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ゲーミフィケーション・ゲーマーズ  作者: 夢物語
~1日目~
4/26

4、逃走から始まるヒロイン

 そして、一目散に逃げる。


「お、おい、待て!」


 相手が宙に浮いた服に気を取られている瞬間を利用して、多少でも時間を稼がせてもらう。

 その間に、彼らが来た道とは反対の道から住宅街へ抜けるための曲がり角まで走った。


「こいつの服の中にパンがあったぞ!」

「あいつ! やっぱり犯人だったのか!」


 やっぱりと付けられている辺りに自分の選択が間違っていなかったようだ。もし素直にパンを渡していたら、ご褒美に手錠な、と受け取っていたかもしれない。

 とにかく距離は少しだけでも稼げた。

 大体二十メートルぐらいだろうか、後ろを振り向けば二人が並んで自分の後を追いかけてくる。


「あんのクソ犬がぁ……!!」


 思わず叫ばずにはいられない。天からの使者だと、一瞬でも信じようとしていた自分が恥ずかしいくらいだ。今度会った時にはパンであの口を一杯にさせて吠え面かけないようにしてやる。

 新たな決意を胸にしつつ、港から住宅街へと駆け込む。

 真っ直ぐな道が多いところよりも、住宅の方が入り組んだ道の方が巻くことが出来るはず。体力の差が雲泥の差である以上、短期決戦でしか自分に道はない。

 後ろを確認して、先ほどと距離は変わっていないことを把握する。

 どうやら相手の重装備に対して、こっちは軽装。この差が一応スピードの均衡を生み出してくれているようだ。

 だが、距離を離すことも出来ない。

 全力疾走しないといけないことは間違いなかった。


「痛ッ!!」


 住宅街に入れる道、そこで曲がったのだが、避けきれずに誰かとぶつかってしまった。やはり住宅街ということもあって、人がいることを想定して大回りする必要があった。

 ぶつけられた相手は少女で、肩を抑え、こちらを睨んでいる。ちゃんと前見ろと言わんばかりの鋭い眼光だ。


「悪い!」

「あ、ちょっと!?」


 とにかく形だけの謝罪で、後ろを振り返る事もなく走る。仕方ないと自分に言い聞かせるしかなかった。


「あぁ……きつい…………!!」


 ゆるやかな坂道を見て口の端から文句が漏れる。気持ち大きなステップで上っていくしかないだろう。

 ほとんどの人が食事時であるために家に入ってしまっているのがありがたかった。先ほどはぶつかってしまったが、今度はしっかりと疎らな人だかりをかわしていく。

 なるべく小道、大通り、そして小道と、複雑な道順を選択。ふらつきそうになる足を奮い立たせ、鋭角に曲がっていった。そうすれば相手も見失う可能性が高まるはず。

 自分の作戦ではこれで相手が見失うことを望むことだけ。耐えるしかないのだ。

 体育でやったマラソンや百メートル走よりも、精神的にも肉体的にもきつい。


「つぎ……!」


 今度は左に曲がって、大きな道に出る。

 城まで続く奥行きのある坂道がまるでゴールが果てしないことを告げられたようで辛い。正直に言えば、後ろのヤツをまければそれでいいのだけれど。

 それでも走るしかない。

 理不尽なこの世界を快適に過ごしていくためにも走り続けようとする。今度は曲がり道が存在せず、暫く直線を走らされることになりそうだ。


 ここでもう一度後ろを振り返って確認する。相手とは少しだけ距離が離れたが、微々たるもの。相手の視界から消えることまでは出来ていない。

 まるで後ろから付いてくるパーティーみたいだ。喚き続けて俺を離そうとしないし、余裕さえ見受けられる。

 ……そしてだ。作戦を立てたはいいが、思った以上に自分の体力はなかったのを計算に入れていなかった。息は既に上がりきっていた。


 半日ずっと歩いていたこともそうだが、何より、空腹の状況下でこのダッシュは身体に無理をさせている他ならない。いつ倒れてもおかしくない。

 こういう時にどうするか。

 定番としてなら、逃げて無理なら一瞬の隙を付いて隠れる。むしろ相手の様子を見るにそれしかないだろう。

 どこかのタイミングで曲がって、相手からの視界から逃れた後、隠れる場所を探す必要が出てきた。


「ぐ……くそぅ……!」


 心臓が飛び出そうと、胸の中で暴れ、俺を苦しめてくる。ここまで走ってきたが、やはり限界だ。

 次の曲がり角で何か段ボールでもあることを願うしかない。何ならゴミ箱でもいい。

 小さな希望を胸に。見えた小道に駆けこむ。

 そこには――――


「…………マジかよ……」


 壁だ。物語の定番と言えそうな壁が行く手を阻んでいた。

 両端にも壁、道には段ボールも、ゴミ箱も存在しない。

 まさに俺を捕捉するために用意されたとしか思えない道に、俺は入ってしまった。引き返して逃げなくてはいけない。

 そう考えても、足は既に棒にもなれず、紙切れのようになっていた。

 一度止まってしまって、力が抜けてしまったのがあるのだろう。その場で崩れ、膝を地面に付けてしまう。


「ッ……」


 もう声も出ない。肩で息をするのが精一杯だ。

 そして……絶望の足音はすぐ後ろから聞こえる。


「ったくよ、俺たちから逃げられると思ってんのかよ」

「全く。そんな逃げても仕方ないだろうに」


 相手が何故そこまで元気にいられるのか不思議なぐらいだった。軽く深呼吸をするぐらいで、自分とは違う。ゲームばっかりしてないで、運動するべきだったかなと今になって思う。


「逃げたとしても、指名手配されることを考えなかったのか?」

「……どっちにしても……捕まるだと……」

「そりゃあまぁ、犯人なんだからな」

「…………くそぅ」


 今更犯人じゃないですと言って上手くいったゲーム展開はない。ここから先にあるのは捕まって、犯人が裁きを受けるといった正義が勝つストーリーだ。

 テクタが屈んで背中に手を回したと思うと、そこから一つの縄を取り出してきた。


「大人しくしろ……と言っても、その状況じゃ何も出来ないだろうな」

「正法や攻撃をしようなんて考えるなよ。変なことをした瞬間にお前の首を掻っ切るからな」


 獣人は気性が荒いのかもしれない。クライは敵意をむき出しにし、剣を取り出して、いつでも切りかかれるように構えた。

 駄目だ。これ以上、説得出来る気がしない。


「で? どうやって動物たちを操っているんだ?」


 一方の人間であるテクタは比較的優しい言い方で聞いてくる。

 だがそんなこと言われても、こっちが答えらる訳がない。むしろ動物に弄ばれたのだから、黙って首を横に振ることにする。正法の概念がある以上、迂闊に口にすることが出来ない。


「じゃあお前はどこに動物を匿っているんだ?」


 その答えも同じ反応をするしかない。

 クライはイライラを隠さず舌打ちをした。それを横目で見ながら、テクタが根気よく質問をしてくる。


「お前……ユーマと言ったが、どこの出身なんだ?」


 それなら答えられる。


「……に、日本……」

「ニホン? 二本ではなく?」


 今度は頷いて見せた。が、それは相手を困惑させるだけで、何も良い答えになっていない。

 そして、相手が見せた表情は予想通りの顔である。互いに見合い、その名前に覚えがあるかを確認しあっていた。


「そんな群あったか?」

「いや、街でも国でも、集落でもそんな奇抜な名前はねぇよ」


 そう言って獣人の方が腰に掛けていた自分のパーカーを取り出す。


「この服もそれだって言うのか?」

「……はい」


 厳密に言えばメイドインチャイナだけど、この際どうでもいい。


「ったく。相変わらず人間は嘘付くのが下手だよな」


 そう言ってパーカーをこちらに投げつけてくる。パーカーはそのまま胸に当たって太ももへかぶさるように落ちた。下手に動くことが出来ないため、仕方ないことではある。

 それよりもクライがこちらに顔を寄せてきたことに対してのけ反りそうになっていた。


「正直に言え。お前、リガードの回し者なんだろ?」

「リ……リガード……?」

「は! 隣の国の名前を知らないとはぁ、とんだ箱入り娘さんだな。いや都合の良いど忘れ野郎か」

「兵国ゴル・バ・リガードのことさ」


 説明をしてくれてもやはり知らない。意見することも、疑問を口にすることも出来ないため、出来ることはただ黙っていることだけであった。

 そしてそれを相手はどう読み取ったのだろうか。呆れたような目でこちらを見てくることは分かるのだが。


「……駄目だ。こいつには言葉が通じねぇみたいだ」

「そうだな。ここで話していても時間の無駄であることには変わりない」


 言葉が通じない、時間の無駄と言われて軽くショックを受けつつ、それでも黙っているしかない。

 テクタが手を出すように命令をしてきた。縄で縛りあげるつもりなのだろう。どうしようもない。とりあえず牢獄で食事にありつくことを優先するしかなさそうだ。

 いつになったら釈放されるか、そんなことさえ考えていた。


「さぁて、とりあえず話は――――」

「……悪いけど、そいつの面倒は私たちに見させてもらうわ」


 それは唐突、割り込むような声で聞こえた。

 若く、少し少女にしては低く落ち着いた声だった。みんなが一斉にそちらへ注目することになる。

 先ほどの曲がり角付近の壁にもたれ掛るように、彼女は立っていた。


 自分より頭一つ分小さい身長の彼女は自分より年下なのだろうが、雰囲気は自分よりも大人びているように感じる。

 金色の綺麗に整えられた髪、ロングコートを身に包み、ブーツ。膝丈程度のスカートを履いたその姿はどこかのエージェントかと言いたくなるクール系であった。

 そしてそこまで少女を見て、ようやく気付く。

 そいつは一番初めの曲がり角でぶつかっていた少女であった。


「あん? 誰だよ、お前」

「王国直属ギルド、ラインアウトのメンバー。エミリー・キャロライン」


 素っ気なく答えられたことに対して、クライの表情に変化はない。目を細めたまま、剣を下げようともしない。


「なるほどな……で、王国直々に依頼されたりするギルドさんがここに何用だよ?」

「そこにいる男。用があるからこちらで預かるって言っているのよ」

「はッ。そりゃあ気に入らねぇなぁ……先に獲物を見つけたのは俺たちだぜ?」

「なによ? 猫だって譲り合う気持ちがあるのに、小さな男ね」


 壁から離れ、こちらに向き直る少女、エミリー。視線は威嚇するクライの表情、揺らぐ事なく見続けていた。


「お前らこそ、王国直属だから何だと威厳だけ振り撒く小物じゃねぇか」

「そうやってぐちぐちと言い返すところが、小さいって言っているのよ」

「お前だってそうだろうが。そもそもお前らの勝手で、こっちは振り回されて迷惑してんだよ!」

「別にあんた達が迷惑することじゃないわ……もう、さっさとして」

「何……だとぉ……!」


 隣から歯軋りする音が聞こえる。

 彼女が焦るべきなのに、あの余裕は一体何なのだろうか。一触即発の事態であることをあのエミリーはちゃんと認識しているのだろうか。

 その時、指先一つ動かさなかったエミリーの視線が自分へと向けられる。

 見透かされるような視線、といえばいいのだろうか。数秒の間、自分を値踏みされていたように見つめてきたかと思えば、直ぐにクライの方へと戻していた。


「なら。口では解決しないようだし、何ならこいつを賭けて、どうかしら?」


 そう言って彼女は拳を突き出す。


「……面白れぇ。上等じゃないか」

「おい、クライ!」

「黙ってろ! 女にここまで言われて引き下がれるかよ!」


 相方の言葉にも耳を貸さないクライ。既に彼の頭の中には撤退という文字はないようだ。

 剣を地面に突き刺し、喧嘩の売った元へ歩いていく。


「おい、前言撤回するなら今だぜ。俺は男女平等主義だから容赦をしないぞ?」

「と、言う割にさっき女に言われてなんて差別してるわね」

「…………はッ。その減らず口、二度と開けないようにしてやる……!」


 やはり衝突は避けられないようだ。互いに向き合い、そして相手の行動を窺って、固まった。

 勝負の行方だが、どう見ても獣人の方に分があるように思える。

 丸太のように太い腕の彼に対し、彼女の腕は小枝のように細い。一撃でも受ければ簡単に折れてしまうだろう。力で勝てる見込みはまずない。

 体力の差も彼女の方がないように見える。

 クライは俺を追ってきたとはいえ、ジョギングをしたとしか思っていない。一方の彼女も走ってはいないが、非力な面で劣勢に見えるのもある。

 やはりそれも考慮にいれると、長期戦でも難しいことだろう。

 ……でも、だからだろうか。これはゲームでよくある勝ちフラグである、と。

 彼女が勝つ、なんて展開が自分の中では見出せていたのだった。


「さて、と」


 彼女は腰に手を当て、クライに向けて口角を上げて見せた。

 何を仕掛けてくるのか、そう気構える彼に対して彼女はやることはたった一つ。

 男の横を素通り、こちらに向けて歩き始めたことだった。


「……は!?」


 クライは何もしてこないことに驚き、俺とテクタが呆れて口を開いている。


「あのさ。あんたにもう一度確認したいんだけど」

「な、なんだぁ……」


 弱々しい俺の反応に対し、彼女が見せた表情は小馬鹿にするような笑みだった。


「あんた、ユウマだったわね。出身は?」

「に、日本だが……」

「ニホン……なるほど……」


 顎に手を当て、考えるようなそぶりを見せた彼女はボソッとこう呟く。


「黄金の国ジパングとは恐れ入ったわ」

「え?」


 その言葉の意味を聞く前に、クライが怒声を上げていた。


「なに敵に背ぇ向けてんだよゴラァ!!」


 怒りをそのままに、身体を捻り、体重と威力を込めた正拳突き。体格差を考えると殴り下ろすと表現してもいいかもしれない。

 鉄板でも凹ませそうな力強くて固い拳、当たれば痛いで済まされない。


「危ない!」


 しかし彼女はこちらを見続け後ろを確認しなかった。


「まぁ、」


 言って、そのまま首だけを傾げる。

 コンマ数秒の後、拳は彼女の顔を横切っていた。長い髪に触れただけで、彼女自身に被害を与えることはない。

 皆がその行動に驚く。まるで背中に目でもあったかのようなかわし方、そして最小限の動きに。

 そして彼女は表情一つ変えることなく、俺にこう告げたのだった。


「助ける価値はあるようね」


 ようやくエミリーは相手の腕、身体を視認した。

 驚くクライ。そんな彼の腕を彼女は両手で素早く掴む。

 重い物を綱でも引っ張るかのように、彼女は両腕に力を込めた。


「うおぁ!?」


 突きによって前かがみにさせてしまったクライの身体。流石に体重差から一本背負いのようなことはされなかったが、勢い余った彼の体に自由はない。

 腕を掴まれ、引っ張り出されたことによって彼のバランスは失っていた。


「ちくしょう!」

「甘いわね」

「何だと――――って、な!?」


 彼は急いで体勢を整えようと、地面に付けた両足の片方を離していたのだった。

だがそれを彼女は予想していたのだろう。

 意地悪い笑みで、彼女は引っ張っていた腕を放した。思わぬ開放感に彼は何も出来ない。

 そして流れるような動きで、前のめりの体勢の彼に肘打ちをかましたのだ。

 鎧のない継ぎ目の部分を的確に狙った横腹、突進のような体重移動でぶつけたそれは十分な威力を生み出していた。


「がはぁッ!」


 片足で踏ん張ることも出来ない状態での衝撃、まともに受けては体勢などと心配出来ない。

 次に考えることは地面への衝撃に対する防御策だけだ。

 横っ飛びに吹っ飛んだ彼はそのまま二、三メートル地面の上で転がり、咽てしまう。

 まさに渾身の一撃。

 見ただけでも、彼がすぐに起き上がるとは思えなかった。


「そうやって咽ているだけなんて。流石、警備兵ってだけはあるわね」

「……まじかよ」


 そう呟かずにはいられない。

 確かに彼女が勝つ予想をしていた。しかし、これほどまでに圧倒的だとは思わなかったから。

 わずか数秒の出来事なのに、思わず俺は口が開いていることさえ忘れてしまっていた。

 ターン制もタイムもポーズ画面も存在しない、まさに一瞬の出来事。ゲームとは違った、危険だと感じる臨場感に、終わったときの昂揚感。

 リアルタイムでの戦闘。それは未だに自分の目に焼きついていた。

 これがバトル、そう感じさせられたような気がする。

 そして――――今までに感じたことのなかったゲームであった。


「畜生がぁ……!」

「さて、これからどうする?」

「まだだッ……だ…………!」


 彼は実際まだ出来たのだろう。横からの重い一撃を受けたとはいえ、彼も日頃から鍛錬をしていた兵士だ。鍛え方が違うだろうし、少女相手にこんな一瞬で屈するわけにはいかない。

 だが、諦めきれない気持ちを捨てなければならないものが、彼女の手にあった。

 そしてそれを見て、クライの顔は苦渋に歪む。


「……今になって武器を使うなんて卑怯だぞ……!」

「別に武器が禁止なんて言ってないわよ? 記憶障害でもあるのかしら?」


 彼女の手に握られていたのは、一つの銃だった。黒を基調に赤いラインが入ったハンドガンのようなもの。しかし俺の知るハンドガンではない。

 だってそれは、手のひらから生み出されるように出てきたのだから。まさに正法の銃という訳だ。彼女はそれを横たわる男の眉間に狙いを定めていた。


「参ったと言ってよ。私は別に墓標が書きたくて挑んだわけじゃないもの」

「舐めんな、誰が!」

「……分かった。俺たちの負けだ」


 そう言うのは俺の隣で対決を見守っていたテクタだった。


「おいテクタ、勝手に決めんな!!」

「分かっただろ? この後戦っても結果は見えている」

「そんなもの……!!」

「クライ……俺たちは警備兵だ、諍いをするために存在するのか!?」

「……。……ちッ」


 テクタの叱咤にクライも舌打ちしつつも黙る。テクタはすぐさまクライの元へ駆け寄って、肩を貸している。自分のことを完全に無視しての行動だ。


「え、え?」


 つまりは決着、俺は逮捕から逃れられたといっていいのだろうか。


「じゃあこいつは私が責任を持つわ」


 あ、違った。別に逃げられたんじゃなくて、捕まった相手が変わっただけだった。

 彼女はハイエナであって、天使でもなんでもない。

 所詮自分は既にゲームでいうハントされるモンスター。狩られた身であって、逃げることも抗うことも出来ない。まだ安心するには早すぎるということだ。


「渋い顔になっているわね。そんなおかしなことでもあった?」

「……エミリーとか言ったよな? お前一体何者だよ」


 先ほどのかわし方といい、迷いのない攻撃といい、彼女は戦い慣れているように見えた。

 それだけでも何者かと問いたいところなのに、戦い始まる前の発言。

『黄金の国ジパング』

 この世界には存在しえない日本の別名を知っていた。それがどういうことか。


「もう分かってるんでしょ?」


 エミリーも、俺が言ったことを理解した上で聞き返す。

 彼女はチラッとテクタとクライの様子を見た。相手もこちらを観察するように見ていたのだが、諦めたように吐息を出すと、そのまま住宅街の大通りへと消える。

 それを見届けてから、彼女はこちらに手を差し出してきたのだった。


「エミリー・キャロライン。出身国は、アメリカ」

「……ということは」

「そう。あなたと同じ、ゲーマーだわ」


 その言葉を受け、俺は差し出された手を受け取ることを決めたのだった。

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