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ゲーミフィケーション・ゲーマーズ  作者: 夢物語
~1日目~
3/26

3、動物から始まる出会い

 とりあえず、今いる交国ライン・ド・パレイアというのについて、情報を整理してみよう。


 交易の国として栄えているため、言いやすいように交国パレイアと名乗られているようだ。

 隣接する透き通った海、港から降り行く多種族の人、そして他国からの食材が並べられた鮮やかな店舗がこの国を色づけ、特徴を与えている。

 堀で囲まれ、石とレンガ造りの街並み、そして真ん中にそびえ立つ城も見事なもの。最初に訪れたものは、これらを目にして、必ず感嘆の声を上げるだろうと評価されるほどのようで。


 そんな街の概観は、雰囲気にも影響している。

 レンガ道を歩けば、パラソルの下で紅茶を片手に語り合う人々。談笑している姿をよく目にし、店の中の賑わいも外から見えた。

 穏やかな天候と、みんなの笑い声がBGMとなる、まさに平和を形にしたような街。これがこの国の良いところだと誇ってもいいかもしれない。


 そして、この街の他国との関係。

 港交易として栄えるこの国は、港を通じて多くの国と繋がりを持っているようだ。

 リアルで言う東京から大阪を商船で結ぶ役割をイメージしているが、あながち間違いでもないだろう。


 魔法の発掘、第一人者が多い魔法の国、魔国リレ・ア・フィアル。

 技術研究の先駆者がとされる研展の国、研国プレジ・エ・リーチェ。

 創造神を崇め、孤島で鎖国気味な神権の国、神国サラ・ジ・メティア。


 主に国交として開き、繋がりを持つのはこれらである。

 また他にはパレイアの唯一の隣国。陸続きに位置する兵国ゴル・バ・リガードも国としては存在する。

 しかしこの国はあまりパレイアの間ではよろしくない会話のようで、あまり目立った情報を聞けていない。近さゆえに、互いににらみ合っているのか。結局分かったのはあまり関係がよろしくないということぐらいか。


 なにはともあれ、この世界には敵という概念はないということ。

 どこかの世界を半分やるから、ぐへへへと言った悪役は存在しない。倒すべきものはいないということだ。今のところ。

 ……こんな感じか。街中での見聞で手に入れられた内容を頭の中で整理してみると。

 

 しかし、これで一体どうやって金集めの話に持っていけるだろうか。

 正義のヒーローになれるわけでもない以上、やれることは畑作業ぐらいしかない。


 海を眺めつつ、何度も自問した内容ではあるが、答えは一向に出てこない。

 計画を立ててこの世界で生き抜くためにも、一にも二にも情報が必要なのはまず間違いないが、やはり歩いただけで手に入る情報などたかが知れている。

 更に情報を仕入れるためには、やはりバーといった情報が流れゆく場所で聞きに行かなければならない。しかし、それには金がいる。

 金を手に入れるためには情報が必要で、情報を手に入れるためには金が必要……なんだこの無限ループ。

 ゲームの中のように重要なキーワードだけを言ってくれる人達ばかりではないし、


「くそぅ……どうしたらいいものか」


 そう呟いた瞬間に、まずやることがあるだろうと腹の虫が騒ぎ始める。

 ここに来てからというもの、食べ物を口にしていない。

 三時間ほど坂道下り道と歩き続けて情報収集をしていたのだが、このままではいけない。

 情報よりも、先に満たすべきものがあるのを思い出させてくれた。


「誰でもから、パンか何かを渡してくれないかなぁ」


 ぼやいたことによる優しい勇者の登場を期待して、チラッと後ろを振り返る。

 晩御飯の用意のために港近くの魚売り場へ集まる人だかりがそこから眺められた。

 顔にラインを入れ、耳が少し尖った天人や、面接の時と同じような獣の顔をした獣人。そして自分と同じような人間。

 それぞれがそれぞれ、片手に同じ金貨、銀貨を手にしながら買い物を楽しんでいるようだった。当然福沢さんを手にして交換なんてしていない。

 因みに自分のぼやきに対して誰も見向きはしなかった。ぼさっと石ブロックに座る奴なんてモブA的な存在でしかないのだろう。そりゃあ自分だって同じ立場なら無視している。


「はぁ……」


 諦めて、もう一度海と見つめ合うことにする。

 地平線まで伸びた海はとても美しく、いくらゲームで見てきたといってもここまで美しい海を見たことがなかった。リアルでもこの透き通った青色と銀色の世界を表現できるかどうか。いや、ないだろう。


「……」


 本当に深く、包容力のありそうな海だ。

 きっとこの海に飛び込めば、魚と戯れつつ、幸せに沈むことが出来るに違いないだろう。

 この苦しみからも、海ならば解放してくれるはず。

 もしかしたら次の転生で、お金持ちにしてくれるかもしれない。

 おれ、幸せハッピー計画、万歳。

 あはははぁ……。


「…………やべぇ」


 空腹のせいか知らないが、一瞬だけかなりナーバスになっていた。いかんぞこれは。

 もうとにかく、今は耐えるしかない。

 そうだ。こういう何も出来ない酷い状況からコツコツと快適な生活にしていくゲームだってあった。一文無しということを除いてなら状況は同じ。

 何千のゲームをやった俺なら、この異世界だってきっとクリアできる。これはまだプロローグでしかないのだから。

 この後、俺の哀愁漂う姿に見かねて、心優しきヒロインが登場するはずだ。

 それから「良かったら、私の家に……」なんてシーンとなって、物語が展開していくのだろう。ギャルゲーでの鉄則であるはずだから、そうに違いないというかそうであってほしい。


 まずはヒロインだ。ヒロインが現れないことにはこの物語も始まりやしない。

 早速だが食料、寝床、金を提供してくれるヒロインを探すことから始めようか。

 だが、そのためにはやはり足を使うしかない。出会いはやってくるものではなく、自分から作るもの。ゲームだろうが、リアルだろうがそれは同じだ。

 最初に話せた、もしくは話し掛けてきた相手がヒロインであると決めて、そこから攻略を始めていく。

 何なら俺のギャルゲーコミュニケーションスキルをいかんなく発揮して、恋愛ストーリーに発展させるもよし。


 よし、少しだけ生きる気力が出てきた――――


『ハフ!』

「……ほぅ」


 さっそくだが、第一ヒロイン発見。

 特徴、クリッとしたつぶらな瞳に金色の少しぼさついている毛。尻尾は自分に興味があるようで左右に振っており、垂れ下がった耳は可愛らしさを助長している。


「君が……ヒロインなんだ……」


 うん、見た目が可愛いことには間違いない。思わず撫でたくなる可愛さである。

 ……後は犬じゃなければ完璧だっただろう。

 もうメスかどうかなんて関係ない。


『バフ!』

「悪い。今から海に飛び込むために自決をするから、待ってるんだ……」


 飛び込むときに巻き込みたくはないので、向こうへと追いやろうとする。

 しかし、手で遠くへ追いやろうとしても、わんこは足元にすり寄ってきて離れようとしない。何度もこちらに振り向けと言わんばかりに鳴いてくるのだ。

 絶望色に染まった俺に、これ以上何を求めるのだろうか。

 気になってわんこの加えているそれを目にし、そして犬以上に叫んでしまった。


「それはもしかしてパァン!?」

『ワフゥ!』

「まさか…………くれるのか?」

『フシュ!』


 何を言っているのか分からないけど、パンを加えた口を動かしてはこちらに渡そうとしているのが分かった。手渡しならぬ口渡し。

 手を出せば、わんこは手のひらにパンを置いてくれた。


『ワン!』


 やるべきことはやったと、その場を離れ、駆けていく。

 目の前に残されたのはたった一つのパンだ。小麦色に焼かれた細長いコッペパン。まだ出来立てなのか、手のひらから感じる温もりと共に、麦の焼けた良い匂いが唾液を誘う。

 少し犬が噛んでいたせいで湿っているのだけれど、この状況では別に構いやしない。

 思わず両手でパンを、天に掲げる。

 神様はどうやら俺のことを見放してはいなかったようだ。これからも頑張れ、きっとそう応援してくださっているに違いない。だから天からの使者をよこしてくれたのだ。そう信じよう。

 さぁ、いざ食さん。


「ここら辺にいなかったか!?」

「いや。来たのは確かなんだがな……!」


 わんことは反対側の道、獣人と人間の男二人が息を切らしつつ、そんな会話をしていた。

 夕方のこの落ち着き始めた時間に何をそんなに慌てているのだろうか。

 よく見れば片方は剣、もう片方にはナックルを装備していらっしゃる。

 物騒な事件でもあったのだろうか。

 悲しいことに、どこの世界でも犯罪はあるようだ。


「あの野良犬が……! 今回は食べ物を盗みやがった! 本当にたちが悪い!」

「どんな食べ物だ?」

「細長いパンだ」


 ……不思議だ。食料はここに来てから一度しか手にしていないのに、非常に見覚えがある。


「店主がそう言ってたぜ」

「とりあえずここらを探すしかない……」

「…………なるほど」


 聞こえてきた内容を元に、まずは目の前にあった食べ物を確認、納得。

 その後、ばれないように服の中へと隠すことにした。

 まさか神様はそんな試練に続いて試練を与えるなんて思えないのだけど、あらゆる可能性を想定して、隠すことにした。

 とにかく今は他人のフリをすることが一番である。私は無関係者なのだから。


「おい、そこで黄昏しているお前」

「……」


 ファッキュー、神様。


「おい! 聞いているのか!?」

「……何だよ?」


 後ろを振り返れば、先ほどの雄々しい二人が腕を組んでこちらを見下ろしていた。

 獣人の方は偉く不機嫌で、犯人を見つけようものなら事情も聴かずに襲い掛かりそうな勢いである。

 人間の方は渋い顔をしているのは一緒だが、どちらかと言うと困り果てたといった様子であった。

 同じ種族だからというのもあるのだろう。人間の方がこちらに話し掛ける。


「俺は警備ギルドのテクタ。こっちは同じギルドのクライだ」

「あ……悠馬だが」

「ユーマ。別に大したことではないんだが、ここら辺でこれぐらいの野良犬を見なかったか?」


 そう言ってジェスチャーでミカン箱ぐらいの大きさを示してくれるテクタさん。

 確かにそれぐらいの大きさの犬をつい数分前に見た気がする。ご丁寧にパンも加えていたことも記憶に新しい。

 胸元から体温とは別に温もりを感じながらも、冷静かつ迅速に首を傾げた。


「本当にそんな犬を見たことはないか? 金色の毛並をした犬だけど?」

「いやぁさっぱりだなー」

「パンを咥えた犬だぞ? かなり目立っていたと思うんだがな?」

「へぇー。その犬が何をしたのか?」


 俺が質問したことに対して、二人は眉を潜める。


「最近の事件のやつだよ。動物が店の物を盗む事件」


 最近の事件として犬が食べ物を盗むのが話題なのか。えらく可愛らしい事件に思えるのに、こうやってギルドとやらが動いているところを見ると、裏で何かあると勘繰ってしまう。

 ……ま、今は考えても仕方ない。最近の事件を知らないことが変に疑われるきっかけになりそうだ。


「とりあえずだ。犬がここまで来たのは目撃してるんだ。本当に知らないのかよ?」

「俺もさっきからここにいたけど、そんな特徴のある犬は目にしてないなー」


 とにかく見ていないで押し通す。それでこの二人おさらば出来るはず。


「まさか別の場所に逃げたのか?」

「可能性はあるけど、ここは港で、目の前は海だ。逃げ場なんてほとんどないな」

「じゃあどうなる?」

「それよりも前から考えていた協力者が存在するという線が強いんじゃないか? 正法を使用したなら、一応俺たちの足から逃れることは出来るんだから」

「だが、それならそれで目立つぜ。かなり早いし、痕跡があるはず」

「……と、なるとこの子が気付かない訳がない」

「こいつは見ていないという」

「……うーん?」


 ゲームでもそうだが、嫌な流れと言うのはどうしてこうも分かり易いものなのだろうか。


「犬がこっちへ行ったのは何より俺たちが目撃している。犬は消え、ここで怪しいのはたった一人のこいつだけ……」

「怪しいとは心外だ……。この悲壮感と哀愁を背中から感じ取れないのか?」

「テクタ。そもそもこいつ、どうしてこんな場所で座っていたんだ?」

「おいこら無視か」

「事件も知らないと言っていたし、見慣れない服をしている。こいつ、もしかしてこの国の住人じゃないのかもしれないぞ?」

「なら、俺たちの知らないことを知っていてもおかしくない、か……?」

「……」「……」

「はは。そんなじっと見られると、ドキッとするだろ?」


 どういう意味なのかは言いませんよ、あえてね。

 何故だろうか、二人の目が先ほどよりもきつくなったような気がした。

そしてこちらに指を出したと思うと、俺のパーカーを指定する。


「服の中ちょっと見せろ」

「痴漢かな」

「お前には興味ねぇよ」

「ユーマ、君を疑いたくないんだ」

「なら信じることから始めることだな。俺が無実ということを信じるんだ」

「信じるためにも服の中を調査させろって言うんだ」

「…………」


 こういう時にゲームの選択肢ほどありがたいものはない。だって一旦考える時間があるんだから。何ならポーズ画面を表示してもいい。

 などと余計なことを考えている間にも、男たちは剣に手をかけて近づいてくる。


「さぁ、早くその奇妙な服装を渡すんだ」

「……分かりましたよ」


 仕方なしにパーカーを脱いで、それを天高く投げ捨てた。

8/10 感想をもとに設定を更に付け加えました。コーチャーさん、碧空澄さんありがとうございます!


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