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ゲーミフィケーション・ゲーマーズ  作者: 夢物語
~3日目~
25/26

25、衝撃から始まる行動

 その一言はあまりにも衝撃的だったようで、みんな何も言えずにいた。王女は真偽を確かめるために俺の方を見つめ、エミリーは嫌なことを聞いたように顔を歪める。誰もが何も言えずにいた。

 そんな中で、空気ぶち壊したのは一人のお喋りやさんであった。


「え、まじですか。リア充だったのですか!? ロミジュリ関係だったなんて、オーマイガッツ! ってか物語の世界で夫婦でした展開なんていらないですよ! ERGの展開なんて物語上いらないですから!」

「フィリスはもう黙るんだ……」

「なぜなんですか! これは物語を語る上では意味のない――――」


 そこでエミリーがフィリスの口元を抑え込む。


「夫がこの世界にいただなんて聞いていないわ。確かに夫がいることは言っていたけど、それ以上のことを私は聞いていない」

「それは黙ってましたから……。もう私とは関係ないと考えていたからです……本当は言えなかったというべきでしょうが」


 エミリーはその言葉を聞いて、不機嫌な顔に変わっていた。それは彼女からしたら頼られていないという証言でしかないのだ。今まで一緒にやってきた仲間としてこれ以上悲しいものはない。いや、彼女の場合は憤慨なのかもしれないけど。


「この世界にいる以上、関係ないわけないじゃない」

「すいません……」

「謝られても……じゃあ説明して。何でもう一緒じゃないの?」

「……お互いのやり方に合わなくなって、それで喧嘩して、別れたんですよ」

「で、今は敵同士になる……と。皮肉なものね」


 簡潔に説明されただけだが、その間にどんな衝突があったのだろうか。二人はゲームで繋がっていた夫婦だったはずなのに、こうやって敵対してしまう理由とは何か。

 実力で世界を統べるのか、会話で世界を統べるのか。この二つのゲーム思想的な考えから衝突が起こったとでも。いや、夫婦ならそれで何度か話し合うこともあってもおかしくない。なら裏切りがあったとでも考えるべきなのだろうか。でもそれにしては彼女がここまで隠す理由にはなれない。何が選択肢として出てきたのだろうか。

 気になる点として出てきた二人が敵対する関係になった理由。この展開もやがて一つのエンディングにつながるとうのだろうか。それとも、また伏線だけとなるのか。


「ユウマさん?」

「ん? あぁ、何だ?」


 パレイアが俺の顔を覗き込んでくる。


「正直、勝てる見込みというのはどれくらいなのかな? 現状の可能性で構わないけど……」


 勝てる見込み。あいつとの国を賭けた大きな展開。オンライン対戦のように、相手が目の見えないところで、国を操作し、兵を動かし、そして勝敗を付ける。しかし相手はこういったことのプロだ。経験と実績が違いすぎる。

 もちろん平和交渉も望めそうにない。もう戦う以外に選択肢は存在しない。相手の戦力、戦略、行動を知ってからが対戦で勝つと言われる戦略シミュレーションゲーム。負ければもう負け。一発勝負のこの世界に、課金アイテムやリセット、修正なんて出来ない。これらの点を踏まえれば、口に出せるのは一つしかない。


「正直なところで言うなら、勝ち目はかなり薄いな」

「薄い……ということは少しでもある、と?」

「あぁ。そう考えてる」


 パレイアは自分の言葉に少しでも希望を抱いていた。国を預かる者として、この答えを希望と考えてくれるのは助かる。こういう時の相手って大抵悲観的に考えてしまうから。


「そこに根拠は? お世辞じゃないわよね?」

「あぁ、ここがゲーミフィケーションということを踏まえてだ。勝つと余裕こいている相手を驚かせてやるんだよ」

「……そう…………」


 彼女は納得していない顔つきのままれ引き下がった。それ以上口にしてはくれない。


「ユーちゃん。具体的にはどのように行動すればいいんですか?」

「まずパレイアは兵と市民を集めて、状況を的確に伝える」

「うん」

「ローラはギルドに出来る限り相手の情報を集めてほしい」

「具体的には何を?」

「敵が動き出すことや、戦力、出来るなら編成も知りたい」

「はい、了解しました」


 二人には動いてもらわなければならない。しかも素早く、的確にだ。早めにすればするほど、体勢が整うだろうし、兵力の確認などが把握出来ないと話がこれ以上進まないからだ。

 それは二人も分かっているはず。だからすぐに動いてくれるだろうと思っていたが、パレイアは動こうとしない。


「どうした。何かまだあるのか?」

「その……一つ気になるのがあって」

「なんだ?」

「兵国は……なぜ、攻めてくるのかな?」

「は?」

「私には、それが分からくて……」


 彼女はそこで口を紡いでしまう。敵が攻めてくる理由。確かに平和に暮らしていただろう彼女にとって、それが気がかりになってしまうのは仕方ないことかもしれない。だがそれは自国のことよりも、相手の国を考えてしまっているということ。それは姫としてやってはいけないことなのだ。


「パレイアはこの国の代表だ。相手に同情してたらこのミッションをクリアすることは出来ないぞ?」

「それは分かってる……」

「まぁ、おおよそ利益を生むためか、権力を持つためか」


 それとも、ゲームクリアのためか。未だに分からないこの世界でのクリア条件。それを彼は知っていて、そしてそのために攻め込んでいるという話も考えられる。

 だが、そうなると考えられる展開は悲劇的なものでしかない。出来るなら彼の暴走であることを願うばかりだ。


「で、動き出すなら早くしないといけないんじゃないの?」

「エミーの言う通りですね。そろそろ動きましょうか」

「じゃあまた明日、この時間に集まりましょう」

「また明日、戦力や状況を把握してから指示したい」


 それだけ聞いたパレイアはすぐに臣下を呼びつけて外へと出ていってしまった。出て行く前にもう一度だけお辞儀をする辺りに彼女の性格が垣間見える。

 続くようにローラも動き始め、こちらに向かって手を振った。


「それでは私も行きます。各ギルドへの連絡も済ませないといけませんから」

「そうね。私も手伝うわ」


 そこでフィリスの口が自由になった。長い間口元を塞がれていたせいか、息を荒げながら目じりに涙を溜めている。


「どうして、私が!?」


 まぁ自業自得とは言いたいが、この様子を見ると少しだけ可哀想に感じる。本当に少しだけだけど。


「これからは文字よりも空気を読むことね」


 反論出来ないフィリスを置いて、エミリーは俺のそばまでやってくる。


「夜、時間ある? あんたに話があるから」

「なんだ、好感度イベントなら間にあってるぞ」

「間にあってたらデートぐらい誘ってるわ」

「なるほど、それはその通りだ。うーん、残念」

「そういうのはいいから――――付き合って」

「おい……」


 見れば彼女は俺の裾を強く握っていた。否定をするなという意思表示。それは彼女の瞳からも伝えられた。だがそれ以上に見えてしまうもう一つの感情。それは今までの彼女と全く違って茶化すことも出来ず、不安にさせた。


「分かった。分かったから…………そんな辛そうな顔するな。お前らしくない……」

「悪いわね」


 肩を二度叩かれたかと思えば彼女はサッとこちらから背を向けてしまった。まるで逃げるようにそのまま外へと一直線。

 その姿を眺めたローラも慌てて追いかける。たぶん横に並んで歩いていても話しかけることことは出来ないだろう。あれはそういう雰囲気だった。


「あー! もう文章で伝えられているよりもっと重々しくて、胃もたれ気分ですよ! 何であーなるのかなぁ! もうカルシウム不足甚だしい、魚食えよ魚、です!!」

「……お前はもうエミリーに言われたことを忘れたのか?」

「で、あなたは一体何時何分何秒に出て行くのですか! もしかして私を攻略しようと……! しかもあの女みたいに力づくですか!? あー恐ろしい!」

「あーはいはい。もう出て行くから大丈夫だ」


 今日はやることが多い。というより、ここに来てから一度たりともバカンス気分でくつろげた覚えがない。ここ数日で一年分くらい働いた気分にさせられる。


「そういや、お前はどうするんだ?」

「私の家はここです。尊厳のあるこの大図書館は私の宝庫であり、知識。ゆえに絆のように固く、強い力で結びついているのです! 出て行くことなんてありえない!」


 つまり引きこもるということか。まぁずっとここに居るというのはありがたい話ではある。


「そういうあなたはどうなんです? やることないんじゃないんですか! あの暴力女に見繕う花でも紡いでいくのですか!?」

「そんなわけないだろ。今から主人公としての役目があるんだから」


 今から向かう場所は一つだ。今頃は街の外で動物たちと戯れているだろう彼女のもとへ。説得に時間がかかりそうな相手であるが、今後の勝敗のカギを握る彼女に協力してもらわなければこの戦争の勝ち目がほぼなくなってしまう。


「今回のヒロイン。実はセレーナなのかもしれないな……」


 それを確かめに、彼女のもとへと急ぐのであった。


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