表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

不安

作者: 麻沙綺

今、私は補習を受けてる。

なんの?

って、大の苦手な数学。

昨日の小テストが、赤点だったため。

残ってるのは、私一人。



「秋月。何で、こんなのが解けないんだよ!」

とご立腹なのが、数学の教科担当の泉先生。

「解らないんだもーん」

少し口を尖らせ、上目使いで、彼を見た。

なんてね。

本当は、昨日の朝の二人のやり取りが頭から離れなくて、集中できないんだ。

わかってるんだよ。

先生には、私なんか不釣り合いだって・・・。

自覚してるんだよこれでも・・・。

「そんな可愛く言っても、無駄だぞ。公私は、しっかり区別するのが俺なんだから」

って・・・。

そう、冷たく言う泉先生は私の旦那様。



私の両親が、他県に引っ越すことになったため、当時付き合ってた泉俊也さんが、

「雪乃さんを僕に下さい」

って、頭を下げたのが、一昨年の冬。



高校に入って直ぐに同棲。

その時は、他の高校教師だった俊也さん。

私が、十六歳になったと同時に籍を入れた。


二年生に進級した時に、俊也さんが私の高校に転任してきた。

甘いマスクに、切れ長の目が女生徒を虜にしていく。

それに、新任先生に色目を使われてる。その度に、ヤキモキする。(だって、自分にはないもん)


私たちの関係は、誰にも言えない。

理事長にも口止めされてる。

ので、私は、旧姓のままだ。



「ほら、秋月。さっさとやって、帰れ」

冷たく言い放たれる。

「はーい」

私は、渡されたプリントと睨めっこ。

その間、俊也さんは、何かの本を読んでる。


十分が過ぎ。

二十分・・・。


時間は、過ぎていくが、私の頭では、解けないでいた。


「秋月・・・。できたか?」

俊也さんが、覗いてきた。

「全然できてないじゃないか」

溜め息混じりで言う。

「それ、宿題な。明日までに解けよ」

「はーい」

「延ばすな」

パッコン。本の表紙で頭を叩かれた。

「いたっ……」

涙目になりながら、彼を軽く睨んだ。



プリントを鞄に突っ込んで、席を立つ。

「先生。さようなら」

声をかけて、教室を出ようとした。

「雪乃。今日、帰り遅くなるから、戸締まりしとけよ」

って、冷たく言う。が、目元が優しい。

「はーい」

私は、返事だけ返した。





遅くなるって・・・。

また、新任の舞先生に誘われたのかなぁ・・・。

不安が、胸を押し寄せてくる。

俊也さん、優しいから・・・。

行って欲しくない。

って言えたら、どんなに楽か・・・。

俊也さんには俊也さんの付き合いがあるのはわかってる。

それでも、行って欲しくないって思うのは、私のワガママですか?

 

夕飯、どうしようかなぁ・・・。

家に帰る前にスーパーに寄り道。

一人で食べるなら、簡単のでいいか・・・。


何て思いながら、しっかり買い占めた。


重い・・・。

こんなに買い込むんじゃなかった。



何て、今更遅いか・・・。

重たい荷物を運びながら、新任の先生と楽しそうにしてた俊也さんを思い出した。

何で、新任の先生なの?やっぱり、俊也さんから見て、私はお子様だから?大人の女性の方がいいの?


そんなモヤモヤを抱えながら、家路についた。


ヨロヨロしながら、家に着くと買った物を仕舞う。


「はぁー。先に作っちゃおう」

制服も着替えずにエプロンを身に付けるとさっさと夕飯を作った。


「いただきます」

・・・・・・。

一人で食べるの、寂しい。

テレビを点ける。

・・・やっぱり、寂しい。


夕飯もそこそこにお風呂に入って、さっきの宿題のプリントと睨めっこ。



でも、俊也さんの事が気になって、手につかない。


ハァーー。

今ごろ、俊也さん、舞先生と・・・。

いかんいかん。

でも、落ち込むなぁ・・・。



舞先生、美人だし、ナイスボディーだし・・・。

大人の女性だし・・・。

それに対して、私は、ブスだし、ぺたんこの胸だし・・・。

お子さまだし・・・。


勝てる要素、どこにもない・・・。


落ち込みどころ満載。


俊也さん。

何で、私なんかと結婚したんだろう?




「・・・ゆき・・の。雪乃」

って声がする。

「・・・う、うーん・・・」

意識が、浮上する。

「こんなところで、寝てたら風邪・・・。って、雪乃、どうした?」

俊也さんが、慌ててる。

??

俊也さんが、私の頬に手を伸ばしてくる。

「何、泣いてるんだよ」

って・・・。

泣いてなんか・・・。

「俺、何かしたか?」

戸惑いの色を隠さずにいる。

「まさか、不安にさせたか?」

ドキッ・・・。

何で、わかるのかなぁ・・・。

「雪乃。ちゃんと話して。じゃないと俺もわからないから・・・」

優しい声で言われて。

「俊也さんは、何で私なんかと結婚したんだろう?って思ったの」

私の問いに口を閉ざした。




言いにくいよね。

数分の沈黙が、永遠に感じた。

「ごめんなさい。私みたいな、どうでもいい子といても、仕方ないよね」

そう言うと、自分の部屋に逃げた。

自分で言って、虚しくなった。


ドアに鍵をかけた。



その場に座り込んで、声を殺して泣いた。



何で、あんな質問したんだろう?

しなきゃ、よかった・・・。




沈黙が、痛かった。

耐えきれなかった。

だから、逃げ出した。




トントン・・・。

ドアが、ノックされた。

「雪乃・・・」

私は、返事をかえさなかった。


ガチャガチャ・・・。

ドアノブが廻される。

開くわけない。

「雪乃・・・。開けて・・・。イヤ、そのままでいい。さっきの質問だが・・・、俺が、雪乃と離れたくなかったんだよ」

ドア越しに言ってきた。

エッ・・・。



「雪乃から告白してきたときは、どうでも良かったんだ」

どうでも良かったって、酷くない。何で付き合ったりしたの?

「でも、いつの間にか、雪乃に惹かれていったんだよ」

 ・・・・・・。

「俺の一言で、一喜一憂して、コロコロと変わる表情とか・・・。気が付いたときには、重症だった。雪乃が居ないと心配で、不安で仕方がなかった。だから、俺は君のご両親に「雪乃さんを下さい」って、言ってたんだよ」

俊也さん・・・。

私は、ドアの鍵を外して開けた。



「俊也さん。私・・・」

「雪乃。不安がらせて、悪いと思ってる。だけど、俺の中にいつも居るのは、雪乃の存在。雪乃が、頑張ってる姿が、直に見えるのって、俺は得してるんだと思ってる」

優しい笑顔。

私は、俊也さんに縋りついた。

俊也さんが、優しい手で頭を撫でてきた。



「雪乃が不安なことがあるなら言いな。ちゃんと受け止めるから・・・」

俊也さんの声が、頭上からおりてくる。


「舞先生に優しくしないで・・・。ちゃんと、私を見て欲しい・・・」

何て、私の我が儘。

口にすると、恥ずかしい。

「あぁ、舞先生ね・・・」

って、少し考え込んでから。

「彼女、婚約者いるよ。しかも、御曹司。でも、舞先生、自分の夢を叶えてからじゃないと結婚しないって、彼から逃げてるみたいだけど・・・」

へッ・・・。

それじゃあ・・・。

「イヤー。雪乃が妬いてくれるとは・・・」

意地悪な笑みを見せる。

「もう、知らない・・・」

私は、彼から離れて、部屋に戻った。




顔。

赤いだろうなぁ。

「雪乃」

追いかけるように入ってきた。

「やだ。来ないで」

って言ってるのに。

「なんで?」

そう言いながら、背後から抱き締めてきた。

恥ずかしいから・・・。

何て、言えない。

「雪乃。愛してる」

突然、耳元に囁いてきた。

もう・・・。

「雪乃は?」

「私も、愛してる」

振り向き様に返すと、唇に柔らかいものが触れた。

驚いてると。

「目ぐらい、閉じろよな」

って、再び唇が塞がれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ