夏休み☆お盆休み
お盆休み初日、晶と星羅は集合場所の群星道場に向かっていた。
「ああ、本当に隆斗来ないんだ」
「姉様、仕方が無いです。兄様は用事があるって」
「それじゃ、星羅は隆斗が居なくても楽しいの?」
「それは、その少し寂しいですけど、美春姉様も居るんだし。それに後から来るって約束したです」
「そうなんだけどさぁ」
道場の前では美春と爺さんが待っていた。
「あっ、来た来た」
「それじゃ、行くかの」
「あれ? 晶ちゃん浮かない顔して。ああ、隆斗が居ないと楽しくないのかなぁ」
「そ、そんな事無いよ。美春ちん」
「このバスで行くですか?」
「うん、そうだよ。運転手さん付だよ」
「ええ! 凄いです」
「隆斗じゃよ。今日は特別じゃからな」
「お爺ちゃん、特別って?」
「こんな所で立ち話などしとらんで出発するぞ」
「はーい」
星羅が嬉しそうに一番に乗り込んだ。
そのバスは小型のサロンバスだった、内装も綺麗でゆっくりと寛げる様になっていた。
「姉様、凄いです」
「そうだね、でも何で隆斗がこんなバス用意出来るんだろう」
「カラオケもあるしの、飲み物も飲み放題じゃ」
「美春ちん、特別って何? ねぇってば」
「それは、隆斗の口から直接聞いた方が良いんじゃないかなぁと思うけど」
「でも、隆斗いないじゃん」
「後から来るって言ってたんでしょ」
「う、うん」
皆がバスで出発した頃、隆斗も出掛ける準備をしていた。
ガレージの奥から1台の黒いバイクを出している。
「久しぶりだな、エンジンかかれよ」
キックでエンジンを掛ける。一発で綺麗にエンジンがかかり吹けあがった。
「それじゃ、行くか」
隆斗がバイクを出し何処かに向かった。
晶達もワイワイとカラオケをしたりトランプをして騒いでる間に目的地のホテルに到着した。
そこは真っ白なとても綺麗な豊浜シーサイドホテルと言うリゾートホテルだった。
「うわぁ、素敵なホテルだね」
「う、うん。師範ここで良いんですよね」
「どれ、チェックインするかの」
爺さんがチェックインを済ませて部屋に案内される。
並びのその2部屋は和室タイプでテラスからは海が一望できるオーシャンビューになっていた。
「凄い綺麗! 海が青いよ。風が気持ち良い!」
「ねぇ、お爺ちゃん。これからどうするの?」
「そうじゃな、わしは風呂にでも行くから散歩でもしてきたらどうじゃ。少し歩けばビーチもあるしの」
「そうなんだ、美春ちんどうする?」
「この辺、ブラブラしてみようよ。星羅ちゃんは出掛けたくってしょうがない顔してるしね」
「はいです! ワクワクです。皆で旅行なんてした事が無いですから」
3人で散策する事にする。
とりあえず近くのビーチに行ってみようと言う事になった。
そのビーチは綺麗な公園が併設されていて青い海と白い砂浜に松林と綺麗な芝生があり。
海風が心地よく吹いていた。
公園に向かう為に駐車場を3人で歩く。
「特別な日って何かなぁ?」
「晶ちゃんは、まだそんな事気にしてるんだ」
「だって気になるじゃん」
「星羅ちゃん、そんなに走ったら危ないよ」
「大丈夫です! ふぎゃ」
星羅が誰かにぶつかった。
「おい、何するんだ。コラ!」
ガラの悪そうな暴走族ぽい男だった。
「すいませんです」
「謝って済むとでも思ってるのか? ああん」
派手なTシャツを着たがたいの良い男と星羅の間に美春が割って入る。
「ワザとじゃないし謝ってるじゃないですか」
「ふざけるな」
男が美春の胸座を掴もうとする、美春が男の手を払いのけた。
「やんのんか?」
「先に手を出したのはあなたでしょ」
そこに仲間らしき男達が集まってきた。
「兄貴、どうしたんすか?」
「なんだこの女」
近づいて来た背の高いひょろっとした男が美春に手を伸ばすと美春が払いのける。
「へぇ~少し遊んでやるよ」
「空手かな? へへへ」
美春が半身を取り構えた。
男が不敵な笑みを浮かべ蹴りを繰り出した。
その蹴りは重く美春は受けはしたが吹き飛ばされた。
「もう、終わりかな? お嬢ちゃん」
「クソ!」
美春が突きや蹴りを繰り出すが尽くかわされ逆に押さえ込まれてしまった。
「止めて下さい! 離してあげて」
星羅が1人の男に掴みかかると男がよろけて後ろにあったバイクにぶつかりバイクが倒れた。
「このクソガキ! 人のバイクを!」
「私が倒したんじゃ無いです」
「うるせえ!」
最初に絡んできた男が激怒して星羅のツインテールの様な耳を掴んで引っ張り上げた。
「痛いです! 痛いよ!」
「ああん、こいつ魔族じゃねぇのか?」
「げぇ! マジすか?」
「ほら! 魔法でも何でも使ってみろよ」
男が星羅の耳を掴んだまま振り回した。
「痛いよ! お姉ちゃん助けて! お耳が痛いよーー!!」
星羅が悲痛な叫びを上げる。
魔法が使えずに晶は何も出来ずにオロオロとするばかりだった。
回りには人だかりが出来ていたが遠巻きに見て居るだけで誰1人として助けようとはしてくれなかった。
「痛い……痛いよ、はなして……」
「隆斗! お願い助けて」
晶が声にならない様な声で叫んだ。
すると人だかりの後ろの方で誰かが叫んだ。
「離せ!!」
男達が声に驚き動きが止まる。
遠巻きに見ていたギャラリー達が叫び声に驚いて道を空けると全身黒ずくめの男が歩いてきた。
黒いヘルメットを被り真っ黒なライダージャケットを着て、ブラックジーンズに黒いライディングシューズを穿いていた。
黒ずくめの男が晶に近づき晶の頭をクシャと撫でた。
その声はとても低く落ち着いた声だった。
「もう、大丈夫だから」
「誰?」
男が歩いて星羅達に向かう。
ヘルメットをかぶりシールドもスモークになっていて顔は分からなかった。
「誰だ! てめえ」
「俺が相手だ」
「ふざけるな、やっちまえ」
美春を押さえていた男が腰からナイフの様な物を抜き黒ずくめの男に襲い掛かる。
寸での所でナイフをかわし掌を相手の脇腹に当てる。
ナイフを持った男の顔が苦痛に歪み吹き飛んだ。
「うげぇ……」
襲い掛かった男が呻き声を上げて倒れると晶が美春に駆け寄った。
「美春ちん、大丈夫?」
「うん、かすり傷だから。でも誰なんだろう、晶ちゃん知ってる?」
「判らない、でも……」
「なめんなよ!」
他の男達が一斉に黒ずくめの男に襲いかかる。
瞬殺だった。
あっという間に数人の男はナイフを持った男の様に呻き声を上げて吹き飛んだ。
「ショットガン? まさか……黒い死神……」
星羅の耳を掴み上げている男が叫んだ。
男に向かい黒ずくめの男が歩き出す。
「来るな! 来たらこのガキがどうなってもしらねえぞ!」
男がサバイバルナイフを星羅の顔に近づけた。
しかし黒ずくめの男は歩みを止めない。
そして黒ずくめの男からはもの凄い殺気と怒りの波動が感じられた。
「来るな! 近づくなと言ってるだろう」
あきらかに男は怯えていた。
それは蛇に睨まれた蛙の様に。
ナイフを持つ手が震えている。
黒ずくめの男が直ぐ近くまで来るとナイフを突き出した。
「死にさらせ!」
それは信じられない光景だった。
突き出されたナイフを難なく掴み、掴んだかと思うとそのナイフをへし折ったのだ。
すると星羅を掴んでいた男から戦意が消え星羅を離した。
星羅を黒ずくめの男が右手で抱き支えると左足を少し持ち上げた。
その瞬間パンパンと炸裂音がしたかと思うと男はその場に崩れ落ちた。
黒ずくめの男が頭とわき腹に蹴りを叩き込んだのだ。
そして、黒ずくめの男が星羅を抱き抱えて晶達のところにやって来る。
星羅は気を失っている様だった。
「大丈夫か?」
「は、はい、ありがとうございました」
その声はヘルメットを被って居るため少し篭って聞えた。
晶がお礼を言うと男が美春を見て美春が抑えている腕に手を伸ばし掌を軽く翳した。
すると男の掌が光だした。
「魔法? あれ? 痛みが取れた」
美春が手を離すと赤く腫れあがっていた腕が治っていた。
そして抱き抱えている星羅の頭に掌を翳すと星羅の頭が光に包まれる.
その光はとても温かくそして優しい光だった。
「これで大丈夫だ」
「あの、お名前と顔だけでも」
星羅を晶に預けると男が立ち上がった。
晶が黒ずくめの男を見上げると星羅の腕からチャリンと音がしてブレスレットが落ちた。
「ええ、どうして魔法を抑えるブレスレットが?」
「う、う、ううん……」
そこで星羅が気がついた。
「あれ、姉様?」
「星羅、大丈夫? 体は何とも無い?」
「大丈夫です、何処も痛くないです。不思議です。そう言えばあの人は何処ですか? 助けてくれた黒い人は?」
星羅がキョロキョロと辺りを見渡す。
「ああ、行っちゃうです!」
「待って!」
黒いバイクに乗ろうとしている男の姿が見え晶が叫んだ。
「ね、姉様! 大変です」
「え? どうしたの?」
その時、バイクの排気音が聞えてバイクが遠ざかっていった。
「姉様、耳が……無いです」
「へぇ? 耳が無い?」
「はい、ほらです」
星羅が耳を持ち上げるようにするとそれはツインテールの髪の毛だった。
「ど、どうして。それじゃ魔法は?」
「あれ? 使えないです。ど、どうしたら良いですか? 姉様」
晶が困って考え込んでいると美春が声を掛けた。
「晶ちゃん、とりあえずホテルの戻って師範に話しをしよう」
「うん、美春ちんそうだね」
「そう言えば晶ちゃん。あの人が誰か知ってるか聞いた時、何を言おうとしたの?」
「それは、あの……頭を撫でられた時に隆斗と同じ匂いがしたから……」
「でも、隆斗は魔法使えなよね」
「うん、そうだね。それより急いでお爺ちゃんに聞かないと」
3人が小走りでホテルに向かった。
爺さんの部屋に3人が駆け込んできた。
「お爺ちゃん」
「師範」
「大変です」
「なんじゃ、なんじゃ。3人とも慌てて落ち着いて1人ずつ話さんか」
爺さんの後ろで誰かが起き上がり伸びをした。
「うるせえなぁ、まったく」
「り、隆斗?」
「何だ、晶?」
「どうして此処に?」
「遅れて行くって言わなかったか?」
「晶?」
返事が無いので隆斗が晶の顔を見ると大粒の涙が溢れていた。
「うぇぇぇぇぇぇん……隆斗! 隆斗!……隆斗!」
晶が駆け出し泣きながら隆斗に抱きついた。
「晶? どうしたんだ? 泣いていたら判らないだろ」
「姉様だけずるいです。私も怖かったですから」
そう言い今度は星羅が隆斗に抱きついた。
「はぁ? 星羅。ちゃんと説明しろ」
「えへへ、兄様の匂いがするです」
「意味判らないんだけど」
美春と爺さんが呆れ顔で3人を見ていた。
「美春も爺もそんなやっちゃった子どもを見るような哀れむ目で見るな」
「まぁ、隆斗は放っておいて美春いったい何があったんじゃ?」
「俺は放置かよ」
「静かにせんか!」
「うっ」
爺さんに一喝され隆斗は何も言えなくなった。




