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はいはいツンデレツンデレ

Side Rio. ~有馬・L・慧人~


 やけに機嫌のいいワカメの後を追う。

 コイツは、やはりよく分からないヤツだ。先ほどまで、らしくもなく激昂していたにも関わらず、外に出た途端に鼻歌&スキップ。ホント、よく分からない。理解できたらそれはもうすでに変人だろう。


 そんなことを考えながら、左手を振ってみる。おーい、もうそろそろいーんじゃないか? ワカメの機嫌だって、直ったんだからさ。

 あ? なにが“もうそろそろ”かって? そりゃあ……。


「……え、いきなり腕振って、どうしたの?」

「俺が軽く腕を振っただけで、それに気付く状態に問題があるとは思わなかったか?」


 ……うん、未だに手を繫がれていたりするんだ。ワカメが怖かったのは分かるけど、なんで俺にくる。いや、俺がすぐ隣にいたからなんだろうけど。


「んー? 問題? あるの?」

「……いや、気づけよ」


 心なしか、前を歩いているワカメの機嫌がよくなる。……あぁ、一向に手を離さない俺たちの反応が楽しみで、機嫌が良かったわけね、納得。


「なにが?」


 首を傾げられる。坂崎が、なんだかちょっとだけ小動物に見えた。……そんな仕草されたら、困るしかないじゃないか。邪険に扱って、振り払うわけにもいかないし。

 正直、非常に困る。助けてくれよ、ワカメ?


「言っとくが、俺はこのまま楽しませてもらうからね? いやはや、やはり天然とはすごい破壊力だ。思わずニヤついてしまうよ」


 ……さいですか。つまり、俺に逃げ場はないわけだ。

 だんだんと表情が引き攣っていくのを感じながら、俺はワカメの後を追う。ワカメが、俺の心を読んだかのように呟いたことに不審すら感じず、とにかく困った。


「ねぇねぇ、ワカメ君、なんでニヤついてるの?」

「いやぁ、思いのほか、俺のここ最近で最大の実験が、プラスの結果を導きそうな雰囲気を醸し出していてね」


 なんの実験だ、と言いたい。俺が坂崎に好かれてるっぽい(いや、懐かれてる、か)ことで機嫌がよくなっていたはずなのに、またもや実験とは。なんだ、俺と坂崎が付き合うことになるのか、って実験か? おもしろみにかける実験だな、おい。

 ……いや、俺がヴァンパイアだってことを知ってんなら、『ヴァンパイアと人間の恋』は実るのか、って大きな実験にはなるんだろうけど。


 でもまぁ、ワカメの予想は外れるだろうな。……俺の永い寿命的に、人間を恋人にするなんて、多分無理だ。それに、誰かをヴァンパイアに引き込むつもりもないし、な。


 そんで、目的地に到着する。……なぜか、なんどか階段を上っていた気がするけど、気のせいだと思いたい。


「はい、屋上に到着だよ」


 ……やはり、気のせいではなかったらしい。

 や、なんで? 教室に戻ろうぜ?


「君たちだって気になることがあるだろう? ここで、答えてあげるよ。……ねぇ、後ろで追ってきている西沢さんも、気になるでしょう?」


 シニカルに笑う。

 ……あぁ、また着いてきてたんだな、あの風紀委員。再び緩めていた“感覚”では、あの小さい体を知覚できなかったらしい。いや、ごめんって。


「ひぇ?! な、なんで気付いてるのよ??!」


 あ、こけた。サイドテールに纏めた髪がぴょこっと揺れ、ビタンっと大きな音を立てる。……ホント、締まらねー。





「はーい、ここで質問ターイム。なんでも訊いてきてくれたまえよ」


 ワカメはご機嫌なまま、俺たちの方に振り返る。どーでもいいけど、屋上の鍵はどうやって開けた。あそこ、立ち入り禁止のはずだけど。


「あー、鍵の開け方は企業秘密だよ? 訊かないように」


 ……そーかい。毎回毎回、俺の心を読まないで欲しいね。


「で、なんか質問はないのかい? 例えば、なんであんなに怒ったのか、とか」


 たしかに、それは気になる。あれは、完全に“ワカメらしく”なかった。


「じゃあ、その質問で」

「うむ、答えてやろうか」


 なんだか楽しそうに、ワカメは一つ、尊大に頷いてみせる。ノリノリだな。 

 だが、その楽しそうな表情も、説明のために過去を振り返ったせいで顰められることとなる。そのあとも軽く怒りを滲ませたりなど表情をコロコロと変え、最終的には真剣な表情に落ち着いた。


「実はね、昨日の夜に告白されてたんだよ」


 ハッと息を飲む声が聞こえた。……なぜか、風紀委員・西沢の方から。


「えー? 誰に?」

「……話の流れから察して欲しかったよ。彼女だ、名前を呼ぶのも虫唾が走るが、鳴海 紗枝香のことだ。あのバカに、昨日の夜、告白されていたのさ」

「こ、告白…ね。で、どうしたの?」


 興味があるのか、質問したのは西沢だった。答えなんて、あの怒りようから分かりきっているようなもんだろうに。


「受けたと思う? 確かに、普段から日常会話程度ならしていたがね、それは彼女が俺の変人さを不気味だと感じなかっただけで、俺から好んで近寄ったわけじゃないんだよ。……当然、話したのは日常会話程度だったんで『よく分からない相手とは付き合えない』と断ったんだが……」


 ここで、ワカメは言いよどむ。その眉根は盛大にしかめられ、思い返したその当時が同相当ひどいものだったと予測できた。


「断って、どーされたんだ?」

「……それで、返ってきた言葉が酷かったんだよ」


 はぁぁ~、と長い長い溜め息をつき、首を横に振ってみせた。……はよ言えや。

 俺のそんな急かすような態度に気がついたのだろう、彼はフッと短く息を吐き、なにかを朗読するかのように話し始めた。


「いくよ。『え、イヤだ? そんなハズないじゃない、私はあなたが好きで、あなたも私が大好きなんだから。だってそうでしょ? あなたは私といる時、いつも楽しそうだもんね? 貴方が照れ屋さんなのは分かるけど、こういう時くらいは素直に答えて欲しいな。だって、あなたは私にもうメロメロなんだもの。それでも断っちゃうなんて、もう、ツンデレさんなんだから♪ でも、そこが可愛いわ。今すぐにでもピー(放送禁止用語)してズキューン(放送禁止…)をたっくさんドキューン(放送禁…)させて――』……もう、これくらいで勘弁してもらっていいかい? 正直、もう頭がおかしくなりそうだ」


 ……うん、あんたは頑張ったよ。まぁ、頭はいつも壊れてますが。


「あぁ、あんたが怒りだした理由はよく分かったよ。つまり、告白を断られた鳴海があんたを俺たち同伴で呼びつけ、あえてあんたをかばうことでお前からの好感度を上げようとした、と。そして、あんたは関係のない俺たちまで巻き込んだことに腹を立て、あんだけ怒った、と。そういうわけだな?」


 “つまり”と要約しても分かりにくい結果だ。女の、それも“ヤンデレ”としか言いようのないほどに壊れているヤツの考えはいまいちよく分からない。

 けど、一つだけ言えることがある。それは……。


「まぁ結局、ナイスツンデレってとこか? あんた、俺らに被害が及びそうになったところで怒りだしたもんな? すげー嬉しかったよ、ありがとう」

「……あれは、彼女が非常にムカついたってだけさ。うん、他意はない」

「ワカメ君がまたツンデレワールド全開にしてるー♪」


 はいはいツンデレツンデレ。ありがとうございました。……うん、つまりはそういうことだろう。何気、イイヤツ。


「だから、ツンデレではないと……」

「ツンデレツンデレー♪」


 楽しそうだな、坂崎は。無邪気だ。

 ……で。楽しそうな二人(ワカメは楽しいか知らんが)を見て、なにか言いたげな風紀委員が一人。感覚から右隣にいるようなので、右を向いて話しかけてみる。


「気になるか?」

「……………あなた、やっぱりケンカ売ってるのね?」


 ……おっと、もっと下だったか。


「……そ、そんなわけないじゃないか。ほら、俺、超糸目だから。視界が狭いから、見えないところも多いんだよね」

「そして、その視界の中に、チビな私は入らないと、そういうわけね?」

「……すいません」


 素直に謝っておく。ついでに、大きく話題転換を。


「で、気にならないのか?」

「……話題の変え方が雑よ。けど、まぁいいわ。慣れてるもの」


 一つ、溜め息をつく。……本当に慣れてるんだろう。なんか、ごめんなさい。


「気にならないか、だったわね? ……そんなの、気になるわけないじゃない」

「はいはいツンデレツンデレ」

「ツンデレとちゃうわっ! だいたいなんべんそのネタ使うねん、好きなんかっ!!」


 大阪弁ヴァージョン、来る。


「いぇす」

「嫌な趣味やな! ……けど、そうね。本当は、確かに気になるのかもしれないわ。だから――」


 彼女は息を吸い込み、一歩前に出る。なんだ、告白でもすんのか?


「宮内 直弥! あなたの変人さはよく分かりました。危険性が高いと判断したので、これからは極力私と一緒に行動しなさい!」


 ……はいはい、ツンデレツンデレ。こいつも、たいがいツンデレだ。


「断る」

「なんで?!」

「いや、だって、ねぇ? 確実に、犯人はヤツだし」

「……では、言いなおします。あなたの無実は証明されました! だから、今まで濡れ衣を着せてしまっていたお詫びとして、これからあなたにお弁当を作ってきます! 一緒に食べなさいっ!」


 ……どんだけツンデレだ。そして言ってることが支離滅裂だ。素直に、一緒に食べたいって言えよ。

 で、そんなことを言われたワカメは、ニヤリと口の端を吊り上げ……。


「いいよ、その代わりに君はモルモット三号だ。よろしく、我が友人(モルモット)


 やはり、ヤツはシニカルに笑う。

 あー、あれだな。コイツ、最初の登場時から気に入ってたな、西沢のこと。だって、すげぇいい笑みだもん。絶対に、友人(モルモット)として迎え入れようとたくらんでたな。


 そんな呆れが溜め息を誘う。なんだかんだで、壊されたのは“三人の”どたばたな平和だけというわけか。これからは、“四人の”どたばたな平和になるらしい。


 ……いや、これなら『だが、そんな三人でバカやるっていう平和も、今日のこの瞬間までだった…』って言葉はウソにならないよな? 三人でバカやる平和は壊れて、四人でバカやる平和に変わったわけだから! だから、ウソじゃない! 俺はウソをついてねーぞ!







「あぁぁああ!」

「な、なんだ?!」

「わわわ、私、まだ糸目君の手握ってたぁぁ!!」


 ……今頃気付いたか。

 屋上から教室へ戻る途中、ある日の昼下がりの出来事だったとさ。



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