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心の傷・思い出☆2

晶は、学園の校舎の屋上に居た。

「私達が隆斗のお母さん達を……もう、隆斗に会う事できないよ……」

これからの事など考えられず、ただ隆斗に謝りたい気持ちでいっぱいだった。

でも隆斗には避けられてしまった。

悲しかった、他の誰に避けられるより隆斗に突き放されるのが一番辛かった。

会いたい、今すぐに会いたいでも会いに行く事も出来ず。

ただ屋上に座り込み街の明かりを見ていた。


どの位の時間が経ったのだろう夜風がそよいでいる。

そして月明かりが優しく総てを包み込んでいた。

どこからか聞き覚えのあるメロディーが流れてくる。

それは口笛だった。

見上げるとキャップを深く被りパーカーを着てズボンのポケットに両手を突っ込んで歩いてくる人影が見える。

その姿は晶が幼い頃に父親と喧嘩して地上に勝手に降りて、帰れなくなり泣いている時に出逢った少年と同じ姿だった。

「何を泣いているんだ?」

少年が言った言葉と同じ言葉だった。

でもその声は紛れも無く隆斗の声だった。

「お、お家に……帰れないの……」

晶が泣きながら言う。

「それじゃ、俺が帰らせてやる」

「隆斗だったの?」

「あの時もこんな風に月明かりが優しく包み込んでいたな」

晶の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。

「可愛らしい猫耳はどうしたんだ」

「無くなちゃった……」

「ここにちゃんと在るさ」

隆斗が晶の前にしゃがみ込み優しく晶のおでこにキスをする。

ポン!と言う音と共に猫耳が晶の頭に現れた。

「ありぇ? ありぇりぇ?」

「さぁ、家に帰ろう」

晶が自分の猫耳を触ると隆斗が晶の頭を優しく撫でる。

「いいの?  私、魔族で……隆斗のお母さん達を……」

「あれは事故だったんだ」

「でも、事故を起こしてしまった責任は……」

「晶が責任を感じる事はないだろ、ただ少し悲しい事が起きてしまっただけなんだよ」

「隆斗! 隆斗! ごめんなさい。私……私……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん」

晶が隆斗に抱きついて泣き出した。

しばらく隆斗が優しく抱きしめていると落ち着いてきた様だった。

「そうだ、取って置きの場所につれていってやる」

「取って置きの場所?」

「ああ、内緒だぞ」


学園を出てバイクに乗り、家とは逆の山の方に走り出す。

しばらくすると舗装もされてない山道に入りそして獣道の様な山道をバイクで駆け上がって行く。

しばらく走ると頂上に着いたのか景色が開けた。

「着いたぞ」

晶がヘルメットを取ると目の前には見た事も無い風景が広がっていた。

街の夜景が煌いていて街の向うに海が見える。

夜の海が月明かりに照らされてキラキラと光っていた。

「うわぁ、綺麗。海が光ってる、不思議な感じがする」

「綺麗だろ、辛い事があった時に良く来てたんだ。今日みたいな月明かりが一番綺麗だな」

「ねぇ、隆斗。あの口笛のメロディーは?」

「あれは母さんがよく口ずさんでいた曲だよ。何の曲かは知らないけれどな」

「あのメロディーは、魔族に伝わる古の曲のメロディーだよ」

「そうなのか、それじゃ晶の父親が言っていた事は本当なのかもしれないな」

「隆斗のお母さんが魔族だったって事?」

「でも母さんは普通の人間の様だったけどな。たぶん爺さんなら何かを知っているかもしれないな」

「聞かないの?」

「何でだ?」

「だって隆斗には不思議な力が在るし、知りたいと思わないの?」

「そうだな、でもあの魔法の使い方も忘れていたくらいだからな。それに母さんに禁じられていた覚えがあるんだ」

「禁じられていたって?」

「あの言葉だよ。人前で使うなって。あんな無に返すような魔法どうしようもないだろ」

「でも、私はその魔法で隆斗に助けてもらったんだよ」

「そうだな、少しは役に立つのかな」

「ゴメンね。私、隆斗のお母さんの事故の事、何となく分かってたの。でも隆斗に嫌われたくなかったから言い出せなかった。でも隆斗は私と契約を結んでしまって隆斗の力で魔法力が封印されてしまったから、その責任を感じて一緒に居てくれるんだよね」

晶が不安交じりの寂しそうな顔をした。

「責任かそうかもな」

「えっ、やっぱり……」

晶が哀しそうな顔をする。瞳が大きく揺れていた。

「そんな顔をするなよ。晶、俺とお前の契約はどうすれば解除出来るんだ?」

「ええ、それはどちらかが死んじゃうまで無理だよ」

「だろう、お前の一生にかかわる事なんだぞ」

「でも、それは隆斗の一生にもかかわる事じゃん。隆斗は私じゃ嫌? 私は隆斗とならずーと一緒に居たいよ」

「俺とか……」

隆斗が寂しそうな目をした。

「そうだね、隆斗は魔法嫌いなんだよね。私は魔族だしね」

「そんなんじゃねぇよ」

「えっ」

「1人の女の子の一生がかかってるんだぞ」

「そんな責任は要らないよ。私は大好きな人と一緒に居られればそれで良いから」

「でも、契約してしまったのは事故なんだぞ」

「本当は私、子どもの頃に助けてくれたちょっとぶっきらぼうだけど優しい男の子探しに来たんだもん。その子は大きくなっても相変わらずぶっきらぼうだけど凄く優しい人になってた。ずーと探していたの、だから隆斗と一緒に居られるならそれだけで良い。私は隆斗が好き、大好き。隆斗は私の事どう思っているの?」

「どうって、嫌いじゃないぞ。嫌いなら一緒に寝たりしないからな」

「ああ、ずるい言い方するんだ」

「好きか嫌いかと聞かれれば好きと答えるよ」

「本当に?」

「ああ、嘘はつかない」

「じゃ、私の事。好き? 嫌い?」

「好きだ」

「えへへ、嬉しいな」

「なんだこの敗北感は……」

「気にしない気にしない」

月を仰ぎ見て隆斗は溜息をついた。

「なんで溜息なんかつくの?」

「晶の親父さんに確実に殺されるな」

「どうして?」

「晶は魔族の姫君なんだぞ、それに引き換え俺は魔法もろくに使えない人間だぞ」

「身分や種族なんか関係ないじゃん」

「本当にそう思っているのか?」

「それは……」

「まぁ、何とかなるだろ。今考えてもしょうがない事だしな」

「いい加減だなぁ」

「さぁ、帰ろう。爺達が待っているかもしれないからな」

「うん」


自宅に帰ると爺と美春が待っていた。

「おお、やっと帰ってきたか。遅かったの」

「悪いな、ちょっと寄り道してたからな。美春は寝ちまったのか」

美春は爺さんの横でソファーに体を預けて眠っていた。

「一旦、家に帰ったんじゃが心配になって親に許可を貰って戻って来たんじゃよ。じゃが疲れて寝てしまったようじゃな」

「しょうがねえなぁ、晶の部屋で寝かせるか。爺ちゃんいつも悪いな心配ばかりかけて」

晶は何も言わず隆斗のシャツを掴んで隆斗の後ろに居た。

「気にするないつもの事じゃで。その様子じゃと上手く行ったのかの。今宵は両手に花か羨ましいのう」

「爺、マジ殺すぞ」

「まぁ、良い。聞きたい事があればいつでも聞きに来るんじゃな」

「ああ、そうするよ」


翌朝、美春は見慣れない部屋で目を覚ました。

「あれ? ここは? そうだ隆斗の家だ。それじゃこの部屋は晶ちゃんの部屋かなぁ」

起き上がると晶の姿は無かった。

隆斗の部屋に向かいドアをノックする。

「隆斗、起きてる? 隆斗ってば、開けるよ」

ドアを開けて部屋を覗くとまだベッドで寝ているようだった。

隆羅がいつも起きる時間よりかなり早い時間だった。

「隆斗、晶ちゃんとは……」

「ん? 美春? 早いなぁ、もう起きたのか?」

隆斗が起き上がると美春が何かを見て固まっていた。その顔は晶と出逢った翌朝の爺の顔にそっくりだった。

後ろを見ると晶が気持ち良さそうに眠っていた。

「誤解だ! そんなんじゃねぇよ。違うってば」

「何が違うの?」

「違わねえけど、違うって言っているだろう」

理由も聞かずにボコボコにされた。

晶を起こして3人で学園に向かう。


「痛たたた、加減しろよ少しは」

「ゴメン、2人が一緒に寝ているからでしょ」

「理由も聞かずにか?」

「でも、変だなぁ。晶ちゃんのベッドって殆ど使ってない感じがするんだけどなぁ」

美春が変な目で隆斗を見る。

「そんな目で見るな」

「それじゃ、何で晶ちゃんが真っ赤かになっているのかなぁ?」

隆斗が晶を見るとこれでもかと言うくらい赤くなっていた。

「まるで完熟トマトだな。何で赤くなるかなぁ、まったく。こいつが怖がって1人で寝ないんだよ」

「本当にそれだけかなぁ」

「俺が何かするような男に見えるのか?」

「見える」

「それじゃ、今度一緒に寝てみるか?」

「えっ」

美春が赤くなる。

何かに引っ張られて隆斗が立ち止まった。

「ん? 晶どうした?」

晶が隆斗のブレザーの裾を掴んで隆斗を睨んでいた。

「み、美春。悪い今の無しな。冗談だから」

「当たり前じゃんって……晶ちゃん? えっもしかして……隆斗がねぇ」

「あまり言いふらすなよ」

「うん、でもそんな雰囲気じゃないみたいだよ」

辺りを見ると登校中の学園の生徒達が冷たい視線で3人を伺っている。

晶の表情が強張った。

「だりぃなぁ。行くぞ」

「う、うん」

晶が戸惑いながら返事をした。

「私は2人の味方だからね」

その日の1時限目は緊急朝礼が体育館で開かれた。

学園長が昨日の説明と怪我人も無く学園に何も被害が無かったので関係者はお咎め無しと言う事を長々と話をした。

しかし、生徒達は納得出来なかった。

「私、魔族と一緒なんて嫌だ」

「訳判らない奴と勉強なんか出来るか」

「何で退園させないんだ」

などと口々に不平不満をもらしていた。

晶の周りには誰も近づかず美春だけが側に居た。

晶は今にも泣き出しそうな顔をしている。

隆斗は保護者として学園に来ていた爺さんと体育館の隅で話をしていた。

すると隆斗が学園長が今まで話をしていた舞台上に向かい歩き出し叫んだ。

「ごちゃごちゃと囀ってんじゃねえぞ!」

今までざわついていた体育館が水を打った様に静まり返り、隆斗が舞台に上がり生徒達を見渡した。

「何が魔族が嫌だ、何が訳判らない奴だ。お前等この学園に何を学びに来ているんだ。答えてみろ。魔族が使う魔法じゃないのか。魔法が使えない奴から見れば訳の判らない魔法を学びに来ているんじゃないのか。確かに星 晶は魔族だ。でも今は事情があって魔法が使えなくなっているんだ。それに俺はお前等が知っている様に適正検査で魔法力がゼロと言われて、まともに魔法が使えない人間だぞ。俺の事は好きに言えば良い。でもな魔法も使えない弱い奴を追い出すような事を言う奴等が魔法を学んで何をするんだ。何の為に魔法を学んでいるんだ。人を守る為じゃねぇのか。人を幸せにする為じゃねぇのか。魔法なんて不思議な力のせいで嫌な思いをした事がある奴が少なくとも居るはずだ。恥ずかしくないのか。力なんて使う側次第なんだよ、幸せにするも不幸にするもな。文句がある奴はいつでも相手になってやる。ただし俺には魔法はきかねぇぞ。呪いだか何だか知らないがな。ガチンコ勝負で来い!」

「ふぉふぉふぉふぉ、言いよるわい。良い顔しとるぞ隆斗、男の顔じゃ」

クラスに戻り美春が晶の事を心配して隣の教室を覗くと隆斗の姿は何処にも無かった。


「あの馬鹿! 晶ちゃんを1人にして。また上で寝てるんだな」

美春が屋上に向かう。

屋上のドアを開けると仰向けになり空を見ながら寝転んでいる隆斗の姿があった。

「隆斗、こんな所で何を惚けて居るの?」

「だりぃなぁ、良いだろ俺が何をしようと」

「晶ちゃんはどうするのよ、1人ぼっちにして」

隆斗が起き上がった。

「あいつなら大丈夫だよ。周りの奴等がよっほどの馬鹿じゃなければな」

「隆斗が側に居てあげないと可哀想でしょ」

「俺が側に居たら皆怖がって近づいて来ねぇだろうが」

「良いから一緒に来るの」

美春が隆斗の手を引っ張り屋上から教室に向かった。

教室では数人の女の子が晶を取り囲んでいる。

「ごめんね、晶ちゃん。何だか酷い事言ったりして」

「ううん、私が魔族である事黙ってたんだからしょうがないよ」

「私、子どもの頃に虐められた事があるんだ魔法の事で、それなのに星君に言われるまで忘れていたの。許してね」

「うん、大丈夫。もう気にしてないから」

それを教室の入り口で美春と隆斗が見ていた。

隆羅に女の子達が気付き晶から離れた。

「見てみろ、俺が来たからあの様だ」

「隆斗、もしかして皆が晶ちゃんと仲直りする為に1人で屋上に」

「俺はどう思われようが構わないけれどな。俺のせいで晶が皆と仲良く出来ないのは嫌だからな」

「そこまで考えてるんだ」

「俺だって馬鹿じゃないからな。クラスに戻れよ授業が始まるぞ」

予鈴が鳴り授業の開始を知らせた。


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