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異界探索行  作者: 詩月凍馬
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閑話 執務室にて

もう既に忘れ去られているだろうな、とは思いますが、更新させて頂きます。

更新停止した当たりで修理した筈のPCに加え、エアコン、洗濯機…と我が家の電化製品諸氏が一斉に壊れ、さすがに一気に買い換えとは行かずに優先順位に従っての買い換えになりました。

PC自体も未だに本調子とはいかないのですが、さすがにこれ以上は空けたくないので、スマホを使っての初投稿と言う形で続きを上げさせて頂きました。

読みづらかったら申し訳ないです。

~エイルバート・ウィル・リオール~


「…どう思う?」


短く尋ねてくる狐人族の女性――ユーディの問いに、僕は小さく肩を竦める。


「どうも何も、完全にこっちを試してるよね、これは」


『月夜の巫女が番と共に来訪した』


領地とそこに住まう民達の生活を預かる領主として、今日も今日とて執務室にて仕事に勤しむ僕達にそれが伝えられたのは、昼を過ぎた当たりだったか。


それを聞いた直後は、僕もユーディも報告に来た兵士の正気を疑ったものだ。

何しろ、今代の巫女殿――ファーラ嬢は我が愚弟の暴走の被害を受け、四肢を失って久しいのだから。

そんな彼女が誰かに運ばれるでもなく、自らの足で歩いて我が領まで出向いて来た等、少々冗談としては悪辣だ。

僕ですらそう思うのだから、巫女殿の実姉であるユーディは言わずもがな。今にも掴み掛からんばかりの剣呑さが瞳に見え隠れしていた。

とは言え、一昔前ならいざ知らずとして、重鎮から末端に至る迄の膿み出しを終え、建て直した兵達にそんな冗談を――それも態々執務室に出向いて迄宣う馬鹿は居ないだろう。

ユーディもまた、そう信じているからこそ、努めて冷静足ろうと大きく息を吸い、吐き出すのを二度程繰り返してから、兵に報告を続ける様に促し…今に至る。

兵が退室してからそれなりの時間が過ぎ、淹れたてだった茶が湯気を出す事を忘れた今になって、漸く会話を交わすことが出来た訳だ。

まぁ、僕にしろユーディにしろ、色々と思う所もあれば、考えるべき事もある。何事もない様に会話を続けるには、余りにデリケートな話題なのは確かだ。

そして、沈黙の後に出た「どう思う?」と言う問いは、ある意味解り易い位の確認でもあった。

だからこそ、試していると言った僕の言葉に、ユーディも小さく息を吐く。


「城門の兵士詰め所に入る迄髪も瞳も晒さず、詰め所を出てからも同じくフードは脱いだ様子がない、と。これで何か起これば兵士からの情報洩れ確実ね」

その呆れた様なため息は、どちらに向かってのものなのやら。

面と向かって『人員レベルから領内の警備が信じられない』と言うかの様な、大胆な真似をやってのけた妹へのものか、それともそうさせるまでに不義理を働き信用を落とした我が領へのものか。

…案外、両方へと言うのが正解かもしれないが。

いずれにせよ、こちらにとっては何重の意味でも、「良かった」と言った所ではあった。


「理由は解らないけど、巫女殿は手足を取り戻した様だし、歩く様子にも違和感は見受けられなかった、か…。そちらは喜ばしいとして、やはり当然ではあるけど、僕達への不信はある、か」


「そりゃぁ、ね。エルにとってもあの馬鹿の暴走は寝耳に水だったろうけど…あの娘にとってはそれどころじゃないしね。ある日いきなり押し掛けてきて、番に選べと迫ってくるわ、強引に関係結ぼうとするわ、挙げ句の果てには月夜の女神の加護で手傷を負った事に激昂して、手足を切り落とす…と、これだからね」


「幾ら僕が関係してない、弟の暴走だって言っても、そんな奴が出てくるのを許した我が領…ひいては我が伯爵家兵不信は拭えないか」


解っていた事ではあるものの、改めて確認するとため息しか出てこない。

アイツが何を考え、または何を吹き込まれたかは知らないが、巫女殿との関係を悪化させて何がしたかったのだろうか?

今頃は遠望の鉱山にて奴隷刑に服しているだろう、愚弟やそれを煽り『改革派』等と嘯いた奸臣連中に改めて問い詰めたい所だ。


「まさか、『水牢姫』の言い伝えを忘れた訳じゃあるまいに…」


此の国の建国記に当たるそれを知らぬ者等、それこそ産まれたばかりの赤子位の者だろうに。

そしてそれを知っていれば、力づくで強引になんて手段で巫女と契れる筈などないと解りそうなものなんだが…。

…もしかして、それすら解らない程に馬鹿だったのか、それともそれを推してなんて程に追い詰められたか、煽られ過ぎて増長したか。

いずれにせよ、馬鹿の前に『超』だの『大』だのが盛大にのる程の愚行なのは確かだ。


幸いにして、愚弟を始めその手の奸臣は既に排除済みではあるし、領内の綱紀粛正には徹底的に力を注いで来た。

今回の『手』を考えたのが巫女殿か、それとも番殿かは解らないが、ある意味、この時期であって良かったと言える。

改革派の連中が燻っていた頃であれば、それこそ巫女殿方が危惧しているだろう事態も起こり得ただけに、心底間に合って良かったと安堵する。


「とりあえず、面会に関しては連絡させた通り、明日の夕刻に行うとして…、急を擁する事ってあったかな?」↓


巫女殿と番殿はそれ自体が独立した一つの勢力と言って良い分、盛大に歓待すると言う訳にもいかない。

こちらにその意思がないとしても、余りに歓待が過ぎれば『囲い込み』とも取られかねない。

まぁ、出来て品質の良い茶と茶菓子を用意する位か。

その程度であれば、領主の身である以上はある意味常備品の範疇の為、単に使用人に手配するだけで済む。


その当たりはユーディも解っているので、小さく頷いて見せる。


「そうね、面会に関してはそれで良いと思うわ。ただ、付け加えるなら近い内に私がまとまった休みを取らなきゃならないって事位ね」


「君が休み…それもまとまったとなると珍しいけど、何かあるのかな?」


普段から僕に付き合わせてしまっている分、ユーディにはどうしても休みが取り難い生活を強いている。

なので休みたいと言うならそれ自体は特に問題はないのだが…。


「あぁ、別に疲れたとかそう言うんじゃないわよ? 巫女と番の選定に関して、村長家の長女としてお役目があるのよ」


ふむ、それは初耳だ。


「元々、『月夜の巫女』には二種類あるの。一つはお伽噺なんかで出てくる方の巫女。そして、もう一つは村長家の娘ね」


「月狐の巫女が二種類ってのも初耳だけど…どう違うんだい? あぁ、イヤ、ファーラ嬢の方は何となく解るけど」


「えっと、まず第一として、私達月狐の村長家って言うのは、代々巫女の家系なのね。この場合の『巫女』は文字通り、神に祈り、感謝を捧げるって意味の。で、今代のファーラみたいにお伽噺なんかで出てくるのは、所謂神様に選ばれた子供。だから正確には『神子』…神様の子って意味ね」


そう言って、ユーディは指を二本立てる。


「この二つの『ミコ』は当たり前だけど、それぞれ役割が違うわ。世が乱れた時に降り立ち、番と共に乱れを正すのがファーラみたいな『神子』の役目。私達『巫女』はあくまで月狐の村をまとめ、村のみんなに月夜の女神の恩調をもたらすのが役目なんだけど、もう一つ特別な役目も担ってるの。それが『神子と番』の裁定と、それに伴った『覚醒』の承認」


うん、これは本気で初耳だ。

何となく、歴史の裏事情を聞いている実感がわいてくるな、これ。


僕のそんな気持ちが解ったのか、ユーディは小さく苦笑して続けた。


「幾ら女神様の選定って言っても、番の選定に必要なのがお互いの絆…もっと言えば、『愛情』なんてものである以上、それだけには頼れないでしょう? ほら、中には『駄目駄目な馬鹿男の方が好みだ~』なんて女だっているもの」


「あ~…確かに、ね」


うん、それは僕も知らない訳じゃない。

領主なんて立原に居ると、領内で奴隷に身を落とす民の情報なんかも当然上がってくるのだけど、その中にはろくに働きもしない駄目男に貢いだ挙げ句に、なんてのも決してゼロではない。

個人的には、なんでそんなのとくっついたんだと思わないではないが、まぁ、そこが男と女の事情って奴なのだろう。


「まぁ、個人的な好みなんて人それぞれ、ではあるんだけど…絶大な力を約束された番がそんなのとか、マズイじゃない」


「あぁ、うん。それは確かに」


絶大な力を明後日の方向に振るう駄目人間な番とか、マズイ所の話じゃないな。


「だから、その為の保険って言うか、まぁ、そんな感じでね。『神子と番』本来の一種超越的な力って言うのは、本人達だけじゃ得られない様になってるのよ。少なくても、裁定者である『巫女』に人間性を認められてって言うのが最低条件。その上で、私達月狐の聖地に当たる月夜の祭壇に出向いて『巫女』を伴った儀式を行う事で、改めて女神からの認定を貰うのね」


なるほど、当たり前だけどそれなりの手順は踏まなきゃならない訳だ。

となると…



「あぁ、つまりはその儀式を行う為に、って訳か」


そう言う僕に、ユーディも

頷く。


「そ。とは言うものの、まずは人間性の確認が先だけど…どっちにしろ、しばらくは一緒に過ごす事になるし、日常の行動だとか考え方を見たい訳だから、仕事してる私達の側に置いとくってのも違うしね」


それはそうだろう。

僕らは大概執務室で1日を過ごす訳だし、この部屋のソファーにずっと座ってろって訳にもいかない。

こっちの事情はどうあれ、執務姿を見てるだけじゃ暇だろうし、普段の行動なんかも見えて来ない。


「だからまぁ、しばらくは妹の恋人を見定めるって名目で一緒に過ごして、合格だったら儀式なんかについても話す形になるわね」


そう言って、ユーディはクスリと笑う。

うん、まぁ、楽しそうで何より、かな?

いきなり小姑に付きまとわれる事になる番殿には、少し同情…


「…ねぇエル。貴方、今変な事考えてない?」


「いやいやまさか、滅相もない」


あはは、相変わらず勘が鋭い事だね。

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