夏休み☆隆斗の両親
翌朝のまだ早い時間、晶はホテルのロビーに居た。
星羅と美春は遅くまで騒いでいたので爆睡中で起きる事は無かった。
「隆斗まだかなぁ」
そこに隆斗が眠そうに目を擦りながら歩いてきた。
「ふわぁ~、眠。待ったか?」
「ううん。今、来たところだよ」
「バイクで出掛けるけどスカートで大丈夫か?」
「うん、下はレギンスだから平気だよ」
隆斗がフロントに行き預けてあったヘルメットを受け取ってきた。
「あれ? その黒いヘルメット、それに隆斗の格好って」
隆斗は白い長袖のTシャツにブラックジーンズを穿いて黒いライダーシューズを穿いていた。
「とりあえずこれを着てくれ、下はしょうがないか」
隆斗が青いバイク用のジャケットを渡した。
「これを着るの?」
「そうだ、まだ朝方は少し涼しいからな。行くぞ」
隆斗が駐車場に向かう。晶が後を追いかけた。
「隆斗、この黒いバイクって……」
「いつものバイクは遠乗り用じゃないんだよ」
「そうじゃなくって」
「さぁ、行くぞ」
「もう、待ってよ」
晶が見覚えのあるバイクの事を聞こうとするが、隆斗が聞こえないのか聞こえない振りをしているのか何も言わずにバイクに跨りエンジンを掛ける。
晶が隆斗にしがみ付きバイクのタンデムシートに乗った。
しばらく海沿いの道を進むと大きな通りから外れ。
山の中の峠道のような曲がりくねった道を進みながら山頂へと向かっていった。
少しすると古い大きな門の前にバイクを止めた。
「隆斗、ここは?」
隆斗は何も言わずに晶に手を差し出すと晶が隆斗の手を握る。
すると優しく握り返し歩き出した。
しばらく歩くとそこは見晴らしの良い綺麗な霊園だった。
「ここって?」
「さぁ、着いた」
そこからは綺麗な海が一望でき心地良い海風が吹いていた。
「晶、俺の父さんと母さんだよ」
「えっ、隆斗……」
「少し待っててくれるかな水を取ってくるから」
「うん」
晶はお墓の前で墓石を見つめている。
そこに隆斗が水桶を持って戻って来た。
「隆斗、もしかして特別な日って」
「ああ、昨日が両親の命日なんだ」
「そ、そうだったんだ。でもお花も何も持ってきてないよ」
「大丈夫だよ」
隆斗がパチンと指を鳴らすと手には青い可憐な花の花束が握られていた。
「ええ! 隆斗。魔法? どうして?」
晶が驚いて声を上げた。
「母さんが好きだった桔梗だよ」
隆斗が花を供えて墓石に水をかけ線香をつけた。
「晶、実は命日から数日は何て言うか、そうリミッターが解除されるんだ。魔法も使えるようになるし古武道の方もフルで力を出せるようになるんだよ」
「それって……」
「だから特別な日なんだ。自分でも理由は判らない、それに古武道は自分でも制御出来るけれど魔法の方はいまいち感覚が掴めないと言うか大きな魔法は怖くて使えないんだ」
「そうだったんだ。不思議だね」
「それともう1つ」
隆斗がポケットからコンタクトのケースを出した。
「隆斗、コンタクトだったけ?」
隆斗が左目からコンタクトをはずした。
「えっ?その目は」
隆斗の左目は綺麗なブルーだった。
「こっちの目だけ青くなってしまうんだよ」
「隆斗、それは隆斗がソーレ一族の証だと思う」
「ソーレ一族の証?」
「うん、ソーレ一族が魔法を使うときは瞳が青く輝くの。お父様が現れた時も隆斗の目が青く輝いてたもん」
「そうなのか」
「そうだよ、無意識に大きな力を使ったからあの時は両目が青く光ってたけどね。でもなんで今まで秘密にしていたの?」
「それは、両親の命日なんて言ったら晶が気にするだろ」
「へぇ? 隆斗はやっぱり優しいね。あっ! それじゃあの黒い人は隆斗だったの?」
「さぁ、そろそろ戻ろうか」
「ねぇ、隆斗ってば」
「父さん、母さん。彼女が俺の一番大切な晶だよ」
隆斗が両親の墓石に向かって晶を紹介した。
「えっ、隆斗……」
「ほら、晶。行くぞ」
「うん」
晶が墓石に向かい一礼をして隆斗を追いかけた。
「待ってよ! 隆斗ってば」
霊園を出て少しすると晶は隆斗の背中に掴まりながら考え事をしていた。
「あの黒い人は隆斗だったのかなぁ」
すると突然頭の中に隆斗の声が響いた。
「何を考え込んでるんだ?」
「えっ? 隆斗なの? 何で」
「言っただろリミッターが解除されるって。晶との契約の証もフルになるみたいなんだ、晶の鼓動までわかるぞ」
「ば、馬鹿。恥ずかしいよ」
晶の鼓動が高鳴った。
「まぁ、集中すればだけどな。大きな感情の変化は直ぐに判るけどな」
「隆斗、お腹が空いたから早く帰ろう」
「そうだな、でもそうも行かないみたいだぞ」
脇道にやんちゃそうなバイクが待ち伏せをしていた。
「おい、あれか?」
「間違いないすよ、黒のBAJA改モタードすから」
「タンデムじゃ話にならねえだろ」
そんな事を言いながらも隆斗バイクの後を追いかけてきた。
「こんな朝早くからご苦労な事だな、まったく。晶、飛ばすからな」
「えっ、隆斗危ないよ」
「俺を信じてくれ。絶対に晶に怪我をさせる様な事はしないからな」
「うん、判った」
隆斗がアクセルを開ける。
晶は隆斗にしっかり掴まり体を預けた、バイクがグンと加速した。
「おい、本当に250のBAJAなのか、なめやがって」
リーダーと思しきバイクが直ぐに後ろに付けパッシングしてきた。
「だりぃなぁ」
しつこく後ろに付いたまま煽ってくる。
後ろに居る晶が怖がっているのが直ぐに感じられた。
隆斗がさらにアクセルを開ける。
「馬鹿が、この先は連続のコーナーだ、それにこの辺の道は砂浜の砂が舞い上がっているんだ。そんなスピードで曲がれるわけがねぇ。馬鹿かこいつブレーキングしねーぞ」
そんな事をまったく気にせずに隆斗はほとんど減速しないで限界スピードでコーナーに突っ込んだ。
「ありえねぇ、ドリフトで抜けて行きやがった。間違いない奴は死神だ……」
あっという間に隆斗のバイクは連続コーナーをすり抜けてミラーから後ろのバイクは見えなくなった。
海沿いの大きな通りに出て道沿いの自販機の前で飲み物を買って一休みする。
「怖かったか? ごめんな」
「ううん、平気だよ。でも凄いねこのバイク」
「父さんが乗っていたバイクだよ。元は250なんだけど400のエンジンに積み替えてあって足回りは俺が弄ってあるけどな」
「ああ、そうだ。星羅を助けてくれたあの黒い人は隆斗なんでしょ?」
「前に言ったはずだぞ。何かあれば必ず助けるって」
「やっぱり隆斗だったんだ」
「たまたま近くを通ったから良かったけどな」
「ふうん、それじゃあの男の人を吹き飛ばしたのは何?」
「あれは発勁て呼ばれてるもので、その中でも寸勁に近いかな。ショットガンなんて言う奴もいるけどな」
「へぇ、隆斗って強いんだね」
「そんな事ないよ、普通じゃないと思ってはいるけどな」
「普通じゃないって思ってるんだ」
「だからこの辺では死神なんて呼ばれてるんだよ」
「死神?」
「ああ、こんなバイクでここに来ると必ず地元の奴に絡まれてトラブルになってその時にちょっとな」
「ちょっとじゃないんだ、絶対に」
晶が隆斗を見上げた。
「そんな目で見るなよ」
「でも、毎年来てるって言ってたよね」
「まぁな、命日には必ず来るし。ここは父さんの生まれ故郷だからな」
「そうだったんだ」
「さぁ、急いで帰るぞ。うるさいツインテールが待ってるはずだからな」
「そうだ、星羅は元に戻るの?」
「数日したら元に戻るよ。少しだけ魔力を封印しただけだからな」
ホテルに戻ると美春、星羅、爺が朝食を食べに行くところだった。
「ああ、兄様と姉様が帰って来たです」
「ただいま。星羅」
「どこに行ってたですか?」
「隆斗のお父さんとお母さんに会いに」
「兄様のお父様とお母様ですか?」
「うん、そうだよ」
「それじゃ晶ちゃん、特別な日って判ったんだね」
「うん! 隆斗に教えてもらったよ」
晶が満面の笑顔で答えた。
「姉様、星羅にも教えてください」
「お墓参りに行ってたの、昨日は隆斗のお父さんとお母さんの命日だったんだって」
「それで兄様は遅れるって言ってたですね。でも特別ってそれだけですか?」
「うふふ、後はヒ・ミ・ツだもん」
「うう、ずるいです。姉様!」
「星羅、腹がペコペコなんだよ。朝飯を食ったら海で遊んでやるからな」
「本当ですか?」
「ああ」
「それじゃ、早くご飯食べて海に行くです」