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美談は勝者が語る

長月とは執筆ペースが違うのだよ、執筆ペースが!!

「また生贄にするつもり?」

 目の前に立つ女、氏家水月がそう言って、直後に、遠藤後輩は眼鏡の奥で目を細めた。その一言だけで、色々と気づいたことがあるらしい。頭の回転が速すぎるのも問題かも知れない。

「見損ないました。多田先輩がここまで屑だとは」

「ちょっ、ま、ストップだ、遠藤後輩。盛大な誤解がある」

 つまり、俺に何らかの事情があってとある部活動の部員を集める必要があり、遠藤後輩をそこに叩き込むことで自分は逃げる、という誤解だ。

 強ち誤解とも言い切れないが。

「何がよ」

 案の定横槍を入れてきた氏家を片手を上げることで制止し、遠藤後輩に向き直って

「これはお前の為を思ってやってるんだぜ?」

「おためごかしはいりません」

「いや、そうじゃなくてさ……ひねくれるのは結構だが、人の厚意を全部一緒くたにして掃いて捨てるのは、損する生き方だよ」

「……」

 何度か口を開きかけたようだが、先輩後輩という立場もあってか、結局彼女は無言で続きを促した。内心では『たかが一年程度早く生まれたからって偉そうに説教垂れてんじゃねえよ』とか思っていそうだ。

「つまり、俺が言いたいのは、この間の喧嘩で学校での立ち位置が微妙なものになっちまった遠藤後輩の為に、逃げ場所を用意してやろうと思ったってことだ。――もちろん、無理強いはしない」

「……そうですか。早とちりしたことは謝っておきます」

 しかし、微妙な顔をしている。

 そこで、事態を傍観していたもう一人が口を開く。

「随分優しいのね、多田君。私の時と一緒だわ。――遠藤さん、だったかしら。彼のことは信じない方がいいわ。彼の上辺の言葉を鵜呑みにすると、痛い目を見るわ」

 ボロクソに言われた。

「ちょっと待った。それは余りに一面的過ぎる見方だろ。恩着せがましいことを言うつもりはないが、お前は、いや、お前にも事情があって、その条件に合致してると思ったから入ってもらった訳だ。生贄って言い方は語弊まみれだ」

「あのね多田君、本気で人のことを思ってるなら、自分も入部するものでしょう」

「いや――それは、そうだが」

 嫌だよ面倒くさい、と切って捨てたいが、そんなことをすれば確実に遠藤後輩に逃げられる。それはゴメンだ。俺は錆び付いた頭を必死で回転させ、起死回生の策を――

「――そう、俺には他にも困ってる人間を助けるという使命が」

「寝言は寝て言ってください」

「冗談は名前だけにしなさい」

 起死回生の、策……。


「悪いな、冗談だ。真面目に言えば、家の都合でな、入っても碌に顔も出せそうにないからってのが理由だ」

 無難に、踏み込み辛い家の話を持ち出す。二人は訝しむような顔をしているが、流石にここで突っ込んで来るほど無作法ではないようだった。


「先輩、特に何もないはずですよね?」

 無作法なのが湧いてきた。

 扉を開けたままの氏家の肩越しに顔を見せたのは、案の定というか何というか、最近色々とぶっ飛んでいる谷山であった。

 勘弁してくれ、と呟く。ここで谷山が湧いて出るのは想定外だ。

「……まあ、先輩が屑なのは分かりましたが、利用しようという悪意だけでこんなことをしたわけじゃないのも分かりました。……気が向かなかったら、顔を出さなくてもいいんですよね?」

 不意に、遠藤後輩が面倒くさそうに口を開いた。その内容はここまでの流れから予想できないものではあったが、こちらにデメリットはないので素直に感謝しておく。

 これで肩の荷が降りた。

「ああ、もちろんだ。谷山、喜べ」

「は――」

「――でも、谷山くんと狭い部屋に二人きりというのは悪夢ですので、えーっと、そちらの」

「氏家よ。よろしくね」

「遠藤です。――氏家先輩も私が来るときは来てくださいね?」

「……本当にいいの? 多田君は来ないわよ?」

「大丈夫です。よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げた遠藤後輩の顔には何となくどこかで見覚えのあるような笑顔が浮かんでいて、俺は理由も分からず嫌な予感に襲われた。



さっさと続きを書きましょうね、長月くん。

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