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夏休み☆里美

翌日も朝からギラギラと真夏の太陽が照らし。

モクモクと入道雲が真っ青な水平線の向こうに顔を出していた。

「今日も暑いなぁ」

「相変わらず隆斗は眠そうじゃな」

「爺のいびきが煩くって寝れなかったんだよ」

「兄様、海で遊ぶです」

「はいはい」

星羅は今日も元気全開だった。

ゴムボートに乗ったりボディーボードで波乗りをしたりして遊んでいた。

晶はビーチボールにつかまりながら泳いでいる、隆斗が寄り添うように泳いでいた。

「そう言えばこの辺って隆斗のお父さんの生まれ故郷だって、昨日言ってたよね」

「そうだけど何でだ?」

「それじゃこの辺の地理には詳しいの?」

「少しだけな」

そこに美春が近づいてきた。

「何を2人で内緒話をしているのかなぁ」

「美春ちん、内緒話じゃないよ。この辺は隆斗のお父さんの生まれ故郷だって言うから隆斗はこの辺詳しいのかなぁって」

「それで2人でデートでもしようかなぁなんて考えてたんじゃ」

「もう、美春ちん。違うよ」

「よし、それじゃ午後は隆斗の案内でお買い物タイムにしよう!」

美春の声に星羅が気づきボディボードに乗りながら向かってきた。

「美春姉様、どうしたです?」

「星羅ちゃん、駄目!」

ゴン! 鈍い音がしてボードが隆斗の後頭部を直撃した。

「ごぼっ」

海水を思いっきり飲まされる。

「隆斗!」

晶が隆斗の名前を呼んだ。

沈みかけた隆斗があがって来た。

「ゴホゴホ、一瞬お花畑が見えたぞ」

「もう、星羅!」

「ごめんです。見えなかったですよ兄様が」

「晶、そんなに怒るな俺は大丈夫だから」

「それじゃ、これ貸してあげる」

晶が隆斗にビーチボールを渡した。

「晶はどうするんだ?」

「えへへ、こうして隆斗につかまるもん」

晶が隆斗の首に腕をかけてきた。

「あらら、隆斗もまんざらじゃない顔するんだ。それじゃ……」

「美春はあっちにつかまれ」

隆斗が星羅のボードを指差した。

「ちぇ、隆斗は晶ちゃん専用ですか?」

「当たり前だろ」

晶の顔が赤くなった。

「美春姉様、ラブラブな2人は放っておいて何の話をしてたですか?」

「隆斗にこの辺を案内してもらってお買い物に行こうって」

「本当ですか? 行くです。レッツ ゴーです」

「もう、本当に星羅ちゃんは気が早いんだから」

「美春、置いて行かれるぞ」

隆斗がビーチに向かい泳ぎだし晶は隆斗の背中で笑っていた。

「ええっ、待ってよ。星羅ちゃん」

ビーチに居り爺さんに話をして出掛ける事にする。


シャワーを浴びてホテルのロビーに集合と言う事になった。

隆斗がシャワーを浴びてロビーに行くとまだ誰も来ていなかった。

「座って待つか」

隆斗がソファーに座るといつの間にか眠ってしまった。

しばらくすると視線を感じて目を覚ました。

「う、ん? 星羅?」

「えへへ、兄様。可愛いです」

目を覚ますと目の前に星羅が居て隣には誰かが座っていた。

隣の人の肩を枕代わりにしていたようだった。

「本当に隆斗の寝顔って可愛いよね」

隣からする声は晶だった。

「晶か、どれ位寝ていたんだ?」

「10分位かなぁ」

「美春は?」

「後ろに居るよ」

隆斗が振り返り見上げると美春が仁王様みたいな顔をし、腕組みをしてこめかみを引き攣らせながら立っていた。

「どこででも直ぐに寝るんだから、いつまで待たせるかな。チャキチャキ動く!」

「はいはい、美春お嬢様」

「兄様、何で行くんですか?」

「あれだけど」

隆斗が指差すとロビー前には高級そうな黒塗りの車が止まっていた。

「行くぞ」

「はーい、です」

「隆斗は相変わらずだね」

「俺のせいじゃないだろ。使えるものは何でも使うさ」

車に乗り込むと隆斗が「繁華街まで」とだけ告げると運転手が頷いて車を出した。

「隆斗、そう言えば来る時のバスもそうだけどどうしてこんなに凄い事が出来るの?」

「晶、この数日だけ特別だからだよ」

「ええ、もしかして政府御用達も特別なの?」

「ピンポン。正解」

少しすると車が繁華街の近くで止まった。

「着いたぞ、この辺で1番の繁華街だ。お嬢様方どうぞこちらへ」

隆斗が先に下りてドアを押さえながら案内した。

「恥ずかしいよ」

「隆斗の馬鹿」

「お姫様です」

3人が車から降りた。

歩いてアーケード街に向かう。


「あまり詳しい訳じゃないからな、離れるなよ」

「うん」

3人が隆斗に寄り添う様にくっ付いてきた。

「だからって3人でそんなにくっ付くな。暑い!」

「えへへ、怒られたです」

そんなコントみたいな事をしていると晶が何かを見つけて早足になった。

「晶、離れるなって言ってるのに」

隆斗が晶を追いかけようとすると大きな段ボール箱を抱えた人とぶつかってしまった。

「きゃあー」

「うわぁ、すいません」

「痛たたた」

「大丈夫ですか?」

隆斗が段ボールからこぼれた荷物を拾い集める。

「あれ? もしかして隆君だらぁ!」

ぶつかった女の子が隆斗に声を掛けてきた。

「えっ? 誰?」

「忘れたと? ひ、酷いじゃんね」

「もしかして、里美か?」

隆斗が女の子の顔をまじまじと見て思い出すと女の子が感激のあまり隆斗に抱きついた。

「久しぶりじゃんね、隆君」

「り、隆斗、どうしたの? って。誰? その女の子」

晶が驚いて隆斗に声を掛ける。

「やーっと会ってなかったもんね」

「久しぶりだな」

「隆斗ってば!」

晶が泣きそうな顔をして叫んだ。

「ごめん、ごめん。晶、そんな顔をしないでくれよ。この子は父さんの知り合いの娘で子どもの時、ここに来るといつも遊んでいた子だよ。前の法事以来だよな」

「うん、ほーだらぁ。もしかして彼女さん? 綺麗な人じゃんね、隆君」

その女の子は小柄で長い髪をポニーテールにして藍染めの作務衣を着ていてとても可愛らしい女の子だった。

「隆斗?」

「兄様?」

美春と星羅が心配そうに声を掛けた。

「うわぁ、隆君モテモテじゃんよ」

「そんなんじゃないよ、幼馴染の日向美春に晶の従姉妹の月見星羅だよ」

「星 晶です、始めまして」

晶が隆斗の腕をつかみながら自己紹介をした。

「彼女は父さんの知り合いの娘さんで」

水月 里美みづきさとみです、よろしくね。あれ? 晶さんって星なん? 確か隆君も星だらぁ。奥さん?」

「まだ結婚なんかしてないよ、偶然苗字が同じだけだよ。まぁ、一緒に暮らしてはいるけどな」

「うわぁ、凄い。同棲? 夫婦も同然じゃんね、羨ましい隆君は私も狙ってたんに」

晶が真っ赤になって俯いていた。

「星羅も一緒に住んでるからな2人っきりじゃないよ。それより仕事中だったんじゃないのか?」

「大変、急がないと怒られるじゃんね」

「しょうがないな、手伝ってやるよ。悪いな少し付き合ってくれ」

隆斗が3人に同意を求めて段ボール箱を持ち上げた。

「しょうがないか」

「そんな優しい兄様が好きです」

「そうだね」

「サンキューな」

段ボールを抱えながら里美の後について歩いていく、久しぶりに再会した2人は話が弾んでいた。

「そう言えば里美の実家は呉服屋さんだったよな」

「うん、夏休みは遊びにも行かせてもらえないじゃんね、怒れるだらぁ」

「そうなのか、大変だな」

しばらく歩くとアーケードの中の大きな古い造りの呉服屋に着いた。

「いってきました」

「遅かったねぇ、あら、お客さんなん?」

「母さん、ほら。星さんとこの隆君じゃんね」

「ご無沙汰しています」

隆斗が挨拶をする。

「あれあれ、えらいでしょ。荷物なんか持たせて」

「隆君、ごめん。ここに置いて」

「里美、もう店は良いから隆ちゃん達と遊んでらっしゃい」

「ええのん? やったー! 隆君、待っとてね。ちゃっと着替えて来るでね」

「ああ、判った」

里美が店の中に駆け込み2階に上がって行くのが見えた。

「隆ちゃん。久しぶりやね、4年ぶりくらいかね」

「そうですね、前回の法事以来ですから」

「しかし、暑っいだらぁ。お連れさん?」

店の外で3人が待っていた。

「ええ、彼女と彼女の従姉妹と幼馴染ですよ」

「人気者なんね」

「そんなんじゃないですよ」

里美が可愛らしい花柄のワンピースに着替えを済ませて飛び出してきた。

「お待たせ!!」

「しょんない子やね」

「行って来るでね」

「はいはい」


隆斗が里美のお母さんに会釈をして店を出た。

「悪い、待たせたな」

「兄様、お腹が空いたです」

「そう言えば昼飯まだだったな」

「それじゃ、私がお勧めのお店に案内するじゃんね。ちゃんと着いてこないと置いて行くに」

里美が先頭になりスタスタと歩いていく。

「なんだか星羅が2人居るみたいだな」

「うふふ、本当だね」

「でも何で隆斗の周りには女の子ばっかりなんだろうね」

「俺に聞いても知らないぞ」

「何を食べに行くですか? 兄様」

「何だろうな」

「楽しみです」

しばらく歩いて和食の食事処に案内された。

「里美、ここは何がお勧めなんだ?」

「やっぱり味噌系だらぁ。ここは味噌カツか味噌煮込みうどんじゃんね」

「そうだったな、それじゃ味噌カツ」

「それじゃ、私は味噌煮込みが良いかな。星羅は?」

「味噌カツです、兄様と同じです」

「じゃ、私は煮込みで」

「美春は煮込みか。里美は何にするんだ?」

「う、うん。味噌……煮込み!」

全員が注文を済ませておしゃべりを始めた。

隆斗はほとんど何もしゃべらなかった、女3人集まれば姦しいと言うけれど4人になると更にアップグレードだった。

「賑やかだなぁ」

そんな事を呟きながら4人を優しく見つめている。

すると料理が出来上がってきた。

香ばしい味噌の香りが立ち込めた。

「美味しそう、いただきまーす」

「美味しい! 隆斗美味しいよ」

「美味いな本当に」

晶が隆斗の味噌カツを見ていた。

「少し、交換するか?」

「うん」

晶が嬉しそうに頷いた。

「姉様、ずるいです」

「それじゃ、星羅ちゃんは私と取替えっこしよう」

「はいです、美春姉様と交換するです」

「皆、仲が言いじゃんね。それに隆君は少し変わったね」

「何処に行くにも4人一緒が多いからね。ねぇ、隆斗」

「隆斗は晶ちゃんに出会って変わったんだもんね」

「やっぱりそうなん。法事の時はとっても冷たい眼をしてたじゃんね」

隆斗が素っ気無い振りをして外を見た。

「隆君が照れてるだらぁ」

「本当だ」

「料理が冷めるぞ」

「うふふ、可笑しい」

「晶まで笑うな」

食事を済ませて店を出る。

「これから、どうするだら?」

「特に何も決めてないんだ」

「そうなん? そう言えば今夜、シーサイドホテルで花火大会がある筈じゃんね」

「そう言えばそんな事フロントで言ってたな」

「もしかしてシーサイドホテルに泊まってるん?」

「そうだよ」

「お父さん、そこで働いてるじゃんね」

「呉服屋はどうしたんだ?」

「駅前に大きなデパートが出来たじゃんね、だもんでボチボチじゃんかぁ」

「そうか、大変なんだな」

「兄様、花火大会って何ですか?」

「打ち上げ花火が沢山上がるんだよ、綺麗だぞ。そう言えば晶と星羅は見たことが無いんだよな」

「はいです」

「浴衣なんか着て見ると風情があって良いんだよね」

「美春も女の子らしい事言うんだな」

「失礼ね、隆斗は私も一応女の子です」

「一応ね」

「ふん、隆斗の馬鹿」

美春が拗ねてそっぽを向いた。

「隆斗、浴衣って着物みたいなものなの?」

「そうだな、もっと気軽に着れて……そうだ里美の家に見に行こう」

隆斗が来た道を歩き出し4人が慌てて隆斗の後を追いかけた。

「隆君、ええのん?」

「構わないさ。久しぶりなんだし法事の時は世話になってるんだから」

「姉様、なんだかワクワクしますね」

「そうだね、浴衣って楽しみだね」


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