バイト☆2
隆斗は近道をする為に公園を通り抜けようとしている。
日が沈みかけあたりは薄暗くなっていた。その為か公園にはあまり人影が無かった。
突然、隆斗の前に小さな影が現れた。
「お前がアキュラ姉様の契約者か?」
見ると晶より小さな女の子だった。
黄色いドレスの様なものを着ていて茶色い髪の毛でツインテールの様な髪形をしている。
「何だ、魔族か? 何の用だ?」
「アキュラ姉様を返してもらう」
「晶は物じゃねぇ。それに子どもが何を言っているんだ」
その瞬間、隆斗の頭目掛けて何かが飛んできた。
咄嗟に受身を取ったが吹き飛ばてしまう。
「いきなり何なんだ?」
「子どもだふざけるな人間如きが。アレック殺れ」
女の子の隣に立つ冷酷な眼をした黒装束の男が襲い掛かって来た。
1発目の打撃は何とか受け止める事が出来るが2発目の打撃はかわす事さえ出来なかった。
「クソ、何なんだいったい。痛たたた」
「ふん、他愛の無い。魔法のスピードと物理攻撃の合わせ技なら黒い伝説といっても所詮人間だな。アレック遠慮はいらん殺せ」
「ふざけるな。訳も判らず殺されてたまるか」
「訳など要らぬ所詮人間だからだ」
隆斗は何とか凌ぐだけで精一杯だった。
まるでボロ雑巾の様にボロボロにされていった。
「ハァハァハァ……クソ、痛っ」
ARIAでは晶が言い知れぬ不安に襲われていた。
「大丈夫? 晶ちゃん。顔色が悪いけど」
「オーナー何だか胸騒ぎがするんです」
「胸騒ぎ?」
その時、晶の頭の中に隆斗が倒れるイメージが浮かんだ。
「オーナー。隆斗が……」
「ええ、何を言っているんだ。落ち着きなさい」
「私、隆斗のとこに」
そう叫んで晶は店を飛び出した。
「クソ、このままじゃヤバイ。何とかあいつの動きを止めないと」
フラフラになりながらも隆斗は立ち上がった。
「しぶといな」
黒装束の男が向かってくる1発目を凌いで2発目が来る瞬間に何とか左手で男の腕を掴んだ。
そして右で反撃をしようとした瞬間。
隆斗の右わき腹に男の膝蹴りがもろに入った。
骨が砕けるような音がして、隆斗が血を吐き意識が薄れていく。
「隆斗!」
晶が名前を叫ぶが返事は無かった。
スローモーションの様にゆっくり隆斗の体が倒れていく。
「ついでに、アキュラ姉様の目も覚ましてやれ」
意識が遠のく隆斗の耳に晶の呼び声と女の子の冷酷な声が聞える。
男が晶に向かい走り出す気配がした。
「クソぉぉぉぉーー!」
隆斗が雄叫びを上げて途切れそうな意識を繋ぐ。
ただ晶を助けなくてはと言う思いだけだった。
その時、右腕のミサンガが切れて紙人形になり飛んで行った。
郡星流古武道心命館では美春が上の空で練習をしていた。
「そう言えば、隆斗達ってどんなアルバイトしているんだろう」
「師範代、師範代?」
「は、はい。師範何か?」
「もう少し気を入れて修練してくれんかのう。子ども達が気の無い修練をしとるではないか」
子ども達を見るとおしゃべりをしながら練習をしていた。
「すいません」
「隆斗達の事でも考えておったんじゃろ」
「もう、そんなんじゃありません」
その時、爺さんのもとに紙人形が飛んできた。
「これは、いかん。今日の修練はこれまでじゃ。皆気を付けて帰るんじゃぞ」
「師範、でもまだ時間が」
「美春、おそらく隆斗の身に何かあったのじゃ。着いて来るんじゃ」
「えっ、はい」
子ども達は練習が早く終ったので嬉しそうに帰り支度をして帰り始めた。
爺さんが何かを呟くと紙人形が飛んで行く。
それを爺さんと美春はタクシーで追いかけた。
「きゃぁぁぁぁ!」
晶が男の殺気に気が付き悲鳴を上げ目をつぶった。
何かが潰れるような鈍い音がするが男の一撃は晶には届かなかった。
晶が恐る恐る目を開けると信じられない光景がそこにあった。
数メートル先で倒れそうになっていた隆斗がそこに居て、向かってきた男の腹に横蹴りを叩き込んでいたのだ。
「ありえない……」
男が呟く。
すると隆斗が雄叫びを上げながら男に向かっていく。
連打の突き、そして連続の蹴りや回し蹴り総てが男の体に叩き込まれる。
まるで男の体が紙切れの様に宙に舞った。
そして隆斗が踵落しを叩き込むと男が地面に叩き付けられピクリとも動かなくなっていた。
男の顔面目掛けて隆斗の掌底突きが入る寸前に女の子が叫んだ。
「止めてぇぇぇぇぇ!」
男の顔面寸前で隆斗の攻撃が止まる。
「消えろ!!」
隆斗の掌から黒い魔方陣が光ったかと思った瞬間、男が忽然と消えた。
唖然としていた晶が我に返り隆斗に声を掛けた。
「隆斗?」
隆斗がフラフラと立ち上がり振り向いた。
「あ、晶。怪我は無いか? 良かっ……」
隆斗の目から光が消えて、晶の目の前で隆斗が膝から崩れ落ち倒れた。
口からは夥しい血が流れていた。
晶が慌てて隆斗に駆け寄ろうとすると女の子が晶に近づいて来た。
「アキュラ姉様。迎えに来たよ」
「セーラ、あなたの仕業だったのね」
「こんな下等な生き物どうてこと無いじゃない」
晶がセーラと言う女の子の頬に平手打ちした。
「最低! あなたの考え方は間違っている。帰りたいなら1人で帰りなさい」
「姉様、そんな」
「隆斗をこんな目に遭わせるセーラなんて大嫌い」
「えっ……」
セーラは愕然としてその場にへたり込んだ。
「隆斗! 隆斗! 目を開けて、お願いだから」
そこに誰かが駆け寄ってきた。
「しもた、遅かったようじゃな」
「お爺さん、隆斗が、隆斗が」
「晶、落ち着くんじゃ。隆斗は気を失っているだけじゃよ。怪我はしているがな」
「でも、血が……」
「とりあえずここじゃまずい、道場に運ぶんじゃ手伝っておくれ」
「うん、判った」
爺さんが隆斗を担ぎ上げると晶が心配そうに隆斗の体に手を当てた。
「そこの魔族の娘。着いて来るんじゃ」
爺さんがセーラに言うと微かに頷いて3人の後を着いて来た。
公園の入り口では美春がタクシーを止めて待っていた。
「り、隆斗! 何があったの?」
「美春、急ぐんじゃ」
「は、はい」