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ゲーミフィケーション・ゲーマーズ  作者: 夢物語
~3日目~
16/26

16、ドラゴンから始まる隣国

 とりあえずだ。

 村長の家からエミリーの治療が完了してから移動することになった。

 治療、とは言っても完璧ではない。重症を負った彼女は効き腕の骨を折ってしまい、暫くは動かせないとのことだ。木と包帯で固められたギブスで今は固定されている。

 やはりリアルで見ると痛々しい。慣れないものである。

 打撲の部分は、自分の治癒力を増幅させる正法を用いることで何とか回復したようだ。

 最終的に一人で歩くことは出来るが、少し片足で引きずるような状況が精一杯。銃なんてとても扱えない。酷い言い方をすれば足手まといと言うべきかもしれない。


「お前さんはここに残った方がいい」


 エミリーの様態からは当たり前の判断。しかし、彼女は断固として首を縦に振らず、


「私のやるべきことだから」


 その一点張りで。結局、彼女の強気に押されて、一緒に行くことに。

 そして話し合った結果、俺とエミリー、そして彼女の動物との会話が出来ることに興味を持ったノランが同行することとなった。


 次の日の朝。


 村長の家から出たとき、セレーナがすぐ横で待機していた。

 ずっと村の外で待っていた少女は、俺たちが出てくるのを見るや二、三歩後ずさりするのだった。


「…………そと……です……」


 指で村の外を指し示し、躊躇いがちにそう言ってくる。

 多分まぁ、村の外に出たいということなのだろう。

 相変わらずマントを頭から深々と被ったまま、顔を見せようとしてくれない。


「で、どこに連れてくわけ?」


 相変わらず相手の様子なんて気にしない言い方ですな。


「えっと、そと……」

「だから外のどこよ。まさか隣国まで歩いていくなんて言わないわよね?」

「もり……」


 萎縮してしまい、隠れがちに俺のコートを掴んでくる。

 蛇に睨まれた蛙のようだ。こういうタイプが苦手なのかもしれない。

 それにしたって言葉数が少ない気がするけど。


「近くの森となると、パレイアとカルムを挟んだ場所にあるあそこか?」


 ノランが顎を摩りながら、記憶違いが無いかを確認してくる。

 セレーナは何度も頷いて、分かってくれとお願いしているようにも見えた。

 確かに道中、更に言えば道を逸れた先に鬱蒼とした茂みがあった。その奥へ繋がる密林がその森と言っていた場所なのかもしれない。

 とりあえずそこに行く。

 黙ったまま進む少女は背中でそう伝えていたような気がした。


「因みにその森は危険なのか?」

「ヴォートルがいると言われている。好奇心で近寄るべき場所ではないが、狩りの場所でもあるってさ。この密林を抜けた先には山脈が連なり、登った先には兵国リガードがあるとさ」

「ふーん……」


 そんな怪しげな場所に、彼女は拠点を構えているのか。

 逆に言えばそんな場所だからこそ、隠れたい拠点としてはうってつけなのか。

 村の外まで歩き、そこで待ち受けていたのを見て、驚いて声を張り上げてしまった。


「あ、あのワンコ!?」


 最初の時にパンを与えて、俺に罪を擦り付けた犬が村の門の外で佇んでいたのだ。

 悠長に毛繕いを始めているワンコに驚愕していたところで、背中に激痛が走る。


「声量に気を付けなさいよ!」

「……ッ! 何すんだ!?」


 エミリーに蹴りを入れられた。何も悪い事をしていないのに。


「隣、見てみなさい」

「え?」


 俺が思わず叫んだことで、隣の少女は肩をビクつかせて縮こまってしまっていた。

 身体を震わせ、俺と距離を置こうとしている。

 この子、本当に強気な人や大声が苦手なようだ。もしかしたら何かあったのかもしれない。小さな子だし、変に引きずらないといいのだけれど。


「いやあ、悪かった……。だが腰を蹴るか、普通!?」

「全く……少しは役に立つかと思えばこれだわ」

「ふッ、私も蹴られたいものだ」


 その発言はギリギリアウトだ。


「……ティノ!」


 セレーナが逃げるようにワンコのところへ駆け寄ると、顎の下を撫でる。

 口元だけしか見えないのだが、緊張していた唇が少しだけ緩和されたような気がした。

 自然と笑みが零れていて、それほどまでの動物への愛が窺える。

 そして何より、あの復讐すべき相手がティノだと分かった。

 後はパンを用意できれば万々歳なのだが。


「ごめんね。こんな場所でね」

『ワン!』

「うん、みんな怖いけど平気。無視したらいいから」


 ここで聞いているにも関わらず、堂々と無視していく宣言。

 動物と会えて緊張が解けたせいか、ちょっと口が軽くなっているのかもしれない。


「……デミーといい、ここでは空気を悪くするのが通例なのかしら?」

「そんなことはないだろ」

「いいえ。環境に優しくない子たちよ、全く……」


 先行く少女の背中を見つめながら、そう愚痴りつつ、後を追いかける。

 セレーナは、俺が見覚えのある道を通って、会話で言っていた場所まで案内してくれた。

 更に茂みの中へと入っていく彼女の後ろを追いかけ、森の中へと入る。

 日の光は木の葉によって遮られ、淡くぼんやりとした光の矢が地面に突き刺さる。

 枯葉が地面を埋め尽くし、木の根が盛り上がるように配置されている。

 まさに鬱蒼とした森。獣道もないここは、まさに樹海のような存在感があった。 一歩間違えれば迷ってしまうことは間違いないだろう。

 何度も足を取られそうになるエミリーの肩を支えつつ、先に行こうとする彼女を必死に追いかける形に。

 そして、そろそろ休憩しないかと聞こうとしたところだった。


「……なるほどな。洞窟で仲良く暗闇生活ということか」


 ノランが立ち止まり、感心したように呟く。

 木々が無くなり、少し開けた場所の崖下である場所まで、俺たちはやってきたのだった。

 見上げても、先ほどからの森の続きが連なっている。横を見ては果てしなく長い崖が続いていることが分かるだけであった。


「コウモリとかが住んでそうな場所だ……」

「コウモリならまだ安心できそうだわ。巨人が潜んでそうな場所よ」

「……で、セレーナ。お前はここまで連れてきたかったのか?」


 コクリ、と少女は反応をしめしてくれたので、目の前の洞窟を見てみる。

 切り抜かれたように丸く出来た洞窟は、まさにダンジョンと呼ぶにふさわしいものだろう。

 こういう時決まって中ボスクラスが潜んでいるのだが、ここではどうなのだろうか。

 大きさにして二階建ての家さえも収納出来そうな場所だ。奥行は無さそうだが、広さ的には十分な大きさである。


「……まっていて」


 犬の頭が精神安定剤なのか、手放すことのない彼女は首だけをこちらに向け、そう言う。

 そのまま俺たちの反応を待つことなく、洞窟の中へと入って行った。


「どうするのさ?」

「行くに決まってるでしょ」


 エミリーは俺の肩を離れ、そのまま洞窟に向かおうとしていた。


「おい、エミリー!」


 あの子の言葉、そして俺の制止の言葉だって聞きやしない。相変わらず自分勝手さには定評のあるやつである。

 隣ではそんな光景を笑い飛ばしている奴もいるし。


「なるほど。あれじゃあ、あの子は上司を困らせる」

「……ん? ノランにギルド長のことを話したか?」

「ああいうのは、決まって困らせるんだよ。で、決まって上司じゃなくて部下なんだって」

「……それにしたってだ。確定気味に言えたんだな」

「ま、ゲームでもそうだろ?」


 そんな事を聞き返されては納得せざるを得ない。

 あれで全てを統括する存在なら、俺ならお断りだ。「モンスターが出たなら、全軍やられるまで戦え!」みたいなビジョンが見えそうだ。

 しかし、そういうことが分かるということはノランもそれに通ずるゲームをしてきたということだろうか。


「ノランもそういうゲームを?」

「そういうこと。だから苦労することが分かるのさ……」


 隣でまたぼやいている。しかも分かり切ったような言い方。困り顔だし、肩を竦めている辺り実際に経験済みのような気もした。

 ……まさか、ノランって――――


「早くしなさい!」


 苛立たしげに手招きをしているエミリーの姿。怪我をしているはずなのに、一番元気そうである。


「ここで話しても、仕方ないか……」

「何の話さ?」

「いいや。別に、行こう」


 セレーナも先に行ってしまったし、これ以上喋ると銃弾が飛んできそうだ。

 彼女の性格を考えての行動だったのに、関わらずノランが動こうとしない。

 先ほどまで行っていた場所を振り返って、その場に立ち尽くしていたのだ。


「何やってんだよ?」

「……いや、これ本当に帰れるのか。なんて思ってさ」

「確かにな。もう自分たちの足跡なんて分からないだろうし」

「こういう場所で女の子と一緒とはな」

「変な意味に聞こえるからやめろ。このイベントをこなすことだけにしてくれ」

「ま、そうさな」


 苦笑いをしながらノランがようやく歩いてきた。

 頭に付けていた仮面を弄りつつ、そのまま俺の横を通り過ぎていく。


「……なるほど。これはみんなで洞窟ウキウキ、ドキドキの一泊イベントってやつさな」

「何でだよ」


 横を通り過ぎる時にそんな冗談をかましてくる辺り、余裕はあるのだろう。

 そのままエミリーに蹴られているし。


「…………はぁ。ノベルゲームみたいに会話記録ログがあったらいいんだが」


 そんな愚痴が漏れてしまう。ゲームではないから、余計に不便に感じる問題だ。

 自分の記憶が曖昧になっていなければいいのだけれど。そんな不安があった。


「何してるのよ、早くしなさい!」

「はいはい」


 さっさと行くしかない。そう思っていた時、


『……この目で見ねば』


 地を揺るがすような、低く太い声。洞窟が大音量スピーカーとなって響いたかと思うと、次の瞬間には何かを踏んだ、重い音が響き渡ったのであった。


「ドラン! 大丈夫だから中にいて……!」

『お前は甘い。俺が見て判断する』


 セレーナのお願いを無視して、そいつは洞窟の暗闇から現れた。

 洞窟の中でもはっきりと光沢を見せる赤い鱗に、灼熱のような紅い瞳が顔として覗かせた。人を丸ごと一飲み出来そうな大きな口には鋭く、太い牙が生えており、見た者を圧倒させるだけの威圧さがあった。首は大樹の幹のように太く、堅そうなイメージが出来上がる。

 身体の部分は暗くて頭しか出していないのだが、これだけの情報でもはっきりと分かる。


「ドラゴン……」

『ほぉ。私の種をそう呼ぶのは2人目。つまり、お前もそうなのか』


 目線が合った。首を伸ばしてこちらに寄せられて、少しだけ心臓の鼓動が高鳴る。

 グンと迫ってきたことによって感じる圧。そして鼻息が顔にかかる度に感じる熱気と、水が蒸発したような匂い。

 こんな大きな奴と面と向かって喋ることになるなんて、思いもしなかった。


「こ、こんちわ……」

『貴様がセレちゃんをたぶらかす輩か?』

「……」


 セレちゃんって、また可愛らしいあだ名を付けてらっしゃる。


『弱々しい身体。やはり人はその程度の存在か』

「なに、ドラゴンっていうのは見た目で判断するのかしら? 確かに、その大きな瞳は辺りを見る小心者の証拠だわ」

『なに? そのように愚弄するものはどこのどいつだ』


 ドラゴン相手でも全くひるむことのない彼女は、俺のところまで歩いてきて同じように立ち並ぶ。


「こんにちはドランさん。エミリーよ」

『お前……!』

「あら、覚えていたの? 私もあんたの顎の下を覗いてようやく思い出したわ」


 彼女はフッと微笑むと続けてドラゴンを挑発する。


「私の撃った弾の傷は癒えたのかしら?」

「え!?」


 それはどういうことか。

 その質問をする前に、ドランの引き笑いで場が揺れたのだった。


『そうか貴様か! 私に唯一、手傷を負わせた』

「えぇ。あの時はどうも」


 挨拶代りに手を上げて振って見せていた。


『まさかこのような場で出会うとは驚愕だな』

「私も。でももっと驚いたのはあんた……言葉を喋れるのね」

『貴様らが出来ることを、俺が出来ないわけない』

「え? 負けたものが言えたものではないでしょう?」

『はん! そんな傷を負ったお前も言えたものではない』


 お互いに互いの駄目なところを指摘しあっている。

 しかし別に抗争を起こそうとはしない。むしろお互いを認め合っている上で、話をしているようにさえ感じるのだ。

 大体はこの二人の出会いが分かるのだが……。

 確認のために彼女の肩を軽く叩いて、質問をすることにした。


「なぁ? もしかして……こいつお前らが襲われたって言う……」

「えぇ。あの時のドラゴンよ」

「……はぁ」


 聞いた話であれば、散々暴れて、彼女はそれを撃退させたとのこと。ギルドの依頼であったものの一つだったと、あの時に話していたあれではなかったのか。

 だとすれば互いに宿敵同士ではないのか。


「そのぉ……お二方は敵同士では?」

「『今は関係ない(わ)?』」

「……」


 ある意味ありがたい性格なのかもしれない。

 これ以上変な事は聞かないでおこう。


『なるほど。確かに信頼できるかどうかは皆無、しかし簡単にくたばる相手ではないことが分かった』

「あら、それは光栄ね」


 彼女は簡単に聞き流していたが、思わずその言葉に眉を潜めてしまった。

 くたばるということは一体どういう意味なのだろうか。

 分からないまま、話は更に進んでいく。


『して、セレちゃん』

「……なに?」


 洞窟入り口の際でずっと俺たちの様子を見ていた彼女は、そう返事をしていた。


『こいつらは、本当に信用出来るのか?』

「……おじさんも信じてた」

『村長ではない。お前の意見だ』

「……たぶん……」


 弱々しい声。あまりにも信頼させるには程遠い説得力である。

 だが、セレーナの事をよく知っているのだろう。

 苛立ちもせず、静かな声でもう一度聞き返したのだった。


『なら、兵国リガードでの話はしたのか?』


 彼女は、首を横に振った。


「何よ、兵国の話?」


 申し訳なさの欠片もなく、彼女は会話に横槍を入れてきたのだった。

 それに対し、ドラゴンはグイッと瞳をこちらに向けてきた。


『……そうだ。俺たちはそのためにここに集まっている』

「集まっているって……」


 その時だ。洞窟の中から多くの動物が出てくるのを目にした。

 猫や犬はもちろん、その他馬や鳥、猿、更にはライオンでさえも、その中から出てきたのだった。そして皆が皆。俺とエミリーの二人を見てくる。

 まさにアニマル大集合、とまでは行かないがここにいる種だけでも動物園が開園出来るのではないかと思わせた。


「どうして……こんなに……」

「なるほど……だから食料を盗んでいたわけね。こりゃあエサ代も馬鹿にならないわね」


 エミリーが皮肉を込めて言ったのに対し、ドラゴンは静かに首を振った。


『それは勿論だが、本当の目的は別』

「何、どういうことよ?」


 彼女は驚いていた。

 彼女にとってアニマル盗難事件の真相解明と犯人を捕まえるはずだったのに、肩すかしを受けたような気持ちなのかもしれない。


『この状況を、作る事』

「…………つまり、ここで話し合うための場を作ろう、そういう目論みなのか」

「さらに言えば、ここに来るだけの力量があるやつってことかしら?」


 それにしたって、何とも大がかりで長期的なやり方なのだろうか。


『その通り』

「でも……俺たちをこうやって呼んで、一体何を話したいんだ?」

『私たちは元々隣国である兵国リガードに暮らすものたちであった。そしてある事を伝えにここまで逃げ込んだ』

「そういう思い出話は良いから」

『そうだな……ならまずは隣国が何をしてるか。その本題から入ろう』


 もしかしたら、俺はある程度予想出来ていたのかもしれない。そしてその展開を望んでいたのかもしれなかった。

 だから、俺はドラゴンが喋ったことに対して、驚くことはなかった。

 一瞬だけ間を置いて、ドラゴンが言ってきたのはこうだった。


 魔物を使って、戦争を起こそうとしているのだ、と。


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