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ゲーミフィケーション・ゲーマーズ  作者: 夢物語
~2日目~
11/26

11、敵から始まる同行者

 ……なんと、これで十匹目。まさに無双だ。


「これで残り二体」


 エミリーがぼそりと一言、呟いたのちに銃を構えなおす。

息も切れておらず、余裕が見えているので、このまま最後まで彼女の乱舞が見れることだろう。


『グルル……』


 目の前にいる大型犬のヴォートルが唸り声をあげて、彼女の行動に警戒をしている。残られた二匹が身を寄せ合って敵、そして味方の攻撃にもカバーできるようにしていた。

 場所としては彼女が有利な平原で見通しも良い。

 スピードでは多少相手の方に分があるが、彼女は銃を撃ち込むことによって敵をけん制しては、距離を保ち、他の敵を攻撃。

 やり残していても、補正による直感から、無駄のない動きでかわす。まるで自分を中心とした俯瞰図でも持っているかのようで、敵を苛立たせていた。

 攻撃してはかわし、更に距離を保っては攻撃の繰り返し。確実に敵を減らす。

 最初は数と猪突猛進のスタイルで戦ってきた敵も、無傷の彼女に対して攻め手を失ってしまっているようだった。

 遠くから眺めているだけでも分かる圧倒的な戦力差。

 ローラの言葉通り、補正によって大分変わるということを認めざるを得なかった。


「もうちょっと早く動かないと私にかすり傷を付けることは出来ないわ」


 言葉の通じないヴォートルに対して、彼女は銃を手の中で弄びながら挑発している。

 先ほどから見るに、彼女はそうやって相手から行動するのを待っているようだ。

 カウンター型、敵の行動に対して適切な対応から生み出せる隙を付くスタイル。彼女の補正から考えるに、まさに適切と言えるスタイルと言えるだろう。

 しかしアクションゲームであるのなら分かるが、先手必勝、当てれば勝てるシューティングゲームをやりこんでいたという彼女がそのスタイルを使っているのが珍しく思えた。


『ガゥ!!』


 その時一匹のヴォートルに動きがあった。横に飛びのくように移動。そして直角に曲がるように突進を仕掛けてきた。

 もう一匹も数秒のラグの後に動き出す。ゆらりと身体を傾けると、反対側から攻めるように、そいつは弧を描きながら襲い掛かってきた。


「犬でもエサをやればお手を覚えるのに、こいつらは学習能力というのが無いわね」


 エミリーは落胆しつつ、銃を使って発砲。魔力によって生み出された威力のある弾は、弧を描いている相手に向かっていく。直進すればきっと眉間辺りに穴を空けてしまう軌跡だ。

 慌てたようにかわすが、そのせいで片方は足を止めてしまった。

 一方、突進してくる方は止まらない。

 エミリーは既に銃口のターゲットを変えている。

 今相手は足を止めれば銃弾の被害になるのは間違いない。

 だからこそ敵は向かっていく。正法によって強固になった爪、牙で相手に襲い掛かる。


「ふーん。なるほど」


 彼女に覆いかぶさるようにジャンプした相手は、そのまま彼女へ飛び掛かっていた。

 逃げ道を無くすための攻撃。だが、


「よっと」


 彼女はそれも補正によって予知していたのだろう。

 身体を捻り、バックステップ。場所が空いたところには先ほどのヴォートルが着地することになった。


『ガァウ』


 エミリーという敵を失い、慌てたような着地体勢。

 しかしそこに彼女の蹴りが入っていた。

 躊躇いないその一撃は敵の顔をめり込ませる。


『ギャウ!』


 可愛くない咆哮を上げ、地面に滑っていく。痛みにもがく相手に迷わず彼女は銃を構えなおした。

 遠くから見ていた俺でもそれが決定的であると分かる。


「よし!」


 これで残り一体になれる。動けない敵を見て、そう確信めいていた。

 しかし、音は鳴り響かず、代わりに空を切るような音が聞こえる。

 見れば彼女は身体を屈めていた。そして上を通るように、先ほどまで銃弾をかわしていたヴォートルが爪を振り下ろしていた。


「エミリー!?」

「大丈夫よ」


 そう言っている間にも彼女は連続して襲い掛かる敵と対峙している。いつの間にか蹴った敵も起き上がって片方の援護に加わっていた。

 幾度となく攻撃を仕掛け、反撃の隙を与えようとしない二匹の相手と、全てを予期し、縦横無尽にかわし続ける彼女。

 まるで闘牛士の戦いでも見ているようだ。一瞬の攻防、ダンスが繰り広げられる。

 一匹をけん制してはもう一匹の攻撃をかわし、また敵を攻撃、けん制して距離を作る。

 傍から見れば一方的な戦いに見えているだろう。攻撃出来ないエミリーが押されていると見える。

 しかし、長い間見ていれば、どちらが焦っているかは分かる事であった。

 そして、戦局は思っている以上に早く決着することになる。


『ガァウウ……!』


 今まで乾いた地面への着弾音だったのが、鈍い魔物への被弾音に変わった瞬間だった。

 力の抜けた声が鳴り響き、状況の変化の知らせとなる。

 ようやく魔物の足に被弾したようだ。崩れ、力が入らない足に苦しんでいた。

 対して硝煙も上げない銃を構えながら、口角を上げているエミリー。


「バーン……!」


 倒すとまではいかなくとも、一匹の無力化成功。彼女にとって、それは決着がついたと同然だった。

 エミリーは最後の仕上げに入る。

 弱いAI特有、攻撃することしか能のない敵に一瞬の油断も見せなかった。

 一匹となり、どうするか逃げ回っている相手の軌道を読み、発砲。

 狙い澄まされたそれは見事相手の横っ腹を撃ち抜き、勝利を飾っていた。


『ガァア……』


 撃ち抜かれたモノは倒れる前に、何か黒い靄みたいなものが立ち上っていく。

 それは前の時でもそう、同じ現象であった。ヴォートルは死ぬと言うより消える。

 それが身体を構成する粒子であったかのように、空へと昇華されていき、跡形もなく消えた。


「ふぅ……」


 エミリーは消えるのを最後まで見届けて、ずっと使い続けていた銃をようやく戻す。

 先ほどまで騒がしかったこの平原も、終わってみれば道中よりも静かな状況になっていた。安全を確認した後に、俺も彼女の元へ駆け寄る。


「お疲れ様だな」

「いらぬお節介よ。あんたは母親じゃないんだから」

「……くそぅ」


 昨日の件のことをまだ引きずっているのだろう。彼女はそっぽ向いてこちらから視線を逸らす。初対面の時よりも心の距離が離れているような気がする。

 その事実に少しだけ心が折れそうになるが、それでも諦めずに声を掛ける。

 やはりこれから先の関係は良くないと、今後に関わっていくことだろう。パートナー、もといヒロインとしてそれはよろしくない。

 そんな今だからこそ。秘術、ギャルゲー主人公による積極的な声掛けによる仲直りを用いてみる。


「相変わらず、凄い戦闘スキルだな」

「あんたに褒められても仕方ないわ。むしろ邪魔よ」

「いやいや、あれだけ動けるのは凄いよ」

「ニートのあんたと違うのよ」

「……うーむ」


 中々彼女の機嫌は直りそうもない。


「あぁ……でも疲れているだろ?」

「別に疲れてないわ。慣れたし」


 と、息巻いているものの、エミリーの額には汗が流れていた。

 やはり十二匹を相手に戦っていくのはしんどかったのかもしれない。スピードのあるヴォートルだったからこそ、かわすのにも苦労していただろうし。

 労いという意味を兼ねて、俺は鞄の中からタオルを取り出して渡すことにした。


「……だから、疲れてないわよ」

「ちょっと顔に土が付いているからさ、これで綺麗にした方がいいって」

「……」


 俺からのタオルを分捕ると、彼女は綺麗な顔を拭っているのだった。

 とりあえずではあるが、会話に繋げられそうな雰囲気ではある。


「しかし相手が多かったな、いつもこんな感じなのか?」

「稀に決まってるじゃない。こんな毎日だったら、外でピクニックなんて出来たもんじゃないわ」

「…………だが、ピクニックを邪魔するだろうその一匹が残っているが、どうするんだ?」


 何故か倒さずに生殺し状態にしている一匹のヴォートル。

 抵抗する力さえも失ってしまったのか、既にぐったりとしていて、何も危害を与えてくるとは思えないが。

 彼女は思い出したようにそちらへ振り向くと、さほど悩みもせずに、


「どうせ今は倒れているだけだわ。邪魔してこないし、大丈夫でしょ」


 いやそうかもしれないが、他の人にもしかしたら危害を及ぼすかもしれない。

それがきっかけで、実は俺たちが事件を解決している間にも裏で悲しき物語が……なんて話があるかもしれないのに、彼女は全く考慮もせずにそう言っていた。

 無駄な殺生を嫌っているのか、それともただ適当なのか。

 今のところ有力なのは後者であった。


「ま、エミリーがそれでいいなら構わないんだ」


 あの魔物がこれで人を襲うことを止めてくれる、もしくはこのまま静かに消えてくれることを望もう。


「本当に、何でこんな事になったのかしら」

「……確かにな」


 彼女の言いたいことはよく分かるからこそ、俺も口裏を合わせていた。

 当初の目的通り、人里にたどり着いたのだが木で出来た門の前に門番が常に立っていて。中に入れて欲しいとお願いをしたのに対して、たった一言。

 アニマル事件に関連する魔物が出たらしいので、信頼出来る人物以外中には入れられない、念のためにな。

 そもそも王国直属のギルドとしては、人里の脅威となっている魔物をどうにかしないといけないらしいようで。


「門番との話あったでしょ? あの時、昨日スパイに話したことを思い出したわ」

「たらい回しのことか?」

「そうよ。で、たどり着いた先のこれ。もうこれから色々振り回されそうに思ったわ」


 エミリーは俺にタオルを押し付けつつ、これから起きることに対して厄介だったと口にしている。

 正直に言えば、それも同感ではあった。


「でも、余裕なんだろ?」

「余裕よ。ただ面倒なだけ」


 彼女はさっさと情報を聞きたいと望んでいたようだ。

 あれだけ楽しそうに乱舞していた彼女が、何を言っているのだろう。どうせならもっと狩りに行ってもいいぐらいなのに。


「しかし戦うのが本当に好きなんだな。複数相手でも無双だし」

「一対一で考えれば楽勝よ。ってか、あんたも手伝いなさいって話なんだけど?」

「筋肉痛持ちの俺がいても足手まといだろ」

「あのね……。昨日あれだけ逃げ回ってよく言えるわね」

「あれはお前にも責任があるだろ?」

「…………ふん。つい忘れていたのよ」

「ついって……」

「もう、うるさい」


 せっかく上手くいきそうだったのに、またそっぽ向かれてしまった。

 だが、先ほどよりも棘はない。自分の発言に対して、ある程度呑み込んでくれているのだろう。少しイベントとして昇華出来たのかもしれない。

 とにかく彼女自身も俺のせいではないと思っているからこそ、皮肉は言えていないことだし。

 まぁ俺に銃を乱射した手前、今更後に引けない部分が強いのかもしれない。

 また時間と共に、それが消えてくれるのを待つほかないだろう。


「それよりも、あんた何かゲームで戦ったことないの?」

「リモコン使って剣道ゲームなら、何度か」

「そんなの参考にならわないわね」

「全くその通りだ」


 彼女のように何十時間も蓄積された経験というものもないし、そりゃあ彼女には一蹴される内容であることは分かっていた。

 受け取ったタオルを鞄に入れなおし、フッと自嘲気味に笑えてしまう。

 因みに、この鞄は昨日の夜に彼女が用意していたそれである。つまりは荷物持ちをしていたということだ。足手まといだし、昨日の件のことを触れられたし、仕方ないと言えばそうだが。


「さて、場所がないしどこに仕舞おうか……」

「詰め込めばいいのよ。また目的地に着いた時に整理すればいいんだから」


 とは言いますが、医療系統や缶詰やらのせいで、背負った時、背中に固いモノが当たる違和感があるのだ。当人はこっちに押し付けてきたから知らないだろうけど、これはかなり鬱陶しいことである。

 しかも少しの距離と断っておきながら、歩いて二時間ぐらいかかっていたのを忘れていない。この世界に時計のような時間確認が出来ないので日の傾きで判断しているのだが、朝に出発して、たどり着いたころには日は真上に昇っていたのだった。

 また魔物討伐のために出歩いたし、その分時間がかかると想定して……なるべくタオルをクッション代わりに、なんて工夫を凝らさねばならないだろう。


 更に言うと、鬱陶しさというのはまだあって、今朝買っていた衣服も実は性にあっていないというのがある。コートを買ってもらったのはいいが、正直太ももの裏に当たって、気持ち悪さを演出してやがった。

 ジャケットと色味が似た青い色を使ったコートだからということで買ったのが駄目だったようだ。丈の長いコートを着たことない俺には歩くたびに当たる感覚に慣れなかった。多分、これも時間がかかることだろう。足の筋肉痛もある。


 とにかく諸々の事情から、なるべく一つでも解消したい、というのが感想だった。


「この医療系は軟膏や塗り物が多い。もし担ぐのであれば上の方に置くのが良い」


 確かにエミリーの言うとおり、上の方に置く方が下に置いてこぼれたときの悲惨さが違う。しかし、彼女自身が持っていったとされるお菓子も上に置かなければならない。


「ん?」


 そして、先ほどの口調は明らかに彼女のではなかったとようやく気付いた。

 そもそも声が野太い時点で違和感を覚えるべきだったのかもしれない。

 誰かが来た。そう思って、振り向いて、そして目を見開くことになった。


「お、おう!?」

「こんにちは。こんなところで人を見るとはね」

「こ、こんにちは……」

「うん、いきなり話しかけたらまずかったか?」

「えっとまぁ……驚いたってか」


 まず驚いたことが服装として軍服であったこと。厳密に言えば違うのだが、それを模したコートを羽織っている。胸には証として階級章なども付けられていたし、腕章もある辺り、派手さはあった。

 下もそれに合わせた制服であったが、少しだぶついているようにも見える。

 だが、それ以上に気になるところと言えば、頭に付けていたものだった。


「何だよ、そのお面」

「ん、これか?」


 彼もそれに気付く。

 それは半分に割れた狐のお面。日本の妖狐をイメージしたものなのだろうか。白と赤を組み合わせて出来たお面であって、彼はそれを気にせず付け続けていたのだ。


「思い出の品さ」

「思い出……その割れたお面がか?」

「それで分かってくれない……あ、なるほど。君には楽しい思い出がないのか。それは悪かった」

「いや違うだろ……」


 とりあえず妄想力が豊かな人であることは分かった。

 しかし思い出とはいえ、彼を珍妙な姿に仕立て上げていることには変わりない。

 こういう変に着飾ったキャラクターは色んなゲームで見るけど、ここまでアンバランスな存在というのも珍しいものだ。性格も然り。


「あんた誰よ。女性の後ろに立つなんて、ストーカー気質でもあるのかしら?」

「例えばさ。君が私の後ろに立ってくれてたら、私はとても興奮する」

「だから何よ。私は嫌のよ!」


 昨日の件もあるのだろう。『嫌』という部分を無駄に強調されたような気がした。

 そして、地面を擦るような音が空気に緊張感を与えていた。


「はは、身構える必要はないさ。……なるほど、どこかで何か起きているのか」


 そう言って彼は自分の後ろを振り返る。


「……目の前にいる人が怪しいのよ。で、誰? 名前を早く教えなさい」

「それは新手のナンパと受け取っていいか?」

「何でそうなるんだ……?」


 変な話で混乱させてはいるが、結局名乗りたくないという意思表示であろう。

 彼女も唐突に現れた変質者に、舌打ちで答える。


「全く、初対面相手に礼儀を知らないわね」

「この程度で怒るとは……なるほどあの日か。すまないな、じゃあ教えよう」

「……何で謝られているのに、むかつくのかしらね…………!」


 あらぬ誤解をされているだろうからね、エミリーさん。

 しかも相手は仕方ないと完全に馬鹿にした上で説明しようとしているし。

 この人、昨日の中二さんと通ずるものを感じてしまう。


「私の名前はノラン。ノラン・デュランド」


 ハキハキとした声。シワのある顔に似合わず、子供心を持ち合わせているらしい。

 エミリーと顔を見合わせ、とりあえずこちらも自己紹介をすることに決めた。


「俺は悠馬。神代悠馬」

「……エミリーよ」

「よし、ユーマにエミリー。これで友達さ」

「いやそこまでの関係になりますかね……?」


 俺のボヤキに対して彼は完全に無視。

 それよりも、なんて気にしない様子で話を先に進めていた。


「私は君たちに少し話がしたい」

「話って何よ?」

「そいつのことで、ちょっと」

「……ヴォートル?」


 ぐったりと横たわっているそいつを指さして、彼は俺たちに聞いてくる。


「そいつはどうやって倒した? 詳細を知りたい」

「知ってどうするのよ?」

「え?」

「は?」


 今までテンポ良かったのに、ここで一旦間が生まれてしまった。

 お互いに何故そんなことを聞いてくるのか、互いに顔を見合わせて確認している。


「いや、例えばだ。俺が君のスリーサイズに興味があって質問したかったとしよう」

「どうしてそうなるの?」

「エミリー、お前はその理由を聞くのか?」

「何で、もう、そんな変な方向に……あー、お願いだから変なこと言わないで……!」


 エミリーは額に手を当て、嫌なことを忘れようとしているみたいだった。苦悩しているようにも見える。

 そして悲しきことに、俺はそれを見て昨日の慎ましい胸を思い出していた。

 タオルに巻かれてもなお、あまりはっきりと見せることの出来なかった谷間。


「ま、まだ成長期だしなぁ……」

「……ッ」

「おっと、俺にも危険察知できるようになったか?」


 とりあえず彼女から離れろと鳥肌が教えてくれたような気がする。


「話を戻すぞ」

「あんたが勝手に逸らしたんでしょ!」


 エミリーのツッコみにも彼は顔色一つ変えない。ある意味ローラとは違った肝の据わり方であった。


「ただの興味ってことさ。それ以外に必要か?」

「興味だけなら言わなくてもいいわ」

「そこで否定……なるほど、ツンツンと来たのだから次はデレるな」

「初対面なのに、どうしてそう自信を持てるのよ……」

「ま、よろしく頼む。非常に興味深い内容ではあるからさ」


 頭を下げ、礼儀正しくお願いをされた。

 確かにただの興味本位でここまでするのかと些か疑問となる部分はあるのだが、


「まぁ……教えてもいいんじゃないか?」

「ちょっとあんた!」

「いいだろ? 別に困るような話じゃないはずだ」


 偉く警戒しているのだが、俺にはそこまで警戒する必要がないように思える。武装をしているわけでもないし、ただ単純に聞いてみたかったことなのだろう。

 スパイの件もある。もしかしたらこういう手助けが後に大きな利益となって返ってくるかもしれない。

 ふくれっ面の彼女はそのままではあるが、首を何度か横に振ったと思えば諦めたように説明をしたのだった。


「私が銃を使って倒したわ」

「銃……なるほど正法か」

「正法なんて使っていないわ。銃だけ、それだけよ」


 ノランは死にぞこないの方を見て、目を細める。


「あいつは正法で鎧を着ているような奴で、生半可な攻撃じゃ通用しない」


 確かに正法で身を守る動物だと言うのなら、剣と言った物理をはじくことは出来そうだ。

 つまり最後の瞬間に出た黒い靄は正法による影響なのだろうか。とても清らかなものとは思えないし、もしかしたらその霧のせいで動物自体に悪影響や暴走を与えているとか。

 ゲームの内容から推測するのはそんなことばかり。むしろ複数当てはまるので、確証と言ったことさえ出来ていない。


「信じられなくても結構。別に困ることじゃないわ」

「その銃とやらを見せてくれるか?」

「残念。一般人には公開されない美術品なのよ。で、美術館はただ今閉店中。因みに館長は聞き分けのない子が嫌いだから気を付けなさい」


 拒否権発動。確かにそこまでする必要はないだろう。

 何より彼女が生み出さなければ、見せることさえ叶わないのだから。


「で、何体のヴォートルと戦ったのさ?」

「十二……統計を取りたいの?」

「……」


 彼は目を閉じ、自分の中で何かを整理したかのような間を作ったのちに、再び目を開けたのだった。


「ありがとう。色々と参考になる」

「倒し方と数で何か参考になるのか?」

「色々あるんだよ。色々とね」


 そこでニヤニヤされると変に誤解してしまう。意味深な方で、だ。

 まぁ倒し方や数だけだと、もしかしたら彼はヴォートルに関する調査をしているのかもしれない。

 しかし、何を調べるためにやっているのだろうか。世界の謎に迫る重要なポジションのキャラなのかもしれない。

 それでも、味方か敵か判断出来るものではないのだが。


「それで、君たちはどこに向かう?」

「この先のカルムという場所だ」

「ちょっと!」

「そうか、私も少しそこでやることがあるのだよ。しかし、門番のせいで入れなくてな」


 ノランも俺たちと同じようだ。もしかしたらそのためにここまで足を運んだのかもしれない。

 カルムの先を見つめていた彼だが、思い出したように手を打つと、


「そうだ。お願いがあるのだが、カルムへ向かうというのであれば一緒に同行させてもらえないか?」

「ちょっと!?」

「まぁ……同行するなら、なぁ?」

「だからちょっと待ちなさい!」


 珍しく彼女が狼狽えていた。


「私たちの仕事は布教活動じゃないのよ! 簡単に教えないで」

「別に場所教えても困る事はないだろ……?」

「で、何で勝手に付いてこようとしてるのよ!」

「駄目なのか……。なるほど、恥ずかしがり屋なのか。それは悪かった」

「……あーもう」


 滅茶苦茶だと言わんばかりに頭を抱えている彼女。まるで自分たちが軽率な行動、発言をしているみたいな対応だ。

 別に同行するだけで文句を言う事も出来ない。それは彼女も理解しているはず。

 物語の展開で同行したいというポジションの奴は大抵イベントに深く関わることは少ない。いわばサブのサブキャラ。別に大したことはないはずなのだ。

 その上で、彼女は悩んでいる。多分邪魔な存在であるかを考えているのだろう。


「……一つ教えなさい」

「メアドかな?」

「ありがたく着信拒否してやるわよ……。ってかあんた、その対応からしてゲーマーね?」


 彼女は断定気味にそう話を進めていた。

 ゲーマー。その可能性は俺もある程度予測していたのだった。

 身なり、言葉のやり取り、全てに特徴があるやつではあるし、世界に馴染んでいない感が丸出しである。

 ぶっちゃけ言えば、この世界の者ではないことは分かり易かったのだ。


「分かるのか……つまり、お前たちもゲーマーなのだな」

「どういうことだ? 何で分かったらゲーマーと?」

「ゲーマーということは世間にはあまり知られていないのよ」

「え、そうなのか?」

「そうさ、結構常識だぞ?」


 つまり、ゲーマーという存在は秘密にされていると。どこぞのエルフと人間の間の子は禁忌として隔離されている。なんて設定が無ければいいのだが。

 そもそも、ゲーマーがどれくらいの割合を占めているのか。という話がある。

 それを聞いてみたら、彼女は「分からないわ」と俺の質問に応えてくれなかった。


「そもそもゲーマーが一つのジャンルに一人なのかも分かっていないし、国や街で散り散りになっているのを一人ずつ炙りだせないわよ」


 スパイが良い例という訳か。あのようにひっそりと暮らしているゲーマーもいるのだから分からないということか。


「私の予想では一パーセントぐらいかしら」


 俺が会ってきたのはほぼゲーマーだった気がするのだが、それはどうしてだろうか。

 もしかして類は友を呼ぶ、といったことわざが成り立っているのかもしれない。


「ま、そんな同じゲーマーさ。暫くだけどよろしくな」

「……迷惑だけは掛けないでよ」


 そう言って、エミリーは新たなパーティーの仲間を不安に感じているようだった。


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