体育館で昼休みを過ごした生徒達が、それぞれの教室へと帰る。

「ガンコツ先生怖え〜!」

「マジやべー」

「聞こえるぞ! 拳骨飛んで来るぜ!」

1年生の教室が並ぶ廊下を通り抜け、ゾロゾロと2階へ上がる階段へ向う生徒達。

後ろを歩く秋田川には、まるで気付いていない。


北星中学校教師、秋田川幸太朗。

教師生活20年。

教育一筋。情熱の全てを、教育に捧げてきた人生。

その熱さゆえ生徒達には、煙たがられ、恐れられている事は知っている。

しかし、厳しくは有るが、優しさも忘れてはいない。

中学生と言えば多感な年頃。

色々な悩みやストレスを抱えいる。

得に受験シーズンになると、ストレスで道を踏み外しそうになる生徒もいたりする。


以前、タバコを注意した生徒がいた。

受験勉強が思う様に行かない不安やストレス。

ほんの出来心だったのだろう。

責めるばかりでは良い解決にはなるまいと、2度としない事を条件に見逃した。

それ以来、その生徒とは、誠心誠意我が子の様に接し見守って来た。……そして、無事卒業して行った。

しかし、その反面、我が子には、少し距離を置いてしまった事に…今、後悔している。


2人の生徒が、じゃれ合いながら追い越して行く。

「こらー‼︎」

秋田川が声を上げると、

「こらー! 廊下を走ってはいかんぞ〜」

隣を歩く教師佐渡が一緒に声を上げた。

「すいませーん」

「気を付けま〜す」

そう言うと早歩きで教室に入って行った。

「今年の1年は元気が良すぎるな」

「全く!」

秋田川は佐渡の言葉に頷いた。

2人はくすりとしながら職員室へと向かった。




3ヶ月程前から発生している学校への悪戯。

ガラスを割られたり校舎に落書きされたり、未だ犯人は捕まっておらず、学校側もほとほと手を焼いていた。

そこで秋田川は、犯人を捕まえるべく名乗りを上げ、学校に泊まり込む事を決めた。


しかし、こうなるとなかなか犯人は現れない。

宿直室で1人、近くのコンビニで買った夕食の弁当を食べる。


もう何日も家に帰っていない。

仕事仕事で家庭を顧みる事をして来なかった。

いつの間にか息子も高校生になり、今となっては、ろくに口も利いてくれなくなってしまった。

ただただ一人反省する時間ばかりが過ぎて行く。




何も起き無いまま、朝を迎える日が続く。


秋田川は顔を洗い身仕度を整え、軽い朝食を済ますと、職員室へ向かった。


登校時間にはまだ時間がある。

この時間、部活の早朝練習の為に、既に登校している生徒が多くいる。


部活を終えた何人かの生徒が、廊下を走りながら教室に向かって行く。

「こらー‼︎」

秋田川が声を上げると、生徒逹は逃げる様に教室に入って行く。

その後を歩っていた生徒が捕まった。


「君‼︎ 学年とクラス。名前を言いなさい」

「えっ⁈ あの……1年3組…藤城翔太です…」

「藤城君。一緒に居たのは君のクラスメイトか?」

「あ、はい…」

「廊下を走るなと、君から注意しておきなさい。」

「……」

「分かったかね‼︎」

「は、はい!」

翔太はお辞儀をすると、急いで教室に入った。


翔太は部活ではなく、早目の登校組。

変わり者の親が、人里離れた山奥に一軒家を建てた。

そこから1番近い中学が、この北星中学校だった。

歩いて通える距離では無く、送り迎えを期待出来る親でも無い。

おまけにバスの本数が少なく、丁度良い時間帯のバスが無い。

早過ぎてもこのバスに乗らなければ遅刻してしまう。

仕方無くこの時間に登校しているのだ。


慌てて教室に入って来た翔太に、来栖川桜が声をかけて来た。

「大丈夫⁉︎……顔色悪いよ」

「……うん! 大丈夫」

翔太は自分の席に座り溜息をついた。




夕暮れ、生徒達との1日を終えほっとしながら

秋田川は、いつもの様に夕食の弁当を食べていた。

その時、校庭の方が何やら騒がしい。

急いで宿直室の電気を消し、カーテンの隙間から外の様子を伺った。


校庭を3台のバイクが、縦横無尽に走り回っている。

1人は得意げに鉄パイプを振り回しながら、後部シートに跨っている。


『犯人だ‼︎』秋田川は確信した。

やっと現れたか! こいつ等を捕まえてようやく家に帰れるぞ!……秋田川は安堵した。


静かに宿直室を出て、校庭に向かった。


「ぐぉらー‼︎」

秋田川は大声を張り上げ、朝礼台に仁王立ちした。


リーダーなのか、黒い特攻服を着た男のバイクが止まると、それに合わせる様に他のバイクも止まった。


「お前達か! 校舎に悪戯する奴は‼︎」

秋田川は腕を組み、仁王立ちしたまま大声で言った。

「おっさん。何⁉︎」

リーダー?っぽい黒服の男が、負けじと大声を張り上げた。


「私は、この学校の教師。秋田川だ! 何故

お前逹はこんな事をする」


男逹は顔を見合わせ、何やら笑っている様子。


「何か、この学校に恨みでも有るのか?」

「別に〜 暇潰しに来てるだけだけど〜」


バイクの後ろの鉄パイプを持った男が言った。

「暇潰し? 君逹、他にする事は無いのか?見たところ学生では無い様だが、仕事は?働いて無いのか?」


「おっさん! 話つまんないよ。 消えて‼︎」


黒服の男が言うと、バイクのエンジンを吹かし爆音を響かせ走り出した。

秋田川の声はかき消され、もう聞く者はいない。




いつもの朝。

秋田川は顔を洗い、昨夜の事を思い出そうと考えた。

いくら考えても、どうやって宿直室に戻ったのか思い出せない。

何だろう。夢……何度も見る同じ夢?いつも、同じ所で記憶が途切れる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ