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三匹の子オオカミと一匹の大ブタ

作者: tiktak

 むかしむかし、あるところに、三匹の子オオカミがいました。三匹の子オオカミは仲良く同じ家に暮らしていましたが、長男がちょうど思春期に入り、「自分の部屋を持ちたい」と思うようになったので、それぞれが自分のお家をつくる事になりました。


 長男のオオカミは、ワラのお家をつくる事にしました。手軽でかんたんだし、一刻も早く一人暮らしライフを満喫したかったからです。ワラをなわでしばり、ギュッ、ギュッ、と結んでいると、一匹の大ブタが近づいてきました。


 大ブタはばかで、食いしんぼうで、おまけにちょっとクサかったので、みんなにきらわれていました。ブヒブヒと鳴くばかりで、意思の疎通もできません。図体ばかりでかく、アホみたいです。


「やい、ブタ。なにしにきたんだい」

「ブヒイイ!!!」

「ブヒイじゃないよ。人の家作りの最中に、ブヒイじゃありませんよ」

「ブヒイイ!!!」

「わかりました。降参します。ブヒイしか言わないやつに、勝ち目はありません。だからどうか、お引き取りください」


 しかし大ブタはなにを思ったのか、ワラとなわを手に取り、その場を離れようとしません。時おり不器用にワラをいじっては、子オオカミがせっかく集めてきたワラを台無しにするのです。


「ちょっと。なにがしたいんですか、大ブタさん。かんべんしてくださいよ」

「ブヒイ。モグモグ」

「ちょっと。ワラ食べないでくださいよ」

「ブヒイイン」


 そしてそのとき、大ブタが食べようとしたワラが鼻の穴に入り、なんだかむずかゆくなって、大きなくしゃみをしました。


「ブ、ブ、ブヒィィィン!!!!!」


 それは想像を絶するくしゃみでした。その勢いたるやすさまじく、子オオカミがそれまでせっせと作り上げたワラの家を、一瞬でふっとばしてしまいました。子オオカミは最初「隕石が落ちた」と勘違いしたほどです。


「なんだっていうんだよ、おまえ!」

「ブッヒィィィ」


 大ブタは前足で鼻をほじったあと、何事もなかったかのように帰っていきました。家をふっとばされた長男オオカミは、仕方なく次男の家作りを手伝うことにしました。

 次男坊オオカミは、木のお家をつくっていました。まず柱を立てて、ならべた木にクギをうって、トントントンとしていたところにまた、大ブタがあらわれました。


「あれ、なにしにきたんだよ。ブタ。くさいぞ、おまえ」

「気をつけろ、お兄ちゃんこいつに家、こわされた」

「ブヒイ」

「ブヒイじゃありませんよ。人の家こわしといて、ブヒイじゃないですよ」


 大ブタはまたなにを思ったのか、木とクギを手に取り、右往左往し始めました。なにがしたいのかわからないし、でかい図体でウロウロ動かれるとすごくジャマでした。


「本当になんなんですかあなたは。もう帰ってくださいよ」

「ブヒイ、モグモグ」

「こらこら、木材を食べるな。木材を。どんぐり食べなさいよ、ブタは。どんぐり食べて、イベリコ豚になりなさいよ」


 しばらく右往左往していた大ブタは動きを止めると、長男オオカミと次男坊オオカミの作業を凝視してきました。近くで見たり離れて見たり、上から覗いたり下から覗いたり。やりたい放題だったので、オオカミたちはすぐに作業に集中できなくなりました。


「なんですかそれは。どういうプレイですかそれは。やめてください」

「ブヒイ!ブヒイ!」

「行動がうるさいよ、おまえは。いちいち情報量が多いんだよ、おまえの行動は」


 しばらく作業を見ては、なにかうなずいていた大ブタですが、突然、意を決したようにかなづちを手に持ち、気合いの声とともに、それをやおら柱にうちつけました。


「ブヒャアアアアアア!!!!」


 衝撃でした。大ブタの渾身の一撃がズシン、と地面に伝わったのを感じたと同時に、木の家はガラガラと音を立てて崩れ始めました。ほとんど八割がたできあがっていた家は、ただの木のがらくたの山になってしまいました。


「だからなんなんだよ…」

「ブヒ。ブウ」


 大ブタは屁をこいたあと、自分のお尻のにおいをかぎ、顔をしかめました。そして、また何事もなかったかのように帰っていきました。家が崩落した長男オオカミと次男坊オオカミは、仕方なく三男の家作りを手伝うことにしました。


 末っ子オオカミはしっかりものだったので、「風雨をしのげる、かたくて丈夫な、レンガ作りの長期住宅をつくろう」と考えました。レンガを運んで、積んで、ヨイショ、ヨイショ、としていたところにまたしても大ブタがあらわれました。


「お、ブタ。ちょうどいいや、ちょっとこっちきて手伝え」

「おい末っ子、血迷うな」

「そうだぞ。お兄ちゃんたちはな、二人ともこいつに家をぶっこわされたんだ」

「ブヒイ」

「ブヒイじゃないよ。人の家を二軒もこわしといて、ブヒイしか言えないのかよ。情緒に欠けるだろうがよ」

「返してくれよ。ぼくたちの、家二軒ぶんの情緒を」


 長男オオカミと次男坊オオカミの主張もむなしく、大ブタに家作りを手伝わせることになりました。しかし大ブタはやはり少し足りない子だったので、なかなか仕事を覚えません。


「うん。レンガとセメントは準備できたな。で、それをどうする?」

「ブヒイ」

「うん。セメントを地面にぶちまけるのね。斬新だね。今時の若者の仕事は」

「ブヒイ」

「なに?今度はレンガをなめるの?なんでもとりあえず口に入れるね、きみは。誰に強要されてるの、そんな毒味。なんの償いなの、それは」


 長男オオカミが姑のように大ブタをいびっている間に、次男坊オオカミと末っ子オオカミは順調に家を完成させていきました。あとは屋根さえ終われば完成、というところで急に大ブタは家をよじのぼり、まだ未完成の屋根部分に身を乗り出しました。しかしそのときバランスを崩してしまい、屋根からすべりおちてしまいました。


「ブヒイイイイイイイイイイイイ」


 次の瞬間になにが起きるか、瞬時に理解した長男オオカミは次男坊オオカミと末っ子オオカミを抱えて家から飛び出しました。そして間一髪で脱出したあとすぐに、ズドオオン、という大ブタの落下音が響きました。そして大きな地鳴りとともに、レンガは積み木のおもちゃのように崩れていき、家は跡形もなくなってしまいました。


「やってくれたな」

「ブヒイ」


 大ブタの落ちた場所は、深さ五メートルくらいの大きな穴になっていました。見たところ、大ブタはキズ一つ受けていないようです。


「すごいパワーだな、あのブタ。よし、お兄ちゃん。あのブタ、建設現場に売ろう」

「なんだって?」

「あのパワーなら、大規模な建築現場できっと役に立つよ。ぼく、お家の建築資材を建築会社から買ったから、もと取らないと」

「おれも。木こりから木材買ったから、もと取らないと。よし、売っちまおう!」

「待て、待て」

「お兄ちゃんだって、家こわされたんだろう」

「そうだよ兄ちゃん、弁償するのはあたりまえだろ」

「あいつさっき、手伝おうとしてたんじゃねえか、って思うんだよ」

「え?」

「さっきだけじゃない。お兄ちゃん、最初の家こわされたときも、あいつワラとなわ持って、おれのやってることずっと見てたんだ。木の家のときもそうだ。たぶん、手伝おうとしてたんだよ」


 ふとオオカミ兄弟たちが大ブタのほうを見ると、立ち上がり、崩れたレンガをまた積み上げようとしているところでした。ひどく不器用な手つきで、一個一個、レンガを積み上げていきます。


「でもこわしたじゃん。同じだよ」

「そうだよ兄貴。同じさ」

「ばか。おまえら。お兄ちゃんもばかだけどな、まっすぐなばかだぞ。このブタも、まっすぐな大バカだ。末っ子。おまえはばかじゃないけど、お兄ちゃんよりずっと頭もきれるけど、なんだか、まっすぐじゃないぞ。うまく言えないけど、お兄ちゃん、おまえたちにはまっすぐな道を歩いてほしいって、思ってんだぞ。わかるか」

「わからん」

「わからん」

「仕方ない。またお兄ちゃんがしっかり教えてやるか」

「また三匹で住むの?」

「お兄ちゃんから言い出したくせに?」

「うるさい。おまえらがちゃんとわかるようになるまで、みんなで暮らす」

「ぼくの借金は?」

「ぼくのも!」

「お兄ちゃんが働いて返してやる。だから心配するな」


 そのとき突然、さっき大ブタが落ちたときにできた大穴から、クジラの潮吹きみたいに、ものすごい勢いでお湯が噴き出してきました。そしてあっという間に、その辺りには天然温泉ができあがりました。


「温泉だ!」

「天然温泉だ!」

「でかしたぞ、ブタ!」

「ブウ」


 こうして温泉を掘り当てたオオカミ兄弟は、温泉の近くに旅館を建てて、大もうけしました。そして大ブタはというと、オオカミ兄弟に温泉を掘り起こして富をもたらしたという噂が広まり、「大ブタを見たものは幸せになれる」「大ブタに触ればお金持ちになれる」「大ブタの声を聞くと頭が良くなる」と言われるようになって、旅館のマスコットキャラとして一躍人気者になったのでした。


「ブウ、ブウ」


 大ブタが鳴くと、客たちはみんな喜びました。ばかで、食いしんぼうで、嫌われ者だった大ブタは、みんなが喜ぶのを見てブウブウ、ブウブウと、幸せそうに鳴くのでした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

さらに感想などいただけたら、今後のためにありがたいです。

貴重なお時間いただきまして、本当にありがとうございました。

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