穏やかな時間
月狐族の村は今日も平和だ。
とは言え、回復したファーラを連れて戻った日などは完全に一騒動起きてしまったが、あれはまぁ、致し方ないと思われる。
何しろ、手足を失っていたファーラが暫しの養生の必要こそあれど、完治すると言う奇跡――バイタルポッドが存在しないこの世界にとっては正に奇跡だ――が起きたのだから、ある意味当然の帰結とも言える。
ましてそれが、元より村での人気も高かったファーラであるが故に、それこそ村中上げてのお祭り騒ぎとなってしまった。
無論、彼女の番たる俺も前面に押し出される結果に成り、村の住人達が代わる代わる訪れては祝いの言葉やら、ファーラを癒した事に対しての感謝の言葉やらを告げ、俺の酒盃に酒を注いで行き、結果、かなりの量を飲まされる事になってしまった。
あれはこのデュランの体ではなく、元の日本人としての体であれば前後不覚になる程度では済まない量だった様に思う。
加えて、手足が戻ったとは言え、まだ思う様に動く事が出来ないファーラが俺の膝に横抱きの状態で座っていた事が、事態に拍車をかけていた。
名を忘れた日本人であった時に終ぞ受けた事のない、女子からの黄色い悲鳴とやらがどれ程気まずいものか、身をもって知る羽目になるとは。
当初、異性である事もありジャニアの手を借りるべきと思っていたものだが、艦内で風呂に入れる際のファーラの言葉、更には頼った先であるジャニアにすらも
『そなたも番ならば巫女の世話位してみせんか。巫女は文字通り、身命を賭してそなたに仕えるのじゃぞ』
等と言われてしまえば、もはや逃げ道などありはしない。
結果、完全に回復するまで俺が世話する事になったのだが、まぁ、それに関しては良いとしよう。
俺としても彼女に惹かれつつある自覚は既にしてあるのだし、ファーラ自身もまた俺の手による世話を望むのならば、拒む理由も然程にある訳ではない。
ただ、宴会を行ったのが屋内ではなく村の広場であった事が、俺にとっては災難と言えば災難であった。
いかに村長の家とは言え、村人全員が入れる訳ではないのは解っていた事でもあり、宴会を行うならばそこだろう程度の予測はついたし、事実、その通りでもあった。
広場の中央で盛大にかがり火を焚き、それを囲んで飲めや歌えの宴である。
当然、と言うべきか参加者は地面に敷いた筵の上に座る事になるのだが、今のファーラは手足の感覚が殆ど戻っていない状態であり、まともに座っている事も難しい。
せめて座椅子の様なものでもあれば、と考えたのだがこう言った宴の場で椅子に座る事は仕来りで禁止だ、なる不可思議な指示が下り、結果として横抱きのまま俺の膝上に座らせる事で決着をみた。
横抱きにしたのは彼女の食事の世話をすると言う意味もある。
衆人環視の中、年頃――俺の予想通り、ファーラの年齢は18であったらしい――の少女、それも頭文字に『美』とつけて異論ないだろう少女を膝上に抱え、口元に食事を運ぶと言うのは、思っていた以上に俺の精神を疲弊させるものがあった。
とは言え、それをしなければファーラは食事が取れんし、食事をしなければ体調の改善もないとなれば、羞恥を堪えてでも完遂するより他にない。
まぁ、一夜をかけて行われた宴も中盤に差し掛かる頃には、ある程度の開き直りが出来た事もあって大分慣れてきてはいたが、一瞬、その内ファーラを膝上に抱えているのが自然な光景になってしまわないかと言う疑問が、脳裏を掠めた。
嫌だ、とは言わんが、流石にそれはどうなのだと思う光景ではある。
ともあれ、そんな宴が功を奏したのか、どうやら俺は月狐族の村人達にも無事受け入れられた様だ。
医療面では勝るグリフォンではあるが、ギルドシップの常・・と言うべきか木々の少なさから多少息詰まる感覚がないではない。
これは現代日本で暮らした俺ですらそうなのだから、緑豊かな月狐族の村で生きて来たファーラともなれば一入だろう。
いかに医療面を重視しようと、精神的な閉塞感を常に感じさせると言うのも問題があるので、日中は月狐族の村に降り、夜間はグリフォンに戻る事にした訳だ。
その為、俺達は今村長の家にあるファーラの私室をゲートポイントとして登録し、村とグリフォンを往復する毎日を送っている。
当面、ファーラの課題は手足を動かす事で感覚を思い出させる事と、体力をつける事の二つ。
どちらも一朝一夕とはいかないので、こればかりは気長にやるしかない。
無理に急いでも良い事などないのだ。
そんな今日、俺が今何処にいるのかと言うと――
「おっ、運がいいな。ありゃぁヒクイドリだ。何とかして獲ってきてぇもんだが・・」
村の近くにある草原にて、数人の村の男たちと共に息を潜めていた。
村に受け入れられた結果、狩猟などの際に声をかけられる様になった、と言う訳だ。
どの道、ファーラの体力にも限りはある。
如何にリハビリに心血を注ごうと休息は必須でもあるので、俺としても手隙の時間と言うのは出来てしまう。
村の男たちはその時間を使い、狩猟を共にする事でコミュニケートを図ろう、と言う狙いだろう。
まぁ、それに関して言えば俺としても有り難い事ではある。
ゲーム中に登場したモンスターや原生動物の類であれば、既にしてリングに波長を登録済みなのだが、ことこのグリーン・アースに関してはまっさらな状態だ。
故に、この機会を使って幾許なりと波長を登録しておくべきだろう。
今後、ファーラを伴って月狐族の村を旅立つ事も視野に入れているだけに、ある程度の情報は集積しておきたい所である。
そう言った狙いもあり、俺も狩猟に同行している訳だ。
そして現在、俺達の視線の先には草原の半ばに立つ、体高3m程の鳥が見えている。
退化した両翼、長く、がっしりとした両の脚を見る限り、地球でいう所の走鳥類の様だ。
しかし、その体躯等から見る限り――
「・・・ヒクイドリと言うよりは、もはやジャイアントモア、だな」
多少の感嘆交じりに、小さく呟く。
視線の先に居るヒクイドリとやらは、地球では既に絶滅した恐鳥モアをこそ髣髴とさせる。
まぁ、こちらでの名称がヒクイドリなのだと言うのなら、ヒクイドリとして記憶するしかないのだが、地球でのヒクイドリとのギャップに何とも言えん戸惑いがあるのは確かだ。
無論、言っても詮無き事、であるのは百も承知ではあるのだが・・。
内心で呟く俺に、俺を連れ出した一人である所のパロゴが顔を寄せて来た。
「で、どうするよ?」
「どうする、とは?」
尋ね返した俺に、パロゴは一瞬目をパチクリとさせたものの、やがて何かを思い出したように頭を掻く。
「あ~・・そういやアンタは知らねぇんだったな。アイツぁよ、ガタイのわりにえれぇ速くてな。警戒心も強ぇから、メチャクチャ狩りづれぇんだ」
・・・成る程、どうするとはどうやって狩るか、と言う事か。
確かに弓を持ってきている物も居るが、ヒクイドリとの距離と吹いている風を考えるに少々キツイか・・。
かと言ってこれ以上近づくにも、茂る草葉は膝下程度あるかと言った所であり、身を隠すには向かない。
そしてあの体高を考えるに、見つかる可能性が高いと見る。
狩りの条件としては悪いのは承知で、それでも狩っていきたい獲物である、と。
ふむ、ならば――
「俺が行こう」
端的にそう告げると、両腰に付けたホルダーからエルツァイクを引き抜き、無造作に立ち上がった。
「って、お、おいっ! 立っちまったら・・」
パロゴが思わずと言った具合に上げた声に反応したのか、ヒクイドリが此方を向いた。
その瞬間には俺は躊躇なく足を踏み出し、即座にトップスピードへ。
「エルツァイク、起動」
流れる景色を横目に呟いた言葉に反応し、両手に握るエルツァイクの鍔から刀身が伸びる。
あのゲームに登場する短剣は、少々特異な形状をしており、順手に握った剣の鍔から半月を描く刀身が拳の下方、30cm程まで伸びている。
故に、握りこそ順手であるが、扱いとしては逆手持ちに近い。
無論拳の前にも刀身が伸びている為、殴りつける様に振るう事も可能だが、あまりお勧めはしない。
形状はどうあれ、結局の所“刃”なのだ。
重さで叩き切る大剣ならばいざ知らず、この手の刃は引き切る事に特化している。
故に――
「ふっ・・・!」
秒と置かず距離を詰めて跳躍。
ヒクイドリの長い首――その頭部との境に向け右のエルツァイクを振
り抜いた。
肉と骨を断つ僅かな抵抗を感じつつ着地。
立ち上がった俺がヒクイドリへと視線を移す頃には、斬り飛ばされたヒクイドリの頭部が宙に舞っていた。
その光景を眺めつつ、俺は呆れ混じりの嘆息を一つ。
「予想はしていたが・・・ランクB-のエルツァイクですらこれか。これではランクSSS等、おいそれとは使えんな・・」
このグリーン・アースにおいてヒクイドリがどの程度の扱いかは解らないが、ランクB――それも然程攻撃力の高くない-に分類されるエルツァイクですら、成人男性の二の腕ほどはあろうかと言う首を僅かな抵抗感を感じる程度で断ち切れるのだ。
俺本来の獲物であるランクSSSのQCWを使う機会等、そうそうなさそうに思える。
例えば夜盗の類等に使おうものなら、確実にオーバーキルになってしまうだろう。
「・・・かと言って、これ以下のランクは使えんからな。最悪は素手か」
ゲームの設定として、ではあるがある程度以上に高いステータスを持っているキャラクターの場合、一定以下のランクの武装は使えない。
いや、使えないと言うよりは、正確に言えば“武器が耐えられない”のだ。
幾らクラスとして攻撃力が低めであるエアロストライカーとは言え、マスターステータスである俺が使える最低ランクがB-。
これ以下のランクとなると、“一太刀振るった時点でオーバーヒートを起こしてしまう”。
あのゲームの中でなら、それこそ態々下位武装を使ってまで手加減が必要な敵と戦う真似はしないで済んだ為、基本的には最上位武装を装備し続けていたが、今の状況を考えると下位武装が使えないのはある意味で痛い。
まさか最上位武装ではなく、下位武装が使えない事に頭を痛めるとは思わなかったが・・・。
そんな事を考えていると、ガサガサと言う草を掻き分ける音と共にパロゴ達が駆けつけてきた。
「オイオイオイオイ! 何なんだよあの速さ! ってかオメェ、何したんだよオイ!」
見れば、パロゴのみならず同行していた村人全員が驚愕に目をむいている。
まぁ、その気持ちも解らなくはない。
俺とて我が身の力でありながら、マスターステータスに至ったエアロマスターの速度には、正直呆れが来る程だ。
地球において、地上最速を持って鳴らすチーターすら置き去りにする速度を、人体が叩き出すのだ。
もはや驚愕よりも先に呆れが立とうものである。
パロゴ達の様子に、目覚めた後グリフォン内にて自身の運動能力を試した時の己の驚きを思い出しつつ、俺は小さく肩を竦めて答えた。
「ただ近づいて斬った。やった事はそれだけだ」
そう言った俺へ向けられる視線は、予想通り信じられないものを見る様なものであり、これには俺としても苦笑するより他にない。
その後、色々と質問責めにされつつも、倒したヒクイドリを個人用ストレージに収納して帰路に着く。
こちらもやれ『収納の祠の異能持ちか!?』と騒がれたが、小さく苦笑するに留めた。
ファーラの一件と合わせて、俺が異世界からの旅人だと言う事は既に村中に広まってしまっているが、能力の全てを曝す気はそうそうない。
信頼云々ではなく、余りに隔絶し過ぎたそれを曝す事が双方にとっての益となるとは限らない。
一度ファーラから手足を奪った巫女の件もそうだが、俺の能力とて災いを呼ぶ一面を持ち合わせている。
ポッド一つとった所で、正道邪道問わず欲する者は多いだろうし、中には力付くで奪おうと言う者も出てくるはずだ。
故に、極力この身一つと刃二本で片付けると決めていたのだが――
「それより、まさか狩ろうと言い出しながら、持ち帰る術を持たんとは思わなかったぞ?」
嘆息交じりにパロゴ達に半目を向ける。
まぁ、そういう事だ。
出くわした上等の獲物に舞い上がり、持ち帰る手段を考えていなかった、と言う事らしい。
ヒクイドリの羽は柔らかく保温性が高いので、利用価値もまた高い。
それを考えれば引き摺りたくはないが、重量を考えるとここに居る五人だけでは担ぐのも難しい。
担いで担げない事もないが、村までの道行きを考えるにどうあっても木々に邪魔されるだろう。
かと言って、解体して運ぶにもその準備がない、と来た為にストレージを使う事にした訳だ。
俺からの言葉と視線、両方での講義を受けてパロゴ達男衆は気まずげに視線をさ迷わせている。
やがて、代表するようにパロゴが頬を掻きつつ口を開いた。
「い、いやそのな? デケェ上に肉も旨いっつー上物の獲物見っけたんで、ちと舞い上が・・・うっ、すまん」
ゴツイ体を縮こまらせて謝る様子を見ていると、これ以上責める気も失せて来る。
元より然程怒っているという訳でもなし、苦笑程度で済ますとしよう。
「まぁ良いが。ともあれ、帰るとしよう」
「だな。特にオメェさんはファーラが首長くして待ってんぞ?」
踵を返した俺に続くように、村へと足を向けたパロゴが即座にそう言ってからかい混じりの笑みを見せる。
これは村の男衆全員に言える事だが、ファーラの番となった俺を――特に宴の席でファーラを膝上に座らせていたアレもあって、からかいのネタにしてくる訳だ。
まぁ、別段目くじらを立てる程でもないのだが――
「ほう・・・。ふむ、偶には童心に返って戯れるも一興か・・。パロゴ、一つ鬼ごっこといってみるか?」
偶には切り返してみるのも悪くはなかろう。
「勘弁してくれ! アレ見た後でオメェさんから逃げられるとか、どうしたら思えんだよっ!」
慌てて両手を振ってみせるパロゴを見て、残りの男たちがドッと笑い声を上げる。
村へ続く林道を行く間、何とも賑々しい様相のままではあったが、まぁ、これもまた平穏の証だろう。
やがて村を囲う木柵が見えてくると、男たちの笑みが深まる。
それを見るに、この村の住民は心底村を愛しているのだと察する事が出来た。
狩りに出向いた事は今回が初めてと言う訳ではないが、毎回、この村へ戻った時の笑みの優しさには、ある種考えさせられるものがある。
記憶の曖昧さ故に地球への望郷の念も、訪れたグリーン・アースへの執着も薄い今の俺にとって、そこまで思える程の故郷と言うのは、一種の憧れにも似たものがある。
現状、愛着があると言って良いのはグリフォン内にある私室位なものだが、あそこを“故郷”と評するには些か難があるのは否めない。
いつか、俺にも故郷と言える場所が見つかるのか?
そう思いながら門を潜りぬけ、以前宴を行った広場に差し掛かった時
「デュラン、お帰り」
穏やかな笑みを浮かべ、歩み寄ってくるファーラの姿を見つけた。
足取りはやや頼りなく、幾分ふらついてはいるものの倒れそう、と言う程ではない。
暫しの後、立ち止まっていた俺の元に辿り着くと、ぽすっと軽い音を立てて抱きついてきた。
どうやら、辿りついた時点限界が着たらしい。
そんなファーラを支えてやりつつ、周囲を見渡せばニヤニヤと解りやすい笑みを浮かべたボーイッシュな女性と、こちらは柔らかな笑みで見守っている様子のジャニア老。
成る程、面子から見て丁度ファーラのリハビリでもしていたか。
そう思いつつ、ファーラに言葉を返す。
「ただいま。・・・出迎えは有り難いが、余り無理はしてくれるなよ?」
「うん、無理はしないから安心して。それにもし倒れそうならデュランが支えてくれるでしょ?」
笑みを更に柔らかいものに変えつつのファーラの言葉に、自然と苦笑が浮かぶ。
手足を回復させた後、『主様』と言う呼称と丁寧な口調を対等なものへと直してくれる様に頼んで以来、ファーラの態度はそれまで以上に柔らかなものに変わっている。
俺としてもその方が接しやすくはあるので良いのだが、どうも傍から眺める立場に立つと、初々しい恋人同士に見えるのだとか。
別段悪い気もしないが、どうにもむず痒いものがないではない。
だからと言って、主様呼びと言うのもどうかと思う以上、甘んじて受け入れるよりないのだろうし、初々しい恋人と言う評価も惹かれつつ己を自覚している以上はそう遠からず、でもあるのかも知れんのだから尚更だ。
そんな俺達を見てニヤニヤと笑っていた女性だが、ふと視線をパロゴの方に移し僅かながら邪悪なものへと変えた。
「パロゴ~、アンタあんだけデカイ口叩いといて今日も手ぶらかぁ? なっさけないなぁ、相変わらず」
腰に手を当ててしたから顔を覗き込むその様子は、短めの髪と相まってどこか少年のようですらある。
彼女はジャニア老曰く『パロゴに嫁いだ奇特な嫁』である所のイーニャだ。
何でも昔から男勝りのお転婆娘だったらしく、同い年の幼馴染であるパロゴとは男女の仲云々以前に、悪友的な感覚で見えていたらしい。
『じゃからのぅ。そんなあ奴らが結婚と聞いた時には、顎が外れるかと思うたわぃ』
とは以前ジャニア老が言っていた言葉だが、さもあらんと同意する程度には今目の前で喧々囂々とじゃれ合っている二人の姿は“悪友同士”であった。
そんな二人を眺めていると、ファーラが楽しそうに尋ねてくる。
「それで、狩りの方はどうだったの? すとれーじ・・だっけ? それにいれてきたんでしょ?」
その言葉を聞いて、少しばかり驚く。
確かにストレージの存在をファーラは知っているし、言われた通りそこに獲物は放り込んできた訳だが、まさか確信があるかの様に言い当てるとは思わなかった。
良く解ったな? と聞くとファーラはクスクスと笑いながら答える。
「だって、デュランも一緒に行ったんだもの。何かしら獲って来ただろうなって」
何と言うか、そう長い付き合いでもないと言うのにもはや彼女には、俺と言う人物の分と言うものを見透かされている気すらしてくる。
それでいて嫌な気分がしないのは、その根底に強固なまでの信頼があるから、なのだろう。
再びの苦笑を表情に刻みつつ、俺は音声操作でストレージからヒクイドリを取り出した。
「ストレージ開放・ヒクイドリ放出」
本来であれば光学式パネルで構成されるコンソールを操作すべきなのだが、ファーラを支えている今、両手は塞がっている。
よって、戦闘時等に用いる音声操作を使用したのだ。
放出地点である広場の中央に薄青の光が灯り、波紋状に広がった後には頭部を断ち切られたヒクイドリの巨体が地面に横たわっていた。
「ってちょっ、ちょっと! これヒクイドリじゃない!? どうしたのよ、こんな獲り辛い獲物!」
「はっ! どうでぃ、見たかコラァッ! これがオレのじつりょ」
「オイコラ、パロゴ。オメェじゃなくてやったんはデュランだろーが」
「ウォィッ!? それ言っちまったら」
再び――今度は一緒に狩りに言った男たちまで巻き込んで始まった喧騒に、ジャニア老が呆れた様に息を吐く。
そんな様子を眺めながら、ファーラを横抱きに抱き上げた。
「デュラン?」
未だ力こそ余り入っていないが、俺の首に腕を回しながら小首を傾げるファーラに、俺は小さく苦笑を見せた。
「あの様子ではどうせまた宴だろう。俺もお前も汗を掻いているし、準備が終るまでに汗を流してくるとしよう」
「ん。そうだね。温かいお風呂って気持ちいいし、私も賛成かな」
そう言ってファーラが俺の胸元に頭を寄せてくるの感じながら、ジャニア老に断りを入れ、グリフォンへのゲートを潜るべくファーラの私室へ向かった。