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俺ワルクナイ

Side Rio. ~有馬・L・慧人~


 今日は朝から唯舞の様子がおかしい。なんだか、ボーっとしてる時間が多くて、曰く『風邪』なんだとか。


―――――おかしい。バカは風邪をひかないはずなのに。


 ……少し失礼なことを考えながら、ワカメと共にメロンパンを屋上へ運ぶ。調子が悪いなら、俺らが買ってきてやろう、というわけだ。


「今、坂崎くんに対して失礼なことを考えていただろう?」


 ……や、なんで分かるんだよ。

 相変わらず、ワカメは人の心を読むのが上手い。優介とは違う、悪い意味で。


「別に? 本当のことしか考えてない」

「それはそれで、失礼な気がするがね」


 そう言ってシニカルに笑う……うん、こいつも俺と同じことを思ってたんだろうな。


 そんな、バカなやりとりをしながら、屋上の扉を開ける。開けた途端に聞こえてくるのは、唯舞の声だ。


「気合いで風邪とか吹っ飛ばせないかな?」


 やはり、こいつはバカらしい。気合いで風邪が吹っ飛んだら苦労ない。それじゃ医者の需要がゼロじゃねーか。


「元気になった!」


 ……バカだ。とりあえず、ツッコんでおくことにする。こう、平手で頭頂部をぱこんと。力は、入れない。ほぼ重力任せの一発だ。


「んなわけあるか」

「ぎゃっ」


 それでも、少し痛そうに顔をしかめた。……力加減、ミスってないよな? いや、ミスってないだろう。本当にミスっていたら、今頃コイツの頭は吹き飛んでいる。……非常にグロいです、すいません。


「君は本当におもしろい子だね」


 頭頂部を、ぶうたれながら抑える唯舞を見てのワカメの言葉がコレである。……うん、否定はしない。確かにコイツはおもしろい。


 その後、元気そうに見えてやはりなんだか調子の悪そうな唯舞にメロンパンを渡し……その直後に事件が起こった。なかなか開かないメロンパンの袋を、唯舞が気合いをいれて引きちぎった時、メロンパンが吹っ飛んだのだ。

 いや、別にそれが事件ってわけじゃないんだけど。


 吹っ飛んだメロンパンを、必死になって追いかける唯舞。思いっきり地面を蹴り、空中でメロンパンをキャッチしてみせた。

 ……ホントに人間ですか? レンガクライミングの時からすげぇな、とは思ってたけどさ。調子悪いのにこの動きは……なかなかすごくないか?


 着地して、慌てて今の動きについて弁明しているような声が聞こえるが、正直それはどーでもよかった。さっきの動きに少なからず驚いていたし、なにより彼女の身体がゆらゆらと……。


 マズい!

 頭の中で、そんな声が聞こえた気がした。ゆらゆらと揺れていた唯舞の身体が、そのまま前方に倒れこむ。

 バカっ! だから風邪を気合いで吹っ飛ばすなんて無理だっつったろうがっ!

 心の中で唯舞をずたずたに叱責しながら全速力で走り、なんとか彼女を受け止めることに成功する。危ない。あと少しで、唯舞のファーストキス(おそらく)が屋上の地面に奪われるところだった。


「……とりあえず、保健室につれてくわ。あんたらは、教室に戻ってくれて構わない。俺が、責任もって保健室に届けるからさ」

「責任()って? 君はナニをし「責任を()って、保健室に届ける!」……なんだ、ちょっとした冗談じゃないか」


 ……その冗談がタチ悪いんだよ。いい加減、ほんとーにワカメキライ。ここは、西沢にワカメを任せて、さっさと保健室に向かった方がいいだろう。


「西沢、ワカメのこと、頼むな?」

「な、直弥くんを、一生支え「んなこと言ってないけど」……じょ、冗談よ。勘違いしないで」


 ツンデレツンデレ。ダメだコイツら。呆れしかないね。だいたい、『ワカメのこと、頼むな』がどうして『一生支える』ことになるんだ。どんな思考回路してたら、その答えが生まれるというんだ。

 激しく呆れながら、屋上の扉を開ける。いつまでもふざけているわけにもいかない。


「とにかく、唯舞のことは俺に任せておいてくれ。じゃあな」


 言い残して、俺は一階の保健室へ向かった。

 あ? 唯舞はどーしたって? そりゃあ……膝裏と背中に手を当てて持ち上げてますけど? それが、俗になんて言うかは察して欲しい。俺だって、恥ずかしいんだから。





 どうにも、唯舞の身体は軽かった。一階の保健室までの道のりなんて、本当にすぐに感じた。まぁ、俺がヴァンパイア化しているせいで、基礎筋力は大幅に上がってるし、そのおかげだったのかもしれないけど。

 まあとにかく、俺にとっては軽すぎるほどの唯舞を抱きかかえて保健室まで連れて行ったわけなんだが……。


「なんで今日に限って保険医がいないんだ」


 そう、保険医がいないのである。俺には、とりあえず彼女をベッドに寝かせてやることしか出来なかった。


「俺にも、アイツみたいに回復の魔法が使えたらよかったんだけどなぁ」


 アイツ、というのは、もちろん俺をヴァンパイアにしたあの男のことだ。ヴァンパイアでもなければ、魔法なんてものを使うことは出来ないだろう。


「ま、でも。気休めに呪文だけ……《|Guérissezleいやせ》」


 成功すれば、彼女にかざした左手から緑色の光が溢れるはずだけど……今回も成功はしなかったらしい。まだ日光に当たっても問題ない、なりかけのヴァンパイアなのだからしょうがないけども。やはり、なにも起こらなかった。

 俺の左手からは、だが。代わりに、ほかの事象が起こった。


「……今の、どーゆーいみ?」


 俺の声に反応してか、それとも本当に呪文が効いてくれたのか、唯舞が起き出したのだ。眠そうに、目をこすった。


「よかった。起きたか。……心配したんだぞ、バカ。だいたい、気合いで風邪が吹っ飛ぶわけねーじゃんかよ。ホント、バカだな唯舞は」

「…………zzz」


 いや、さっきの寝言かーい!

 また寝ちまった。次に起きたら、絶対にずたぼろに責めてやろうと決めた。心配かけやがって。

 ま、でも、ずっとここに居てやるわけにもいかない。柔らかそうな茶色がかった髪を一撫でして、保健室から出る扉へと向かうことにする。小言は、別に放課後でも問題ないだろう。

 そう思って背を向ける。……その次の瞬間に、背後からぞわっと悪寒を感じた。


「……待ちなリオ! あたしを置いてくなコラぁ」


 ……今の誰? え、唯舞さんですか? は、ちょ、これ、どーゆーこと? つーか、俺のことリオって? ずっと呼べなかったのに? 寝ぼけてってこと?! もう一回聞きたい! じゃなくて!! いくら元ヤンらしくても、こいつがこの口調って……これ如何に?!

 正直、慌てた。けど、この反応は普通だと思う。俺ワルクナイ。あ、このネタ前も使ったけ?



魔法を使うときに呟くフランス語は、一応調べてますがおそらくあっていないでしょう。

そこは、ご了承のうえでお読みくださいm(__)m

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