夏休み☆焼きもち
朝食を済ませて少し休んでから皆で海に向かった。
爺さんは嫌がったが保護者という事で無理やりに隆斗が引っ張り出し連れてきた。
「しかし、暑いのう敵わんわい」
「爺は沖縄出身のはずだろう」
「そんな事は関係なかろう、わしは暑いのが苦手なんじゃ。お前さんこそ遊んで来んか」
「朝早かったから眠いんだよ。休みの日ぐらい寝かせてくれ」
「良く言うわい、学園ではいつも寝ているくせに」
「…………」
隆斗は寝てしまい答えなかった。
「こんな暑い所で良く眠れるのう」
晶達は波打ち際でキャーキャー言いながら楽しそうにしばらく遊んでいた。
「姉様、兄様を呼んでくるです」
「そうだね」
赤い可愛らしいビキニを着た星羅が隆斗と爺さんが居るパラソルに向かって走り出した。
星羅と入れ違いに2人の男が晶と美春に近づいてきた。
「彼女たち、俺らと遊ばない?」
「連れが居ますので結構です」
「そんな事言わないでさぁ、良いじゃん。良いじゃん」
晶が美春の後ろに隠れて不安そうな顔をして隆斗の居るパラソルを見た。
隆斗が寝ているパラソルに星羅が走ってやって来た。
「星羅やどうしたんじゃ」
「兄様を呼びに来たです。約束したです海で遊んでくれるって」
「ああ、もう! 寝ていてもこれかよ」
隆斗が不機嫌そうに起き上がって海に向かい歩き出した。
「兄様、どうしたんですか?」
「あれじゃよ」
爺さんが指差す方を見ると晶と美春が見知らぬ男にナンパされていた。
「何で判るですか?」
「特別じゃからな。フォフォフォ」
爺さんが楽しげに笑った。
「晶! どうしたんだ?」
「ああ、隆斗。こっちこっち」
隆斗が少し離れた所から声を掛ける。
ピンクやブルーのグラデーションボーダーのビキニを着た晶が不安を吹き飛ばすように大きく手を振った。
「何だよ男付きじゃん……」
「だから連れが居るって言ったのに。あっかんべーだ」
エメラルドグリーンのスポーティーなセパレートの水着を着た美春が立ち去る男2人に向かって舌を出していた。
「何で起こすかな」
「起こしてないもん」
「何をドキドキしてるんだ?」
「ええ、だ、だって、は、恥ずかしいじゃん」
晶が恥ずかしそうにして顔が赤くなっていた。
「似合ってるぞ」
「あ、ありがとう」
「美春もな」
「私はついで見たいだなぁ。それよりどこまで隆斗は晶ちゃんの事が判るの?」
「集中すれば鼓動まで判るぞ。あっまた鼓動が早くなった」
「もう、隆斗の馬鹿! 知らない」
晶の顔が更に赤くなり隆斗達に背を向けて海に肩まで入った。
「兄様、一緒に遊ぶです!」
星羅が隆斗の背中に飛びついた。
「危ないだろ、星羅」
「えへへ、怒られたです」
「怒られてもうれしそうだね、星羅ちゃんは」
「だって兄様大好きですから」
その後はこれでもかと言うくらい遊び通しだった。
ソフトフリスビーをしてビーチボールで遊んで、西瓜割り、そして星羅と晶に泳ぎも教えた。
「ふ~、疲れた……」
「何じゃ隆斗、萎びた菜っ葉みたいじゃな」
隆斗がパラソルの近くに倒れこんだ。
「星羅のパワーには参ったよ」
「仕方なかろう、あんな風に遊ぶのは生まれて初めてなんじゃろうからな」
「隆斗、ありがとうね」
晶が隆斗の側に座った。
「星羅達は?」
「あそこの公園で遊んでるよ」
隆斗が海と反対側の公園の方を見るとアスレチックで遊ぶ星羅と美春の姿が見えた。
「元気だな、2人とも」
「隆斗はお年寄り見たいだなぁ」
「しょうがねえだろ、こんなに遊ぶの久しぶりなんだから」
「そうなんだ、はい。冷たい飲み物」
「サンキューな」
「本当に楽しいね。私もこんなに遊んだの生まれて始めてかも」
「そうか、晶は子どもの頃は何をしてたんだ?」
「あまり年が近い子が居なかったからね。それに王族だから回りは大人ばっかりだったし」
「そうだよな、晶はお姫様だもんな」
「でも、隆斗の周りの人は普通に接してくれるよね」
「馬鹿だな、アキュラはアキュラだろ。今は晶だけどな」
「うん、ありがと」
そこに公園で遊んでいた星羅と美春が戻ってきた。
「お腹ペコペコです」
「隆斗、お腹が空いた」
「何で俺に言うんだ?」
「だって、隆斗が誘ってくれたんだから隆斗が幹事でしょ?」
「それじゃ2人で食べ物を買ってきてくれないか?」
「美春姉様、買いに行くです」
「しょうがないなぁ」
隆斗から財布を預かり2人は海の家に向かった。
「美春姉様、何を買うんですか?」
「そうだね、海の家なら焼きソバ、カレーライス、おでん、イカ焼きに焼きトウモロコシかな。ラーメンも不思議と美味しいけどね」
「なんだか楽しみです。早く行くです」
「星羅ちゃん! 気をつけないと危ないよ」
星羅が走り出し海の家に向かうと海の家の前で星羅が固まっていた。
「どうしたの? 星羅ちゃん」
「み、美春姉様、あの人は……」
「へい、いらっしゃ……」
店の中で料理をしていたのはあの暴走族風の男だった。
男も星羅と美春を見て固まっていた。
その時店の奥から声がした。
「誠司! なにをボーとしてるんだ!」
「へい、すんません」
「き、昨日はすいませんした! あの方のお連れとは知らずに」
男が深々と頭を下げた。
「へぇ? いや。だ、大丈夫ですから。それより体は平気なんですか?」
「へ、へい。気が付いたら誰1人怪我してなかったんすよ不思議な事もあるもんすね」
「それじゃ、焼きソバ3つにカレーも3つそれとおでんを2つ下さい」
「へい、少し待ってくださいね」
「美春姉様、数が合わないです」
「大丈夫。どうせ隆斗のおごりなんだし、皆お腹が空いてるから少し多めで良いんだよ」
男が手際よく焼きソバを作って綺麗にパック詰めして袋に入れてくれた。
「こっちが焼きソバで、これがカレーとおでんす。それとこんなもんしか無いすけど昨日のお詫びす」
そう言いながら星羅と美春に焼きトウモロコシを渡した。
「ありがとうです」
星羅が満面の笑顔で答え店を後にした。
すると男の後ろから声がした。
「兄貴、どうしたんすか? ボーとして」
「可愛い……」
「へぇ? あれって死神の連れですよ。また、ボコボコにされますよ」
「次郎、死神って本当は良い人なんじゃないのか?」
「そうすね、怪我して無かったですからね。あんなに吹き飛ばされたのに。それよっかまた怒鳴られますよ」
「おうよ、仕事仕事」
星羅と美春の2人が隆斗達の待つパラソルに戻ってきた。
「お待たせ」
「遅かったなって、美味そうにトウモロコシなんて食べて」
「えへへ、貰っちった」
「しょうがないなぁ、飯にするか」
「うん」
「飲み物は、クーラーボックスに入っているからな」
パラソルの下で各々食べたい物をつまんでいる。
「美味しね、隆斗」
「そうか? こんなもんだろ」
「そうかなぁ」
「外で食べれば大概のものは美味しく感じるからな。ほら、付いてるぞ」
隆斗が晶の頬に付いたカレーを指で拭き取って、その指を舐めた。
「ん? どうしたんだ?」
晶の顔が赤くなっていた。
「相変わらず、隆斗はニブチンじゃのう」
「ラブラブです! そう言えば昨日の男の人がお店で料理してたです」
「昨日の男の人? 絡んだ来た奴か?」
「そうです」
「でも、その人が『あの人のお連れ』って言っていたけど『あの人』って誰かなぁ? ねぇ隆斗」
「さぁな」
「美春姉様は黒い人知ってるですか? お礼が言いたいです」
「さぁ、誰なんだろうね」
「美春姉様も兄様も意地悪です」
「隆斗は腹黒いからのう」
「爺、沈めるぞ」
「年寄りは労わらんかい」
「年寄り扱いしたら怒るだろうが」
「フォフォフォ……」
昼飯を食べて少し休んでからもこれでもかと言うくらいに遊び倒した。
少し早めに風呂に入り夕食を食べてゆっくりする事にした。
「サッパリしたわい。久しぶりに背中を流してもらうのも良いもんじゃな」
「ああ、疲れた。遊びに付き合わされたのに背中まで流させやがって」
「隣に声を掛けて食事に行くかの」
「そうだな」
隣の部屋に居る晶達を呼びに行く。
「おーい、飯に行くぞ」
隆斗が声を掛けると星羅と晶が言い争う声が外まで聞こえていた。
「嫌です! 絶対に嫌!」
「星羅! 言う事を聞きなさい!」
「姉様の馬鹿! 意地悪ぅ!」
「どうしたんだ? 開けるぞ? 美春も居るんだろ」
隆斗がドアを開けようとする。
「駄目! 隆斗、開けちゃ駄目!」
「はぁ? 美春、何を揉めてるんだ?」
隆斗がドアを開けた瞬間、何かが隆斗に向かい飛び出してきて隆斗の後ろに隠れた。
「な、何だ? 今見ちゃいけないものが見えたような気が……」
「開けちゃ駄目だって言ったのに」
「星羅の馬鹿! 服を着なさい」
「星羅なのか?」
晶が星羅を怒鳴ると隆斗が後ろを見ずに聞いた。
「うん……」
「晶も何を怒ってるんだ? 外まで聞こえるぞ」
「星羅が服を着ようとしないんだもん」
「星羅?」
「嫌です、痛いです背中が……凄く……ヒリヒリするです……痛いょ」
星羅が泣き出してしまう。
「日焼けか? まぁ日焼け止め塗ってもあれだけ遊べば日焼けもするよな」
「兄様、痛いょ……えぇぇぇぇぇん……」
「仕方が無い。星羅、目を瞑ってるから部屋の向こうを向いて座るんだ。爺は外で少し待っていてくれ」
「任せるぞ、隆斗や」
隆斗が部屋の中まで進み目を閉じた。
星羅が隆斗に背を向けて座る。
「兄様、座ったです」
「晶、日焼け後のローションは塗ったんだろ」
「うん、塗ってあげたけど」
「それじゃ、そのローションを貸してくれ」
「はい、これだよ」
「星羅、動くなよ」
「はいです」
隆斗が手にローションを手に取り星羅の背中に塗り始めた。
「あれ? 痛くないです。姉様に縫ってもらった時は痛かったのに不思議です」
「他に痛い所は無いのか?」
「足の腿が痛いです」
「それじゃ、体にタオルでも巻いてこっちを向いて立つんだ」
「はいです、姉様タオルを取ってください」
「もう、仕方がないなぁ」
晶からタオルを受け取り体に巻いて隆斗の前に立った。
背中と同じようにローションを塗る。
「痛くなくなりました、兄様凄いです。あれ? 変です」
星羅が不思議そうな顔をして考え込んでいた。
「星羅はお終い、次」
「えっ、次って?」
「そこの2人もかなり日焼けしているはずだが」
「私はいいよ」
「まぁ、晶にはもっと簡単な方法があるからな」
「簡単な方法?」
「ああ、猫耳と尻尾が出ちゃうけどな。どうするんだ?」
それを聞いた晶が真っ赤になって隆斗の前に背を向けて座った。
「塗ってもらう。恥ずかしい事をしないでね」
「それじゃ、服を脱いでくれ」
「ううぅ……ここで?」
「どこで脱いでも一緒だろ。それに服を脱がないと塗れないだろ」
「う、うん」
晶が服を脱ぎ隆斗が背中や肩にローションを塗る。
「あぁ~ん、気持ちが良い」
「変な声出すな、爺が勘ぐるだろ」
「ご、ごめん。でもひんやりして気持ち良いんだもん」
「はい、終わったぞ」
「ありがとう」
「ほら、残りの1人も」
「わ、私は痛くないから」
美春が慌てて部屋から出ようとする。
その時、後ろも見ずにパチンと隆斗が指を鳴らすとドアが開かなくなった。
「あれ? 開かない。魔法? これくらいなら私にでも」
「開くと思うのか?」
「今の隆斗には敵わないか」
美春が観念して隆斗の前に座った。
「お願いします」
「はいはい、今更照れる事も無いだろ子どもの頃は一緒に風呂に入ったのに」
「隆斗のバーカ」
隆斗が美春にローションを塗り終えると星羅が不思議そうな顔をして近づいてきた。
「どうしたんだ? 星羅」
「兄様、何で魔法が使えるですか?」
「特別だからだよ」
「姉様も美春姉様も知ってたですね」
「晶には俺から話したぞ」
「それじゃ、背中が痛くなくなったのも魔法ですか?」
「ヒーリング系の魔法は母さん譲りだからな、こんな感じかな」
隆斗が星羅の頭を撫でる。
「黒い人は兄様ですね」
「晶が助けてくれって呼んだからだけどな」
「兄様はナイトです。ありがとうです」
星羅が嬉しそうに隆斗の頬にキスをした。
「せ、星羅?」
「えへへ、お礼のチューです」
晶が固まっていた。
「い、今、何をしたの?」
「お礼のチューです。兄様は命の恩人です。それにナイトはお姫様からご褒美にチューを貰うです」
「だ、誰がお姫さまなの?」
「兄様は私を助けてくれたナイトです、だからお姫さまは星羅です」
「もう、晶ちゃんもいい加減にしたら」
「だって星羅が、隆斗も何とか言ってよ」
「ほっぺにキスされたぐらいで騒ぐな」
「それじゃ、私が誰かにキスされてもいいんだ」
「どうしてそうなるかなぁ」
「はいはい、そこまで! 師範が待ってるから食事に行きますよ」