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メロンパンジャンプ!

Side Eve. ~坂崎 唯舞~


 今私は絶好調!! ……なわけもなく、どちらかといえば絶不調だったりする坂崎唯舞今年で十七歳。つまり今は十六歳な元ヤン。レディースとか言ったりするらしいけど、女なんて思われてなかっただろうし。つかそんなことはどうでもいい。


 私が絶不調なのは元ヤンだったせいかもしれない。一匹狼だったせいかもしれない。まあ、狼じゃなくてライオンとか化け物とかに言いかえられてたけど、そこはどうでもよくて。

 簡単に言ってしまえば、中学生だった頃の自分は人と馴れ合うことを全力で嫌っていて、喋りかけられても無視、襲われたら逆に返り討ちにする、学校祭と名のつくイベントには参加しない、それでもある程度は授業を受けてテスト勉強もした、という生活をおくっていたせいで、人との関係性が希薄で、つながりを作るのが超苦手になってしまったということだ。 

 だから、自然に私たちの輪のなかに入ってきた夏花ちゃんや、驚くほどに怖かったけど、直弥君の事が好きだと言ったあの人……鳴海さんが凄いと思ったし、見習いたい(鳴海さんに関しては、見習いたくない所の方が多いけど)と思った。


 とりあえず、私は人と馴れ合うのが苦手で、女子は名前を呼ぶことはできても男子は無理だ。

 そりゃ、中学時代だって人を呼ぶことはあったけど、あんたとかお前とか、女子は〇〇さんとか呼んだし、男子は(襲ってくる奴限定で)ハゲとかしか呼んだことがない。そんな私があだ名で呼んでいたことすら奇跡といってもいい(あだ名でしか呼べなかっただけだけど)のに、名前で呼べと!? しかも皆が呼ばないリオのほうで!?

 確かにリオ君とか呼んでやろうとか思ったけどね、ただ単にそれは、皆も名前で呼んでるし、みたいな軽いものだったんですよ。だから、皆が呼ばないって言われたらすごく照れるから、


「呼べねぇよ!」

「何を呼ぶの?」


 しまった。声にでた。まあ、奇跡的に屋上には夏花ちゃんしかいないからいいとしよう。ちなみにいえば、男子どもは私のメロンパンを買いに行っている。パシリじゃないよ、風邪気味なんです。

 それと、絶不調なのは風邪のせいではなくて、リオ君をリオと呼ばなければならないからだ。


「いやー、こっちの話だよ。ははは」


 あー、しんどい。いろんな意味でしんどい。馬鹿は風邪ひかないんじゃないんでしたっけ? 誰だ、んなこといったやつ。嘘じゃねぇか。今すぐぶっ飛ばしてやるからでてこい。


「大丈夫なの?」

「夏花ちゃんが抱き着かせてくれるなら」


 しばらくの沈黙。あー、辛いね!! 沈黙嫌い!


「……それでしんどいのが治るなら」


 んー、なーにこれー。


「いや、嫌がるのに抱き着きたいからやっぱりいいよ」


 だって夏花ちゃん、嫌がる姿が可愛いんだもの。夏花ちゃんみたいな小動物系は自分なんかが触れると潰れてしまいそうで怖かったりもするし。それに今は手加減できる自信がない。さっきも言ったようにしんどいんです。馬鹿なのに。


「私ね、風邪って久しぶりな感じする」

「なんで?」

「秘密」


 そう、秘密でいい。過去のことなんて皆は知らなくていいんだ。というか、知ってほしくない。


「でも、久しぶりだよ。だから、何がどうなってるかわからないんだよね」


 あー、頭がぐわんぐわんしてる。早くお昼ご飯食べたいな。お腹すいたよ。早く帰ってこーい。


「風邪ってめんどくさいね」


 こいつさえなければ直弥君にもリオ君にも迷惑をかけずにすんだのに。本当は自分で買いに行くつもりだったのに、無理矢理二人が行ってしまったのだ。


「気合いで風邪とか吹っ飛ばせないかな?」

「無理でしょ」


 いや、師匠はやっていた気がする。なら自分にも出来るはずだ。いざ、挑戦!

 …………………よし、いける気がする。


「元気になった!」

「んなわけあるか」

「ぎゃっ!」


 突然だ。突然すぎるよ、リオ君。


「君は本当に面白い子だね」


 うるさい、ワカメ。面白くともなんともない。


「おかえり。ところで、唯舞のメロンパンあったの?」

「ああ? あ、うん。ほれ」


 雑い。メロンパンの扱い方が雑い。食べ物は大切にしないといけないんだよ、リオ君。


「ありがとう。さあ、早速食べよう!」

「あれ、本当に元気になってる?」


 夏花ちゃんが不思議そうな目でこちらを見てくる。本当に元気なのか心配しているようだ。

心配してくれるなんて本当に優しい。


「残念ですね、元気になっては実験ができなくなってしまう」


 でた、ツンデレワカメ。


「馬鹿だからだろ」


 あれー、一人だけ酷い人がいる。まあ、馬鹿なのは事実だけどね。


「気合いで吹き飛ばしたよ」


 まあ、だるいのはかわらないし、頭痛いし実際には全く良くなっていない。それでも、表面に出したらしんどくなるだけだし、少し無理してでも元気に振る舞ったほうがいい。皆も気落ちしちゃうし。

 そんなことを考えながらメロンパンの入った袋を開ける。


「あれ?」


 開かない? っていうか力が入らない。


「えい!」


 勢いよく左右に引っ張る。そのせいで飛ぶメロンパン。力入れすぎた!


「あわわ!」


 慌てて追いかける。くそっ、力を抑えてたら間に合わない。

 思いっきり地面を蹴って跳んだ。空中でメロンパンを掴んで着地する。


「よ、よかったぁ。せっかく買ってきてくれたのにだいなしにしちゃうところだったよ」


 あれ、皆の視線が妙だ。ああ、結構跳んだもんね、メロンパンと私。ってやばい! ごまかさないと!


「えっと、私メロンパン大好きだからメロンパンのことになったら、いつもの力以上の力が出せるんだー。だから結構跳べたんだよー」


 ああ、焦りすぎてなんだかあつい。頭がぼんやりしてきた気がする。でも、焦ってるせいだし大丈夫だろう。


「さ、気を取り直して食べよ?」


 皆のところに戻らないと。なんか遠いな。こんなに跳んだっけ。まあ、歩けばいいだけだ。一歩が重い。

 駄目だ、もう力が入らない。倒れる。メロンパン、買ってもらったのにだいなしにしちゃう。嫌だな。

そんなことを思いながらも屋上の床が近づいてくる。次の瞬間には、世界が真っ暗になった。



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