しまった、跳弾だ!
短いです。
ついうっかり、というレベルではない。
大失態だ、畜生め。眠くてぼんやりしていた所にそれとなく話を持って行かれ、思わず手口を話してしまった。後悔してもし切れない。
あの遠藤のクソ野郎――あいや、クソアマにハメられ、俺まで映画研究部に入れられてしまった。元々、放課後暇な時は(氏家の『だったら部活に入れ』という怒りをのらりくらりと回避しつつ)入り浸っていたとはいえ、正式に部員登録したとなれば、色々としがらみが生まれてくる。
氏家はいい気味ね、と笑った。腹いせに、彼女が自分のPCを付けたら自動で『ドーン・オブ・ザ・デッド』の一番惨いシーン――バス内、チェーンソウ――が流れるようにしておいた。氏家がスプラッタに耐性がないことは調査済みだ。
何気なくPCを付けて、直後に悲鳴を上げて飛び退さる氏家はみものだった。笑いを堪えていると涙目で詰ってきたので、いい気味だな、と意趣返し。楽しい。
「最低だわ、多田くん」
「何、かわいい悪戯だろ」
「自分で言わないで!」
そっぽを向いてイヤホンを差し直し、口直しとばかりに『イン・ハー・シューズ』を見始める。あれ、氏家は一人っ子だったよな、確か?
しかし、切り替えが早く、何時までも怒りを引きずらないのが――無論被害が長引けば別だが――彼女のいいところだ。
翌日にはいつもの通りの態度である。
「おはよう、多田くん」
「ん、ああ」
「眠そうね、また夜更かし? アニメはほどほどにね」
「余計なお世話だ」
「あら、ごめんなさい」
――かち、かち。
唐突に無機質な音が耳元で鳴り、俺はぼんやりしながら頭を上げて目を開いた。音源を確かめようと後ろを振り向くと、軽く笑いを浮かべた氏家がシャーペンを片手に微笑んでいる。
「おはよう多田くん、よく眠れた?」
小声で言われる。時計を見ると、四限半ば。寝ていた時間は十分もない。
「全然だ。安眠には程遠いね」
もう一度腕を机の上で組み、その上に頭を乗せる。
直後、耳元でかちかち音。顔を起こす。
「寝れるか、畜生」
「寝ちゃダメよ、きみベクトル苦手でしょ?」
軽く睨むが、どこ吹く風といった風体だ。
ため息を吐く。
「わかった、わかったとも。俺の負けだ、寝ないさ」
どうも、この『真面目モード』の氏家には勝てない。シャーペンを手に取り、黒板を映す。
えー、何々、ベクトルA大なり0ベクトルより、ベクトルAノットイコールベクトルB…………。
こっくり、こっくり、
かちかち。
くそったれめ!




