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り、ら、りりりりろっ!

Side Eve. ~坂崎 唯舞~


 あー、やばい。超頭痛い。何これ。しかも久しぶりすぎて頭痛い。

頭の痛さで目を開けてみると、立ち去ろうとするリオの姿がみえた。あいつ、あたしをおいていくのか。一人にしておいていくのか。

そう思うとなんだか無性に腹立たしくなってきた。


「……待ちなリオ! あたしを置いてくなコラぁ」


おし、叫んだ。そんでリオも止まった。


「え、えっと?」


 戸惑うリオの声が聞こえる。一体何に戸惑ってんだ?


「てめェ、あたしを置いて何所かに行くとはどういう了見だ」


 そう言いながらもまたまぶたが重たくなってくる。やっぱりこれは身体に従って寝るべきなんだろう。でも、その間にもリオがあたしを置いて何所かにいってしまう。嫌だ。一人にされるのはもう嫌だ。


「あたしはまだ寝るけど、てめェは此処にいろよな。絶対だぞ。起きた時にいなかったらぶっ飛ばす」


 そう言い終わった瞬間、夢の中に吸い込まれるように眠りについた。





 私の前を背中を向けて歩く人がいる。誰だろう。

 その人を何故か追いかけないといけない。追いかけないといけないから追いかけてみる。その間にも誰なのか考える。

 そうだ。アノ人だ。一緒にいることを許してくれなかったアノ人だ。

 今、此処で追い付けばきっと一緒にいさせてくれる。

 必死で追いかける。何も考えず、全力で走って追いかける。師匠に教え込まれた走り方で走っておいかける。

 それでも、歩いているはずのアノ人には追いつけなくて、それどころか遠くなって行って、どんどん置いていかれる。


「待ってよ!」


 叫んでも止まってくれない。すると、突然アノ人の姿がリオ君に変わった。それでも変わらず遠ざかっていく。 

 今度はリオ君が遠ざかっていく。仲良くなれたはずなのに、もうちょっとで名前を呼べるはずなのに、遠ざかっていく。そんなのは、そんなのは絶対に……。








「嫌!」

「何が」


 声がしたほうを見るとリオ君がいた。

 そうか、夢。目が覚めたんだ。


「えっと、なんでもないよ」


 辺りを見渡してみると此処は保健室のようで、どうやらリオ君が連れて来てくれたみたいだ。


「ありがとう。倒れちゃったんだ、私。情けないなぁー。もう大丈夫だし、帰ってもらってもいいよ?」

「いいや、看病する。無理すんな、バカ」


 そんなあきれ顔されると困るんですけど。


「ところで、さっきリオって呼んだよな? それで、勿論これからもリオって呼ぶんだよな?」


 え、一体何のことでしょうか? 全くと言っていいほどリオ君の言ってることがわからない。

 さっきって何? 私全く覚えがありません。つーか寝てたし!


「もしかして覚えてないのか? ちょっと前に起きて、待ちなリオ! あたしを置いてくなコラぁ、って叫んだぞ」


 思い出すために痛い頭をフル回転させてみる。

 …………あー、うん。言ったね。叫んでたね。頭痛すぎて昔の感じに戻ってしまっていました。


「な、なんか……その、ごめんなさい」


 とりあえず謝る。

 つか、ホント私最悪。何してんだよ、バカ! あああああああ、忘れたい。できることなら今すぐ自分とリオ君の頭の中からアレを抹消したい。今、リオ君の頭を全力で殴れば忘れてくれるだろうか。いや、その前に全力で殴ったらたぶん……色々と危ない。


「まあ、びっくりしたけどな。謝るほどじゃないさ。で、リオって呼んでくれるのか?」

「言わない!」

「なんだよ、つれないな、唯舞。俺、かなしーよ」


 あれー、なんだか棒読みにしか聞こえないんですけど。しかもなに、その顔! なんかむかつく!


「じゃ、じゃあ……私のあだ名考えたら言わないでもない!」


 これなら言わなくて済むだろう。あだ名なんて考えられるほど私には特徴的な何かがない。なんか悲しい気もしたけど、気にしないでおく。


「じゃー、すぐに考えてやろうか。何がいい?」


 逆に聞くのか!?


「自分で考えなよ……」


 さすがの私でもそう言いますよ。

 だって、ねェ。考えろよ。ちょっと楽しちゃうぜ、みたいなのやめようよ。言うのもアレだけど、一応私のあだ名だしね? 本人の前で雑にしちゃうのやめようぜ?


「そか……なら、ふつーに唯とかで縮めてみるのは……それは味気ないか。そう言えば、名前を名乗った時、漢字の説明でだとかゆー変な挨拶してたな。だから、イヴでどうだ?」

「イ……ヴ」


 久しぶりに聞いた。

 他人の声から聞くイヴという名前。

 頭の中で何回も何回 も繰り返される。

 リオ君の声で、アノ人の声で私をイヴと呼ぶ声が頭の中で何回も何回も繰り返される。


「おーい、聞いてるか? もうイヴで決定だぞ、いいな?」

「ふぇ? え、あ、はい」

「じゃあ、これからあんたはイヴだ。イヴも、余裕があったらリオって呼んでくれよな」

「え、あ……うん。分かったよ、いと……り、ら、りりりりろっ! ……り、リオ!」


 言えたあぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!

 なんかその前にりとらとろがあってちょっとアレな気もするけど、とりあえず言えたからよしとしよう!


「『り』を言いすぎだ、バカ」

「バカっていうな、ハゲ」

「ハゲ!? 俺、禿げてねェぞ!」

「まあ、どうせならあたしもこれから元の口調に戻すか? 慣れてきたけど、正直言ってあの喋り方結構つかれんだよ」

「なんかヤダな、その口調」

「嫌だと言われたら、逆にしたくなるのがあたしってもんだよ?」

「お前、口調変わったら性格も変わるのかよ」


 それからも長い間続く会話。

 他愛もない会話なのにすごく楽しくて、ずっと続いてほしくて、明日も明後日もその次の日もずっとずっと続いてほしい。

 でも、それはきっと私がアノ人を追いかけているから無理な話なんだと思った。

 そう思ったら、そう考えたら、自然と涙が出てきた。その涙は拭いても拭いても止まらなくて、きっとリオを困らせていたと思う。

 それでも泣きやむことができなかった。



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