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アキュラ☆2

翌朝、どこか遠くの方で聞き覚えのある声がする。

「隆斗! 隆斗! 居らんのか?」

しばらくすると階段を駆け上がる音が聞え、隆斗の部屋のドアが開いた。

「居るなら返事くらいせんか。何時だと思っとるんじゃ」

「うるせえなぁ、爺。夕べ遅かったんだから仕方がねぇだろ」

「学校はどうしたんじゃ」

「爺に言われなくてもこれから行くよ」

起き上がりベッドに腰かけ時計を見ると9時を回っている。

隆斗が爺の顔を見ると隆斗の後ろに視線をやり固まっていた。

「どうした。爺?」

「夕べ遅かったとは? そう言うことかの?」

隆斗が後ろを見るとアキュラが気持ち良さそうに眠っていた。

「誤解だ! そんなんじゃねぇよ。違うってば」

「何が違うんじゃ?」

「違わねえけど、違うって言っているだろう」

その後、3人で1階のリビングに向かい昨夜の事を当たり障り無く話した。

「すまんのう、隆斗」

「ふざけるな。理由も聞かずにボコボコにしやがって。クソ爺」

隆斗は爺さんに有無を言わさずボコボコにされて機嫌が悪かった。

「しかし、これから如何するんじゃ?」

「そんな事、俺が知るか。こいつに聞いてくれ」

アキュラは俯いたまま何も言わなかった。

「困ったのう、とりあえず隆斗は学園じゃな。この子はわしが預かろう」

隆斗は着替えて学園に向かう。アキュラの上着はボロボロだったので隆斗のシャツを着せてスカートは汚れを軽く落とし着替えさせて爺の道場に預ける事になった。


「隆斗が、学園に来ないなんてどうしたんだろうな」

「明日、雪が降るんじゃないか?」

授業中にも係わらずクラスメイト達はそんな事を話していた。

すると教室の後ろの戸が開いて隆斗が姿を現した。

「おお、社長出勤て……」

隆斗は超不機嫌な顔をして自分の席に着く、クラス中が静まり返った。

先生もその雰囲気に呑まれ何も言わなかった。


アキュラは爺さんの道場に連れて来られていた。

隆斗と別れる時には不安そうな顔をして嫌がった。

「アキュラ。この爺は俺の親代わりだから心配するな、学園が終ったら迎えに来るから」

「う、うん」

渋々隆斗に従い爺さんに連れられて屋敷の中を案内される。

屋敷は古い日本家屋で古武道の道場に向った。

アキュラは一言もしゃべらなかった。

「ここが道場じゃ」

道場に行くとアキュラが辺りを見回し、道場の隅に膝を抱えて座り込んだ。

「困ったもんじゃのう。お嬢ちゃん、名前ぐらい教えてくれんかのう」

「ステラ アレーシア アキュラ」

アキュラが自分の名前を呟いた。

「ステラ アレーシアとな……魔族の姫君かいな。また、隆斗は偉いもんを……」

アキュラは爺さんが何を言おうが動こうとはしなかった。


隆斗は学園で始終不機嫌で誰とも話しすらしなかった。

回りも近寄りがたい雰囲気で遠巻きに様子を伺っている様だった。

授業の終わりを告げる鐘が鳴ると隆斗はズボンのポケットに両手を突っ込んだまま教室を後にした。

「お、終わった~」

「なんちゅう緊張感」

「緊張感なんかじゃなくて緊迫感だろ。あれは」

「来週は、大丈夫だよな」

「とりあえず、月曜までは安泰だな」

何事も無く授業が終わり生徒や先生さえほっとしていた。

隆斗は下駄箱で靴に履き替えバイト先に携帯で連絡している。

「すいません、来週まで休ませて欲しいんですが。はい、ありがとうございます」

「隆斗! たまには一緒に帰ろう」

美春が電話中の隆斗を見つけて声を掛けてきた。

隆斗は何も言わずに歩き出した。

「ねぇ、隆斗ってばぁ。ああ、誰に殴られたの?」

隆斗の顔には殴られた痣が出来ていた。

「判った、師範でしょ。女の子でも家に連れ込んだのかなぁ」

隆斗が美春の顔を不機嫌そうに見た。

「ええ、図星じゃないよね。それにこの道って道場に行く道だよね」


しばらく歩くと大きな屋敷の前に着く。

大きな門の柱に掛けてある一枚板には郡星流古武道心命館と書いてある。

「隆斗が道場に来るなんて珍しいね」

隆斗は何も言わずに屋敷の中に歩き出した。

玄関で爺さんを呼ぶ。

「おーい、爺。帰ったぞ」

「ここじゃ、ここじゃ」

道場の方から声がする。

隆斗が道場に向かうと、その後を美春が着いて来た。

道場に入ると爺さんが道場の真ん中で座っていた。

「爺、あいつは?」

「ほれ、あそこじゃ。朝から何も食べずに座りぱなしじゃよ」

見ると道場の隅で膝を抱えてアキュラが座っていた。

「おい、アキュラ。帰るぞ」

隆斗が声を掛けると顔を上げて立ち上がろうとして、その場に倒れこんだ。

「どうしたんじゃ」

「判るかそんな事」

その時、隆斗の左手首のタトゥーの様なものが青く光った。

何かに導かれるように隆斗がアキュラに近づき左手でアキュラの頭を触ると光が強さを増した。

するとアキュラが何事も無かった様に起き上がり隆斗の顔を見て、アキュラがクシャクシャの顔をしながら隆斗に抱きついた。

「うぇぇぇぇぇぇぇ……ん」

「ええ! 誰? その女の子」

美春が驚いて声を上げる。

「隆斗が連れて来たんじゃ」

「し、師範、どう言う事ですか?」

「わしも良く判らんのじゃ」

「判らないって」

隆斗がアキュラを抱えながら立ち上がる。

「隆斗、何処に行くんじゃ」

「帰るんだよ。週末はバイトは休みをもらった」

「お前にしちゃ上出来じゃ。話があるついて来るんじゃ」

隆斗が爺さんの目を見るとその目は真剣そのものだった。

「判ったよ」

「ねぇ、何処に行くの?」

美春が3人の後をついて来ようとする。

「美春、いや師範代。もう直ぐ子どもらが来るからわしの代わりに相手をしてやってくれんかのう」

「え、はい。判りました」

美春を道場に残して3人が屋敷に向かう。

「いつも、私だけ除け者なんだから。ベーだ」

美春があっかんべーをする。

そこに道場に通う子ども達がやって来た。

「おはよーございます!」

「おはよう」

「今日は美春姉ちゃんなのか?」

「美春姉ちゃんじゃなくて師範代でしょ」

「うわ、機嫌悪!」

「何か言った? 今日はビシビシ行くわよ」

「はぁ~最悪だ」

道場に現れた子ども達がうな垂れた。


隆斗、アキュラ、爺さんの3人は屋敷の居間に居た。

「隆斗、その子は魔族なんじゃな」

「朝も言ったとおりだよ」

「事故とは言えお前と口づけをしてしまった事でお前と何らかの契約を結んでしまったのだろう、その左手首の印がその証なんじゃろうて。そしてお前の力を封印しようとしてお前の力のせいで自分の力を封印してしまった」

「俺が悪いんじゃねえだろ。好きでこんな体じゃねえよ」

「まぁ聞け。どう言う訳かこの子の力はお前の体の中に封印されている。魔族の魔法力は命の源じゃ、力を総て失えば死んでしまう。先程の様に時々魔法力を隆斗が与えなければならないじゃろう」

「だりぃなぁ……」

「仕方なかろう、こうなってしまった以上。お前がこの子の面倒を見るんじゃよいな」

「でも、何で爺がそんなに色々な事を知って居るんだ?」

「フォフォフォ、亀の甲より年の功じゃよ」

「伊達に年食ってる訳じゃねぇって事か」

「わしを年寄り扱いするな」

「しかし、こいつの面倒を俺が? いつ魔法力が切れるかも分からねぇのにかよ。四六時中一緒に居られる訳がねぇだろ。それにこいつの着替えやらはどうするんだよ」

「お前が一緒に買いに行ったらよかろう。ちょうど土日は学園も休みじゃしバイトも休みを貰ったんじゃろう」

「ふざけるな、女物の洋服なんか買いに行けるか」

「仕方の無い奴じゃのう、美春にでも頼むんじゃな。それとこれからの事は総てわしに任せろ良い考えがあるんじゃ、フォフォフォフォフォ」

「嫌な笑い方するな……何考えてやがるんだ」

「気にするな。帰って家で乳くりあえばよかろう」

「殺すぞ! 爺」

「冗談じゃよ、イッア ジョークじゃ」


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