太陽☆原初の森
宮殿に転移したはずの隆斗と星羅はフローティングアイランドの別の場所に飛ばされてしまっていた。
「痛たたた、星羅大丈夫か?」
「兄様がクッション代わりになってくれたから何とか平気です」
星羅の下敷きになっている隆斗が星羅ををどかして隆斗が立ち上がるとそこは荒廃とした場所だった。
建物は無く殆どの草木は枯れ果て。
所々に辛うじて草が生えていて花が咲いていた。
空には青空のような中に白い大きな月が見えている。
「星羅、ここは何処なんだ?」
「ここは多分、原初の森です。宮殿には飛べないように何か魔法が掛けられているです」
「森って言っても殆ど荒地にしか見えないぞ」
隆斗が辺りを見渡すと少し離れた丘の上に大きな枯れ木があり。
その下に誰かが居るのが見えた。
「星羅、あそこに誰か居るぞ。何か判るかもしれないから行ってみよう」
「兄様、駄目ですよ。ここは魔族が来ちゃいけない所です」
「そんな事を言ってもしょうがないだろう、じっとしている訳には行かないんだ」
隆斗が丘に向かい歩き出した。
星羅も怯えながら着いて行く。
丘の木の下に行くとそこには民俗衣装風の貫頭衣の様な服を着て。
肩まである茶色い髪の毛に長い耳の女の子が辛うじて咲いている花を摘んでいた。
隆斗たちがゆっくり近づくとその女の子が隆斗たちに気づいた。
「そこに居るのは誰?」
その女の子は目が見えないようだった。
隆斗が優しく女の子に声をかけた。
「驚かせてごめん。君はここの子なの?」
「聞いた事が無い声、誰なの?」
「俺は隆斗って言うんだ」
「リュート? 魔族なの」
「魔族と言えばそうかもしれないな」
女の子が少し考え込んでいた。
隆斗は女の子がしゃべりだすのを待った。
「そう、でもあなたからは嫌な感じがしない。それに懐かしい匂いがする」
「懐かしい匂い? そうか。聞いて良いかな。何でここはこんなに荒れているの?」
「前に起きた魔法炉の暴走で目茶苦茶になったから」
「そうだったのか」
隆斗が悲しそうな顔をした。
「兄様……」
星羅が隆斗に声を掛けた。
「もう1人居るの? 魔族の人ね。リュートの気配が大きくて判らなかった」
「彼女は魔族だけど決して君に危害を与えるような事はしないよ。初対面で信じてくれなんて言えないけれど信じてもらえないかな」
「そう……判った。信じる、リュートからはマリア様と同じ匂いがするもの」
「マリアって古のソーレ一族のマリア?」
「そう、マリア様が居れば私の目も見えるようになったかもしれない。それにこの森だって元通りに……」
女の子の目から涙がこぼれた。
「君の名前を教えてくれないか?」
「兄様、だめです。この子はエルフです。エルフが名前を言うという事は魔族の契約と同じです」
「そうか、それなら呼び名で構わないから。それでも駄目かな」
「私はミィーと呼ばれてる」
「ありがとう、ミィー。呼び名を教えてくれたお礼に俺に出来るか判らないけれどこの森を元通りにしてみよう」
「無理です、マリア様程の力がないと元通りにならない」
「それじゃ、試してみよう」
隆斗が側で枯れている大きな樹に手を当てて目を閉じ意識を集中した。
しばらくすると目を開けて愛しそうに樹の幹を見つめると隆斗の掌が光りだした。
すると今まで枯れていた幹が生き返りザワザワと音を立てて枝を伸ばし始めた。
「凄いです、樹が大きくなってるです」
星羅が驚いた。
そしてガラスの風鈴が鳴るようなとても澄んだ綺麗な音を鳴らしながら葉っぱが開いていく。
シャラシャラと音が鳴り響き大きな樹は緑に包まれた。
「魔法樹が生き返った……信じられない」
ミィーが驚いて声を上げた。
その時、少し離れた所から声がした。
「貴様は何者だ。何をした? ミィーから離れろ!」
「シルフ? この人たちは何も悪い事していないよ」
「そいつの横に居るのは魔族のセーラだぞ」
星羅が隆斗の後ろに隠れた。
敵意丸出しの男の子は青白い髪の毛で白い服を着ていた。
「龍の化身……」
星羅が怯えながら言った。
「龍の化身って? 星羅ここはどんな所なんだ?」
「ここは人間から伝説と呼ばれる生き物達が住む森です」
「魔族だって同じだったじゃねえか。それなのに森を目茶目茶にして」
「シルフよ止めんか」
「長老でも」
気が付くと男の子の後ろには色んな種族が集まっていた。
巨人、獣人、小人その中の長と思われる耳の長いエルフの老人がシルフと呼ばれている男の子を制した。
「お主は何者じゃ」
「俺は、星 隆斗。高校生だ」
「お主は人間じゃな、人間如きが何をしに来たんじゃ」
「晶、いやアキュラを取り戻しに来たんだ」
「人間が無茶だ」
「長老、リュートが魔法樹を生き返らせたの」
「何じゃと、信じられん。ミィー。それは真か? 魔法樹の音がしてまさかと思い来て見れば人間が生き返らせたと、確かに生き返って居るが……」
「ミィー、呼び名を教えてくれた礼がまだだったな」
「我が名はソーレ!アーク!リュート! ゼロ!」
隆斗が詠唱し掌底突きを地面に思いっきり叩き込む。
すると掌から黒く光る魔方陣が現れたかと思うと疾風とともに黒く光る魔方陣が広がり。
原初の森を駆け抜け包み込んだ。
「嘘だろ? 森が元通りになっている」
シルフの目にはキラキラと輝いている草原と青々とした森が写っていた。
「お主は、まさかマリアの……」
「俺には人間の父の血が半分、そして母、茉利亜の血が半分流れている」
「リュートはマリア様の子なの? 森が元に戻ったって本当なの?」
「ミィー。俺は茉利亜の息子だ。それに自分の目で確かめてごらん、目を閉じるんだ」
隆斗がミィーに声を掛けるとミィーが目を閉じた。
そして隆斗がミィーのおでこに優しくキスをするとミィーが優しく温かい光に包まれた。
「とても温かいよ、リュート?」
「そっと目を開けてごらん」
ミィーがゆっくり目を開ける、キラキラと光り輝く綺麗な光が目に飛び込んできた。
「見えるよ、リュートの顔が見える優しい目元がマリア様そっくり」
ミィーが隆斗に抱きついた。
「森が輝いてる。ありがとうリュート。私の名前はミルフィーだよ、忘れないでね」
「忘れないよ、絶対にミルフィー」
「お主は全て無に返す黒き伝説、そして全ての始まり古の一族なんじゃな」
「伝説はどうか知らないけれど俺が古の一族の末裔なのは事実みたいだな」
「黒き伝説の力は魔法を跳ね返し、そして無にする力なんじゃよ。そして相反する古の一族の力を併せ持って居るのじゃ。黒き魔方陣が輝くのがその証じゃな」
その時、宮殿から鐘の音が聞こえてきた。
「兄様、婚礼の儀がはじまります。急がないと」
「シルフ、お願い。リュートに力を貸してあげて。あなたはいつも言ってたでしょ、俺は王に仕える者だって」
「ミィーの願いじゃ断れねえぇ。それにソーレ一族は王位継承者だからな。俺の背中に乗れ」
シルフが手をパンと叩くとシルフが真っ白の巨大な龍になった。
「リュート、我が名はシルフィード。汝の側にいつも居よう、名を呼べば現れてやる」
「了承した。星羅、急ごう」
「はいです」
隆斗と星羅がシルフィードの背中に乗ると真っ白な龍が空を駆け出した。
あっという間に宮殿の入り口に辿り着いた。
「リュートよここから先には進めぬ。お主が行った事の無い宮殿の中には現れる事が出来ぬのだ。今はここまでだ」
「判った、シルフィードありがとう。これをミルフィーに渡してくれ、そしてお前にはこれをやるよ。行こう星羅」
「はいです」
隆斗がミルフィーにはシルバーのブレスをそしてシルフィードには右手のミサンガを託した。
星羅と隆斗が宮殿の門に駆け出す。
門には目の模様が彫られていた。
その目の模様を星羅が見つめる。
「おかしいです。開かないです、私も王族の一員なのに」
「多分、外から魔族が入れないように結界でも張ってあるんだろう。いつもはどうしたら開くんだ?」
「いつもならあの目の文様を見れば開くです」
「俺がやってみよう」
隆斗が目の文様を見つめると隆斗の目が青く光った。
すると鈍い音を立てながら門が開いた。
「古の一族はノーガードみたいだな」
「それは、お城を作ったのは古の一族ですから」
隆斗がヘルメットをかぶり門をくぐると衛兵達が待ち構えていた。
「我はセーラ。道を開けなさい」
「星羅、無理みたいだぞ」
とても信じてもらえそうに無い、殺気だった雰囲気だった。
「偽者だ! 捕らえよ」
衛兵の隊長が叫んだ。
「星羅、走り抜けるぞ大丈夫か?」
「今は魔法が使えるです」
「行くぞ。俺の後ろから離れるなよ」
「はい」
隆斗が走り出すと星羅は隆斗の後ろにぴったりと付いて走り出した。
「構わぬ殺せ! 宮殿に入れてはならん」
衛兵が一斉に攻撃魔法を仕掛けてきた。
隆斗達に攻撃が当たる瞬間、隆斗と星羅を黒い魔方陣が包み込み攻撃魔法を仕掛けた衛兵達が吹き飛んだ。
隆斗と星羅が宮殿の中に駆け込む。
「魔法は効かぬ剣か銃を持て!」
「兄様、大丈夫ですか?」
「ふふふ、大丈夫だよ」
「何が可笑しいです?」
「いや、あのエルフの長老が爺にそっくりだと思ったんだ」
「へへへ、本当だ。お爺様にしゃべり方まで似てるです、兄様は緊張しないのですか?」
「程好い緊張は良いけど、星羅みたいにガチガチじゃ駄目なんだ」
「でも、怖いです」
「俺を信じろ。必ず助けてやるから」
「はいです」
「居たぞ!」
「もう見つかったか」
「兄様、宮殿の祭壇はまだこの奥です。兄様?」
隆斗が立ち止まり星羅の前に立ち塞がりゆっくりと歩き出した。
「星羅、離れるなよ」
「は、はい」
隆斗の目には衛兵達が銃をこちらに向けて構えている姿が見えていた。
「撃て!」
隆斗に向けて一斉射撃が始まった。
星羅が隆斗の後ろで耳を塞いでしゃがみ込んだ。
硝煙が立ち込めるが隆斗には一発の銃弾も届いてはいなかった。
隆斗が突き出した手の前で黒い魔方陣がゆっくり回転している。
その魔方陣に絡め取られたように銃弾が止まっていた。
「今の俺には銃も効かねえぞ!」
そう叫びながら衛兵に向かい走り出した。
衛兵に掌底突きや蹴りを叩き込む一瞬で衛兵を叩きのめした。
「星羅行くぞ」
隆斗が歩きだす、衛兵が後ずさりしていた。
「撃て! 撃たんか」
衛兵が銃を撃つが全く隆斗に弾は届かなかった。
「く、黒騎士だ。敵わない」
「それなら魔法で吹き飛ばしてやる」
そう言いながら魔法をかけると魔法をかけた衛兵が吹き飛んだ。
「ほ、本物だ。逃げろ」
衛兵が逃げ出し始めた。
それでも隆斗に向かってくる兵は尽く隆斗に叩きのめされた。
隆斗と星羅は宮殿の最上階の大きな扉の前にたどり着いた。
「晶はここに居るんだな」
「はいです。ここが聖堂です。私はレオン様達の所にいくです」
「星羅、気をつけろよ」
「大丈夫です。兄様もです」




