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のっぺらぼうですかそうですか

Side Eve. ~坂崎 唯舞~


 これはきっと夢なのだろう。それが瞬間的に分かった。


 十歳ほどの自分が誰もよりつかない公園のブランコに乗っている。時間がすでに夜遅く、日は出ていない。周りには電気も少なく、満月がとてもきれいに見える。

 そんな中で、自分の気は凄く落ち込んでいて、ギィーキギィーキと響くブランコの音がより一層気を滅入らせているような気がした。



 これは、夢なのに。どんどん気が滅入る。あぁ、早く夢が覚めてほしい。



 覚めろサメロさめろサメろ覚メロサメろさメろ……。お願いだから覚めて。

 これは夢だけど夢じゃない。思い出といえるほどの代物じゃないけど、自分の運命を変えた過去ではある。


「やあ」


 来た。アノ人が自分のところにやってきた。偽りの名前で接していたらしい人。逃げないと。今すぐにでも逃げないといけない。この場にいてはいけない。

 そう思っていても、過去は変えることはできない。

 だから、だから逃げないといけないとわかっていても自分は彼の胸に飛び込む。


「ヴァン!」

「イヴ」


 アノ人が付けてくれた愛称。“唯舞(ゆいま)”と書いて“イヴ”とも読めるから、俺はイヴと呼ぼう、と、そう言ってくれた。とても嬉しかったのに、もう呼んではくれない。今まででイヴと呼んでくれたのアノ人だけだし、これからもイヴと呼んでくれるのはアノ人だけだと思う。


「久しぶりだね」

「私、ヴァンと一緒にいたいよ! これからはずっと!」


 昔の自分は純粋だった。彼と一緒にいたいと心の底から思っていたぐらいに、純粋だった。


「イヴ、謝らないといけない事があるんだ。俺はヴァンじゃない」

「じゃあ、誰?」

「内緒」


 何故、内緒なんだろう。何故、名前を偽っていたのだろう。何故、アノ人は教えてくれなかったのだろうか。死んだ両親にも彼は偽りの名前を教えていたのだろうか。

 毎晩、月夜にきらめく銀色に輝く髪をした彼が来るのが家族三人で楽しみにしていた。


「俺は今から隠れないといけないんだ」

「なぜ?」

「内緒」


 また内緒だ。アノ人には秘密が多すぎる。


「でも、隠れないといけない。君の両親とは仲良くさせてもらったからね。イヴとは繋がりを持っていようと思って、今日は此処に来たんだ」

「どういうこと?」

「今は分からなくていいよ。今は、ね。……さあ、君の大切なものは何かな?」

「えっと……お母さんとお父さん!」

「そうか。じゃあ、イヴの中のお母さんとお父さんをもらっていくよ」



 そこで夢が覚めた。嫌なところで夢が覚めた。こんなところで夢が覚めるんだったら、せめてこの後で撫でられるからそこまで夢で再現してほしかった。

 寝起きのせいで視界がぼやけている。しばらく覚醒するのを待つ間に、首からぶら下げている指輪を触ってみた。

 この指輪は、アノ人が私の中のお母さんとお父さんをもらうかわりに私にあげると言った指輪。何の装飾もされていない銀の指輪だけど、これが唯一のアノ人との繋がり。絶対になくすわけにはいかない。

 昔の夢を見たせいで感傷に浸っていると、変なものが見えた。


「のっぺらぼう?」


 いや、違う。これは人だ。のっぺらぼうなわけがない。視界がぼやけているせいでそう見えるだけだとおもう。


「えっと……ねえ、あなた誰? なんで目を閉じてるの? っていうか、寝てる?」


 誰もいないはずの隣の席に座る、目を閉じている男はじっとこちらを見据えてきた、目は開いていないのに、おかしな話だけど。それでも、見られている。

 どうやら彼は、目こそ閉じていても、寝てはいないようだ。

 まだ少し目がぼやけているのでやっぱりのっぺらぼうに見える。なんだか怖い。……それが彼の第一印象だった。

 ……って言うか、本当にこの人誰?


「あんたみたいに寝てないけど? そして、目も閉じてない。でもま、朝からずっと寝ていたあんたは知らなくても無理はない、か。一応、朝に超糸目なだけで見えてますよー、つって自己紹介した編入生だったりするんだけど」


 超糸目って限度があるだろうに、糸目君は本当に目を閉じているように見える。未だにぼやけている視界のせいで本当にのっぺらぼうに見えるのが怖い。

 なかなか視界が定まらない。なぜだろうか。さすがにそろそろ視界がくっきりしてきてもいいはずなんだけど。


「ああ、そうか。眼鏡」


 眼鏡をとり忘れていた。

 普通逆でしょって? いやいや、これはおそらくお父さんの形見であろうもので、これをかければ親との思い出を少しでも思い出せないかなぁ、とか思っただけで、実際には普通に視力はいいほうですよ。

 大切な眼鏡を眼鏡ケースにしまって、もう一度はっきりと見える視界で糸目君を見てみる。


「やっぱり閉じてるよ、それ」

「だから閉じてないって。糸目」

「いやいや、絶対閉じてる」

「しつこい」

「眠たくなんないの、それ。そこまで開いてなかったら寝てもわからないんじゃない?」


 あー、すっごく不機嫌そうな顔。


「あ、ところで、誰?」

「今日、このクラスの一員になった有馬・L・慧人。よろしく」

「L? Lって何?」


 一層不機嫌になった気がした。っていうか、なんだか発言がとげとげしい気かする。いや、これは絶対にとげとげしい。やばい、これはやばい。不機嫌になったと思って話をかえたらもっと不機嫌になるとか本当にどうしよう。ほんとやめて。その顔ほんとやめて。なんか本当にすみませんでした。なんか色々言ってすみませんでした。だからその顔やめて!


「リオネル。フランスでの俺の名前ね」

「へぇー、フランスのね。……ってフランス!? 帰国子女ってこと? なんかかっこいいなぁ」


 どんな顔をしているのかわからないように度のきついお父さんの眼鏡を改めて掛ける。お父さん、本当にありがとうございます。おかげで糸目君の表情が見えなくてすみました。

 安心している矢先、何故か続く沈黙。もしかして無視? うざいやつと思われた?

 落ち込んでもいいですか。でも、新しい出会いはやっぱり捨て難いわけで、いつもなら落ち込むところを頑張って話をつづけてみる。


「えっと、そうそう。私は坂崎 唯舞って言うの。唯々諾々のに舞文曲筆のって書いてゆいま。よろしくね、糸目くん」


 できるだけ笑顔で言った。

 内心ではもう、この糸目君がいったいどんな反応をするのか、ドキドキのバクバクで、どんな顔をしているのかわからないのがものすごく安心できて、でもなんだかどんな顔をしているのか気になっていたりもするけど、見たら見たで、不機嫌な表情だったら怖くなりそうだったりもして、いっそのこともう一度寝てやろうかとも思ってみたものの、すでに目は覚めていて逆に寝にくいし、今寝たら変な奴とかどれだけ寝る奴なんだとか思われそうで怖いわけで。っていうか、なんか答えてください! 不安になるからなにか言って!


 ……とにかく。今はこの現状を保つことしかできない。

 そんな中でこの笑顔を続けられているんだから、自分でも凄いと思う。たぶん顔が引きつっている、なんてことはないだろう。だってこういう状況慣れてるんだから! けど……。



 うん、とりあえず……この状況を誰かどうにかしてください!



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