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バレちまった男

 分かっちゃいたが、自己紹介をしただけで気付かれると中々キツい。自分が今随分な顔をしているのを自覚する。

 目の前に立つ女子生徒――つい今し方正式に知り合いになった遠藤真理亜後輩に「勘弁してくれ」とお願いして、嫌な事実を忘れるよう努める。

 しかし、ここまで鋭いと知り合いになるのはやめた方がよかったかもしれない。

「やっぱり俺には片思いがお似合いだよ……」

 ぼそりと自嘲を口にしてみれば、遠藤後輩に「はい?」と聞き返されたので、口を噤んだ。この手の輩は無駄に耳敏いのである。

 自己紹介を――それも自分から――してしまったことを本格的に後悔しだした俺を後目に、遠藤後輩は軽く頭を下げた。

「遠藤です。……下の名前はご存知でしょうから、言いませんよ」

 一瞬、『え? 知らないなあ、なんて名前なんだ?』とでも意地悪してやろうかと魔が差したが、ここで恨みを持たれるのは良くない。

「おう。よろしく、真理亜ちゃん」

 ――つい、やっちゃうんだ!

 脳内を、黄色と赤の道化がらんらんるー、と叫びながら駆け抜けていった。

 瞬間、彼女の引きつったこめかみを見て、思わず顔がにやける。

「ユダ先輩も中々意地が悪いですね」

 やはりそこを持ち出すか!

「……『忘れられた聖人』だからな。根性がひん曲がっちまったんだよ」

 お互い額に小さく青筋を立てながら、笑顔で言葉を応酬する。

 ギスギスしてるが、この後輩とは気が合いそうだ。

 ひとしきり言い合って、俺たちは同時に軽く息を吐いた。

「ほぁああ…………」

 ……一応言っておくが、この気色の悪い溜め息は俺のものではない。無論遠藤後輩のものでもない。となれば、犯人はこの場にいるもう一人の後輩に限られる。つい先日変態(ドM)であることを露呈した、谷山大司(ひろし)後輩である。

 大方、今の遠藤後輩の皮肉にドM心に火が点いたのだろう。――まあ、彼女が屋上に来た瞬間からそんな感じではあったが。

 そもそも、我々が屋上で会話をしていたのも、彼女の件だったのだ。

 谷山後輩の『どうやったら彼女に罵って貰えますか!?』という相談に乗ってやっていたのである。……勿論、色々と吹き込んでやった。

「おい谷山」

「な、なんです?」

 ――ふと嫌な予感がして、俺は谷山後輩の肩を掴んで小声で話しかけた。

「さっき言った話は、くれぐれも俺がいない所でしてくれよ?」

 今すぐにそれ(・・)をやられたら、ほぼ確実に俺の入れ知恵とバレる。まあ、そのこと自体は構わないのだが、彼女の罵倒が俺に宛てたものになってしまっては、俺にも谷山後輩にも益がない。というか、彼女の口撃はノーマルの俺には威力が強過ぎる。

「……わかりました」

 不満気ながらも肯定したのを確認して肩から手を離し、遠藤後輩に向き直る。急に内緒話をし出した俺達に、彼女は少し眉を顰めていた。

「三人で会話をしているときに、二人だけでこそこそと話をするのは酷く失礼では?」

「あー、そうだな。すまん」

「あ、ありがとうございます」

 隣から感謝の言葉が聞こえて、俺はぞっとして身を引いた。

 この後輩、ちょっと怖い。

 遠藤後輩も俺と同じように一歩下がっていた。嫌な事実に気付いてしまったらしい。

「……あの、先輩。どうしてこんな人と仲がいいんですか」

「俺もついこの間まで知らなかった――というか、あんたのせいで目覚めたんだよ、多分」

 苦い顔で聞いてくる後輩に、おえっ、と吐き出すようなジェスチャー付きで答えてやる。あいつ、或いは遠藤後輩をも超える色物かも知れない。

 お近づきになりたくないタイプの色物だ。

 俺達二人に放置された谷山後輩は、やに下がりまくった顔で遠藤後輩を見つめていた。

 やべぇよ、あいつ。

 俺は戦慄した。

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