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太陽☆婚礼の儀

天井がドーム状になったガラスで覆われ。

月が白く光っている聖堂ではアキュラとキールの婚礼の儀が執り行われていた。

2人は宙に浮いた階段の先にある空中祭壇の前に並んでいる。

アキュラは真っ白なレースがあしらわれたシンプルなウエディングドレスを着て頭にはレースのベールをまとっていた。

目に光は無く操り人形のようだった。

キールは黒地に銀の刺繍が施された詰襟の様な服を着て口元は笑っている。

2人の前には赤いマントを羽織り、白髪で立派な真っ白い髭をはやした神父が誓いの言葉を捧げていた。

そして聖堂の中の壁際には剣を胸の前に掲げている親衛隊が取り囲んでいた。

「正当なる王位継承者、ステラ アレーシア アキュラよ。太陽に誓い、この婚礼に異議無ければ沈黙で答えよ」

それを祭壇が見下ろせる壁際にある王族専用の席からレオンとラウラが見つめていた。

「もう、終わりですね。あなた」

ラウラの目から涙がこぼれた。

「アキュラの命には代えられんのだ」

レオンが奥歯をかみ締めた。


聖堂のドアが蹴り開けられ黒装束の男が現れ叫んだ。

「異議ありまくりだ!」

聖堂の中が騒然となった。

「こ、これでは婚姻の儀が続けられぬ」

神父が怯えていた。

「ふん、丁度よい余興だ。殺せ!」

キールが不敵な笑みを浮かべ言い放つと数人の親衛隊が隆斗に一斉に剣で切りかかった。

「他愛の無い。こそ泥が」

「こそ泥は、どっちだ!」

男が黒いマントを翻して立ち上がると取り囲んでいた親衛隊が吹き飛んだ。

「何者だ!」

「晶! 迎えに来たぞ」

隆斗の声に晶の体が僅かに反応して光が消えている目から一筋の涙が流れた。

「有り得ん! 貴様だけはこの手で殺す」

キールが苦虫を噛み潰した様な顔になり叫んだ。

隆斗が階段を駆け上がり。

キールが階段を駆け下り隆斗を向かえ討つ。

腰から剣抜き隆斗を一刀両断にした。


「何者なんだ、あれは?」

王族専用の席でレオンが叫んだ。

「キール相手では……」

ラウラが目を背けた。

そこに、息を切らした星羅が駆け込んできた。

「セーラよ、無事だったのか?」

「はい、レオン様。ラウラ様」

「それでは、あの者はまさか」

「兄様のリュート様です」

「でも、キールに一刀両断に……」

「ラウラ様、兄様は無敵です」

3人が祭壇に目をやると剣を振り下ろしたキールの前には隆斗の姿は無く。

黒いヘルメットが真っ二つになっていた。


「残像? ば、馬鹿な。かわせる筈が……」

キールが振り向くと晶の横に隆斗が立っていた。

「こんな可愛くない付け耳なんか付けてどうしたんだ? 晶」

隆斗がベールを取り、晶の目から零れる涙を指で拭った。

晶は直立不動で動かなかった。

「馬鹿め、2度と元には戻らぬわ。貴様を殺して契約さえ済ませればそんな女は様無しだ」

「晶、もう少しここで待っていてくれ。いいな」

そう言って隆斗が優しく晶の額にキスをする。

すると付け耳が落ちて砕け散った。

それを見たキールは少し驚いていたが怯む事はなく晶の目にも光は戻らず不動のままだった。

「てめえだけは! 絶対赦さねえ! 兵士達良く聞け! もう手加減出来ねえ! 怪我をしたくなければ手出し無用だ!」

そう叫んだ隆斗の髪の毛は逆立ち目が青く輝いていた。

そして晶にマントを被せるとゆっくり階段を下りてキールに向かっていった。

「小癪なまねを。死ね!」

キールが剣を隆斗の体目掛けて薙ぎ払った瞬間、キールの顔が歪み体が横に吹き飛んだ。

キールの体がスローモーションの様に階段から落ちて床に転がる。

隆斗がキールの繰り出した剣より早くキールの顔面に裏拳を叩き込んだのだ。

「許さん! 我の顔に傷を付けたな!」

ヨロヨロと立ち上がったキールの口元から血が流れていた。

「許さねえだ? 人の自由を奪い、何でも思い通りにしようとする奴が俺は大嫌いなんだよ」

隆斗が階段を下りてくる。

後ろから兵士が切りかかってきた。

隆斗が後ろ蹴りを叩き込む、兵士の顔が苦痛に歪んだ。

そして蹴りだした足を軸に体を回転させて兵士の頭に回し蹴りを叩き込むと兵士が吹き飛びピクリとも動かなくなった。

「言った筈だぞ、手加減しねえと」

周りの親衛隊が隆斗の殺気にたじろいでいた。

「殺せ! 我々王族に歯向かう奴は生きて返すな」

ゆっくりキールに向かい歩き出す隆斗に兵士が切りかかる。

隆斗が赤子の手を捻る様に兵士を吹き飛ばした。

「王族だ。笑わせるな、俺は星 隆斗! 母の名は茉利亜! そして俺のもう1つの名は、古の一族のソーレ アーク リュートだ」

隆斗が叫ぶと聖堂がビリビリと震えた。

「これが、古の力なのか……恐ろしい」

レオンが王族専用席で呟き身震いをした。

「レオン様? 何がですか?」

「セーラよ。ソーレ一族が争いを好まない理由はこの力にあるんだと判ったのだ。この神聖な聖堂が振動するなど有り得ない事なのだ」

「あなた?」

「ソーレが怒りに身を任せればこのフローティングアイランドなど跡形も無く吹き飛ぶぞ」

「でも、大丈夫です。兄様は決して怒りに飲まれません。とても心優しき人ですから」


キールが隆斗に剣を向けている。

臆する事無く隆斗はキールに向かい歩き出すとジリジリとキールが後ずさりした。

「我が剣は月の剣、切れぬ物は無い。貴様の腰の物はお飾りか?」

「だりぃなぁ。俺は剣を扱った事がねえんだよ」

「ほう、この俺様と素手でやり合う気か」

キールが何かを伺っているのが見えた。

そしてキールの口元がにやけた。

「女を殺せ!」

キールが叫ぶと聖堂の回廊から兵士が一斉に晶に向けて攻撃魔法や銃を撃ち放った。

その瞬間、黒い魔方陣が晶を包み込み魔法も銃弾も全てはじき返し。

回廊の兵士は皆、魔法と自らが放った銃弾で吹き飛んだ。

「言ったはずだ手加減はしないと。それに俺が無防備に晶を晒すと思っているのか?」

「クソ、マントにまであんな力があるとは。それならこれでどうだ?」

キールが王族専用席に向かい攻撃魔法を仕掛けると星羅達の居る席が炎に包まれた。

「星羅! 大丈夫か?」

隆斗が叫ぶ。

「はいです!」

星羅の声が響いた。

驚いたキールが王族専用席を見上げると星羅が魔法陣でキールの攻撃魔法を凌いでいた。

「馬鹿な、セーラ如きが」

「お前の魔法が今の星羅に通用すると思うのか? 魔法は誰かを守るため、そして幸せにする為にあるんだ! 人殺しの道具じゃねえ!」

隆斗が叫びながらキールに殴りかかる。

キールは何とか突きや蹴りを凌ぐ。

そして一瞬の隙を突いて隆斗につかみ掛かった。

「無策で遣られていると思っているのか? これなら間に合うまい」

キールがそう言うと黒い獣3匹が晶に向かい走り出していた。

一頭がマントを喰いちぎり消滅すると残りの2匹が晶に襲い掛かる。

「姉様、逃げて!」

「シルフィード!」

星羅が叫び、隆斗が名を叫ぶ。

すると一陣の風が駆け抜け晶を旋風が包んだかと思うと真っ白い龍が晶の体を包み込み。

1頭の黒い獣を口に加えもう1頭を前足で押さえ込んでいた。

黒い獣が跡形も無く消し飛んだ。

「リュートよ。呼んだか?」

「シルフィード! アキュラ姫を守護せよ」

「了承した」

白い龍のシルフィードが晶の体の周りを包み込んだまま周りを威圧する。

残りの兵士達から戦意が失われた。

「王に仕える、白き龍だ。逃げろ!」

口々に叫びながら聖堂から逃げ出していった。


キール1人が取り残された。

「まだ、やるつもりか?」

「ここまで来て。もう少しだったのに邪魔立てしやがって、ふざけるなぁ!」

キールが怒りに我を忘れて隆斗に向かって剣を振りかざすとキールの月の剣が青白く光った。

隆斗は無言のままキールを真っ直ぐに見つめて立ち尽くしていた。

「手も足も出まい!」

隆斗がゆっくり左手で腰の剣に手を添える。

月の剣が隆斗の頭に振り下ろされる瞬間。

隆斗の左手首の紋章が光り。

剣をほんの少しだけ引き抜くと隆斗の剣が光り輝きキールが真紅の炎に包まれた。

「うぎゃぁぁっぁっぁぁぁっぁぁぁーー」

キールが絶叫してのた打ち回った。

「あの剣は、太陽の剣『フレア』全てを焼き尽くす力を秘めている太陽そのもの」

「あなた、もし剣を全て引き抜けば……」

「全てが灰になるだろう」

「兄様……」


星羅とレオン、ラウラが下に降りて来ていた。

それに隆斗が気づいた。

「星羅、晶を叩き起こしに行って来るからな」

「はいです」

隆斗がレオンとラウラに一礼をして晶の居る祭壇へと階段を上がって行き、白い龍のシルフィードの鼻先を優しく撫でて隆斗が言った。

「シルフィード、ありがとう。もう森にお帰り」

するとシルフィードは1回だけ瞬きをして風となり吹き抜けた。

「だりぃなぁ、いつまで寝ているつもりなんだ?」

晶の瞳は光を失ったままだった。

「太陽に誓いをか、それなら俺はソーレ アーク リュートの名に誓おう。アキュラと一生共に歩む事をこれが証の契りだ」

隆斗がそう宣言し晶に口付けをした。

すると隆斗のロザリオが光り輝き2人を包み込む。

晶の目に光が戻りポンと音がして猫耳と綺麗な尻尾が現れた。

「隆斗なの?」

「大丈夫か? 晶」

「うん。どこからかずーと隆斗が呼ぶ声がしてた。でもどこから呼んでいるのかが判らなくて、そうしたら隆斗の誓いが聞こえてきたの」

晶の瞳からは大粒の涙がポロポロと溢れていた。

「私も誓う。ステラ アレーシア アキュラの名に星 隆斗と一生共に生きる事を」

そう宣言して晶が隆斗に口付けをした。

「あなた……」

ラウラがレオンの顔を見上げて言った。

「2人を認めよう」

「やったです! 兄様と姉様が結婚です!」

星羅が飛び跳ねて大喜びした。

隆斗と晶が3人の前に下りて来た。

晶は隆斗の腕にしっかりと抱きついていた。

「お父様、ありがとう」

「おめでとうです。兄様、姉様。でも……」

「誰も死んでないよ、大怪我はしているかもしれないけどな」

「本当ですか? 兄様」

「本当だ」

「あれ? キールがいないです」

「逃げ出したんじゃないのか」

「そうですね、兄様」


その頃、キールは魔法炉に向かっていた。

体中から煙を出し月の剣を杖代わりにして。

「甘いんだ小僧。このままで済むと思うなよ、この命にかけて思い知らせてやる」


そして、安堵する間もなくセランが聖堂に飛び込んできた。

「レオン様、ラウラ様」

「何事だ? セラン」

「レオン様! 大変で御座います。キールが月の剣を持って魔法炉に身を投げました」

「何だと!」

「あなた?」

「いかん、魔法炉が暴走してしまう」

その時、宮殿が地震の様にゆれ天井のガラスから大きな光の玉が飛び出して行くのが見えた。

「地上に落ちるぞ」

「晶、行こう。俺達で何とかしよう」

「はい、隆斗を信じてどこまでも着いて行きます」

「星羅も一緒です」

「お父様、お母様。行って参ります」

「リュートよ、娘を頼んだぞ」

「はい」

隆斗がレオンの目を真っ直ぐに見て返事をした。


東都ではパニック状態になっていた。

巨大な魔法の光の玉が突然現れて再び近づいてきたのだ。

学園の生徒は校庭に集められていた。

そして4学園の青龍・白虎・朱雀・玄武と呼ばれている長が呼び集められていた。

「師範が学園の代表で青龍だったなんて……」

「美春や、前回の魔法炉の暴走時の生き残りじゃよ4人とも」

「それじゃ、何とかなるんですね」

「無理じゃな、前回とは比べ物にならん。全力は尽くすが……」

「そんな……それじゃ」

「何を、ウダウダ言ってるんだ? 爺! 諦めるな!」

校庭に魔方陣が現れて隆斗、晶そして星羅が現れた。

「隆斗に晶ちゃん。無事だったんだ」

「美春ちん、隆斗が助けてくれたの」

「2人は結婚したです」

「ええ!」

「それどころじゃないだろ」

「隆斗の言う通りじゃ、しかしのう」

「しかしもへったくれもねえんだよ。守るしかないんだ」

「隆斗、行こう。封印を解いて」

「判った」

隆斗が晶の肩に左手を置いて晶に口付けをしようとする。

しかし封印は解けずに晶が気を失い崩れ落ち隆斗が抱きしめた。

晶の体に隆斗がショットガンを打ち込んだのだ。

「隆斗、晶ちゃんに何て事するの? まさか」

「しばらくしたら目を覚ますよ。気を失わせただけだ」

隆斗はそう言って晶を美春に預けて首からロザリオを外し晶の首に掛けた。

「兄様?」

「美春、星羅。晶を頼む」

隆斗が真っ直ぐに美春と星羅の目を見て言った。

「頼むって、1人でそんな無茶な」

「これ以上、晶を危険な目にあわせる訳にはいかないんだ」

「でも、必ず無事に戻ってくるよね」

「俺は諦めが悪いんでな。シルフィード! 来い!」

隆斗が叫ぶと突風が駆け抜け隆斗の姿が消えた。

「今、真っ白な龍が見えた様な気がする」

「美春にも見えたかの?」

「隆斗は何処に?」

「兄様はここです」

パチンと星羅が指を鳴らすと頭上に大きな魔方陣が現れ魔法陣の中に隆斗の姿を映し出した。

そこは隆斗の取って置きの場所の山頂だった。

「星羅ちゃんも凄い魔法を使えるんだ」

「兄様に教わったです。信じる事が大切だって」

魔方陣の中の隆斗が何かを叫んで地面に拳を叩き込んでいた。

「何をしているんだろう?」

「魔方陣を山全体に仕掛けたんじゃろう。わしも出番じゃな」

そう言うと、爺さんは学園内に向かった。


しばらくすると屋上から何かが光の玉目掛けて飛んでいった。

巨大な光は今にも頭上から落ちそうだった。

「大丈夫かなぁ」

「美春姉様、兄様を信じましょう」

校庭に集められた生徒達はある者は呆然と立ち尽くし。

ある者は泣いていた。

魔方陣を見ると隆斗が空に両手を翳し光の玉を押さえ込んでいた。

しばらくすると気を失っていた晶が目を覚ました。

「隆斗? 隆斗は?」

「晶ちゃん。ごめんね、隆斗はあそこに」

美春が魔方陣を指差した。

「何で1人だけで……」

「これ以上晶ちゃんを危ない目にあわす訳にはいかないって」

「そんな……」


隆斗は強大な力に押し潰されそうになっていた。

腕が今にも砕けそうだった。

「クソ! 必ず守ると誓ったんだ」

「このままじゃ、また失ってしまう」

魔方陣の中の隆斗が何かを呟いていた。

晶には「ごめんな、晶」と呟く様に見えた。

「駄目! 隆斗!」

晶が叫んだっ瞬間、隆斗の体が光に包まれ。

巨大な光の玉と共に粉々に砕け散った。

キラキラと光の粒子が東都全体に降り注ぎ。

晶の胸元のロザリオが一瞬だけ輝いた。


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