魔的多重人格者
「…才守 凛です。よろしくお願いします」
面白みもない挨拶をであった。
クラスの皆はボクに対し少なからず興味を示していた。言わずとも目で分かる。そもそも転校生に対して全く興味を示さない人のほうが寧ろ不思議がられるだろう。
窓の外に移る桜の木に目をやりながらボクは軽率な挨拶を自分が出来る最大限の無愛想を尽くし颯爽と終わらせた。したくてやった訳じゃない。ただ自分で選んでやっただけだ。
その後はクラスの担任が話を引き継いだ。男の人だ。この人もボクのことをきょとんとした目で見た。
「あーなんだ、いろいろ複雑な家庭でな。大変なことも多いいだろうから皆、仲良くするように」
この担任も当たり障りのないつまらない定石のようなセリフを言った。あまりにも無愛想に振舞ったボクへの仕返しだろうか。などと考えてしまうと切りがない。
ボクは指定された一番後ろの窓側の席へ向かった。
ただやはりなんとなく緊張してしまうので目を半開きにしうつむきながら自分の席に向かう。そんなボクを皆は軽く凝視するのであった。
「HRを始める、出席確認するぞ。お、今日はみんな出席かいいぞ、今日は天気も良いし気分がいいな!」
どうやら自分の見た目でいうとこの担任は結構明るく「良い」人なのかもしれない。ボクが思う「良い」なんてのはたかが知れている。性格がいい、明るい、人から好かれる。ちょうどいまの自分とは正反対に位置する人間だろう。
そんなことを考えていると自分が少し虚しくなってくる。「本当の自分」じゃない嘘の自分にちょっとばかり苛立ちを感じる。
「……本当の自分?」
心の中で嘲笑った。可笑しい、本当の自分じゃないなら気にすることなんてない。そもそもボクには本当の自分なんて無い。
これ以上は何も考えたくないと思い別の方向へ意識を向けた。
それにしてもスカートは穿きなれない。春だというのに少し肌寒く感じる、というよりどこか違和感が抜けない。腰の周りに布を巻くだけっていうのがまだ慣れない、しかもその中は下着一枚。暫くは慣れないだろう。いや、この先も慣れはしないんじゃないか、なんて気もしてきた。
―――女って大変だ。
HRが終わり10分後に体育館で始業式がはじまる。体育館なんていったこと無いので皆の後を付いていくことにした。クラスの大部分はは皆席から立ち上がり他の生徒とお喋りをし始めた。何人かがこっちを見ている。普通といえば普通だ。
とっても目障りだ、出来れば話しかけられたくない。どうせ無意味なんだから。
ボクは窓に目を向けた。
「ねぇ、君って変わってるよね?」
隣の席の女の子だ。きょろんとした目で窓の方を向くボクを覗き込むように近づいてきた。
――正直少しあわてた。
「……なに」
さっきの挨拶と変わらない無愛想でつまらなくて最低限の返事を返した。
「何って……なんか変わってるよねって、友達に言われない?」
「……何時私に友達がいるって言ったの」
あ、ごめんと女の子は少々落ち込んだふうに謝った。
「あ、えっと私の名前は橘 邑、 よろしくね」
「…」
彼女にはちょっと同情した。ボクが普通の子なら確実に仲良くなれただろうと。
「それじゃあもう行くね、始業式始まっちゃうから君も早く来なよっ、…才守さん」
言うと彼女は他の生徒と教室を出て行った。
ボクも席を立ち皆が進む方向へ向かった。
始業式で校長やいろいろな先生方が話し中、時折生徒の頭がカクンとなるのが少々笑えた。長時間だらだらとつまらない話を朝から聞いていればそうなっても仕方ない。
しかし思えばこんな下らないことにも目を向けしかもそれに対して笑ってるなんて、なんて自分はつまらない人間になったのだろうと自嘲してしまうのは此の頃の癖なのだろうか。はっきり言って最近こんなことばかりだ。本当に鬱になりそう。
その後教室に戻り帰りのHRを済ませ、皆解散した。この後誰とも関わりたくなかったので颯爽と帰路に立ったのだ。運良く誰にも話しかけられていない。
校内の中庭に満開の桜の木が4つほどある。どれも花びらが散っていてとても綺麗だ。家は学校から歩いて20分ほど。家といっても集合住宅で何も無い殺風景な部屋だ。とても10代の女の子の部屋とは思えないほどの。
でも自分から何かそろえようなんて思いもしない。だって帰る時間なんてほとんど無いんだから。
10分後そんなことを考えて付いた先は家ではない古いビルだ。
学校が終ったら来るように言われていた……というよりこなければならないいわば職場だ。5階建てで1階はから2階は何にも使われていない空き屋だ。3階は誰かが使用しているらしいが、ボクは所有者を見たことが無い。そして4階が事務所、5階は……いったことが無いからまだ未知の空間。
こんな所に事務所を構えるなんて相当の物好きしかしないだろう。
それに周りには10階建て以上のオフィスビルがあるため全体的に湿っぽく外廊下は昼間でも電気がついていた。
錆びて不快な音をだす鉄格子の門を開け事務所がある4階まで階段で上った。エレベータはあるが始めてここに来た時から使えなかった。階段もどこか埃っぽくて昇るのが気だるくなる。要するにボクはここがあまり好きじゃないのだ。
事務所のドアを開くと何時ものお決まりの挨拶をした。
「こんにちはー失礼しまーっす」
事務所は入ってすぐに机が置かれている普通のオフィスだ。大きさは12畳ほどの小さな部屋、といっても少なくて1人多くて2人にしては寧ろ十分すぎた。しかし文句は広さではない。それは散らかっていることだ。
机は小学校の頃給食の時間になると班で机を合体させたようなそんな感じに置かれていた。その上は書類やらガラクタやらで荒れていて整理が出来てない、いや、もうしようとしていないというのが手に取るように分かってしまうのだ。ボクは何度か片付けたが丸1日で見事元通りの散らかり様に再生してしまう。そんな事務所だ。
その机から2畳ほど離れた位置に取り分け小奇麗な机がある。そこには女性が書類らしき物を眺めているている姿がみられる。
「おぅ凛か、ご苦労さん。随分と早かったんだな、学校」
「ええ、まぁ今日は始業式だけですし、特にやることは無かったんで直接来ましたよ」
「なるほどなっ、よしこっちも一息ついたところだ。珈琲ブラックで頼む」
ボクははいはいと言いながら入り口から入ってすぐ右側にある台所へ向った。彼女の名前は焼継 未先。この事務所の経営者である。
容姿は長いであろう黒い髪でシニヨンを作っていて前髪は真ん中で分けられている。多分もっと整えれば余計に綺麗になるのだろうけど彼女はそう言ったことにはあまり興味が無いらしい。それでも十二分に美人だ。背は170届くか届かないか位で女性にしては高いほうだ。OLが着そうな身体のラインが良く分かってしまう少し小さめの制服を着ている。制服もいつもと変わらないようだ。
目は淡い赤紫の瞳をしている。何故かその瞳に見つめられると真相心理すべて視通されている感じがしてなかなか馴染めない。
待たせると彼女は五月蝿いのでさっさと淹れ未先さんの机の上に置いた。
「あぁ、悪いな。で、どうだった、学校の方は」
「どうって、別に……」
「何だ、お前にしては中々に反応が薄いな。何かあったのか?」
未先さんは珈琲を1口飲んだ。
「――――インスタントか」
「未先さん待たせると何か言うじゃないですか。それに……」
「『自腹だから文句言うな』だろ。……分かったよ、次から経費で落とすよ。領収書持って来ればその分渡すよ、それで良いだろう」
未先さんはインスタントに2口目をつけた。見るからに渋々飲んでいるという様で淹れたこっちとしては何だか腑に落ちない。まぁ安物だからしょうがないと言えばしょうがない。
因みにこの人は自称カウンセラー。資格は取得してるんだろうけど、仕事の現状はその類と何でも屋っていうのが実情……だと思う。そしてその道では中々名の知れた魔術師でもあるらしい。
「んで学校では何も無かったのか?」
「……まぁ強いて言えば友達も作らないように無愛想に振舞ってきましたよ。
白の世界とは混ざってはいけない、でしたっけ。なるべくか関わらないようにしてますよ」
3口目を口にしながら彼女は言った。
「何だかお前随分と暗い奴だったんだな。私のジョークやら付き合っている様を見ると割かし愛想いいと思ったが……何だ思い過ごしか」
「―――はぁ!?」
見かけに由らんものだな等といいながら珈琲をまた一口飲んだ。
一瞬取り合えず上司の未先さんに「はぁ?」なんて言ってしまった事に申し訳ないと思ったが敢えて撤回はしない。当人も気にしていないようだし。それに今の発言はボクにとってそれ位ショックなものであった。
「むぅ、どうした俯いて。何かあったのか」
「……ええ、大有りですよ!だってボクは人との関わりやそういった類はなるべく遠ざけろって、未先さんが言ったんじゃないですか!」
「なんだそんなことか」
未先さんはにっこりと笑い空になった珈琲カップを机に置いた。
「お前な、いくら魔術師見習いだからってわざわざ友達も作らず高校生活すごすつもりか。そりゃまた悲しい青春だ」
「で、でもじゃあ」
「私だって色々懇意にさせてもらっている恩師や客、まぁ少なからず友人と呼べる人間くらい入るぞ?お前は真面目なのか融通が利かないのか、ククク、難しい人間だ。ん、どうした?」
「いえ、もういいです、ただ明日からもっと愛想よくしていこうかなと。それともう未先さんには人間関係は相談しないと思いますよ……」
それは残念、と未先さんはくすくす笑っている。残念なもんか、またボクを揶揄して。何時もの事だけどボクは今日大切なものを失いかけた気がしてなんだか心につっかえている感じがする。
「それにしても未先さん、ちょっといいですか」
どうした、と未先さんはこっちを見た。……まだ笑ってらっしゃりやがる。
「あの学校、巫束学園って魔術学校なんですよね?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「あ、いや、なんかそんな雰囲気全くなかったもので。周りの人もみんな魔術師には見えなかったし、特に変わったところも在りませんでしたね」
椅子に座ったまま軽く伸びをした未先さんを見て思う。ボクの話まともに聞いているのだろうか
「そりゃ当たり前だ。一般人にここは魔術学校だなんて知られたら魔術の存在が認知されてしまうだろうに」
ボクはえ?っと聞き返した。
「万人には絶対に悟られないように創ってこその魔術学校なのさ。魔術の存在自体公にしてならず、これは今殆ど機能しなくなった協会でも一番目を光らせている重要事項だよ。魔術を行使する者の約束事、いやもう黙契だな。だからこの事項だけはどんな魔術師でも守るのさ。
とはいえ幾ら魔術師、またその関係者であろうと子供には変わりはない。魔術だけ学ぼうなんて社会的にも人間的にも許されんだろう。それ以前に学校は人間形成をする場所だ勉強は勿論そこでしか学べないことだって沢山ある、まぁ中にはお前みたいに人との関係を無理やり断とうとする根暗も居るが……」
―――それは貴方のせいでしょ?
「まぁそう言ったことだな。兎に角学校内で何か魔的なことがあっては不味いんだよ。だから教員すら魔術なんてからっきしさ。其れに携わってるのは理事長と校長のみだ。万が一生徒が何か魔術、奇術に携わったことに巻き込まれた又は起こしてしまったときの責任と処理を引き受け、其れに対応することが出来る学校が魔術学校と呼ばれる。」
「成る程……ん?さっき理事長や校長って言いましたよね、それじゃあ公立には魔法学校は無いのですか?」
「ああ、勿論ないな。公立は定期的にそれも不特定の人物が着任してしまうからな。だから公立ではまずありえないだろう。それに魔術学校は只単に上の人間が特別なだけって訳でもないんだよ。それは校舎の造りが魔術師同士の戦闘が想定された陣形になっていたり只の石像が守衛像だったり、または何て事の無い只の丙が実は反魔法領域遮断防壁になっていたり、流石に最後のは中々御眼にかかれるものじゃないけどなそれはもう魔術の類ではなく奇跡の……っと例をあげるときりが無くなる。
まぁそれだけ特別な場所なんだ魔術学校っていうのは。表と裏、白と黒、陽と陰訣別するため勝手に生み出し、それを実現しだした魔術師共の考えた想像上の平和を守るためのセキュリティーの一つだな。
ちなみに私もこうやってカウンセラーとして社会的に勤労の義務というのを果たしている。しかしこれは同時に私か魔術師であることを隠密にしているんだよ。」
「―――そういう事は早く言ってくださいよ、未先さん」
ああ悪かったと軽く挨拶みたいな返答をし、未先さんはさっき持っていた資料を手にとりボクを見た。
そしてまた資料の方へ目をやったのだ。
「時に凛、この前言っていた依頼主の事だがおぼえているか?」
ボクは少し考えた。
「あーえっと、確か多重人格の方でしたっけ?確か女性の……」
「うん、まぁ正確には解離性同一性障害だがそうだな。その母親からの依頼でな、もう1ヶ月位前のことだ」
未先さんは溜息を吐き資料ををかさっと落とした。周りはビルに囲まれたこの事務所はもともと暗く日中から電灯を点けなければ部屋は薄暗く、細部までよく見渡せない。窓はあるのだが入ってくる光は少なくそれだけじゃ部屋全体を薄気味悪くするだけだ。
「中々難航してるみたいですね、その件」
「うむ、依頼主の用件は当然生活に支障をきたすこの障害を取り除いて欲しいというものなんだ」
「単純なだけに難しいのですね」
ボクは未先さんの話の相槌を打つのにいい加減慣れたのだ。前に分かったことが一つある。この人は話す相手がいるとき誰かが何か反応をしないと、つまり話しの区切りに相槌を入れてやらないとテンポ良く会話が進行しないのである。
未先さんの長い話に相槌も入れないとなると彼女一人で喋ってみたいで彼女自身それが嫌なのだろう。
確かに会話は複数人でやるものだから納得はいく。だからボクも嫌じゃない。
「難しいならまだ打つ手はある。だけどな」
未先さんはまた溜息を吐き
「その病についてはまだ確立された治療法が存在しないんだ。そもそもその病に『完治』があるのかすらまだ判っていない、孰れにせよ不当な部分が多いのがこの病の特徴でもあるんだよ」
「それならそんな依頼断ればいいじゃないですか」
「私の本業を忘れたのか?魔術師にとって物の『解』が無いって言うのは如何せん腑に落ちないものなんだよ。」
「でも元から真理なんて無いものだったら?」
そんなことを口にすると彼女は自信たっぷりにそんなものは無いと返答した。
「我々こちら側の人間の見解で言うと『在るものに対して解は必ず在る』、てなる。在るものに対して解が無いって言うのは間違った解釈なんだ。それは無いじゃなくて『在るけど解けない』とこなる。どういう解答かはわからないけど式ははあるだろうと。今から私が言おうとしていること解る?」
「……多分ですけど、それじゃあこの世に無いなんてものは無い?」
「その通り御名答。まぁ所詮は人間という範囲でしか在るか無いかは判断できないんだけどな。しかしこの世には不透明な事象が数え切れないほどあるだろう?例えば宇宙とかだよ。元はどうやって生まれたのか、いやその元の元はどうやって生まれたのかなんて考えたらそれこそ終わりなんて見えてこないものさ。
それでも私達は知りたいと思うんだよ。必ず成り立ち方が在るって。知らないわからないって事が魔術師の最大の脅威であり敵でもあるんだ。でもそれは人間では到底成しえない大事だって言うのもう解って。
だから魔術師たちは考えたんだ人間と言うそれを超越した範囲の存在、『人間為らざる高み』
未先さんはふっと厭きれた口調で話した
―――現世を創った『神の体』を手に入れればいいってな。どうだ?莫迦らしかろう。魔術などという超科学を手に入れた選ばれし人間ですら神様を追い求めて、崇めてるんだ。そんな神に成りたいなんて阿呆な人間がこの世界には何千といるんだ。
でも先程言った見解通りだろ?まず人間というのが在る、ではその元となったのは何だ?科学では動物が進化して言った過程で完成したものって言うのは常識だ。ではその元は?生き物が地に足をつけている星はどうやって生まれた?これも解明できたな。では宇宙はどうやって出来た?これもビッグバンの説が有力だな。ではビッグバンが起こった元は?これは創った本人である神様、またそれと同じものしか知りえないだろう。
それを知りたいと思うから魔術師は神と等しい存在に近づこうとする。」
「何だか結局魔術も宗教が絡んでくるんですね」
「まぁな。結局人間と宗教は斬っても斬れない縁で縛られているんだ。どんな者でもな。
それに私達の物の考え方はもうひとつあってな、困難に突き当たったときに『神の体を手に入れるのにこの程度の問題も解けなくて如何する』って自分に暗示をかけるんだ」
「間違っては無いんだろけど、何だか理屈過ぎてどうかなって感じです」
「そんなもんだ、魔術師なんて生き物は」
今までの話理解できたかと言うとそれは無理なことである。元々こういう(オカルト)世界の人間じゃない。そんな自分がいつ成れるかどうかも解らない神様の体欲しさに人生を魔術に奉げるなんて一般人の見解からすればそれこそ無意味だ。
飲み終わった珈琲カップを片付け一応用意されている自分の机に向かった。
未先さんは古い椅子にぎいと凭れ掛った。今まで大体の依頼主の要望に応えて来ただけきっと矜持に少なからず傷が付いたのだろう。
そんなボクは冗談半分で話しかけることにした。
「そんなに駄目なら魔術って物でどうにかならないんですか?」
「それが試したんだがな、どうにもならなんかったよ。―――と言うより無駄だったな」
思わずつっこみそうになったが何時ものように面白がられるだけだろうと思い踏み止まった。
当人はボクがつっこまないのに対しちょっと不満そうな顔をしている。でも問題は其処ではない。
「魔術ってそんな普通の人の前で使っていいもなんですか!?そもそも人に魔術なんて……それに一般社会で魔術の力を行使するって重大な反則なんじゃ―――」
「そんなことはない」
未先さんはまるで表情を変えずに言い切った。
「確かに協会の掟ではそう言う事になる。だがな、今の協会の権力なんて昔に比べればほぼ皆無に等しい。私利私欲のために使ったからって見つかる訳でもない。探索だって殆ど無いだろう。まぁ見つかったらそれは不味いがな。でも現代の魔術界ではそれが当たり前さ。寧ろ自分が所属している魔術結社からの命令の方が確実に重要と見受けるだろうな。
それに皆が持ってない力を使うなんてそんなの公平じゃないなんて言うほど魔術師はお人好しではないよ。なんせ目的地がカミサマなんだから」
「そうですか……それより無駄ってどういうことですか?」
「うむ、人間は通常自身の中に人格を1つだけもつ。それは長い時間や経験で成長していくものなんだ。
彼女……正確には彼女達のほうがいいな。してそれが抱えている病って言うのがな、通常1つしかもち得ない人格を複数人所有し、それらの人格が目まぐるしく入れ替わってしまい、主人格の統一性が損なわれてしまうと言う奇病だ。
だから私が彼女と会いに行くと必ずといっていい程別の人間と対話をすることになってしまう。もっと言えば診断中にも人格が入れ替わることすらあるんだよ。大概、幼いときに繰り返し必要以上に心的外傷を受けた場合、人間が自我を守るために心の中で『傷ついたのは自分ではなく誰か別の人が傷つけられた』と思い込み始めることがこの病の発症の原因さ」
未先さんは凭れ掛っていた体勢をきちんと戻し始めた。
机に肘を立て真直ぐな瞳で僕の方を向いた。大抵こういうときは面白味のない話になる。
「本題はここからだ。私は主人格の彼女と話すために複数の人格と対話をして来たんだ。
それでも真の彼女に会うことは出来なかったよ」
おもわずえ、?っと聞き返しそうになった。ボクの疑問は完全に定まってしまった。
「……一体彼女の中には何人存在しているんですか?」
「―――21人」
「――――――。」
ボクは思わず絶句した。
「21人という数についてだが恐らくそれはウソではないだろう。対話した人格全員がそういっている。
先ほど患者に魔術を使ったと言ったな?確かに一般人に対して術を使うのは例外なく違反だ。
だがな、アレは間違い。魔的だ」
「―――どういう意味ですか?」
無論、魔的なんて言葉じゃどういうことか全く理解できなかった。
「その人格の中には魔術師がいる。故に魔術を行使した……だが駄目だったよ。その魔術師は此方の魔術を分析し完全に遮断してくる。あまり下手に動くと逆に向こうが何かしらの魔術を行使してくるかもしれん。
その点向こうには人質もいる。
完全にお手上げ状態って訳さ」
「そんな……その人がもし魔術師って誰かにばれてしまったら」
未先さんは目を細めた。
「そうなったら最早、私事ではないな」
言葉が出なかった。別に他人事だから、しかも人の仕事に対して別に評価したり価値観を見出す意味はないと思った。
しかし「私事ではないな」ということはつまり―――。
「最悪、彼女は魔術の存在を漏洩する可能性を持つ危険人物として排除しざるを得ないな」
予想は的中した。当然嬉しくなんて無かったが、正直軽々しく排除なんて言葉あまり聞きたくなかった。
未先さんのこういう所は嫌いだ。
「それはさて置きまぁ、そうできないのも困りもものだ」
それは彼女を殺せないってことなのだろうか?少し気になる。
ボクは何故ですか、と尋ねた。
「仕事に対する多少のプライドとな……
―――報酬、前払いだったから」
緊張感が一気に抜けてしまった。
この人は真剣な用件であったり仕事中、何度治療にも付いていったことがあるがそう言う時にも報酬、金という言葉をすぐ話に練り混ぜるのだ。この点もボクは嫌いだ。
「さてと、では出かける。お前も一緒にきなさい」
「……彼女の元にですか?」
「そうだ。お前には一度、魔的を見せておきたいからな」
処女作品です。楽しんでいただけたら光栄です。
連載物ですが私情が忙しくいつ連載するかわからない……不定期ものです。
作品名は私の大好きな曲の名前をもらいました。




