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ゲーミフィケーション・ゲーマーズ  作者: 夢物語
~2日目~
14/26

14、意思から始まる策略

「ここは……酷いな」


 辿りついた先で、ロランが曖昧な感想を述べていた。

 半壊となっている家。代わり映えのしない泥と木で作られた家はひび割れて、瓦礫のように崩れていた。それが複数あり、一部は全壊で跡形もないのも存在していた。

 一部では畑を耕されたように荒れ果て、果実なども潰されているのだった。

 先ほどと打って変わり、ヴォートルの暴走によって壊されたものが多い。

 本当に、ここに人がいるのだろうか。


「あれが、最後の相手だ」


 門番に指さされなくとも、瓦礫の中で暴れまわる奴がいるのは一目で分かる。

 昼間に出会ったのと同じ種で犬のヴォートル。しかし前回と違って、背中に羽を生やしており、黒い靄はまたも全体を包んでいる。

 図体も先ほどのやつよりも一回り大きく見えるのも相まって、前回のが雑魚モンスターであるなら、今回のは中ボスクラスといったところだろうか。

 先ほどのがユニコーンなら、今回はペガサスのような容姿。

 それに心なしか、前よりも溜めこんでいる靄に見える。


「あいつはずっとここにいたの?」

「あぁ、ずっとここで家を襲っているんだ」

「エミリー、倒せるか?」

「……」

「エミリー?」

「なぁあそこにいるのって……」


 ノランがそう口走り、目を向けた先は相手と目と鼻の先に存在する場所だった。

 今まで土煙で見えていなかったが、瓦礫によって埋もれ、動けなくなっている天人の男性の姿。そしてその隣に居座る一人の少女の姿がいた。


「まさか……」

「くッ――――」


 だが彼女は銃を手にしたまま。俺のことなんていないかのように、敵の方を見つめ、そして駆け出していくのだった。


「ディーダ! そこを離れるんだ!」


 その人と思しき名前を叫び、注意する長。しかし、彼は身体をピクリとも動かさない。

 土煙で薄くなっている視界に目を凝らしてみれば、怪我をしたのか、草原に横たわる彼の周りには赤く染まっていることを視認出来た。

 もしかしたらあの女の子は娘なのかもしれない。十歳にも満たしていないであろう、幼女。だからこそあそこに居座り、父親の安否を確かめているのだ。


「……あれじゃあ二人とも、餌食になってしまう」

「まだ自警は来ないのか!?」

「前回の怪我で人員が……あと五分はかかる!」

「まさか、エミリーの奴……」


 直感的に何かを受け取ったのかもしれない。

 それでいても経ってもいられなくなって……。

 今もなお彼女は銃を発砲し、声を張り上げていた。


「あんたの相手をしてあげるわ。こっちへ来なさい!」


 何故だ。それが最初に思った感想であった。

 彼女らしくない挑発。慌ただしい、その表現が今の彼女に似合う。

 ヴォートルに対してカウンターで攻めていく彼女が、今は攻勢に出てまで自分の方へと行動している。

 悠長に構える暇なんてない、そう思わせる行動であった。

 先ほどのエミリーの言動、それが関係しているのか。


『アァアアア!』


 しかしそいつは彼女の言葉に耳を貸すことはない。

 言語も通じていないのかもしれないが、彼らには危険を真っ先に排除するという知能を持ち合わせていなかったようだ。

 まるで出来損ないのAI。目の前、まさに近くのモノに対して、何もかもを消そうとする破壊衝動。

 砂上の城の跡地を更地にせんと、瓦礫の上で暴れまわっているのだった。


「パパぁ……起きてよぉ……」


 そしてそんな危険な場所に埋もれている父親とそのそばで必死に気づかせようとしている娘。涙声で何度も肩を揺らしているが、彼が目を覚ますことはない。身体も一つ、動かしていない。

 家を破壊された時に巻き添えを喰らったのであろう、意識がないことは遠目でも明らかだった。


『アァ……!!』

「え……?」


 その時、土煙が晴れて少女の姿を見たヴォートル。それを気づいた幼女の目が合わさってしまった。


「駄目!」


 相手は翼を広げて咆哮を上げる。てきとして認識、片手で振り上げる。

攻撃を開始するといった予兆であることは誰の目にでも明らかであった。


「エミリー!」


 先に判断したであろう彼女はいち早く地面を蹴っていた。

 幼女には状況を理解する前に、逃げるという選択肢はない。

 銃を撃ち、身体に当てても魔物はひるまない。今回の敵は弾くようなことはせずとも動きを止めない。何事もないかのように振り上げる動作を再開している。


「弾を受けたはずなのに……」


よく見ると弾丸に開けられた傷を中心に、黒い靄が集まっていた。

そして、瞬きした瞬間には傷口が塞がっていた。


「まさか、回復!?」


 敵が回復するなんて。このリアルの世界という概念の中で言えば、その行為こそがイレギュラーとも言える。ヴォートルというのはこんな非現実を生み出す存在なのか。そして、それは今最悪の状況を生み出そうとしていた。

 エミリーはすぐさま先ほど倒した敵とほぼ同じ場所……眉間の場所に風穴を作らせる。相手が同じ種、ならば即死だと考えたのかもしれない。

 ……しかし、その回復力が異常なのか、それとも傷がつくとほぼ同時に回復しているのか。

 すぐに穴は修復され、塞がってしまった。

 何より……攻撃を止めようとしない。


「くそッ!!」


 エミリーは悟った。今のままでは少女を守れないって。

 既に危険を察知していた彼女はなりふり構わず銃を投げ捨てる。

 そして出来たこと……それは、空いた両手で幼女の身体をしっかりと抱きとめることだけだった。最後の抵抗。

 そして――――


「お姉ちゃ、」


 その言葉は途中で投げ出された。

 彼女は――――その場から消える。

 鉤爪で薙ぎ払われ、遠くへ飛ばされてしまった。

 大きくスイングするかのように振るわれた彼女に、強烈な衝撃を与えただろうその一撃。

 遅れてやってきた鈍い音、何かが砕け、服が破れるような音。

 そして、横に飛ばされ八メートル程転がる音。

 その全てが自分の中で反響していたのだった。

 まるで一瞬だけ意識を手放したような感覚。

 全てが真っ白になり、何も考えられなくなった自分がいた。


「馬鹿野郎……!」


 薙ぎ払われたことによって巻き起こる風、そして雄叫びを挙げる相手の挙動なんて気にしない。感じているのは目の前にいる彼女への心配だ。

 周りからの止まれという声がかかっても関係ない。走って、近づく。

 死ぬわけがない。そんなことを頭に叩き込みながら、俺は彼女の元でしゃがみこんだ。


「おい……エミリぃ!」


 呼びかけても、反応はない。

 だから肩を揺らして、頬を叩いて、もう一度呼びかけた。

 それを何度もして……意識があるかどうかも何度も確かめた。

 ……が、全て意味がなかった。


「……エミリー……」

「お姉ちゃん……どうして……?」


 ぐったりと横たわり、力なく倒れ込んでいる彼女は、それでもなお少女を守ろうと抱いていた。助けたい気持ちは……今も少女を抱き、守ろうとしているので強く表れていた。

 ギルドとしてではなく、個人として守る。そうじゃないと出来ることじゃない。

 服は破れ、腕から大量に血を流し、額もどこかでぶつけたのか出血しているのが痛々しい。

 ローラに言われた言葉がその時に蘇った。

 ――――エミーは優しいから。暴走するときは、歯止め役になって欲しい。


「何で、出来なかった……!」


 言葉だけではなくて、実力で止めるべきだった。

 いや、そもそも自分が戦闘に加わればちょっとは状況を変えられたかもしれないのだ。そうすれば、きっとこんな事にはならなかった。

 だが、全てがもう遅い。彼女はやられ、ヴォートルは未だに暴れている。

 どうしようもない気持ちを、地面にたたきつけるでしか表現できない。

 非力でも、やれることはあったはずなのに。


「ちくしょう……」


 相手は彼女のことを忘れたかのように、再び瓦礫と遊び始めていた。

 あれが終われば、きっと里の奥へと向かっていく。全てを壊し、何も目的なくただ暴れながら。エミリーのような想いさえも、壊されてしまう。

 それを……俺はただ見ているしか出来ないのか。


「…………。……なさけ……ないわね…………」

「……エミリー?」


 小さな息。それが息吹であると心から願ってしまった。

 そして、その願いは少しだけ叶う。


「………………ァ…………ハァ……」

「お、おい。大丈夫か!?」


 微かに肩で息して、それだけでは足りないだろう呼吸を繰り返している。何度も、何度も呼吸している。何とかして肺に、空気を送ろうとしている。

 それだけで……彼女は必死に生きようとしていたのが分かった。

 そして、最後に掛けられた言葉。

 最後まで、彼女は彼女らしく貫き通している。


「……くそぅ」


 言葉にならない。どれほどの安堵になったのか、形容できるはずがない。

 込み上げる気持ちは冷静へと変換され、自分がしっかりしないといけないという気持ちへ変えてくれる。そう、エミリーはまだ安心できる状態ではないのだと。だからこそ……取り乱さず、自分が冷静になれ。

 そう、自分に言い聞かせられた。


「流石に……もう喋れないだろうな」


 彼女の意識は混濁していた。あの言葉だってちゃんと意図を持って喋っているのか、分からない。楽しくお喋りなんてのは不可能だろう。

 それでも、相手が切り裂くよりも叩き飛ばすことを攻撃としたのが功を奏したのは分かった。

 平手打ちのように叩きつけられたおかげで、このレベルで済んだ。そして危険察知でかわそうとしたことでこの状況で収まった。

 これがもし……肉を削り取るといった切り裂くものであったなら、目を背ける状況になっていただろう。

 じゃなければきっと頭や首が消し飛んでいた。まず命は無かったはずだ。


「お姉ちゃん? ねぇ。お姉ちゃん」


 胸の中で少しもがいている少女。まだどうしてこうなったのか、イマイチ理解していない様子だ。

 この子には、そのまま知らないでいてほしい。

 抱き続け、守りきったエミリーのためにも。

 俺は出来るだけ安心させるように、微笑み、彼女に語りかけた。


「……お姉ちゃんなら大丈夫だ。君はね、お姉ちゃんに守られているんだよ」

「どうして?」

「さっきの悪者いただろ? あいつから身を隠せるようにしてあげているんだ」

「……うん」


 本当に、素直な子で助かる。


「だからな。君は彼女のヒロインだ。主人公の行動を無駄にしたら駄目だ」

「……ヒロインってなぁに?」

「あー……まぁ守られる存在って意味だ」

「……今、守られてるの?」

「あぁ」


 彼女はしばらく考え、そして納得してくれた。頷き、彼女の中で小さく包った。温もりを感じているのだろうか、その表情は穏やかな顔をしている。

 目を瞑り、じっとうずくまる彼女の笑みは弱々しく見えた。


「ヒロイン、か……」


 俺はいつの間に物語を見ているだけになっていたのだろうか。展開だって予測できる。それだけで何もしていない。エミリーをヒロインと見ていたのに、何が主人公だ。物語は、まさに今主人公の力量が試される場面のはず。

 ……今度は、俺が守るんだ。ヒロインのために、やって見せる。


「ユーマ!」


 ノランがすぐそばまでやってきて、彼女の安否をすぐさま確かめ医療魔術に長けている人物を探すように要請していた。

 長がそのために向かい、その間に門番の人が俺たちの前に出てカバーをしてくれていた。


「この傷……なるほど、もう死んだか」

「……おい、こら。本気で怒るぞ」

「悪い悪い。さっきの会話を聞いてたからな」


 それでも不吉な事を口走る馬鹿野郎に腹パンをくらわす。


「……しかしこの様子を見る限り、骨の数本は折れていると思っていいさ。満足に動けやしない」

「あぁ。まぁな」


 魔物はまた瓦礫と戯れている。しかし埋もれている父親の存在がいる以上、悠長に見ている事も出来ない。早く何か策を練らなければならないだろう。


「ノラン、お前もゲーマーなんだろ?」

「そうさ」

「なら、お前にも補正があるはずだ。何かお前で出来ることはないのか?」

「補正……? 何さ、それは」

「え?」


 こいつ、まさか補正の存在を知らないのか。


「おい話し込んでいる場合か。ヴォートルもこっちに気付いたようだぞ!」


 門番に動きがあったと知らされ、意識をすぐさま切り替える。

 確かに相手は家を全壊にし、瓦礫を細切れにして興味を失ったようだった。

 新たな的を求め、首を動かしている。

 幸いにしてか、砂煙のおかげで目くらましになってくれている。

 下を向かないおかげもあって、最も近くの人の存在に気付いていない。


「この状況か……なるほど、これは里が壊滅かもしれない」

「……そんなことさせるわけないだろ」

「例えばの話でも。ヴォートルという力の差、そして彼女を頼る戦力は消え、頭数も一般の奴らのみで勝利。そんなリアルでの戦記は存在しない。相手が人だったら別だが」

「……」


 エミリーの方を見やる。彼女は一向に目を覚ます気配はない。

 それどころか、少し顔色が元々白いのに更に蒼白になってしまっているように見えた。


「……創るしかないだろ」

「ユーマ?」


 エミリーはたった一人の子のためにその身を投げ打ってまで守ろうとした。

 今になって分かったエミリーの優しさ。本当の強さ。

 そしてこいつが命を張ってまでやった……主人公ばりに頑張って見せてくれた勇気のある行動。

 それらを無駄にするほど、最悪なストーリーを俺は全く求めていない。


「今までの全ての情報を元に、創り上げて行くんだ」


 導き出せるストーリーを。クリアできるビジョンを。

力を出して、武器を持って戦うことを選択できる最高の話を思い浮かべるんだ。


「落ち着け……いつも通りに……」


 額に手を当て、目を閉じ、自分の世界に入る。

 まずはゲームとして考えるんだ。

 ジャンルとしてはRPG。リアルタイム制で流動的なアクション、タイムなんて悠長な時間を取ってくれない設定だ。メンバーは門番とノラン含めた三人で、目の前の敵はレベル差で言えば圧倒的。

 状況は防具も存在しないし、武具とかもろくに揃っていない。あるとしたら門番の弓矢のみ。逆に言えばそれだけだ。

 そして正法……ファンタジーの世界として有名なこれが使えるこれなら、戦える要素として存在する。

 しかしこの世界では新たなモノとして生み出すことは出来ない。つまり巨人を召喚して戦うことといったことも出来ない。

 あくまで発火材。モノ自体がないとただ無意味な存在でしかないのだ。

 それに、今いるのは一般人に近い門番、正法使いといった詳しさも存在しない。


「……」


 この設定をもとに選択肢、物語を考えてみるんだ。

 ありえる戦闘として武具……弓矢を強化して破魔矢のような存在を生み出して貫く。そして勝利。

 ……いや、それを伝えるためには行う人が破魔矢のような正法知識を理解していないと無理だ。そして俺とノランは当然として、門番だってそんなことは知る由もなかっただろう。簡単に言えばレベルと知識が足りていない。

 なら相手の防具を剥すための弱点を突く。そして戦って勝つ。

 ……悔しいが、それも無理か。

 靄によって身体を覆われているなら、全体に無敵ガードとかを張っているのと同じ。それを剥すことはあいつの靄そのものを消さないと無理だ。

 それはエミリーのような力のあるモノでなければならない。

 もしかしたら剥すやり方があるのかもしれないが、人里のみんながとうに実践しているはず。

 回復の事も忘れてはいけない。あの黒い靄に防御はないが、傷を即座に癒すチート性能さえある。

 やるには直接内部へ干渉出来て、なお恒常的にダメージを負わせられるもの。

 ……それこそ、リアルでは出来ない。非、現実的すぎる。


「くそぅ……!」


 どれもこちらに可能性さえ見いだせていない。一方的に相手が勝つビジョンしかない。

 ゲームならリトライするしかないと諦めるべき話。

 一旦やられ、次のためにレベル上げが常套手段として思い浮かんでしまう。

 エミリー並みの能力を三人携えて戦うしか勝ち目が見出せなかった。そんなドーピングアイテムだってないと言うのに。

 だがここはリアルの世界でもあるのだ。死の概念がある以上、リトライなんて生易しいものは存在しない。そして時間は刻一刻と迫っている。


「こうしている間にも俺のヒロインは危ない目に遭っているんだぞ……!」


 自分を叱咤し、頭に語りかけていく。

 何でもいい、ヒントになることが手の内にないか。何でもいいんだ。

 そうだ。ゲームでは定番の道具、そのことを忘れていた。

 ……しかしそれを入れていた鞄も、長のところに置きっぱなしにしている。あれがあれば医療系でエミリーを少しでも楽に出来たはずなのに。

 今、コートには何かないか。

 ポケットを弄って自分の手の内にあるのは――――


「ん?」


 ポケットの中に固い感触……そんなものあったのだろうか。

 自分のコートは今朝買ったから、何も入っていないはず。


「…………これは」

「ん、何でトランプを持っているのさ」


 それはスパイが送ってくれたにも関わらず、分からず仕舞いでずっと置いていたもの。

 推理ゲームとしてやっていたのに、後一歩足りないと指摘されたあのゲーム。


「皮肉だな……俺が後一歩足りないということって言いたいのか」


 今だってちゃんと考えているはずなのに、何が足りない。

 ヴォートルはこちらに標準を向けているようだった。

 ゲームとしての本質を見ようとして、あり得る可能性を見つけて、そして設定を……。


「……設定?」

「おい、どうしたのさ」


 そこで何かが引っかかった。必死に頭を働かせている中、その言葉を考えたときだけ、フリーズをしたように固まってしまう。

 設定。スパイはゲームの設定において違反はなに一つも起こしていなかった。ただ俺の油断があったのは間違いない。

 このカードもトランプであり、ルールがあり、攻略の道が存在していた。

 日本製を使わずに、ラテン式のトランプを使った。そう、彼が駆け引きとして持ちかけたのは、トランプ自体の設定。

 絵柄も数字も、このカード自体に深い意味なんてない。

 このトランプそのものが俺たちの認識とは違ったこと。それが敗北の原因で。

 俺がしっかりと考えれば、それを見抜けた。

 ……じゃあ、何故見抜けなかった。

 それは俺が勝手にこのトランプは日本製であると……そう思っていたから。


「……それがあったのか」

「おい」


 この世界でも日本の設定が通用するなんて思っていたからだった。

 だが違う。ここは日本でもなければ世界も違う。

 ゲーミフィケーションだからこそ、出来ることがある。

 それが彼の言っていた啓示。そして、ここを切り抜けるためのフラグ。


「そうか」


 当たり前は、捨てなければならない。


「おい! いい加減夢から覚めろってんだ!」

「……」

「ヴォートルが村の奥へと向かっちまった! このままだと食料庫の中を襲われちまう!」

「どうするのさ、ユーマ。偉く考え事しているようだが」


 周りを確認していた視界に、エミリーのことが目に入る。

 未だに落ち着かない呼吸音に弱々しい身体。

 いつも助けられた。初めて出会ったときも、相手と遭遇してたときも。

 そして……今この時も。


「今度は、俺が何とかする番だ」

「は?」

「ノラン、それに門番さん」


 ヴォートルに警戒しつつも、視線はこちらに向けられる。

 奥へ向かう敵を早く捕まえなければ、そんな焦燥に駆られている門番に俺の動向を気にしているノラン。

 同時に二人に見えるものは早く行動したいという、動いてくれる気持ちがあった。


「すいませんが、協力してほしいことがあります」


 情報も条件も揃っている。後はするべきタイミングを間違えなければ。

 いくしかない……この理論で、あいつを倒すしかないのだから。


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