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夏休み☆浴衣

里美の実家の呉服店に入り浴衣を見せてもらう、隆斗は店の中で座って見ていた。

「好きなのを選べよ」

「へぇ? 隆君、買うの?」

「何か問題でもあるのか?」

「一応、うちは呉服屋じゃんね……その」

「支払いなら心配しなくて良いぞ」

「良いぞって、お母さん? 隆君が」

「何を騒いでるのお店で」

奥から里美のお母さんが顔を出した。

「隆君が皆に浴衣を買うて言うじゃんね」

「ほんまにええのん? 隆ちゃん。うちはあんまりカード使えんよ」

「構わないですよ、似合う奴を選んであげてくださいね」

「それじゃ。ほれ、里美も手伝って」

「うん、判った」

里美も手伝いながら浴衣を選び出した。


晶と星羅の眼が輝いていた。

「晶さんならこれの柄も良いら」

「うん、やっぱりこの白地に薄い水色の朝顔が良いかなぁ」

「これは有松絞りで軽くってっ涼しいじゃんね。それじゃ、帯はこのピンク系のが良いら」

「そうだね、可愛いかも」

「着てみりん」

「えっ、着物着たこと無いもん」

「それじゃ、着替えるじゃんね。私が着せてあげるら」

晶が里美に連れられて奥に行き少しすると着替えを済ませて出てきた。

「り、隆斗どうかなぁ?」

「似合ってるぞとっても、涼しげで良いんじゃないか」

隆斗が優しく答えた。

「兄様、星羅も着替えたです」

星羅はベージュ地に大きなひまわり柄の浴衣に綺麗な薄い黄緑の帯を締めていた。

「星羅らしい元気な柄で良いんじゃないか」

「えへへ、嬉しいです」

「美春は選んだのか?」

「うん」

「おお、似合ってるじゃないか大人ぽいな」

有松絞りの薄い黄緑と黄色のグラデーションの浴衣に薄いピンクにストライプの帯を締めていた。

「良いのかな」

「良いんだよ、3人で店の前で待っててくれないかな」

「うん、判った」

「隆君、どれも良い物ばかりじゃんね」

「良い物じゃないと困るだろ」

「でも……」

「里美が気にする事無いよ。近くに居るんだろ支払いをしてくれ」

隆斗が少し大きな声で誰かを呼んだ。

するとスーツを着た秘書みたいな女の人がお店に入ってきた。

「支払いを頼みたいんだけど」

「星様ですね。畏まりました」

その女の人が支払いを済ませ店を出て行った。

「隆君、あの人は誰?」

「政府の人だよ。俺が地元以外に出掛けるときはいつも監視されてるからな」

「あっ、そうか。命日じゃんね、隆君のご両親の」

「そうだよ」

「大変なんらね」

「監視と言っても何もしないけどな、もう10年になるからな」

その時、晶が困った顔をして店に入ってきた。

「隆斗、表が大変な事になってるんだけど」

隆斗が表を見ると人だかりが出来ていた。

「ああ、大変だ。でも3人も美人さんが浴衣を着ていたらそりゃ大騒ぎじゃんね」

「もう、里美ちゃんまで。それより隆斗は浴衣着ないの?」

「俺は別にいいよ」

その時、奥から声がして里美のお母さんが慌てて出てきた。

「いけない大変な事忘れとっただに。隆ちゃん、こっちにおいでん」

「俺ですか? おばさん」

「良いから、良いから」

里美のお母さんに呼ばれて隆斗が奥に行きしばらくすると浴衣に着替えて出てきた。

「すっかり忘れとっただら。星さんに預かってた浴衣を返そう思ってたんに」

隆斗が着ている浴衣はシンプルなグレー地にストライプの入った浴衣だった、帯は藍染めの角帯を締めていた。

「隆斗……素敵だよ」

「おばさん、服を入れたいので紙袋貰えますか?」

「お店のでええの?」

「はい」

隆斗が皆の洋服やサンダルを紙袋に入れた。

「里美はまだ大丈夫なのか?」

「ええよ、里美。遊びに行きん」

「ありがとう。お母さん」


3人で店の外に出ると人だかりが増えていた。

「何かの撮影か?」

「ロケかなぁ」

などと野次馬が口々に言っていたが野次馬を一切無視した。

「お待たせ。行こうか」

「わぁ、兄様も浴衣です」

「隆斗の浴衣は?」

「父さんがここに預けてあったらしんだ」

「そうなんだ、なんだか不思議だね。偶然、里美ちゃんに会って隆斗のお父さんが預けておいた浴衣にめぐり合うなんて」

「そうだな」

「でも、兄様。格好良いです」

「これからどこに行くんだ。里美」

「浴衣着て女の子が行く所と言えば甘味処でしょ」

「隆斗、甘味処って何?」

「晶は知らないんだな。和風の甘い物が食べられる所だよ、餡蜜とかお汁粉とか。でも飯食べたばかりだろう」

「甘い物大好きです!」

「甘いものは別腹か、仕方が無い」

星羅が喜んで飛び上がった。

隆斗はキョロキョロとして何かを探していた。

「星羅ちゃん、そんなに暴けると着崩れてしまうだらぁ」

「えへへ、そうなんだ」

「少し待っていてくれ。晶、荷物持っててくれるか?」

「うん、判った」

隆斗が晶に紙袋を渡すとどこかに早足で歩いていった。

「兄様、トイレかなぁ?」

「違うと思うよ、多分あそこ」

美春の目線の先にはキャッシュコーナーの看板があった。

「隆君は、何でなん? 浴衣は自分で払わなかったじゃんね」

「あれは、国から出る生活費で自分の為には絶対に使わないって男の意地だからって、バイトして生活してるんだよ」

「へぇ、そうなん」

そこに隆斗が戻ってくる。

「晶、ありがとう。さぁ行こうか」

「そうじゃね」


里美の案内で少し歩いた所にある甘味処『じゃん・だら・りん』に入った。

「何にする」

「どれも美味しそうだね」

「俺はクリーム餡蜜かな」

「宇治ミルクが良いな」

「星羅は兄様と同じが良いです」

「緑のソフトクリームが乗ってる奴」

「黒蜜きなこだらぁ」

しばらくおしゃべりしていると注文したものがテーブルに運ばれてきた。

「いただきまーす」

「甘くて美味しいです」

「隆斗の味見させて」

「何で姉様は星羅のじゃなくて兄様の何ですか?」

「だって隆斗のがいいんだもん」

晶が隆斗の餡蜜を少しだけ食べた。

「フルーツがいっぱい入ってて美味しい」

「それじゃ、兄様には星羅が食べさせてあげるです。あーんです」

「ああ、星羅ちゃんこすい。隆君、あーん」

星羅と里美が隆斗の前にスプーンを突き出した。

「私もとりあえず行っとこうかなぁ。ほら、晶ちゃんも負けるな」

「あーん」

「隆斗、あーん」

美春と晶までもがスプーンを突き出してきた。

隆斗は見えない振りをして自分の餡蜜を食べていた。

「あのなぁ、唯でさえ目立つんだから恥ずかしくないか?」

周りの視線が集まっているのに気づくと4人とも真っ赤になった。

「隆君、乗りが悪いじゃんね」

「兄様、恥ずかしいです」

「やっちゃった感満載だ」

「り、隆斗のバカ。でも隆斗の作ったドルチェも美味しいよね」

「晶ちゃん、ドルチェってイタリアのお菓子の事」

「うん、そうだよ」

「隆斗と晶ちゃんのバイト先ってイタリアンお店なの?」

「美春ちんは知らなかったんだ。夏休み中は星羅もバイトしてるんだよ」

「そこで隆君はケーキを作ってるら?」

「そうだよ、クリームブリュレにティラミス、パンナコッタやカタラーナ、ズッパイングレーゼや他のお菓子もあるけどね」

美春と里美がまじまじと隆斗の顔を見ていた。

「なんだ? 2人とも」

「食べたい」

「そう言えば私も食べた事無いや……」

「ええ! 晶ちゃんも食べた事が無いの?」

「晶と星羅は毎日の様に俺が作った飯食ってるだろう」

「えへへ、そうでした。でもケーキ食べたいなぁ」

「それじゃ、今度な」

「うん」

「晶ちゃんは良いなぁ。誘ってくれないんだもん」

「はいはい。遊びに来てください、ご馳走しますから」

「本当に?」

「本当だらぁ?」

「そろそろ、行こう。他も見たいんだろ」

「うん」

「はーぃ」

商店街をブラブラとする、すれ違う人が皆振り返った。

そして隆斗は呉服屋 水月の紙袋を肩に下げていた。


「皆、美人さんだから目立つじゃんね。私なんか全然だに」

「ええ、そんな事無いよ。里見ちゃんも可愛らしいと思うよ」

「晶さん、ありがとう。照れるやぁ」

「隆斗は誰が1番可愛い? それとも綺麗だと思う?」

皆の視線が隆斗に集まり晶以外はニヤニヤしていた。

「皆かな、変な質問をするな。美春」

「隆君、こすい」

「それじゃ、誰が1番好きと? 隆君、言ってみりん」

「判りきった事を聞くかなぁ、トマトみたいに真っ赤になってるだろう」

晶がこれでもかと言うくらい真っ赤かになっていた。

「まだ、隆斗は何も言ってないのになぁ」

「美春ちんの意地悪」

「馬鹿だなぁ、言わなくっても判るだろ」

隆斗が晶の頭をクシャっと撫でた。

「えへへ」

「晶さんの満面の笑顔が1番可愛いらぁ」

「そうだな」

「ああ、隆斗! 今、サラッと認めたな」

「それじゃ、星羅が2番です」

「はいはい、そろそろ爺が心配するといけないからホテルに戻るか」

「そうだね、楽しい時間はあっと言う間だね」

「もう、お別れなんね」

里美が寂しそうに言った。

「里美も一緒に花火見ないか?」

「行きたいけどお店があるもんで、行けれるか判らん」

「それじゃ、俺がおばさんに頼んでやるよ」

「本当に? うん!」

里美の家の呉服屋に着くと数組のお客さんが浴衣などを見ていた。

「お母さん、ただいま」

「里美、えらいじゃんね。ちゃっと手伝って」

「うん、なんでだん」

「判らんらぁ」

「おばさん、里美と花火大会行きたいんだけど」

「そう言えばシーサイドの花火大会って今日やったね。隆ちゃんの頼みならしょんないだらぁ」

「お母さん、ええん?」

「たまには、良いしょ」

「それじゃ、7時にホテルのロビーで待ち合わせしよう」

「うん、隆君。判った」

来た時の車でホテルに戻る、車内で隆斗が星羅にコソコソと内緒話をしていた。


ホテルのロビーに入るとちょうど爺さんがフロントで何かをしていた。

「お爺様、ただいまです」

「おう、戻ったか。えらい別嬪さんじゃのう」

「えへへ、呉服屋の水月で兄様に買ってもらったです」

「ほぉぉ、晶も美春も一段と綺麗じゃな。良く似合っとるぞ」

「ありがとう、お爺ちゃん」

「師範は何をしてたんですか?」

「わしか? わしはマッサージをちょっとな」

「隆斗はどうしたんじゃ?」

「兄様は……フロントに居るです」

星羅が辺りを見回して隆斗の姿を探す。

隆斗はフロントで男性のフロントマンと親しげに何かを話していて、こちらを見ていた。

少しすると皆の所にやって来た。

「お待たせ」

「何をしていたの?」

「今の人が里美のお父さんなんだよ。タイミングよくフロントに居たんで挨拶と皆の着付けを頼んで来たんだ。風呂に入ったらフロントに連絡すれば部屋に来てくれるからな」

「隆斗は、マメじゃのう」

「ちゃんとしないと浴衣が可愛そうだろ。さぁ、早めに風呂に入って飯にしよう」

「そうだね」

「はーぃです」

「それじゃ、お風呂に行こう」

皆、風呂でさっぱり汗を流し浴衣に着替えてレストランに向かう。

ホテルの中でも3人娘は目立っていた。

「隆斗の浴衣は誰が着付けたの?」

「男物の浴衣は簡単じゃからな、わしが帯の締め方を教えただけじゃよ」

「そう言えば、里美ちゃんのお父さんが凄く丁寧に着付けの仕方を教えてくれたんだよ」

「晶、後でお礼を言わないとな」

「そうだね」

「星羅は食事の時に汚さないようにしないとな」

「はいです。お淑やかにです、大和撫子ですね」

「そうだな」

バイキングのレストランに入ると花火大会があるせいか早い時間なのに少し込んでいた。

空いている席を爺さんに押さえていてもらい料理を取りに行く。

「浴衣を着ているんだから程々にしておけよ」

「兄様、後でお腹が空いたらどうするですか?」

「屋台が出ているはずだからな」

「屋台って何です?」

「屋台はね、子どもの夢かな」

「なんか変な物でも食べたのか? 美春」

「隆斗、失礼な事考えてるんでしょ」

「いや、今日はなんだか風情だの夢だのらしくないって言うか」

「私も一応、女の子なんです」

「隆斗、浴衣のせいじゃない?」

「ああ、晶ちゃんまで酷いんだ」

「ごめん、ごめん。冗談だよ」

「フォフォフォ、星羅ちゃんや屋台はの、色んな食べ物を売っているんじゃよ」

「そうだな、りんご飴、あんず飴、焼きソバ、イカ焼き、とうもろこしにお好み焼き」

「綿菓子やチョコバナナにタコ焼きもだよね」

「楽しみです」

「なぁ、今日の午後はずーと食べてないか?」

「気のせい気のせい」

「太るぞ」

「隆斗、殺す」

そんな会話をしながら軽く? 食事を済ませ約束の7時前にロービーに集合した。

里美はまだ来ていない様だった。

「星羅ちゃん、そう言えばレストランでもウエイトレスさんに素敵な浴衣だねって言われた時に呉服屋 水月で兄様に買ってもらったって言ってたけどどうして?」

「兄様に浴衣の事を褒められたらそう答えろって教わったですよ」

「隆斗から?」

「はいです」

約束の時間が少し過ぎたが里美はまだ現れなかった。

「少し、やり過ぎたかなぁ」

「隆斗、何をやり過ぎたの? それと星羅ちゃんに……ああ、判った」

「美春ちん、何が判ったの?」

「隆斗は私達を宣伝に使ったんだよ、里美ちゃんの呉服屋さんの」

「宣伝?」

「そう、だからわざわざお店の紙袋に着替えた洋服を入れて持って回ったんだと思うんだ。だって預けておけば帰りに取りに行けば良いんだもん。そして帰りの車の中で星羅ちゃんに浴衣を褒められたら呉服屋 水月で買ってもらったって教えたんだと思う」

「そうなの? 隆斗」

「晶、どっちも損はしないんだから良いだろ」

「そうだけどさぁ」

その時、フロントから声がした。里美の父親だった。

「少し前に出たそうです」

「ありがとうございます」

「優しそうなお父さんだね」

「ちょっと迎えに行って来るから。ここで待っててくれ」

「うん」

そう言うと隆斗は早足でホテルを飛び出した。

「でも、隆斗は里美ちゃんの居場所判るのかなぁ」

「美春ちん、特別なんでしょ?」

「里美ちゃんと2人っきりになるんだよ、平気なの?」

「美春ちんが教えてくれたんだよ。もっと自信を持てって、私が隆斗の恋人だもん。それは誰にも譲らない」

「そうだね、隆斗の心をこじ開けたのは晶ちゃんだもんね」

「えへへ」


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