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小さな一歩。けれど大きな一歩。

Side Rio. ~有馬・L・慧人~


 最近、俺たちのバカな平和にチビな風紀委員が増えた。なんでも、あのワカメに惚れたらしい。正直、趣味が悪い。

 確かに、ヤツの容姿は整ってるし、飄々としているようで実はツンデレで、仲間想いだったりする……あれ、普通にイイヤツか?

 いやいや、違う。そんな美点を消してあまりあるほど、ヤツは変人だ。


「そうだ、慧人(モルモット)くん。坂崎くんを夜這う作戦は成功したかい?」


 ……こんな風に。俺、そんな作戦をたてた覚えも、実行する気もないのですが。


「バカかお前は」


 つまり、コイツに惚れて、良いことが一つでもあるのか、ってハナシ。……無理がある気がする。


「なに、では西沢くんに乗り換えるのかい? 坂崎くん、かわいそうに」

「……やっぱ、あんたキライ」


 たぶん、自分が西沢に好かれてることすら、コイツは知ってんだろーなぁ。本当に、趣味が悪いよ、まったく。


「そうかい、西沢くんには興味はないと。それはよかった。やはり、君には坂崎くんがお似合いだ」


 またもや優介曰く。コイツはツンデレだ。今の言葉を素直な態度に直すと、


『よかった。俺、君が西沢くんに興味があったらどうしようかと思ったよ。だって……いや、今俺の気持ちを言う必要はないね。あぁ、もちろん、君と坂崎くんの恋は応援してるよ。頑張ってくれたまえ』


 こうなる。

 ……まさか、なぁ。それはない。ワカメも西沢を好いているなんて、理由がない。いや、一目惚れとかはあるんだろうけど、ワカメに限ってそれは……。

 まぁこれは、俺のただの妄言だったってことで一つ。


 以上、風紀委員が出没し始めて早四日目の会話、夜IN寮部屋。





 ワカメ西沢LOVE疑惑(というより俺のただの妄言だが)発覚の夜が明け、翌日の朝。俺は、図書館に行ってみることにした。一応図書委員なので、一人で仕事をしているらしい白川 香奈枝さんにお礼を、ということである。

 なんでも、坂崎が同室らしいので、一緒に図書館に行くことになった。ワカメ? あいつは西沢となんかやってるよ。結構楽しそうだし、案外本当にお似合いなのかもしれない。



「それでねー、その時の香奈枝ちゃんが可愛いんだよ。すっごく慌てちゃってねー」

「そーなのか。なんか、俺のイメージと違うかも。優介の話じゃ、図書委員の仕事を全部引き受けてるみたいだし、もっと出来る女って感じかと思ってた」

「あの子は本好きだからねー。夜も本を読みに図書館まで行っちゃうくらいだし。寮を抜け出してね」


 あれ……また変人の予感? 寮抜け出してまで図書館行くってなんだよ。どんだけ本好きだよ。つか、本借りるとかできねぇのかよ。アホか。

 俺の周りで、また変人が増えそうな予感に、少なからず図書館を目指したことに後悔を覚え始める。そんな後悔を覚えるのは、しょうがないと思うんだ。だから俺ワルクナイ。


 そんな経緯で、図書館への道が憂鬱になってきた頃。とある事件がありました。


「それにしても、リ……えと、糸目君って、結構律儀なんだね。図書委員になったからって、仕事一人でやってる香奈枝ちゃんにお礼言いにいくなんて、さ」


 はい、これが事件。

 ……事件に見えない? こりゃ失礼。けど、あんたらにとっては小さな一歩でも、俺にとっては大きな一歩である、なのです。


「今、俺のことリオって呼ぼうとしてたな?」

「え? い、いや~、そんなことないよ? 糸目君」

「いやいや、呼ぼうとしてたね。リ……でつまってたし。そーか、あんたもちゃんと俺の名前呼んでくれようとしてたんだなぁ。嬉しいよ」


 カーっと、坂崎の顔に血が上る。まぁつまり、顔真っ赤。ホント、からかいがいのあるヤツだな、この子は。


「これからもそのちょーしで、俺のことリオって呼んでくれよ。みんな日本人だからさ、名前で呼んでくれるヤツも“慧人”なんだよね。そろそろ、フランスでの名前で呼んでくれる友人もほしーな」


 ニヤリ。口の端が吊り上る。コイツの慌て様は、なんかおもしろいんだ。


「や、えと、私?」

「そう、あんたに呼んで欲しい」


 俺がそう答えると、彼女はバッと周りに視線を走らせ、警戒するように、恐る恐る口を開いた。小動物チック。


「リ――糸目君。……やっぱ無理! 糸目君が先に私の名前呼んでよ! それなら、考えなくもないよ!」

「唯舞」

「……なんでそんな簡単に呼んじゃうんですかぁぁ!!」


 フランスでは、親しいヤツを苗字呼びなんて方が珍しいんだ。だから、ファーストネームで呼ぶなんて俺にとっちゃ造作もない。


「まー、そーゆーわけだから、これからあんたのことは唯舞って呼ぶよ。……あ、けどそれだけじゃ味気ないな。どーせだから、なんかあだ名でも考えとく。その代わり、俺があだ名で呼ぶようになったら、俺のことをリオって呼んでくれよ?」


 笑いながら、とりあえず猶予を与えてみる。それまでには、名前で呼んでくれるようになってほしいものである。


「あぁ、それまでは、あんたのことは唯舞って呼ぶからそのつもりで」


 耳元でささやく。真っ赤になって慌てる唯舞。……なんか、ほんとーにおもしろいヤツだ。反応が、ツボだよ。


 唯舞の反応がおもしろくて、なんとなく良い気分で図書室の扉を開ける。以上が、教室から図書館までの道中の会話、IN昼休みでした。





「それもいいかもしれない。でも、僕が思うにこの主人公はあの時……って、あれ、慧人? それに坂崎さんも。どうしたの?」


 図書館の扉を開けると、すぐに俺に声をかけてきたのは意外にも優介だった。そういえば、読書好きと言っていた。

 どうやらなにか熱心に話し込んでいたし、その話し相手が噂の白川 香奈枝さんなのだろうか?


「あぁ、一応図書委員だしなー。仕事全部やってもらってるお礼に来た。……優介と話してた子、白川さん、だよね?」


 白川さん(仮)にむかって歩き出し、話しかける。唯舞も、後ろから着いてきた。


「こんにちはー、香奈枝ちゃん」

「あ、えと、うん。こんにちはぁ~」


 白川さん(仮)は、白川 香奈枝であっているらしい。相部屋らしいので、唯舞とは普通にしゃべっている。けど、俺は無視されている。なぜに。


「あぁ、白川さんは少し照れ屋さんなんだ。自己紹介して、仲良くなったらちゃんと話してくれるよ」


 良いタイミングでフォローを入れられた。相変わらず、コイツは人の考えをよく読み取って動くヤツだ。


「そか。……えーっと、俺は新しく図書委員になった(された)帰国子女の有馬・L・慧人だ。なんでも、あんたが仕事を全部引き受けてくれてるみたいで。そのお礼にきたよ。ありがとな?」


 極力、優しげな口調を試みてみた。これでどーだ。


「あ、えと、はい! だ、大丈夫です! 好きでやっていることですのでっ!」


 ……慌ては、デフォなんだな。


「白川さん。自己紹介、忘れてるよ? 名乗ってもらったら、名乗り返さないと」

「香奈枝ちゃんはおっちょこちょいだねー」

「ご、ごめんなさい…」


 落ち込まれても困ります。けど、なんだか癒し系。不思議。


「いやいや、気にすんな。それで、白川さん。あなたのお名前は?」


 ……名前を呼びつつ、名前を訊ねる。ナニコレ? 珍百景ではないのであしからず。


「私は、白川 香奈枝ですっ! って、白川って呼んだなら私のこと知ってるじゃないですかぁっ!」

「あはは、悪い悪い。けど、自己紹介ってそういうもんだろ? たとえ名前知ってても、初対面なわけだし」

「ま、まぁそうだけど……あぅぅ、すいません」


 落ち込むな。優介も苦笑いしてるよ。それに、なんか敬語使われてもしっくりこない。


「それと、敬語、やめていーよ? 俺、敬語で話されんの好きじゃないし」

「あ、そう? じゃ、じゃあ、うん、分かったぁ。よろしくね?」

「おう、よろしく」


 笑って、右手を差し出した。握手。握り返された手は、なんだか冷たかった。クーラーにやられたのか? どうやら、彼女は冷え性らしい。


 と、そこまで考えたところで、握手した手とは逆、左の手がひっぱられた。


「……どうした、唯舞?」


 犯人は唯舞。心なしか、機嫌が悪いように見える。いくら懐いてるからって、恋人と握手した異性に嫉妬するみたいな乙女見せられても、困るんだけど。


「なんでもないよ?」


 ……なんでもないなら、出来れば手をひっぱらないでほしかった。あまりにも突然だったんで、こけるかと思ったじゃないか。



「やっぱり、君たちはお似合いみたいだね」

「うん~、唯舞ちゃんも有馬くんも、相性ぴったしに見えるよ~」


 引っ張られた左手に嘆息しつつ、残された二人のそんな言葉だけが妙に記憶に残ったとかそうでなかったとか。


 以上、図書室にてお人好し&本好きと相対す俺と唯舞IN昼休み真っ只中でしたとさ。



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