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セーラ☆1

隆斗をタクシーに乗せて道場へ向かう。

道場に着くと直ぐに隆斗を奥の座敷に寝かせた。

「お爺さん隆斗は?」

「うむ……」

隆盛が言葉に詰まっていた。

「私が魔法で何とかしてやろうか」

座敷の隅に居たセーラが言うと隆盛がセーラを真っ直ぐに見た。

「お主は何故、隆斗に物理攻撃を仕掛けたんじゃ?」

「そ、それはこいつには攻撃魔法は通じないから」

「そうじゃ、隆斗にはいかなる魔法も通じないんじゃよ」

「それじゃ、師範。病院に」

「それも難しいのう。最近の医療も魔法に頼って要る所が大きいからの。唯一の望みは母親から受け継いだ治癒能力だけじゃな」

「それじゃ、大丈夫なの?」

「軽い怪我なら今まで何度も治って来たが、今回は時間が掛かるかも知れん」

歯切れの悪い説明だった。

「少し時間が掛かれば、大丈夫なの?」

晶が心配そうに聞いた。

「五分五分と言うところかの。恐らく折れたアバラが肺を傷つけてそれで血を吐いたんじゃろう。隆斗の体力と気力次第じゃな」

「そんな、隆斗が、隆斗が……」

何も出来ずに晶が隆斗の手を握って泣いていた。

「ふん、こいつが死ねば姉様は元の姿に」

セーラが呟いた。

「浅はかじゃのう。今、晶の魔法力は隆斗の体の中に封印されておる。このまま長引けば晶は魔法力の供給を受ける事が出来ぬのじゃぞ、そうなれば」

「そんな馬鹿な」

「普段なら近くに居れば隆斗から魔法力を供給し続けておるから問題は無いが、今は自己防衛の為に隆斗の体は魔法力を外には出しては居らんのじゃ」

「こいつはアレックまで殺して、姉様の命まで脅かすのか」

「いい加減にしてセーラ! まだ判らないの。総てあなたが起こした事なのよ」

「でも……」

「『でも』何なの? あなたはいつもそう。周りを見下して自分勝手な事ばかり、後先も考えずにね。その結果がこれじゃない。隆斗を瀕死の重傷にしてまだ言い訳するつもりなの本当に最低ね。もし隆斗に何かあれば私はあなたを絶対に許さない。隆斗に何かあれば私も生きては居ないでしょうけれどね」

「隆斗は誰も殺したりはしとらんよ、魔法を無力化するだけじゃ。2度と同じ魔法は利かなくなるがの」

「それじゃ、アレックは?」

「ほれ、そろそろ出てこんか」

爺さんが促すと隆斗の寝ている布団の中がモゾモゾと動き出した。

「ニャア~」

鳴き声と共に布団の中からは綺麗な黒猫が出てきた。

「お前さんの使い魔の元の姿じゃな」

「アレック、良かった怪我もしてないみたいだし」

「隆斗の治癒能力のお陰じゃな、2度と人にはなれんがな」

「礼ぐらい言いなさいセーラ」

「そんな必要は無い。こいつが悪いんだ」

その時、微かだが隆斗が意識を取り戻した。

「はぁー、はぁー、晶、あまり責めるな、はぁー、はぁー、お前の事を思ってした事、だろう……」

息は荒くか細い目は虚ろでとても辛そうだった。

「隆斗、あまりしゃべらないで」

「はぁー、はぁー、大丈夫、だよ、はぁー、はぁー、必ず助けるって、約束したろ、はぁー、はぁー……」

「隆斗、判ったから。お願いもうしゃべらないで! 隆斗の事を信じるから」

大粒の涙が晶の目からこぼれた。

「あんな目に遭わされても私の事を……」

「隆斗は決して誰かを責めるような事はせんよ、そういう男なんじゃ。隆斗、少し眠れ良いな。後の事はわしに任せるんじゃ」

隆斗は爺さんの言葉を聞いて深い眠りについた。

「隆斗、お願いだから元気になって、いつも私の側に居て」

晶が泣き止まなかった。

「晶ちゃん。落ち着いて晶ちゃんがしっかりしないと隆斗も不安がるでしょ」

「美春ちんでも、隆斗が……」

「もう、信じるんじゃなかったの? 隆斗の言葉。隆斗は嘘をつく様な人じゃないでしょ」

「うん」

晶が少しずつではあるが落ち着きを取り戻してきた。


セーラは隆斗の言葉で鳴りを潜めてしまう、そして美春が師範である隆斗のお爺さんに疑問を投げかけた。

「師範、そう言えばあの紙人形はなんだったのですか?」

「わしは、お前達の魔法とは違う陰陽師の血を受け継いで居るのじゃ。あの紙人形は形代じゃよ。それを術で隆斗の右腕に付けておいたんじゃ」

「何でそんな事を?」

「隆斗が切れると手が付けられなくなり暴走するからじゃよ。晶ちゃんは間近で見たじゃろう」

「離れた所で倒れそうになっていたのに、気が付くと目の前に隆斗が」

「それは、たぶん瞬歩じゃな。群星流の奥義の1つじゃ、わしにも出来ぬがな」

「なぜそんな事が隆斗には出来るの?」

「さぁな、わしにも詳しい事は判らんが鍛錬の賜物じゃな。しかし、それは諸刃の剣で隆斗の体にも相当の負担があるんじゃ。だからわしが封印した。そして術で封印が解けた時に知らせる様にしておいたんじゃ。今回は晶ちゃんを守りたい一心で無意識に封印を解いた様じゃがな」

「凄すぎる。隆斗にそんな才能があったなんて」

「才能と言えば才能かも知れんが、隆斗は魔法が使えない分。他では人に負けたくなかったんじゃろう。母親とは嫌でも比べられてしまうしの。じゃから勉強も寝ないでしておったぞ」

「寝ないでってそんなに勉強をしていたなんて」

「隣の部屋が、隆斗が中等部まで使っていた部屋じゃ。開けて見なさい」

襖を開けるとそこには参考書の山が幾つもあった。

その参考書は高校レベルの物が殆どだった。

「これを隆斗が全部中等部の時に? それじゃ今は」

「おそらく大学レベルの学力を持って居るじゃろう。それに今でも勉強は欠かさずしているはずじゃが」

「えっ、でも勉強している所なんか見た事無いよ。私」

「晶が寝てからしておるんじゃろう。見栄っ張りじゃから人に見せたくないんじゃろう、自分が必死になっている姿をな」

「だから学園でぼーと外を見ていても即答出来るんだ」

「本末転倒じゃが、寝ないで勉強して学園で寝ておるじゃろう。そしてレベルが違いすぎて詰まらないのかもしれんな。道場にも相手を出来る奴がおらんからあまり近寄らなくなったしの」

晶達が隆斗を見ると何事も無かったように静かに眠っていた。


「お爺ちゃん。こんな時になんだけれど隆斗のお母さんの事を教えて欲しいの」

「そうじゃな、こんな時じゃないと話せないかもしれんな。晶、聞く覚悟は出来とるんじゃな」

「はい。出来ています」

晶が隆斗のお爺さんの顔を真っ直ぐに揺るぎの無い瞳で見つめると隆盛がゆっくりと語り始めた。

「単刀直入に言えば、隆斗の母親は魔族じゃ。それもかなり高貴な一族の末裔らしい。王位継承の争いに嫌気がさして逃げ出して地上にやって来たと言っておったからの。ちょうど晶ちゃんと同じ年の頃じゃったかの。街中をフラフラと彷徨っている時に、わしの一番弟子と出会い恋に落ちた。そして隆斗が産まれたんじゃ。あの頃はまだ魔族の姿じゃたが隆斗が産まれてしばらくすると不思議な事に人間の姿になっておったわい」

「魔族から人間に?」

「恐らく茉莉亜は隆斗の力を知り、その力を使って自分に魔法をかけたんじゃろう。確か魔法は自分自身にはかけられないからの」

「マ、マリアって失われた古の一族の?」

「おや、お嬢ちゃんは何か知っているようじゃな」

「私はお嬢ちゃんなんかじゃない、セーラだ。ルーナ ミレ セーラ」

「セーラちゃんは何を知っているんじゃ? 聞かせてくれんかの」

「マリアは嫌気がさして逃げ出したんじゃない。王位継承の争いで一族が皆殺しに遭ってマリアだけが生き延びて地上に飛ばされたんだ。だから失われた一族。そして彼女の名前はソーレ アーク マリア 王位継承第1位の持ち主」

「それじゃ隆斗は……」

「王位継承第1位を受け継ぐ、恐らくソーレ アーク リュート 魔族と人間の子」

「隆斗に魔族の血が流れているなんて信じられないよ」

「美春ちん、私も始めて知った」

「姉様、この話が真実なら姉様の結婚相手は王位継承第1位を受け継いだこの男。もし何かあれば王位を継承する者が居なくなる」

「そしてセーラちゃんの一族はこの件で罰せられてしまう恐れがある。陰謀のきな臭い匂いがプンプンしておるの」

「そんな王位なんて関係ない! 私は幼い頃に出会て助けてくれた隆斗をずーと探してたのやっと再会出来たのにこんな事になるなんて、再会さえしなければ」

晶が唇を噛み締めた。

「私は何て馬鹿な事をしてしまったんだろう」

セーラが呆然としていた。

「晶にセーラちゃん。隆斗はまだ戦っているんじゃ。降りかかる運命は避けられない、でも運命と戦う事はできる。隆斗の父親が言っていた言葉じゃ」

「隆斗のお父さんが?」

「そうじゃ、ぶっきらぼうじゃがとても心の優しい男じゃった。隆斗もそっくりじゃ。言ったじゃろう隆斗は誰も責めたりはしないと。今夜はもう遅い食事をして休むとしよう。美春は家に帰りなさい」

「師範、家に帰って許可をもらって来ます。隆斗が大変な時には側に居てあげたいから」

「そうか。よかろう」

爺さんが用意してくれた食事をして休む事になった。

美春は自宅に戻り親に許可をもらい道場にやって来た。

隆斗の寝ている隣の部屋で美春がセーラと寝る事になり、晶は隆斗に付き添っていた。

「心配で寝てもおれんじゃろうが、晶の体が心配じゃな」


翌朝になっても隆斗の容態に変化は見られなかった。

しかし晶の体は見るからに衰弱しているようだった。

「晶ちゃん、大丈夫? 少しは休まないと」

「大丈夫だよ。隆斗は頑張っているんだから」

「姉様、顔色が悪いです」

「セーラ、平気だよ。隆斗さえ元気になれば、私も元気になるから」

その晶の声にはまったく覇気が無かった。

するとセーラが爺さんの所にやって来た。

「お爺様。姉様の事をお願いします」

「セーラちゃんはどこに行くんじゃ?」

「宮殿に戻って何か方法は無いか調べてきます」

「そうか、頼んだぞ。時間はあまり無いからの」

「はい」

真っ直ぐに爺さんの目を見て一礼をし、詠唱を呟くと足元に魔方陣が広がり宮殿へと向かった。

そこに美春が現れた。

「師範、セーラちゃんは?」

「宮殿に何か方法は無いか調べに行ったよ。しかし、もう時間が無い一か八かじゃが隆斗を起こして晶に魔法力を与えてもらうしか方法は他に無いじゃろう」

「でも、今の状態でそんな事をしたら隆斗は……」

「どうなるか判らん。じゃがこのままでは2人とも失う事になるんじゃぞ」

「私には出来ない。隆斗を失うような事は」

「わしがやる血は繋がっておらんが肉親同様じゃからな」


セーラが宮殿に戻るとそこにはキールが何食わぬ顔をして居た。

キールに利用された事をセーラは悟るが、今はそんな事を気にしている時間は無かった。

気取られない様にいつも以上に冷徹に接した。

「セーラ様、お戻りですか?」

「ああ、それがどうした。キール」

「アキュラ様は?」

「下等な人間の男を半殺しにして来たところだ。死ぬも生きるも男の運次第だろう、その後の事は良く判らぬ」

「左様で御座いますか」

「私は忙しいのだ。これ以上構うな、良いな」

「畏まりました。それでは私はこれで失礼致します」

セーラがキールを見ると不敵な笑みを浮かべているのが見えた。

そして直ぐにセーラは書庫に向かい調べ始める。

しばらくすると強烈な魔法の波動を感じた。

「もしかして、2人に何か……」

セーラの胸に不安が過ぎった。


美春と爺さんが隆斗の寝ている部屋に向かい晶に話をする。

「嫌、絶対にそんな事して欲しくない」

「判ってくれ晶。苦渋の選択なんじゃ」

「隆斗にもしもの事があったら、私はどうするの? 私だけが助かるなんて事はしたくない」

「もう、自分に時間が無いのは晶が一番感じて居る事じゃろう」

晶が揺れている、隆盛が苦渋の選択と言う事は隆斗が……

「私は隆斗と一緒に居る」

「私にはそんな事、出来ないよ」

「隆斗が死んじゃうよ」

「うっぅぅぅぅ……」

晶が声を押し殺して泣き始めてしまう。

その時、隆斗が目を覚ました。

「晶、何を泣いているんだ?」

「何でも無いよ」

隆斗の声はとても穏やかで優しい声だった。

晶が隆斗を安心させるように涙を拭った。

「晶に良い事教えてやるから。耳を貸してごらん」

「えっ、何?」

晶がゆっくりと隆斗の顔に耳を近づける。

「晶、愛してる」

「えっ、隆斗?」

「大好きだ、晶。愛してる」

晶が驚いて隆斗の顔を見ると隆斗が晶の頭の後ろに右手を回し晶の顔を近づけて優しくキスをした。

晶の目に精気が戻り、ポン! と音がして晶の頭に猫耳がそして綺麗な尻尾が現れた。

爺さんと美春は見守るしか出来なかった。

隆斗は気付いていたのだろう晶に時間がもう無い事を。

「駄目! 隆斗、駄目!」

「晶、大丈夫だよ。笑ってごらん」

「笑えないよ……出来ないよ……そんな事……」

晶が泣き声とも付かない声をあげた。

隆斗の顔に大粒の涙がぽたぽたと垂れると隆斗が晶の頭を優しく撫でた。

「大丈夫、大丈夫だから」

そう言いながら晶を撫でていた手から力が抜け、隆斗がゆっくり目を閉じようとしていた。

「嫌ぁぁぁ。隆斗! 私も愛してる! 目を開けて!」

晶が叫んだ瞬間、隆斗の胸元の何かが光り出した。

「何?」

晶が驚いて隆斗の胸元を見ると、それは隆斗がいつも首から下げていた小さなロザリオだった。

真ん中に嵌め込まれている青い石が輝き強さを増し、あたり一面を強烈な光が包み込んだ。

あまりの光の強さに3人は気を失ってしまう。


隆斗は温かく優しく温かい光に抱かれていた。

何処からか声がする。

その声は聞き覚えのある優しい声だった。

「隆斗、隆斗起きなさい」

「あなたを必要とする人が居るのよ」

「隆斗起きなさい」

「あなたを愛する人が居るの」

「さぁ、早く起きなさい」

「母さん?」

その声は母の声に良く似ていた。

隆斗を包み込んでいた光がキラキラと煌いた。


隆斗がゆっくり目を開けると、子どもの頃に毎日見ていた道場の自分の部屋の天井が見えた。

どの位時間が経ったのかも分からないほど時間の感覚が曖昧だった。

まだはっきりしない頭のままでゆっくり起き上がると、直ぐ横には見慣れた猫耳の女の子が寝ている。

頭を優しく撫でると猫耳が器用に動いた。

指で猫耳を触るとピクピクと耳と頭が動いた。

「もう、こちょばゆいから止め……り、隆斗?」

晶が驚いて起き上がる。

目の前には隆斗の優しい笑顔があり涙が止めどなく溢れてくる。

「どうした? 晶。大丈夫だと言っただろ」

「だって、隆斗が死んじゃったと思ったから……」

晶が大泣きしながら隆斗に抱きつくと隆斗も優しく晶を抱しめた。

美春が晶の泣き声で気が付いた。

「師範、師範! 隆斗が」

「おお、奇跡じゃな。茉莉亜が守ってくれたのかのう」

爺さんが美春の顔を見ると美春も泣いていた。


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