気付いていないコト
Side Eve. ~坂崎 唯舞~
お似合いかもね、と言われた。
もしかしたら『最終的にはリオって呼べるまで仲良くなろう』計画が早くもコンプリートしてしまうかもしれない。あとはリオって呼ぶだけだぜ、頑張っちゃいなよユー、って誰かに言われている気がする。
言っちゃうのか? 言っちゃうのか私。あって間もない人を、それも男の子を、呼び捨てしちゃうのか?
「ああああぁぁぁああぁぁぁあ!! 一体私はどうしたらいいの!?」
「ふぇっ!? な、何? 唯舞ちゃん。び、びっくりするじゃんか~。急に叫ばないでよぉ。びっくりするよぉ。いきなり叫び出すなんて、何かあったの? 唯舞ちゃんのお話って面白いから聞きたいなぁ。あ、えっと……わ、私なんかが聞いてもいい話だったらで良いんだけど……」
これ、責められているんだろうか? よくわからない。それぐらいに、私の相部屋の人である白川 香奈枝ちゃんは常に焦っている……っていうか、ビビってるっていうか。
まあ、人の話を聞くのが上手だし、結構私は好きだったりする。
「えっとね、私のクラスにえっと……有馬・L・慶人っていう男の子が新しく入ったんだよ。それでね、私は糸目君って呼んでるんだけど、糸目君と隣の席になったからよし、仲良くなろう! って思って学校案内とかいろいろしてね、お前が必要なんだ、みたいなことを言われたこともあるんだよ」
「す、凄いね! もうそんな仲良しみたいになったの? やっぱり唯舞ちゃんってすごいなぁ。もしかして、今日も糸目君と二人でおしゃべりしたの?」
んー、糸目君と言われるのが少し嫌な気がする。そういえば、今までで“糸目君”って呼んでたのは、私だけなんだよなぁ。……なんだろうか、この嫌な感じは。
「ん、まあ……今日はワカメがいたんだけどね」
なんだか急にイライラしてきた。
「えっと、唯舞ちゃん? なんか、嫌なことあったの?」
お前がそれを言うか? なんかよくわからないけど、君のせいでイライラし始めているのですが。
「うぅ……わ、私の聴き方が悪かったんだよね。あまりにも唯舞ちゃんが有馬君の事を楽しそうに話してて……あぅぅ、ごめんなさい」
「い、いや、違うよ? 別に香奈枝ちゃんには怒ってないし、全然気にしないで!」
潤んだ目でこちらを見てくる香奈枝ちゃんは可愛い。なんだか憎めないのがいつもなのだが、さっきは何故かイライラしてしまった。とりあえず、落ち着こう。
うん、やっぱり可愛い。目の前で潤んだ目をしてる香奈枝ちゃんは、可愛い。
「そうそう、ワカメっていうのはワカメ頭しながらワカメワールドを振りまいている直哉君の事を言うんだけど、なんか本当に怖い人なんだけどね、しばらく一緒にいると何となくわかってきて、意外と照れ屋さんなだけなんだなぁ…って、思えるようにはなってきたんだけどね」
「わ、ワカメ?」
何か、違う想像をしていそうな気がする。全身ワカメ! みたいな想像をしていそうな気がする。ワカメ持ち歩きながら、そのワカメをそこらじゅうにばらまいている想像をしているような気がする。
「ワカメって言っても、ウェーブのかかった黒髪で怖い事言うからワカメワールドって呼んでるだけで、本当は普通の人間でちょっと変わってるだけなんだけどね」
「はへ? わ、私変なこと考えてたみたいだよぉ。なんだか直哉君って人に悪いなぁ……はぅ~」
やっぱり似たような想像をしていたようだった。まあ、聞いたら聞いたで、また恐ろしい想像をしていたことが発覚しそうで聞く気にはならない。それぐらいに、この子の世界も怖い。きっと本の読み過ぎだ。夜中に図書館に忍び込んだりするほどの本好きのせいか、本当にこの子の想像は恐ろしい。
「で、でね、今日はそのワカメくんと一緒に多目的室に糸目君を迎えに行ってね、ありがとう、って糸目君に言われたんだよ」
「本当にうれしそうだね」
そんなに可愛い笑顔を見せないでください! なんだかもう昇天しそうです!
「その時に、図書委員の桐嶋君に慧人と坂崎さんってお似合いだよね、って言われちゃってさ、私の『最終的にはリオって呼べるまで仲良くなろう』計画がもしかしたら成功できるかもしれないんだよね。後は私がリオって呼ぶようになるだけなんだよ」
「本当に凄いね。すぐにそんなに仲良くなれちゃう唯舞ちゃんがうらやましいよ。えへへ、今日は図書館に行かなくて得しちゃった」
「何が?」
少し胸がざわついた。なんだろうかこの気持ち。さっきと一緒だ。さっきと一緒で嫌な気持ちだ。
「唯舞ちゃんの楽しそうな顔も見れたし、それに」
「それに?」
「なんだか、唯舞ちゃんが元気になった気がするよ」
よくわからなかったけど、さっきのざわつきがなくなった。それと同時に何かにホッとしている。何にホッとしているんだろう。
っていうか、元気になった? いつも私は元気にふるまってるし、実際に元気だ。それなりに楽しい学校ライフもおくっていたし、別に嫌なこともなかったはず。
「えっと、そうかな?」
「そうだよ。いや、でも、今までもずっと楽しそうだったよ。うん。私がいうのもなんだけど、きっと唯舞ちゃんが気付いてない事があるんだよ。えへへ、羨ましいなぁ」
いやいや、何が羨ましいのか全く分からない。……実際、リオ君には遊ばれているような気がするし、ちょっと変な目で(あんまり開いてないけど)見てくる時もあるし、最終的にはあの怖いワカメがいる。
楽しいっちゃ楽しいのは間違いないのだが、香奈枝ちゃんの最後の言葉は何所か腑に落ちなかった。私、いつもとなにか違うのかな?